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北京の怪物

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3部分:第三章


第三章

「流石にこれだけやれば大丈夫だよな」
 そのことを気にしているのだった。彼は絶対に出て来ると考えていた。だからこその今の格好なのだ。そうして誰もいない道までやって来た。
「ここならいいな」
 辺りを見回して言う。
「ここで。これを」
 持って来た紙屑をポケットから取り出す。それをすぐに道に捨てた。
「さて」
 捨ててから少し辺りを見回す。
「何が出て来るかな」
 この瞬間が最高に緊張した。怖いがそれと共に何かわくわくするものも感じていた。感じながら辺りを警戒する。何時出るか今出るか、そう思いながら辺りを見回していた。
 そうして暫く経ったか。不意に何か影が見えた。夜の薄暗い電灯の光の中にそれが見えた。気のせいかも知れないが確かに見えた。
「来たか!?」
「こら!」
 老婆の声だった。建国はその老婆の声を聞いて噂は本当だと確信した。
「化け物、やっぱりいたんだな!」
「誰が化け物なんじゃ!」
 ところがすぐに返事が返ってきて。しかもそれは意外なものだった。
「えっ!?」
「道にゴミを捨てるな!罰金だ!」
 見れば飛んで来たのは一人の老婆であった。青っぽい服とズボンを着ていて建国の前まで全速力で駆けてきたのであった。老婆とは思えないスピードで。
「罰金!早く支払うようにな!」
「罰金ってちょっと」
「あんた、知らないのかい」
 老婆はもう建国の前まで来ていた。そうしてその皺だらけの顔を顰めさせて彼に問うのだった。見れば別に口が耳まで裂けているわけでもない。ごく普通の小柄な老婆だった。
「ゴミを道に捨てると罰金だよ」
「そうだったの」
 実は知らなかった。建国は老婆の言葉に目を大きく見開いた。
「そうだよ。わかったら払うんだね」
「はい、それじゃあ」
「今度から気を着けるようにね」
「わかりました」
 罰金を支払って答える。こうして何が何だかわからないまま話は終わったのだった。
 と思ったがまだあった。老婆はここで建国の格好を見たのだ。闇夜の中だったがそれでもその異様な格好ははっきりとわかるものであった。
「あんた、また変な格好してるね」
「そうですかね」
「はっきり言えばそうよ」
 中国人らしくはっきり言ってきた。
「何か仏教に道教に?」
「キリスト教もです」
 十字架を見せて答えた。
「まあ色々とありまして」
「わかってるよ。あの噂話だよね」
 老婆はそう述べてまた笑ってきた。
「ゴミを落としたら化け物がやって来て喰われるって」
「それは嘘だったんですね」
「さて、それはどうかね」
 ところが老婆はここで思わせぶりに笑うのだった。その笑みが気にならないというのはこの場合まずないことである。それは建国も同じである。
「実際のところはわからないよ」
「けれどそれは」
「だからわからないものさ」
 言葉をはぐらかしてきたのだった。
「誰にもね」
「ですか」
「まあ道にゴミを捨てるのは確かによくないよ」
 あまり誰も守らないことであるがその通りである。この老婆が言うまでもなく。
「それはわかってるね」
「わかりました」
「わかったらこれでね。けれど今度ゴミを捨てたら」
「捨てたら」
「わからないよ」
 老婆は笑ったがその笑みが実に恐ろしげなものであった。それは少なくとも夜叉に見えるものであった。どうしてそんな笑顔を浮かべることができたのか建国にはわからなかった。だが一つわかったことがある。それは道にゴミを捨ててはいけないということである。化け物が出る出ないは別にして。建国にとってはいい教訓になった話であった。少しばかりの恐怖と共にではあるが。


北京の怪物   完


                    2007・11・7
 
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