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小才子アルフ~悪魔のようなあいつの一生~

作者:菊池信輝
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第二話 方針は髭を全力回避

 
前書き
グリルパルツァー一歳。
生き残るために策を巡らしているようですが、果たして作者の分体のこの悪魔は策が実るのを許すでしょうか。
いや、ありえん。
 

 
「マルガレータ!アルフレット!今帰ったぞ!」
 俺が転生してから正確に一年と一日後。
 屋敷の玄関ホールに父上の嬉しそうな声が響いた。
 屋敷、そう、屋敷。我が家の屋敷だ。
 転生先の俺の生家は身分制社会である帝国にあって絶対なるべき身分の垣根の多くの部分を飛び越えられる存在、いわゆる「足りないのはフォンの称号だけ」という上層平民で、没落した貴族の別邸を金を積んで買い取り自分のものにしてしまうなんて暴挙も許されてしまうほどの力がある。
 これで、あいつの実家でなければ金に困らず、しがらみも少ない身分を楽しみつつ平和に暮らそうという気にもなれたんだろうが…。
 パスカル──本当にパスカルなのかそれともどこぞの時の神の弟なのか他人を勝手に映画に出演させてしまう天才映画監督妖怪なのかもっと別な存在なのかは知る由もない──は言葉通り、俺をろくでもない世界にろくでもない奴として転生させてくれた。
 帝国すなわち銀河英雄伝説の世界、小才子の実家に。
 小才子、本名をアルフレット・グリルパルツァー。
 俺の転生させられた銀河英雄伝説の世界のローエングラム王朝陣営では一番の嫌われキャラであろう。ラインハルトに双璧と裏切った相手が最悪だし、美学のなさも命根性の汚さも最悪である。下手をするとアンドリュー・フォークより最悪かもしれない。
 物語の展開が原作通りにならなくても、どこかでろくでもない死に方をしそうな奴である。
 しかも中途半端よりはましな程度に頭も回るし能力もあるから、ろくでもなさも並じゃないことはうけあいだ。
 よちよち歩きの幼児の身動きのままならない体で俺は天を仰いだ。
 あの作者は俺に何か恨みでもあっていたぶり殺したいのだろうか。無量大数ハンマーの件もある。恨みでもなければできない所業だ。パスカル──パスカルというより多分、パスカルに偽装していた何者かだろう──には恨みを買う覚え、というか面識も全くないのだが…。
 益体もないことを考えかけて、俺は思考をあわてて引き戻した。
 この際大事なのはパスカルの思惑ではなく、俺が寿命まで平和に生きることだ。
 転生前に見た誰でも書ける百科事典には誰の分析だったか、こいつの陰謀性は上官のレンネンカンプの影響だという論があった。もしそうだとしたら、ラインハルトの部下になるにしろ他の陣営につくにしろレンネンカンプの下につけられないようにしさえすれば何とかまともなままでいられて、生き残れるんじゃないだろうか。
 真面目人間が陰に籠って陰謀家に堕ちると元からの陰謀家より悪辣になる、周囲に悪影響を及ぼすというし。
 そうだ。きっとそうに違いない。
 生き残るための絶対条件らしきものが浮かぶと、俺の頭脳は条件達成のための方法を全力で検討し始めた。あまり物を考えるのは得意じゃない俺だったが、今はそんなことは言っていられない。なにしろ命と名誉がかかっているのだ。
 俺はレンネンカンプの下に配属されない方法を父上──ディートリッヒ・グリルパルツァーという、アニメ版の息子を三十歳近く歳を取らせたようなおっさんだが、しばしば訪れる貴族の家臣や帝国騎士なんかはそのうちディートリッヒ・フォン・グリルパルツァーになるであろうと半ば本気で噂していた──が俺のために用意された子供部屋に突進してくるまでの間必死で考え続けた。
 『果たしてそううまくいくかねえ?』
 無精髭を生やしたタキシードの男が星の模様のシルクハットを指先で、ステッキの先で回しながらけらけらと笑っているのが見えるような気がしたが、妄想にかまっている暇はなかった。
 
 

 
後書き
少し短い気がするなあ。 
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