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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第58話

~ルーアン市長邸・2階大広間~



エステル達が踏み込む寸前、そこにはダルモア市長とフィリップを傍に控えさせたデュナン公爵が会談をしていた。

「ヒック……。ふむ、なかなかいい話だ。確かにこのルーアンは別荘を持つには絶好の場所だ。しばらく滞在してよく判った。」

ダルモアに勧められ、酒を呑んで酔っているデュナンは上機嫌に答えた。

「ふふ、そうでしょうとも。その高級別荘地の中でもとりわけ素晴らしい場所に閣下の別荘を用意いたします。また、まだ交渉段階にも入ってはいませんが、将来的には閣下の別荘のお近くにあのメンフィル大使の別荘も用意する予定でございます。今後のメンフィルとの関係を強化するためにも必ずや気に入って頂けるかと……」

「ふっふっふ……。おぬし、なかなか話が判るな。いいだろう、ミラに糸目はつけん。次期国王にふさわしく、ロレントという片田舎に居を構えているくせに”英雄王”等というふざけた異名を持つメンフィル大使より豪華絢爛(ごうかけんらん)な別荘を用意するがいい。……そうだな、最低でもこの屋敷くらいは欲しいところだ。」

ダルモアの言葉に乗せられたデュナンは上機嫌に注文をした。

「閣下、しばしお待ちを。女王陛下に相談もせずにそのような巨額の出費は……それに同盟国の皇族の方を下に見る言い方はどうかと……」

「黙れ、フィリップ!私は次期国王だぞ!このくらいの買い物は当然だ!それにメンフィル大使が住む土地はリベールより借り受けている土地!それ即ち次期国王である私の土地を借り受けているのだから、私のほうが当然上であろう!」

フィリップに咎められたデュナンだったが全く耳を貸さず。リウイがどういった経緯でロレントに居を構えたかも知らず、メンフィルの間者等に聞かれたら大事になる事を発言した。

「いやはや、公爵閣下ならば判っていただけると思いました。後で契約書を持ってこさせます。その前に、もう一献……」

「おっとっと………」

ダルモアがデュナンのグラスにワインを注いだ。そこにエステル達が現れた。



「こんにちは~。遊撃士協会の者で~す。」

会談中であるにも関わらず、エステルは堂々と名乗った。

「君たちは……」

「ヒック……。なんだお前たちは?どこかで見たような顔だが……」

「おお、いつぞやの……」

「こんにちは、執事さん。ちなみに、今日はそこの市長さんにお話があって来ただけだから。」

フィリップに挨拶したエステルは自分達を険しい表情で見ているダルモアを見た。

「困るな君たち……。ギルドの遊撃士ならば礼儀くらい弁えているだろう。大切な話をしているのだから出直してきてくれないかな?」

「なにぶん緊急の話なので失礼の段は、ご容赦ください。実は、放火事件の犯人がようやく明らかになったので……」

不機嫌な表情でエステル達を見ていたダルモアだったが、ヨシュアの答えに驚いた。

「!その件か……仕方あるまい。公爵閣下、しばし席を外してもよろしいでしょうか?」

「ヒック……。いや、ここで話すといい。どんな話なのか興味がある。」

「し、しかし……」

「いいじゃない♪公爵さんもああ言ってるし。聞かれて困る話でもないでしょ?」

「まあ、それはそうだが……。そういえば夕べは、またもやテレサ院長が襲われたそうだな。放火事件と同じ犯人だったのかね?」

デュナンも事件の詳細について聞く事にダルモアは戸惑ったが、エステルの言葉に納得して、尋ねた。



「その可能性が高そうです。残念ながら、実行犯の一部は逃亡している最中ですが……」

「そうか……。だが、犯人が判っただけでも良しとしなくてはならんな。ちなみに誰が犯人だったのかね?」

「うーん、それなんだけど。市長さんが考えている通りの人たちだと思うわよ。」

「そうか……残念だよ。いつか彼らを更正させる事ができると思っていたのだが……。単なる思い上がりに過ぎなかったようだな……」

「あれ、市長さん。誰のことを言ってるの?」

無念そうに語っているダルモアにエステルは不思議そうに尋ねた。

「誰って、君……。『レイヴン』の連中に決まっているだろうが。昨夜から、行方をくらませているとも聞いているしな……」

エステルの疑問にダルモアは確信を持った表情で答えた。

「残念ですが……彼らは犯人ではありません。むしろ今回に限っては被害者とも言えるでしょうね。」

「な、なに!?」

しかしヨシュアの答えに驚き、思わず声を上げた。

「今回の事件の犯人、それは……ダルモア市長、あんたよっ!」

「!!!」

ヨシュアに続くようにエステルは声を張り上げて、ダルモアを睨んだ。エステルの言葉にダルモアは厳しい表情のまま、固まった。

「秘書のギルバードさんはすでに現行犯で逮捕しました。あなたが実行犯を雇って孤児院放火と、寄付金強奪を指示したという証言も取れています。この証言に間違いはありませんか?」

「で、でたらめだ!そんな黒装束の連中など知るものか!」

「あれ~、おっかしいな。あたしたち、黒装束だなんて一言も言ってないんだけど~。」

「うぐっ……。知らん、私は知らんぞ!全ては秘書が勝手にやったことだ!」

「往生際の悪いオジサンねぇ。」

以前のような紳士的な態度をなくし、悪あがきをしているダルモアを見てエステルは溜息を吐いた。そしてヨシュアは退路を断つかのように、話を続けた。

「高級別荘地を作る計画のために孤児院が邪魔だったと聞いています。これでもまだ、容疑を否認しますか?」



「しつこいぞ、君たちっ!確かに、ずいぶんと前から別荘地の開発は計画されている!だが、それはルーアン地方の今後を考えた事業の一環にすぎん!どうして犯罪に手を染めてまで性急に事を運ぶ必要があるのだ!?」

「そ、それは……」

ダルモアの叫びに答えられなかったエステルが困ったその時

「……莫大な借金をかかえているからでしょう?」

いきなりナイアルが広間に入って来た。

「ナ、ナイアル!?」

「どうしてここに……」

ナイアルの姿を見て、エステルとヨシュアは驚いた。

「いやな、そこの市長さんを取材しようと屋敷まで来たらお前たちが入っていくじゃねえか。こりゃ何かあるなと思ってお邪魔してみたらこの有様だ。いや~。一部始終聞かせてもらったぜ♪」

ネタを見つけたかのようにナイアルは上機嫌で答えた。

「な、なんだね君は!?」

「あ、『リベール通信』の記者、ナイアル・バーンズといいます。実はですねぇ。最近のルーアン市の財政について調べさせてもらったんですが……。ダルモア市長、あなた……市の予算を使い込んでますなぁ?」

「……そ、それは……。別荘地造成の資金として……」

ナイアルの確認の言葉にダルモアは顔を青褪めさせた。

「そいつは通りませんぜ。まだ、工事は一切始まってない。ちょいと妙だと思ったんで飛行船公社まで足を伸ばしてあなたの動向を調べたんですよ。すると、あ~ら驚き。1年ほど前に、共和国方面に度々いらっしゃてますねぇ?」

「……た、ただの観光だ……」

どんどん追い詰められている事に気付いたダルモアは無意識に両手の拳を握り、誤魔化したがナイアルはすぐに否定した。

「というのは表向きの理由。本当の理由は……あちらの相場に手を出して大火傷を負ったからでしょう?」

「!!!」

「えっと……相場ってなに?」

言葉の意味がわからないエステルは周囲に尋ねた。



「市場の価格差を利用してミラを稼ぐ売買取引です。ある品が安い時に買いこんで高くなったら売るような……」

「あ、なーるほど。それで、この市長さんはどれだけ損しちゃったわけ?」

クローゼの説明で理解したエステルはナイアルに尋ねた。

「共和国にいる記者仲間に調べてもらった限りでは……。およそ1億ミラってとこらしい。」

「い、い、1億ミラぁ~!!」

「寄付金の100倍ですか……。確かに、犯罪に手を染めても不思議ではない金額ですね。」

ナイアルの答えにエステルは驚いて声を上げ、ヨシュアは驚いた後ダルモアが犯罪に手を染めた理由に納得した。

「ヒック、1億とはな……。私もミラ使いは荒い方だがさすがにおぬしには完敗だぞ。」

「くっ……」

逃げ場を完全に失ったダルモアは顔を歪めた。

「な~に競ってるんだか。」

エステルはデュナンの言葉に呆れて溜息を吐いた。

「まあ、そんなわけで……。莫大な借金を返すために市の予算に手を出したはいいが問題を先送りにしただけだ。どうするものかと思っていたらまさか放火や強盗までして別荘地を作ろうとするとはねえ。何と言いますか……行き当たりばったりですなあ。」

「………………………………。ふん、そんな証拠がどこにある。憶測だけで記事にしてみろ。名誉毀損で訴えてやるからな!」

「あらま、開き直った。」

強気になったダルモアを見てナイアルは目を丸くした。

「貴様らもそうだ!市長の私を逮捕する権利は遊撃士協会にはないはずだ!今すぐここから出て行くがいい!!」

「む、やっぱりそう来たか。」

「さすがに自分の権利はちゃんと判っているみたいだね。」

同じようにエステル達にダルモアは怒鳴った。怒鳴られたエステルとヨシュアは厳しい表情でダルモアを見た。



「………………………………。市長、1つだけ……お伺いしてもよろしいですか?」

「なんだ君は!?王立学園の生徒のくせにこのような輩と付き合って……。とっとと学園に戻りたまえ!」

「………………………………」

「うっ……」

静かに問いかけたクローゼを怒鳴ったダルモアだったが、クローゼの凛とした眼差しに見られて怯んだ。

「どうして、ご自分の財産で借金を返さなかったんですか?確かに1億ミラは大金ですが……。ダルモア家の資産があれば何とか返せる額だと思います。例えば、この屋敷などは1億ミラで売れそうですよね?」

「ば、馬鹿なことを……!この屋敷は、先祖代々から受け継いだダルモア家の誇りだ!どうして売り払う事ができよう!」

「あの孤児院だって同じことです。多くの想いが育まれてきた思い出深く愛おしい場所……。その想いを壊す権利なんて誰だって持っていないのに……。どうして貴方は……あんなことが出来たのですか?」

「あ、あのみすぼらしい建物とこの屋敷を一緒にするなああ!!」

クローゼの言葉にダルモアは怒り心頭で吠えた。

「あなたは結局自分自身が可愛いだけ……。ルーアン市長としての自分とダルモア家の当主としての自分を愛しているだけに過ぎません。可哀想な人……」

「………………………………。……ふふ……ふふふふふ………。よくぞ言った、小娘が……。……こうなったら後のことなど知ったことか!」

クローゼに哀れみと軽蔑が込めた視線で見られたダルモアは凶悪な顔で笑い、立ちあがって後ろの壁にあるスイッチを押した。すると壁の一部が動き、隠し部屋が出来た。

「ファンゴ、ブロンコ!エサの時間だ、出てこい!」

ダルモアが叫ぶと、隠し部屋から何かの足音が聞こえて来た。

「な、なんなの……」

「獣の匂い……!」

エステルとヨシュアは隠し部屋から歩いて来る何かを警戒した。そして隠し部屋から2体の4足巨大魔獣が現れた!



「「グルルルル………」」

「な、なんだああッ!?」

巨大魔獣を見てナイアルは驚き

「ま、魔獣ううううう!?うーん……ブクブクブク……」

「こ、公爵閣下!?」

魔獣を見て気絶したデュナンにフィリップが駆け寄った。

「信じられません……。魔獣を飼ってるなんて……」

クローゼはダルモアを険しい表情で見て言った。

「くくく……。お前たちを皆殺しにすれば事実を知るものはいなくなる……。こいつらが喰い残した分は川に流してやるから安心したまえ。ひゃ―――――――はっはっはっ!」

「く、狂ってやがる……」

狂ったように笑い叫ぶダルモアにナイアルは後ずさった。

「ぐるるるるるぅ……」

「……うるる……………」

2体の巨大魔獣は唸りながらエステル達に襲いかかる態勢になった。

「こ、こんな屋敷の中で魔獣と戦うことになるなんて……」

「でも、これで現行犯として市長を逮捕することができる。」

「あなたたちに恨みはないけれど……。人を傷付けるつもりならば容赦はしません!」

そしてエステル達と2体の巨大魔獣の戦いが始まった………! 
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