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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第126話

8月30日―――



翌朝、リィン達は屋敷の前でクラウスに見送られようとしていた。



同日、8:00―――



~レグラム~



「クラウスさん、短い間でしたがお世話になりました。」

「皆さま、お気をつけていってらっしゃいませ。お嬢様におかれましては久方の帰郷でしたのに、あまりお世話できず……昨日も色々あって、あまりごゆっくりして頂けませんでしたからな。」

「フフ、そんなことはない。充分に故郷の空気を感じさせてもらった。」

申し訳なさそうな表情をしているクラウスにラウラは静かな笑みを浮かべて答えた。



「昨夜も疲れて戻った所に滋養のいい夕食を頂いて、よく眠れましたし。」

「ごはん、美味しかったよ。」

「ああ、おかげさまでしっかりと休息をとれたな。あの子供達も、本当に無事でよかった。」

「あはは、家族にばっちり大目玉を食らってたけどねー。」

ガイウスの言葉に続くようにミリアムは無邪気な笑顔を浮かべ

「まあ、それは仕方ないかと……」

「フン、当然の報いだろう。」

ミリアムの言葉にセレーネは苦笑し、ユーシスは鼻を鳴らした。



「セリカ様達もご協力して頂き、本当にありがとうございました。どうかお気をつけていってらっしゃいませ。」

「……こちらが招いておきながら、招いた本人である父はお見送りにできないどころか、昨日の件で客人であるセリカ殿達の手を煩わせてしまい、申し訳ありませんでした。」

「気にする必要はない。俺にとってもレグラムの滞在は大きな収穫となった。」

「…………………」

クラウスとラウラの言葉に答えたセリカに視線を向けられたアイドスは静かな表情で黙り込み

「その、従者の私達のお世話までして頂き、本当にありがとうございました。」

シュリは静かな表情でクラウスを見つめて会釈した。



「いえいえ、とんでもない。シュリ様やメティサーナ様の武術も中々のもので、門下生たちにとっても良い勉強となりましたから、お互い様です。」

「メティも色々世話になった!ありがとう!」

「……見ず知らずの私までこのような立派な屋敷に泊めてくれて本当にありがとう。」

メティサーナに続くようにアイドスはクラウスにお礼を言い

「いえいえ、アイドス様はお嬢様達が駆け付けてくるまで子供達を守っていただいた恩人なのですから、このくらいの事は当然でございます。お館様に代わり、改めてお礼を言わせてください。――――本当にありがとうございました。」

対するクラウスは謙遜した様子で答えてアイドスに頭を下げた。



「そう言えばちょっと気になったけど、いいんちょ、魔術的な知識についてわりと知っている様子だったよねー?あれって何で?」

「あ……」

「言われてみればエマさんはセリカさん達の話について行けている様子でしたね……」

「フン、リザイラの”領域”の時から、不可思議な現象について何か知っている様子だったな?」

その時ある事に気付いたミリアムの疑問を聞いたリィンは呆け、セレーネとユーシスの言葉に続くように仲間達はエマに注目した。



「え、えっと、その……私は昔から霊感が強くて、そう言った事も知っていまして……それと祖母の影響でお呪いにも多少の知識がありまして。意外と話についていけるものだと、自分でも驚いているんですよね。」

(ふふ、滅茶苦茶苦しい言い訳ね♪)

冷や汗をかきながら答えたエマの話を聞いたヴァレフォルは口元に笑みを浮かべ

「ふむ……?」

「怪しい……」

ガイウスは考え込み、エヴリーヌはジッとエマを見つめ

「まあ……そういうものか。」

「引っかかりはするがな。」

リィンとユーシスも無理矢理納得した様子でエマを見つめた。



「ともかく、今回の顛末はわたくしのほうからお館様に報告しておきましょう。皆様はこれから新たなる目的地に向かうとの事……どうかお気をつけていってらっしゃいませ。」

「ええ、ありがとうございます。」

「爺、達者でな。父上にもよろしく言っておいてくれ。」

「はい、お嬢様も。ご学友の皆様やセリカ様達ともまたお会いできるのを楽しみにしています。」

「こちらこそ。」

「その時はまた剣の相手にでもなってもらうとしよう。」

「ふふ、どうかお元気で。」

その後クラウスに見送られたリィン達は町の人達に別れの挨拶をした後列車に乗り込み、バリアハートで降りてバリアハートの空港から飛行船でクロスベルに向かうセリカ達に別れの挨拶を告げ、リィン達が乗る列車はケルディックに向かっていた。



~列車内~



「よし―――それじゃあ改めて今日からの日程を確認しよう。」

「この後、ケルディック駅でB班と合流……大陸横断鉄道を使って国境にある”ガレリア要塞”を目指すんですね。」

「”ガレリア要塞”……帝国正規軍の一大拠点にして東の脅威に備える巨大な防壁か。」

「馬鹿馬鹿しいほど巨大で大仰な要塞らしいな。かの”列車砲”が2門格納され、演習場も併設しているという。」

「”列車砲”……グエン老が悔いていた兵器か。」

「兵器……」

「ふあ~あ……」

ガイウスが呟いた言葉を聞いたセレーネは不安そうな表情をし、興味がないエヴリーヌはあくびをした。



「ああ、東の共和国方面……正確には緩衝地帯である”クロスベル自治州”を射程に入れた化物じみた大きさの導力砲らしい。」

「うーん、あれは凄いよねー。まさに鉄のカタマリって感じでボクも圧倒されちゃったもん。」

「って、ミリアム……!」

「”列車砲”をその目で見た事があるんですか?」

ミリアムの発言にリィンは仲間達と共に驚き、エマは目を丸くして尋ねた。



「うん、オジサンに案内されてクレアやレクターと一緒にね。『大崩壊以降、人が持つに至った最大級の破壊力を秘めた兵器だ。それがこの場所に置かれたことの”意味”を考えてみるといい』そんなことを言ってたかなー。」

「この場所におかれたことの”意味”か……」

「フン、思わせぶりな男だ。……そういえばちょうど今日からだったな。あの男とが、オリヴァルト殿下とクロスベル自治州に向かうのは。」

「”西ゼムリア通商会議”か。」

「そしてツーヤお姉様達の特別実習の地でもある場所ですね。」

「ハア、エヴリーヌもリウイお兄ちゃんから言われた下らない依頼をするより、そっちで特別実習をしたかったよ。」

「え……」

「リウイ陛下の依頼だと?」

「一体何を頼まれたのだ?」

エヴリーヌが呟いた言葉を聞いたリィンは呆け、ユーシスは眉を顰め、ラウラは真剣な表情で尋ねた。



「んー、まあこれは言ってもいいって言われているから別に話しても大丈夫か。――――今から行く要塞で、エレボニア帝国軍にエヴリーヌ……というか、”魔神”の力を見せてあげてだって。」

「ええっ!?」

「どうしてそのような事を……」

エヴリーヌの説明を聞いたエマは驚き、セレーネは不安そうな表情をし

「んー、オジサン、前々から”闇夜の眷属”で”最強”を誇る”魔神”って種族の力がどんなものか知りたいからオリヴァルト皇子を通して依頼したそうだよ?」

「オズボーン宰相が……!」

「フン、あの男か。」

ミリアムの説明を聞いたリィンは驚き、ユーシスは鼻を鳴らした。



「……ていうか、何でリィンが知らないの?メンフィルからは客将扱いされているベルフェゴールがエヴリーヌと一緒にエレボニア帝国に”魔神”の力を見せてあげるのに。」

「ええっ!?(今の話は本当か、ベルフェゴール!?)」

エヴリーヌの話を聞いたリィンは驚いてベルフェゴールに念話を送った。

(ええ、この間プリネ達から私とリザイラは客将扱い、メサイアは客人扱いされているって知らされてね。で、エヴリーヌが言ってた通りメンフィルに頼まれたから請けてあげたのよ。)

(……何でそんな事になったんだ?)

(あら、”魔神”と”精霊王女”に対する敬意だと思うわよ?どっちも、その種族の中では”最強”を誇る力を持っているし。それに私達はメンフィル帝国に所属するご主人様の使い魔だから、私達もメンフィル帝国の所属扱いにしたのでしょうね。)

(別に身分等興味はありませんが、人々が住む世界で大国の後ろ盾はあっても損ではありませんから、私達も客将という立場を受け入れているのですよ。それに基本、私達は自由にしていいとのことですし。)

(お二人はともかく私が客人扱いされるなんて、正直畏れ多い話ですけどね……)

「(そんな事があったら、真っ先に俺に言ってくれよ!?)ハア……今、ベルフェゴール達に聞いたら確かにエヴリーヌさんの言う通り、ベルフェゴール達はメンフィル帝国に”客将”扱いされている。」

ベルフェゴール達の念話を聞いたリィンは疲れた表情で指摘した後仲間達に言った。



「ええっ!?ベ、ベルフェゴールさん達がですか!?」

「……何故そんな事になったのだ?」

そしてリィンは仲間達にベルフェゴール達が客将扱いされた経緯を説明した。



「……なるほど。彼女達の実力はメンフィルも無視できない程という事か。」

「実力があるだけで、ロクに調べる事もせずに”客将”扱いにするとは幾ら”実力主義”とはいえ、呆れた対応だな。」

事情を聞き終えたガイウスは頷き、ユーシスは呆れた表情で答えた。

「ま、そういう訳だからエヴリーヌとベルフェゴールがめんどくさいけど、”魔神”の力をちょっとだけ見せてあげるんだ。」

「”力”を見せるというが具体的にどのような事をするのだ?」

ある事を疑問に思ったラウラは不思議そうな表情で尋ねた。

「さあ?――――ま、相手が戦車の部隊だろうとエヴリーヌ達―――”魔神”にとっては紙屑同然だけどね?キャハッ♪」

そして不敵な笑みを浮かべたエヴリーヌの普通ならありえない発言に指摘するリィン達だったが、魔神―――ベルフェゴールの圧倒的な力の一端を見た事があり、エヴリーヌの発言通りになる事は冗談になっていない事に気付いていたミリアムを除いたリィン達は冷や汗をかいて表情を引き攣らせた。その後列車はケルディックに到着し、リィン達はケルディックで下車した。


同日、9:30――――



~ケルディック駅~



リィン達がケルディック駅に下車すると”鉄道憲兵隊”がそれぞれの配置につきながら、乗客たちを誘導していた。



「これは……」

「……物々しいな。」

「どうやら鉄道憲兵隊が警備をしてるみたいですけど……」

「ああ、ひょっとして―――」

「ふふっ、奇遇ですね。」

駅構内の物々しい雰囲気にリィン達が戸惑っていたその時、クレア大尉がリィン達に声をかけて近づいてきた。



「クレア大尉……!」

「あー、クレアだ!ひょっとしてボクに会いに来たとか?」

「ふふ、偶然ですよ。”アイゼングラーフ”が通るので警備体制を敷いてるんです。」

はしゃぐミリアムをクレア大尉は微笑ましそうに見つめながら答えた。



「あ、そっかー。あれ?でもケルディックはメンフィル領だよね?よく警備体制を敷けたね?確かメンフィルはオジサンが提案した鉄道憲兵隊の協力を断ったから、メンフィル領にある駅に鉄道憲兵隊は配置できないって聞いたけど。」

「”通商会議”の間だけ特別に許可してもらえたのです。―――こうして会うのは2ヶ月ぶりくらいですね。」

「えへへ……」

優しげな微笑みを浮かべるクレア大尉に頭を撫でられたミリアムは嬉しそうな表情をした。



(うーん……懐いているな。)

(ええ………仲のいい姉妹みたいですね。)

(何だか微笑ましいです……)

(そう言えば最近プリネの頭を撫でてないなー。プリネが帰ってきたら、頭を撫でてあげようっと。)

二人の様子をリィンやエマ、セレーネが微笑ましそうに見つめている中、エヴリーヌはある事を思いつき

(”鉄血の子供達”……とてもそうは見えぬが。)

(フン……)

ラウラは戸惑いの表情で見つめ、ユーシスは鼻を鳴らして腕を組んだ。



「こんにちは、Ⅶ組の皆さん。先日の帝都での事件は本当にありがとうございました。」

「いえ……お気になさらずに。」

「わたくしはわたくしの出来る事をしただけですわ。」

「帝国臣民として当然の責務を果たしただけのこと。」

「……それより他国の領にわざわざ許可を取ってまでのこの警備体制は何なんだ?”アイゼングラーフ”とやらが通ると言っていたが。」

「”アイゼングラーフ”……”鋼鉄の伯爵”……ですか?」

ある事を疑問に思ったユーシスに続くようにエマは不思議そうな表情で尋ねた。



「ふふ、すぐにわかります。」

そしてクレア大尉が微笑んだその時、アナウンスが入った。



まもなく1番ホームを特別急行列車が通過いたします。かなりのスピードですのでくれぐれもご注意ください。



「特別急行列車……」

「何それ。」

アナウンスを聞いたガイウスは呆け、エヴリーヌは首を傾げ

「まさか……!」

ある事に気付いたリィンは目を見開き

「定刻通りですね。」

クレア大尉が静かに答えると深紅の列車がケルディック駅を通過し始めた。



(トワ会長……オリヴァルト殿下も…………!)

列車に乗っている見覚えのある人物達を確認したリィンは列車の中にいるオズボーン宰相に一瞬視線が合い、息を呑んだ。



「…………………」

列車が通り過ぎるとリィンは真剣な表情で考え込み

「今のが”鋼鉄の伯爵(アイゼングラーフ)”号……」

「真っ赤な列車でしたね……」

「それによく見たらオリビエが乗っていたね。」

ラウラは考え込み、セレーネは目を丸くし、エヴリーヌは静かに呟き

「深紅の列車……噂だけは聞いた事がある。帝国政府の専用列車だったか。」

ユーシスは列車が去った方向を見つめながら呟いた。



「ボクも乗ったことがあるけどすっごく速いんだよねー。内装も豪華でキレイだし。」

「ちなみに”鋼鉄の伯爵(アイゼングラーフ)”という名前の由来ですが……オズボーン宰相にちなんでつけられたそうです。」

「確かに”鉄血宰相”などと呼ばれているようだが……」

「でも……宰相閣下はたしか平民出身でしたよね?」

クレア大尉の説明を聞いて疑問に思ったエマは不思議そうな表情で尋ねた。



「ええ、ですが11年前、陛下より宰相に任ぜられる時、伯爵位を賜ったそうです。その時、今の列車の名前も合せて付けられたのだとか。」

「なるほど……」

「フン……あの男は爵位になど価値を認めていないだろうがな。」

クレア大尉の説明を聞いたエマが納得している中、ユーシスは鼻を鳴らしてジト目になり

「…………………」

「リィン……?」

「何か気になる事があるのですか?」

目を閉じて考え込んでいるリィンに気付いたラウラとセレーネはそれぞれ声をかけた。



「あ、ああ……?」

「どうしたのだ?呆けたような顔をして。」

「なんだ、疲れでも出たか?」

「いや……その、トワ会長やオリヴァルト殿下の姿が列車の窓にちらっと見えてさ。」

「へー、よく見えたね。」

「人間の肉眼じゃ、ほとんど見えないのによく見えたね。」

「”アイゼングラーフ”の速度で……なかなかの動体視力ですね。」

リィンの答えを聞いたミリアムとエヴリーヌは目を丸くし、クレア大尉は感心した様子でリィンを見つめた。



「いや……まぐれですよ。(本当はちらっとどころじゃなかった気がするが………何だったんだ、今のは……?)」

列車が通り過ぎる際、まるでスローモーションのように列車が通り過ぎるように感じた事を思い出したリィンは考え込んだ。



「ふむ……?」

「まあ、具合が悪い訳ではなければいいんだが。」

「…………………」

リィンの様子を仲間達がそれぞれ見つめている中、再びアナウンスが入った。



―――本日はご協力、誠にありがとうございました。まもなく、2番ホームにクロスベル自治州行き、大陸横断鉄道の列車が到着します。



「フン……来たようだな。」

「ああ………待たずに済んだみたいだ。」

そして列車が到着するとB班のメンバーが列車から降りて来た。



「あ、いたいた!」

「リィン、こっちこっち!」

「ほら、急ぎたまえ!」

「一応席は確保してる。」

「―――それでは大尉。」

「またねー、クレア。」

「ええ、どうか気を付けて。」

そしてクレア大尉がリィン達を見送ろうとしたその時、サラ教官とクロウが降りて来た。



「おっと、凄い美人じゃん!」

「げげっ……嫌な予感がしたけど。」

クレア大尉の顔を見たクロウは喜び、サラ教官は嫌そうな表情をした。その後リィン達は列車に乗り込み、列車を見送ったクレア大尉に鉄道憲兵隊員が近づいてきた。



「―――08分隊より連絡。”双龍橋”の方に目立った動きはないそうです。」

「同じく21分隊より連絡。戦闘用の高速車両の展開を完了しました。」

「……了解しました。アイゼングラーフの通過まで気を抜かないようにしてください。アイゼングラーフのクロスベル市への到着をもって全分隊をシフトDへ移行します。」

「イエス・マム。」

「”帝国解放戦線”……本当に現れるのでしょうか?」

「ええ―――間違いありません。」

部下に指示を終えたクレア大尉は部下の質問に重々しい様子を纏って答えた。




 
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