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おぢばにおかえり

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第二十八話 誤解のもとその七

「寮に潜り込んだりなんかは」
「張り倒されるわよ」
 どれだけ図々しいんでしょうか。
「そんなことしたら」
「あっ、そうなんですか」
「冗談でも馬鹿なことは止めておくことね」
「何か了見が狭いですね」
「そういう問題じゃなくてね。当たり前でしょ」
「当たり前なんですか」
「何考えてるのよ」
 何でもこんな調子で。本当に真面目に生きているのかしらって思います。もっとも真面目な雰囲気が殆ど感じられないんですけれど。ずっと。
「そんなことできる訳ないじゃない」
「じゃあいざとなれば野宿とか?」
「高校生がそこまで遊ばないの」
 どれだけ遊ぶつもりなんでしょうか。それにおぢばはそこまで遊ぶ場所はないですけれど。
「全く。出鱈目ばかり言って」
「まあまあ」
「とにかくね。寮に潜り込んだりしたら絶対に駄目だからね」
「じゃあどうしろっていうんですか?」
「真面目にしなさい」
 それしか言いようがありませんでした。
「遊ぶのも」
「思いきり遊ぶからこそ遊びじゃないですか」
「学生の本分は勉強よっ」
 八重歯を出して怒りました。
「勉強しなさい、そんな出鱈目に遊ぶ暇があったら」
「一応してますけれど」
「一応って?」
「ほら。天理高校ってそれなりにレベル高いじゃないですか」
「まあそれはね」
 少なくとも全然勉強しないで入られる学校じゃないです。私も入試まではそれなりに受験勉強をしました。そうじゃないと通らないんです。
「その通りだけれど」
「だからですよ。僕だって勉強していますよ」
「本当に?」
「嘘なんて言いませんよ」
 この言葉は信じられませんでした。
「僕ちゃんと勉強してますし」
「本当かしら」
「少なくとも天理大学に受かる程度はしてますって」
「天理大学受ける気なの」
「はい、一応は」
 まだ一年なのに随分先のことまで考えてます。
「そのつもりです」
「止めた方がいいわよ」
「何でですか?」
「私も受けるからよ」
 かなり先のことですけれど言いました。私は実家が実家ですから天理高校を受けるつもりなんです。天理高校から天理大学は多いんです。
「だからよ。何で大学まで阿波野君と一緒なのよ」
「嫌ですか?」
「じあ少しはちゃんとしなさい」
 言うことはこれでした。
「ちゃんとね。いい加減過ぎるのよ」
「あっ、嫌じゃないんですね」
 けれどこう言えばこれでした。
「別に。嫌じゃないんですね」
「そうは言ってないけれど」
 何故かここで笑顔になるし。不思議な子です。
「嫌じゃないのは確かよ。それがどうしたのよ」
「よかった。一瞬どうかって思いましたよ」
 しかもほっとした顔を見せてくるし。訳がわかりません。
「嫌だったらって」
「ただ。ずっと私の横にいるつもり?」
「さあ」
「さあって」
 この問いにはぼやけた返事でした。
「何なのよ」
「まあまあ。ところでですね」
「何よ」
「これ食べたらどうするんですか?」
 今度は私にこう尋ねてきました。 
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