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おぢばにおかえり

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第二十八話 誤解のもとその六

「昔からなんですよ」
「そうなの」
「はい。それでですね」
 阿波野君の話が続きます。
「昔からそれでいい目見させてもらってます」
「運がいいわね」
「ですよね。お菓子だってしょっちゅう貰っていましたし」
「今みたいに?」
「そうですね。何だかんだで先輩もおごってくれてますよね」
「だから。これは御礼よ」
 こう阿波野君に言いました。
「これはね。御礼だから」
「あれっ、そうなんですか」
「さっきから言ってるでしょ」
 顔を少し顰めさせてしまいました。
「このこと。違うかしら」
「そういえばそうでしたっけ」
「そうよ。人の話は聞きなさい」
「いや、どうもすいません」
 とは言っても謝罪しているように見えないのが凄いです。この子って謝罪の言葉でも何でも軽くて調子がいいように聞こえるんです。嫌味さとかは全然ないですけれど。
「聞いてたんですけれど」
「何処がよ」
「まあまあ」
「とにかくね。これ食べたらね」
「どうするんですか?」
「私。帰るから」
 少し憮然として答えました。
「いいわね」
「帰るって詰所にですか?」
「違うわよ、寮よ」
 やっぱりこれも何を言っているのって話です。
「天理高校の県外から通っている女の子は東寮にいるの。入学の時に聞いてたでしょ」
「あれっ、北寮じゃなかったんですか」
「それは男の子よ」
 まだこのことを覚えてはいないみたいです。
「他にも野球部は白球寮でラグビー部は勾田寮」
「有名な部はそれ専用であるんですか」
「そうよ。柔道部は火水風寮」
「最初の二つはわかるんですけれど柔道部は変わった名前ですね」
 阿波野君は柔道部のところで言いました。
「何ですか?その名前の由来って」
「おみちの言葉よ」
「天理教ですか」
「そうなのよ」
 このことを阿波野君に対して教えます。
「おみちのね。これもなのよ」
「へえ、そうなんですか」
「やっぱり最初から勉強してると変わった名前に聞こえるのね」
「ええ、それは」
 このことは否定できないみたいです。
「何かって思いました」
「そうよね。やっぱりね」
 これは私も納得です。
「私だって最初面白い名前って思ったし」
「先輩は面白いなんですか」
「おみちの言葉知ってたから」
 私の場合はそれででした。
「だからだけれどね」
「ふうん、僕にとってみれば変わったですしね」
「人によって認識が変わるわね。ところでね」
「はい」
「阿波野君寮に入るつもりはなかったの」
「家から通えますから」
 こう答えてきました。
「だから別にいいやって思いまして」
「そうなの」
「ただ。遊んで家に帰れない時なんかは」
 かなり勝手なことを言ってきました。 
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