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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅱ篇)

作者:sorano
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第37話

12月8日―――



郷の中を見回る前に家を見回っていたリィンはキッチンで料理をしているシャロンを見つけ、シャロンに話しかけた。



~シュバルツァー男爵邸~



「シャロンさん、うちで料理を?」

「ふふ、僭越ながらお邪魔させていただいています。男爵閣下の回復が少しでも早まるようなメニューを奥様と考えていることでして。」

(……なんだか物凄く馴染んでいるみたいだな。結社の”執行者”なんて人が台所にいると思うとなんだか変な感じだけど。)

「リィン様?ふふ、何かリクエストでもございますでしょうか?お嬢様が買出し中ですし、今ならお好きな一品を追加いたしますが。何でしたら、さながら夫婦のようにお二人で献立を決めてくださっても♪」

自分を見つめて考え込んでいるリィンが気になったシャロンはからかいの表情で問いかけた。



「い、いえ、お構いなく。……夕飯、楽しみにしています。(はは……シャロンさんはシャロンさんか。……いい機会かもしれない。結社のことを詳しく聞いてみようか……?)シャロンさん、もしよかったら……結社の話を聞かせていただけませんか?今後のためにも……ちゃんと知っておきたい気がするんです。」

「リィン様……」

リィンの言葉に驚いたシャロンは目を丸くしてリィンの目をジッと見つめた。

「でしたら、山道のほうまでご一緒願えませんか?」

「山道………ですか?」

「ふふ、ちょっとした戯れでございます。準備を整えて参りましょう―――」

その後二人はユミル山道に向かった。



~ユミル山道~



「行き止まりか……シャロンさん、どうして俺とこんな所まで?ここに何かあるんですか?」

「ふふ……このあたりまで来れば大丈夫そうですわね。郷の皆様にも迷惑はかからないでしょう。」

リィンの問いかけに答えたシャロンは振り向くと同時に自分の武器を構えた!



「シャロンさん……!?」

シャロンの突然の行動にリィンは驚いた。

「太刀を抜いてくださいませ。このシャロンがリィン様を特訓して差し上げますわ♪」

「と、特訓って……どうして急にそんなことを?」

疲れた表情で問いかけるリィンの疑問を聞いたシャロンは目を伏せて黙り込んだ後やがて目を見開いて口を開いた。



「リィン様もおわかりのはずですわ。今回、貴族連合には、”結社”が協力しています。それもあの”怪盗紳士”のような手練が。”リベールの異変”の際”怪盗紳士”たちと直接剣を交えたプリネ様達や”執行者”の中でもトップクラスの実力を持つ”剣帝”であるレーヴェ様が協力なさってくださるのでしたら、結社の”執行者”達にも対抗できるでしょうが……リィン様もご存知の通り、レーヴェ様はプリネ様共々皆様に協力できない立場です。」

「あ………………」

「皆さまの剣や術が正道であるならば、結社のそれはまさに”邪道”……邪道に正攻法で立ち向かうのは”愚”に他なりませんわ。ですから、同じく邪道である―――この”死線”を相手に何かを掴んで欲しいのです。それが、結社についてリィン様に教えられる何よりのことでしょうから。」

「シャロンさん……」

シャロンの説明を聞いて黙って考え込んだリィンは太刀を構えた。

「……わかりました。胸をお借りします、シャロンさん………!」

「ふふ、どうぞ全力でいらしてくださいませ―――!」

こうして、ユミル山道での突発的な特訓が始まった。シャロンは容赦なく、縦横無尽に”死線”としての妙技を繰り出し……リィンはなんとか食らいつきながら活路を見出そうとするのだった。



「はあっ、はあっ………!」

シャロンとの模擬戦を終えたリィンは疲労によって地面に膝をついて息を切らせていた。

「ふふ、お見事です。わたくしの鋼糸をこんな短期間で捉えるとは、さすがリィン様ですわね♪」

対するシャロンは息も切らしていない様子で笑顔でリィンを称賛した。



「はは、たった一本だけですけどね……もし実戦だったら多分、八つ裂きだったはずです。」

「クスクス……そうかもしれませんわね。ですが、劣勢でも諦めずに活路を見出そうとし続けるその気概……それを示していただいただけで、現時点では十分ですわ。」

「シャロンさん……改めて聞いてもいいですか?結社の人間であるあなたがどうして俺達を手助けしてくれるのか。それも、こんな特訓までしてくれるなんて……」

ある事がずっと気になっていたリィンは思い切ってシャロンに尋ねた。



「”執行者”にはある程度の”自由”が認められていますから。その意味で、わたくしは使命よりもラインフォルト家や皆様のメイドであることを選んだ……あくまでも”結社”に身を置いているのは変わりませんが。」

「うーん、ますますわからないというか……」

「ふふ、どうかご心配なさらずに。少なくとも、この内戦が何らかの決着を見るまではわたくしは皆様の味方ですわ。わたくしの”愛”と”献身”はお嬢様やリィン様達と共にある……空の女神に誓って、皆様をお守りできるよう力を尽くしていく所存ですから。」

「……ありがとうございます。一緒に頑張ってこの内戦を乗り越えましょう。」

「ふふ、はい♪」

その後、シャロンはボロボロになったリィンに献身的に応急処置をしてくれ……そのまま二人で郷へと戻って行き、二人は別れ、郷を見て回っていたリィンは雑貨屋にいるアリサを見つけて話しかけた。



~温泉郷ユミル~



「アリサ、何をやっているんだ?」

「リィン。シャロンが料理をするらしいから買出しに来たところなの。男爵閣下のために滋養のある料理を作るらしくって。」

「そうか……ありがとうな、アリサ。アリサも高原での生活でかなり疲れているだろうし、ゆっくり休んでくれ。」

「ふふ、ありがとう。そういえば来る途中で郷の足湯を見かけたっけ。久しぶりだし……あとで行って来ようかしら。」

(足湯か……せっかくだから俺もご一緒させてもらおうかな?)

アリサの予定を聞いたリィンは少しの間考えた後アリサに尋ねた。



「アリサ、もしよかったらご一緒させてもらっていもいいか?」

「ええ、もちろんよ。待ってて、すぐ買出しを終わらせるから。」

その後、アリサの買出しに付き合っていくつかの食材を屋敷に届け……そのまま二人は郷の足湯に向かった。



「はああああああ~………温かさがじわ~っと広がってく……ふふ、疲れも何もかも、みんな溶け出しちゃいそうだわ。」

「はは……冬は特に格別だからな。前にみんなで来た秋口よりも身に沁みるものがあるだろう。」

足湯に到着した二人はそれぞれの素足を足湯につけて身体を温めながら談笑していた。



「ええ、本当に。昔、家族で来た時もたしか冬だったっけ……」

足湯につかっていたアリサは昔を思い出し、懐かしそうな表情をした。

「そういえば、前の旅行の時にもちらっと聞いていたけど……アリサは小さい頃にここへ来た事があるんだったな?」

「ええ、まだ父様が生きていた9年くらい前だったかしら。まだシャロンも来ていない頃……お祖父様に連れられて、家族全員で旅行に来たのよね。」

「はは、グエンさんらしい家族サービスだな。でも、そうなると俺が父さんに拾われて2年めくらいの時になるのか。」

「ふふ、ひょっとしたらあなたとも会っていたかもしれないわね。お祖父様たちの仕事の合間を縫っての旅行だったから、長く滞在はしなかったけど……私にとっては忘れられない、大切な思い出の一つだわ。父様も、母様もそばにいてくれて…………」

家族全員が揃っていた頃を思い出したアリサは現在の家族の状況と比べ、どこか辛そうな表情をした。



「アリサ……」

「あの時から、何もかも変わってしまったのよね。ラインフォルト家も……このエレボニア帝国の状況も。母様も……無事だといいけど。」

「ちょっと待っていてくれ。」

「リィン……?」

突如足湯から上がった後何かの行動をしているリィンをアリサは不思議そうな表情で見つめた。そしてリィンはアリサに雪で作ったうさぎを手渡した。



「リィン、これって?」

「”幸せの雪ウサギ”って言って、郷の縁起物みたいなものでさ。本当はちゃんと材料を揃えるんだけど、有り合わせでさっと作ってみた。」

「ふふっ、小さくて可愛いわね。」

「はは……だろう?昔から、俺が元気がない時はエリゼとエリスがよく作ってくれたんだ。」

「あ……そっか……エリスさんも貴族連合に……」

リィンの口から攫われたエリスが出るとアリサは辛そうな表情をした。



「きっとエリスは大丈夫だ。……俺はそう信じている。だからアリサも信じるといい。イリーナさんが無事でいる事を。必ずもう一度会えるということを。」

「リィン……」

リィンをジッと見つめていたアリサはふと昔に出会ったある人物の言葉を思い出した。



そんなに泣かないで……ほら、これで元気だしなよ。だいじょうぶ、僕が君を―――



(あれ……何だか今……昔の思い出……?)

「……アリサ?その、こんなので元気を出せなんてさすがに子供だましだったかな。」

目を閉じて考え込んでいるアリサの様子を不思議に思ったリィンは不安そうな表情をした。



「……ううん、そんなことない。ありがとう、リィン。私も信じてみるわ。母様もエリスさんも、何としても取り戻せることを。」

「ああ……お互い頑張ろうな。」

こうして二人は、ゆっくりと雑談しながら足湯に浸かり直し……その後、もう一度雑貨屋を身に行きたいというアリサを送ったリィンは郷を見回っていると高台で一人考え込んでいるクレア大尉を見つめ、クレア大尉の様子が気になり、クレア大尉に近づいた。


(……さっきの連絡は……)

リィンが傍にいるにも関わらずクレア大尉は目を閉じてジッと考え込んでいた。

「クレア大尉?何かあったんですか?」

「……リィンさん……いえ、どうかお気になさらず。隊員からの定時連絡で、少々個人的な情報を受けただけですから。」

「そうですか……?大尉もどうか無理しないでください。せっかくの休息日ですし。」

「ふふ、お気遣いありがとうございます。郷を敷いている守備も、今のところは盤石です。リィンさんも今は残りのⅦ組のメンバーとの合流や今後の事に集中なさってください。」

(もしかすると、大尉も疲れているのかもしれないな………)

どことなく疲れた様子を見せるクレア大尉を見たリィンはクレア大尉をリラックスさせる為にある事を提案した。



「大尉、もしよかったら息抜きに行きませんか?たとえば鳳翼館あたりでビリヤードとか。」

「そうですね……人員がある程度整って来た今、郷の守備も負担が減りつつありますし。ふふ、わかりました。ではお相手させていただきます。」

その後二人は鳳翼館に向かい、ビリヤードをプレイし始めた。



~鳳翼館~



「………………はっ!」

ビリヤードをプレイした二人だったがクレア大尉の番になるとクレア大尉は一突きで全ての球をポケットに落とし、ゲームはあっと言う間に終わった。

「全ての球を一突きでポケットに落とすなんて……!」

「上手く計算通りの軌道を通ってくれたようですね。……って、すみません。すぐにゲームが終わってしまいましたね。」

驚いているリィンに説明したクレア大尉は申し訳なさそうな表情をした。



「ふう、考えてみればこの手のゲームはクレア大尉の独壇場ですよね。勝負を挑んだ時点である意味負けが決まっていたというか。」

クレア大尉の言葉を聞いて冷や汗をかいたリィンは苦笑しながらクレア大尉を見つめた。

「ふふ、すみません。つい本気を出してしまって。………レクターさんだったらもっと上手に盛り上げたでしょうね。適度に運の要素なども絡ませながら。」

「はは……あの人はいかにも遊び慣れていそうですしね。俺がもう少し上手ければちゃんとお相手できたんですけど。」

レクターの事を思い出したリィンは苦笑しながら答えた。



「ふふ、でしたら勝負は止めて私がお教えしましょうか?」

「いいんですか?」

「コツのようなものは多分、伝授できると思います。リィンさんもフォーム次第でいくらでもスコアを伸ばせるはずですし。」

「えっと、それじゃあお言葉に甘えて。」

こうしてリィンはクレア大尉に手取り足取りビリヤードを指導してもらうことになった。センスに関わるような難しい説明もわかりやすく噛み砕いた上で優しく、丁寧に教えてくれ……リィンは短時間で驚くほど上達することができたのだった。



「―――お見事。これで9番がポケットに入りましたね。」

「ええ、練習とはいえノーミスで達成できたのは始めてです……!はは、これも大尉が丁寧に教えてくれたおかげですね。」

ポケットに全ての球をノーミスで入れられた事にリィンは興奮した様子で言った後クレア大尉を見つめた。



「ふふ、リィンさんの飲みこみもとても早かったですし。まだわからないところがあれば何でも聞いてくださいね?私も教え甲斐があるというものですし。」

「クレア大尉……はは、大尉はやっぱり優しいですよね。」

「え……?」

リィンがふと呟いた言葉が不思議に思ったクレア大尉は呆けた。



「その、士官学院の特別実習にしたって、何度も手助けしてもらいましたし……今回だって同行してくれた上に郷の守備まで引き受けてくれている。ときどき鉄道憲兵隊や”鉄血の子供達”という立場を忘れてしまいそうになるというか……いつも陰ながら支えてくれて、本当に感謝しています。」

「……ふふ、滅相もありません。私も士官学院の出身ですからどうしても気にかけてしまって……多分、先輩風を吹かしたいだけなんだと思いますし。」

リィンに改めて感謝されたクレア大尉は苦笑しながら答えた。



「はは……そうだとしてもありがたいと思います。俺には妹達しかいませんが……もし姉さんがいたらこんな感じだったのかもしれませんね。」

「…………………」

リィンの話を聞いたクレア大尉は目を閉じて考え込んだ後突如リィンの身体を抱きしめた!



「ク、クレア大尉……!?」

(ええっ!?一体何故リィン様を……)

(あら♪まさかこんな展開になるなんてね♪)

(ふふふ、とても興味深い展開ですね。)

(……もしかしたらリィンのさっきの発言で決して忘れられない過去を思い出したのかもしれないわね。)

クレア大尉の突然の行動にリィンは驚き、その様子を見ていたメサイアは信じられない表情をし、ベルフェゴールとリザイラは興味ありげな表情をし、アイドスは静かな表情で見守っていた。そしてクレア大尉はリィンから離れた。



「……えっと……?」

「……ふふ、すみません。大した意味はありませんから。どうかお気になさらないでください。」

「は、はあ……」

クレア大尉の言葉を聞いたリィンは戸惑いの表情で返事をした。

「私は、これからもみなさんをお手伝いするつもりです。亡くなった宰相閣下の遺志を継ぎ、あくまで鉄道憲兵隊の一員として……ですが、Ⅶ組の味方である事は変わらないと思っていますから。」

「クレア大尉……その……ありがとうございます。改めてよろしくお願いします。」

クレア大尉の真意はわからなかったが、それ以上は聞く事が出来ず……二人はそのまま無言で郷の高台へと戻り、別れるのだった。



そして翌日、ユミル出発の時が来た……………… 
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