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ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!

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第十四話 リベンジ戦は燃えます!!

 
前書き
 ヤン・ウェンリーが首都星ハイネセンに帰ってきます。惑星エコニアの捕虜収容所事件については、詳細はウィキペディアで検索を。 

 
帝国暦479年11月23日――。

惑星ハイネセン 宇宙港
 惑星エコニアの捕虜収容所事件に巻き込まれ、なんだかんだといざこざを片付けてヤン・ウェンリーとパトリチェフが惑星ハイネセンに着いたのは、11月23日の事だった。この後軍の人事局に行くというパトリチェフとはここでお別れになった。ヤンの方はいったん待命ということで官舎で待機するように事前に通達があったのだ。パトリチェフがすぐ呼ばれたところをみると、彼の方はまた新たな任地に旅立つことになるのだろう。

「それでは、少佐。小官はここで失礼いたします」
「あぁ。ここまでいろいろとありがとう。パトリチェフ大尉」
「なんの。ご一緒できて良かったですよ、ヤン少佐」

 巨体のパトリチェフが手を差し出した。そっと握られた手から温かみが伝わってくる。優しい手なんだなとヤンはふとそんなことを考え、力を込めた。二人はがっしりと握手した。

「また、ご一緒に仕事ができればうれしいですな」

 大尉の言葉に、ヤンはあぁとうなずく。ヤンとしてもあれこれと世話を焼いてくれたパトリチェフの存在は頼もしかったし、エコニアに赴任して独りだった自分に気さくに話しかけてくれたことに好感を抱いていた。もっともヤンとしては放っておかれたとしても好きな歴史研究ができるからとそれをも受け入れたのかもしれないが。

 パトリチェフの大きな後姿を見送り、さていくかとヤンが荷物を担ぎ上げた時だ。

「ヤン先輩!!」

 駆け寄ってきたのは、士官学校生徒の制服を着たアッテンボローだった。

「アッテンボローじゃないか。迎えに来てくれたのか?」
「キャゼルヌ先輩の命令で。私がサボったらあとで先輩にどやされますからね。さ、どうぞ。迎えの車をまたしてあります」
「そいつは助かるな」

 アッテンボローはヤンのスーツケースを取り上げると、すたすたと歩いていった。その後を追ってヤンも残りの荷物をもって歩き出した。

 帰ってきたな、とヤンは思う。惑星エコニアにいたのはわずかに1か月足らず。そしてまたハイネセンに戻ってきた。エル・ファシル星域での脱出行からここまであわただしかったが、当面は穏やかな日々を送りたいとのヤンの心からなる願いであった。





帝国歴479年11月28日――。

 自由惑星同盟領 レディナント星域――

 シドニー・シトレ中将は第八艦隊の戦列展開を終えた時点で、各隊の指揮官を召集し、初めて今回の作戦の目的を打ち明けた。その予想外の目的に一斉にどよめきが上がる。だが、シトレが続けた言葉に一同は大きくうなずいていた。

「エル・ファシル星域には300万の自由惑星同盟の市民が住んでいた。それがヤン・ウェンリー少佐、そしてリンチ司令官のおかげでことごとく脱出できたとはいえ、彼らは未だ望郷の念にあるのだ。一日も早く故郷の土を踏ませることこそ、我が自由惑星同盟宇宙艦隊の仕事だと私は思う」
「わかりました。では、どのように作戦をすすめるおつもりですか?」

 そう質問したのは、ラルフ・カールセン准将だった。士官学校に行けずにたたき上げでここまできた壮年の将官だった。粘り強い戦いをし、前の第八艦隊において、弱小とののしられた部隊の中で孤軍奮闘し、生き残ってきた一人である。シトレはそういうカールセン准将の人柄を評価し、引き続いて第八艦隊の分艦隊指揮官として任命していた。

「イーリス大尉。例のものを」
「はい」

 傍らに控えていたシャロンがディスプレイ上に敵艦隊とエル・ファシル星域の地図を表示させる。

「我々の目的は、敵の総旗艦を轟沈させ、指揮系統を混乱させることにある。敵は正規艦隊ではない。したがってその指揮系統も司令官頼みだというところがある。司令官旗艦さえ轟沈させてしまえば、混乱する敵艦隊等物の数ではない。これが基本方針だと思ってくれ」
「なるほど。して、その旗艦は特定できているのですかな?」
「はい。これです」

 シャロンがディスプレイを操作して、それを示した。一点だけ赤く光るのが敵の司令官旗艦というわけだ。

「我々はエル・ファシル星域の至近距離にワープアウトし、ひた走りに敵の艦隊の中枢を突く。ただし、カールセン、ニンメルの両准将の部隊は側面展開を行ってほしい。これで敵に包囲されたと錯覚させる。すべては一瞬のことだ。敵も翻弄されるだろう。そのすきに私自らが主力を率いて敵司令官旗艦に強襲、これを撃破する」

 ニンメル准将は第八艦隊分艦隊の中でカールセン同様生き残った准将である。これといって突出した能力の持ち主ではないが、命じられたことを自分の裁量で着実にこなす姿勢をシトレは評価していた。
シトレ自らが示した作戦シミュレーションを見た指揮官たちからいっせいにどよめきが起こった。

「何か質問はあるか?ないな。・・・・では、作戦を決行する。諸君らの奮闘を祈る」

 一斉に敬礼して出ていく指揮官たちを、シトレは見送った。残ったのはシャロンだけだ。

「イーリス大尉、本国からは何と言ってきた?」
「民間人を仮屋住まいにしていたのは、このときのためだったのですね。すでにハイネセンを第3艦隊の護衛で出立したとの連絡が入っています。表向きはエル・ファシル星域に近い星域に居住区域を設けたとの発表ですが、実際本部長閣下の中では、エル・ファシルの奪還は織り込み済みだということでしょう」

 シトレは苦笑し、本部長閣下らしいとつぶやいた。

「しかし、民間人はよく承知したものだ。エル・ファシル星域からハイネセンまで一か月、仮住まいになれる間もなく、またエル・ファシルに逆戻りだというのに」

 慌ただしい動きだが、彼らにしてみれば一刻も早くエル・ファシルに戻りたいとのことなのだろう。無理でも、一歩でも近い星域で暮らしたいと願うのは自然なことなのかもしれない。

「だが、問題は、エル・ファシルそのものの状態がどうなのか、だが・・・・」

 シトレが口を濁らせた。何しろ帝国のことだから、軍規は多少あるかもしれないが、勝利者の宿命、略奪、放火、破壊などは行っているだろう。それを元通りに戻せるまでどれくらい時間がかかるだろうか。だが、それを考慮に入れても、いや、だからこそ、彼らは戻りたいのだろう。自分たちの故郷に。

「この戦い、負けるわけにはいかないな」

 シトレの言葉に、シャロンは微笑を浮かべた。ふと、シトレは気になった。彼女の微笑は一見優美なものだが、その実何か秘めている思いがあるのではないか、と。それは単なる権力志向なのか、それとも――。


エル・ファシル星域――。
 けたたましい警報が展開していた帝国軍艦隊に鳴り響いた。いや、展開しているとはいっても単に停泊陣形に並んでいるだけであり、戦闘用の体形ではない。

「じょじょじょじょ、状況は、どどどどうなっている?!ななななにがおこったんだ!?」

 昼寝から起きだしてきた司令官が転がるようにして旗艦艦橋に飛び込んできた。軍服は乱れ、髪はぐしゃぐしゃ、もっとも半ば剥げているから、寝癖のようなものはないが。
 司令官はエルワルド・フォン・ツィーテン中将。あの第二次ティアマト会戦で全軍を指揮したツィーテン元帥の子孫である。だが、先祖の栄光に麻痺されたため、本人はそれほどの能力はなく、辺境艦隊の一中将という地位を漂っていた。

「敵襲です。三方向から包囲せんとうごいています」

 参謀長が報告する。

「包囲だと!?何をしておる!さっさと艦隊を戦闘隊形に動かせんか!?バカ者どもが!!」

 こんな時に昼寝してたオメェに言われたくねえよと参謀長はむっつりした顔をしたが、今は喧嘩している場合ではない。すぐに指令を発し始めた。

「ししし司令官!!!」

 オペレーターが驚愕の叫び声を上げる。

「なに?司令官がどうした!?儂ならここにいるではないか!!」
「違うよ天然バカ!!」

 という声を危うく上げそうだったオペレーターがぐっとこらえ、また、慌ただしく叫んだ。

「敵艦隊はだ、第八艦隊です!!第八艦隊が旗艦ヘクトルを中心に猛速度で接近中!!展開間に合いません!!突っ込んできます!!」
「何?!」

 目の前のスクリーンを見た司令官、参謀長は絶句した。自由惑星同盟軍艦隊が密集体形で突撃してくる。慌てて阻止せんと前衛部隊が砲撃を始めるが、猛速度で接近してくる艦隊はそれをものともせず、射程距離に入ってきた。砲撃自体も散発的だった。何故なら左右に展開している敵の艦隊が猛烈な吶喊射撃を浴びせてきたからである。

「バカな!?自由惑星同盟軍第八艦隊は先年イゼルローン要塞にて滅多打ちにあったばかりではないか!?」

 そんな感想はどうでもいいとばかりに参謀長がツィーテン中将に詰め寄る。

「司令官!!命令を!!」
「かっ、回避だ、回避しろぉ!!!」

 ツィーテン中将はそう叫ぶのがやっとだったが、その瞬間一斉に前方の艦隊の前面砲門がきらめくのが見えた。

「駄目です!!間に合いません!!直撃、来ます!!」

 艦橋に衝撃が走り、ツィーテン中将は吹き飛ばされて、叩き付けられた。

「バカな・・・・こんな・・・・バカな・・・・・ことが!!!」

 激痛が全身を貫く中、ツィーテン中将は意識を失った。


 旗艦が一瞬のうちに襲われ、轟沈した――。

 それを知り、かつ敵の強襲に会って大混乱に陥った帝国軍艦隊の惨状はすさまじいものだった。何しろ戦闘体制ができていないところに不意打ちの奇襲を食らったのだ。昼寝をしていた水鳥が一斉に喚きながらはばたくように、帝国軍は狂乱しながら逃げようとした。
 回頭中に他の艦にぶつかる艦、間違えて味方を砲撃して撃沈してしまう艦、逃げ腰になってエンジンを異様に回転させて自爆してしまう艦等、いたるところで惨状がおき、その混乱ぶりは言語に達した。自由惑星同盟軍の攻撃よりも、自沈同様に爆沈していく艦の方が多いありさまだった。
 その混乱に拍車をかけたのが、カールセン、ニンメル両指揮官の分艦隊の砲撃である。彼らは決して帝国軍の撤退線上に近寄らず、ほどほどに距離を保ちながらも的確な砲撃を加え、しかも絶えず帝国軍の側面に張り付いていたので、包囲されているという心理的な圧迫状況を作り続けることが成功していた。
 シトレ直属の主力艦隊は猛進して敵艦隊を貫くように進んだのち、急速に反転し、もう一度真正面に戻ってきていた。

「よし、全艦隊、主砲一斉射!!」

 シトレが叫んだ。最後のとどめとばかりに、放たれた主砲によって帝国軍の艦艇は文字通りモグラたたきの様に沈められ、四散した。

「敵艦隊は逃走中です。現在敵残存艦隊2000余隻。4000隻を完全破壊若しくは爆沈、繰り返します。残存艦隊逃走を図りつつあります」
「これ以上の追撃は無用だ。イーリス大尉。敵艦隊に降伏勧告を伝えろ」
「はい」

 犠牲は少ない方がいい。追撃に無用な労力をかけたくはないし、それにどうせ通信途絶などの状況から、エル・ファシル星域の失陥は帝国本土に伝わるだろう。むしろ回廊出入り口を哨戒警備艦隊を増強させて固めさせた方がいい。
 だが、その前にやるべきことはある。エル・ファシル星域の安全を確保し、本星復興を行わなくてはならない。300万の人々を返さなくては。その間第三艦隊と協力し、エル・ファシル星域周辺の守りを固めなくてはならない。場合によっては、帝国が待機させている1万隻の増援が来襲するかもしれない。

「統合作戦本部長に連絡せよ。『我エル・ファシルノ奪還ニ成功セリ。』とな」
「ただちに」

 シャロンはファイルを持ったまま、一礼し、すぐに通信兵のもとに歩み寄っていった。



 この後、帝国軍残存艦隊は、救援要請を受けて駆けつけてきた1万隻の増援艦隊に守られて、かろうじて戦場を離脱した。増援艦隊が攻め込まなかったのは、すでに大勢が決していたことと、数の上で劣勢だったこと、さらに増援艦隊自体が寄せ集めの非正規艦隊であり、とても同盟軍一個艦隊に及ばないことを司令官以下が悟っていたからである。
 ツィーテン中将以下司令部の主だった要員はことごとく戦死したため、シャフツベリー中将と違い、軍法会議も形式的なもので終了した。中将は戦死2階級特進を受けることなく、中将のままで据え置きであり、参謀長以下も同様であった。
 なお、増援艦隊の司令官以下にも査問は行われたが、状況を克明に調書として作っておいたこと、近年帝国領内でもレアメタルの開発が進み、エル・ファシル星域自体の保有意義がそれほどなかったこと、などからおとがめなしで済んだのであった。

 ちなみに、この増援艦隊――エル・ファシル警備管区司令艦隊――の司令官の名はメルカッツ提督という。
 
 

 
後書き
 猛訓練をしていた艦隊と、だらけてアヒルのように座り込んでいた艦隊。まぁ、おのずと勝敗は明らかなのです。 
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