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黒衣の男

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3部分:第三章


第三章

「あいつ等は確かにいます!」
「この地球に!」
 この日ゴールデンタイムで宇宙人の特集をやっていた。二人はその番組にUFO研究家という肩書きで呼ばれその席で高らかに叫んでいたのである。
「アメリカ軍があいつ等を匿っているのです!」
「宇宙人との密約です!」
「密約なのですか」
 極端に熱く語る二人に対して司会者が恐る恐る尋ねる。彼は普通のテレビ局のアナウンサーだ。つまり常識の世界の人間である。
「アメリカ軍がそんなことを」
「これは御聞きになられたことがありますね」
「ええ、まあ」
 川口の眼鏡の向こうの血走った目に押されながら答えた。
「何かの本で」
「そう、それです」
「告発は過去何度も為されました」
 今度は洲崎が真顔で発言する。
「ですがそれはその度に消されてきました」
「何故だと思われますか?」
「さて」
 司会者は首を傾げるだけだった。周りのゲスト達も完全に二人の言葉と勢いの為に空気になってしまっている。視聴者はネットである意味大騒ぎの有様を見せていた。
『おいおい、この二人凄いな』
『マジで言ってるよおい』
 こう言って騒いでいたのだ。ネットで。
『本気ってのが凄いな』
『凄いってものじゃないぞ』
 なお二人の話はネットでは誰も本気にしていない。
『これでノストラダムスって言ったら本物だな』
『まさかと思うがな』
 流石にそれはなかった。ノストラダムスは二人にとって全く関係のない世界だったからだ。しかしであった。二人の発言はなおも続いていた。
「黒衣の男を御存知ですか」
 川口は真顔で周りに対して語りだした。
「黒衣の男!?」
「そうです。黒いスーツに帽子の男」
 今彼の頭の中にはその男達の姿がはっきりと映し出されていた。そしてそれをそのまま周りに対して話し続けていたのである。
「その男達です」
「UFOや宇宙人について調べていますと」
 タイミングよく洲崎がまた話す。
「その人間を監視し、隙あらば拉致洗脳しようとする者達です」
「それは尋常ではないですね」 
 司会者もそれを聞いて一応はこう述べた。
「拉致洗脳とは。まるでカルト教団じゃないですか」
「カルトより恐ろしいです」
 洲崎は本気でこう語った。
「そんな甘いものではありません」
「甘いものではありませんか」
「私達はですね」
 高校の時の原風景が蘇る。あの時のことが。
「彼等に追われたことがあります」
「それも何度も」
「何度もですか」
「そうです」
「これは確かです」
 だがこの発言もまたネットでは失笑で迎えられたのであった。
『本当かね』
『連中の頭の中じゃそうなんだろ』
『じゃあお花畑か』
『メンヘルだな』
 そういうことにされてしまった。しかし当然ながら二人はその様なことを知る由もない。それどころか発言をさらにヒートアップさせてさえいた。
「彼等はですね」
「いつも私達を監視しています」
 川口、洲崎の絶妙のコンビネーションであった。
「隙を見せたらすぐに迫り」
「何もなくともいつも家の周りにも潜んでいます」
「それは何故ですか?」
 あまりにも熱く語る二人に対して司会者は戸惑いながらも真顔で問うた。
「その様にしてまで御二人を」
「決まっています」
 川口はその司会者の問いに即答で返した。
「もうそれはわかっているのです」
「わかっていますか」
「私達は彼等についてよく知っています」
「その正体についても」
 洲崎が正体について言及したのである。
「もうわかっているのです」
「何者かは」
「それではですね」
 あまりにも健気な司会者の問い掛けであった。少なくともこの番組はもう彼の力量にかかっていた。ネットでもそれは絶賛されていた。
『この人凄いな』
『そうだな、必死に番組をやってるぞ』
『頑張れ』
 最早他のゲストは問題ではなかった。二人と司会者のみが注目されていた。だが二人はそんなことは全く知らず尚も己の話を続けるのだった。
「CIAです」
「そしてFBIです」
 洲崎の後に川口が続く。やはり絶妙のコンビネーションだ。いいか悪いかの問題では最早なかった。
「それが黒衣の男の正体なのです」
「つまり彼等はですね」
 完全に決め付けたうえでの話が続けられていく。
「アメリカ軍、つまりアメリカ政府の国家機密であるUFO及び宇宙人の秘密を探られたくない為に」
「それを調べている人間を監視しているのです」
「FBIまでもですか」
「そうです」
 ここで二人は大きな矛盾に気付いていなかった。FBIはあくまで『アメリカ連邦警察』なのだ。有名な組織であるがあくまでこうなのだ。
「弾圧に参加しています」
「統制に」
「何故なら」
 彼等なりの根拠がまた話される。
「皆さん、FBIの初代長官を御存知でしょうか」
「彼を」
 二人で真顔で語るのだった。
「ええと、確か」
 これに応えて彼等の他のゲストが口を開く。実は今まで話すことができなかったのだ。なぜならずっと二人の独演会状態だったからである。
 
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