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英雄伝説~光と闇の軌跡~(FC篇)

作者:sorano
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第57話

~メーヴェ海道~



ギルバートやレイヴン達をマノリア村の風車小屋に拘禁し、目覚めたカルナと念のためにプリネに見張りをお願いしたエステル達は今回の事件の詳細を報告するため、ルーアンのギルドへと急いでいた。

「しかし、ダルモア市長が事件の黒幕だったなんて……。親切そうに振る舞っていたのも全部お芝居だったわけね!」

「ええ……貴族として決して許せません……!」

孤児院放火事件やテレサを襲撃することを命じた黒幕がダルモアとわかったエステルは自分達を騙していた事に怒っていた。

「あの……。少し気になったんですけど……。今回の件で、ダルモア市長を逮捕できるんでしょうか?」

「……え?」

「そうだね……。難しいかもしれない。遊撃士協会は、国家の内政に不干渉という原則があるからね。ルーアン地方の責任者である現職市長を逮捕するのは難しそうだ。」

クロ―ゼの心配ごとにエステルは驚き、ヨシュアは暗い表情で答えた。

「ちょっと待ってよ!それっておかしくない!?」

ヨシュアの答えにエステルは顔色を変えてヨシュアに詰め寄った。

「おかしいけどそれが決まりだからね。この決まりがあるからこそギルドはエレボニア帝国やメンフィル帝国領にすら支部を持つことができたんだ。」

「そ、そうは言っても……」

「とにかくギルドに行ってジャンさんに相談してみよう。良い知恵を貸してくれると思う。」

「う、うん……」

「………………………………」

元気づけるヨシュアの言葉にエステルは腑に落ちない様子で納得し、クロ―ゼは俯いたまま聞いていた。

「大丈夫、心配することないって!院長先生たちを苦しめたツケはきっちり払ってもらわないとね!」

「はい……そうですね。」

俯いているクロ―ゼにエステルは元気づけた。しばらく歩いているとルーアン市とジェニス王立学園に行く分かれ道に出た。



「……あの…………」

「クローゼ、どうしたの?」

「あの、エステルさんたちはギルドに行かれるんですよね?私、やる事を思い出したので先に行っててもらえませんか?すぐに追いつきますから……」

「構わないけど……いったん学園に戻るのかい?」

「は、はい……。一応、学園長にも報告しておこうと思いまして。」

「そっか……。うん、わかったわ。ギルドで待ってるからね!」

そしてエステルとヨシュアはクロ―ゼをその場に残して、ルーアン市に向かった。

「ごめんなさい……。エステルさん、ヨシュアさん。」

エステル達を見送ったクロ―ゼは申し訳なさそうな表情で呟いた後、懐から手帳とペンを取り出して文字を書き連ねた。

「うん、これでいいわ。……ジーク!」

「ピューイ!」

クロ―ゼに呼ばれたジークは空中より飛んできて、クロ―ゼの肩に止まった。

「これをユリアさんに届けてくれるかしら?」

「ピュイ。」

クロ―ゼは先ほど書き連ねたページを破り、ジークの足に結び付けた。

「お願いね、ジーク。」

「ピューイ!」

クロ―ゼの言葉に頷いたジークはまた、空へと飛び立ちどこかへ去った。そしてジークを見送ったクロ―ゼは急いでルーアンのギルドに向かった。



~遊撃士協会・ルーアン支部~



「……話はわかった。まさか、ダルモア市長が一連の事件の黒幕だったとは。うーん、こいつは大事件だぞ……」

エステル達から報告を聞いたジャンは首をひねって、唸った。

「それで、ジャンさん。市長を捕まえる事はできるの?」

「うーん……。残念だが逮捕は難しそうだな。現行犯だったら、市長といえど問答無用で逮捕できるんだけどね。」

「やはりそうですか……」

「そ、そんな……。だったらこのまま悪徳市長をのさばらせてもいいてわけ!?」

無念そうな表情で答えたジャンの言葉にヨシュアは暗い顔で納得し、エステルは納得できず怒った。

「まあ、そう慌てなさんな。遊撃士協会が駄目でも……王国軍なら市長を逮捕できる。」

「あ……」

「エステル君、ヨシュア君。これから市長邸に向かって市長に事情聴取を行ってくれ。多少、怒らせてもいいからできるだけ時間を稼いで欲しい。」

「なるほど、その間に王国軍に連絡するんですね?」

ジャンの指示にヨシュアは確信を持った表情で尋ねた。

「うーん、軍に頼るのはシャクだけど仕方ないか……。そう言えばリフィア達は?」

軍に頼る事に弱冠抵抗があったエステルは気持ちを割り切った後、リフィア達がこの場にいない事に気付き、尋ねた。

「彼女達なら、今ちょうどロレントに戻る飛行船に乗るメンフィル大使達を見送るために空港に行っているよ。」

「そっか。ティアさんや聖女様に挨拶できないのは残念だけど仕方ないか……よし、クローゼが追いついたらさっそく市長邸に向かって……」

エステルがそう言ったその時、ドアが開いてそこには息を切らせたクロ―ゼがいた。



「はあはあ……。お、お待たせしました……」

「学園に寄った割にはずいぶんと早かったね?」

学園との距離を考え、不思議に思ったヨシュアはクロ―ゼに尋ねた。

「え、えっと……足には自信がありますから。それで……どういう事になりました?」

「ちょうど市長のところに乗り込むって話をしてたのよ。王国軍の連中が来るまで事情聴取して時間稼ぎをするの。」

「あ……そうですか……。……余計なことをしたかしら……」

エステルの言葉にクロ―ゼはエステル達には聞こえない声で独り言を呟いた。クロ―ゼの様子を不思議に思ったエステルは尋ねた。

「???えっと、クローゼも来るよね?」

「あ、はい。どうかご一緒させてください。」

「ジャンさん、連絡の方はどうかよろしくお願いします。」

「ああ、任せておいてくれ!」

ギルドを出たエステル達は市長邸に向かい、接客をしているという市長に会うためにヨシュアがメイドに自分達も会う予定があると誤魔化した。そしてエステル達は市長と、市長が接客しているデュナン公爵がいる部屋に堂々と入った。



~ルーアン発着場~



エステル達が市長がいる部屋に入った同じ頃、リフィア達はロレントに戻るリウイ達と出発前の会話を楽しんでいた。

「ほう……まさか神殺しの使い魔がそんな事になっていたとはな。」

リフィアからテトリの事を聞かされたリウイは弱冠驚きの声を出した。

「うむ。余も驚いたぞ。……それにしてもあの時のエステルの言葉が頭に離れられなくて思い出したら、笑いが止まらぬ……ぷっくくく……!」

「何を言ったんでしょうか?」

思い出し笑いをしているリフィアを不思議に思って、ティアは尋ねた。

「エステルが神殺しをいつか殴るんだって。」

「何?」

「え!」

「あの……どうしてそんな事をエステルさんが……?」

リフィアに代わって答えたエヴリーヌの言葉からありえない人物の事が出て、リウイは目を丸くし、ペテレーネは驚き、ティアはなぜそんな事になったかを尋ねた。

「ぷっくく……なんでもセリカが自分の使い魔の存在を忘れ、その事にテトリが傷ついた事を怒っていてな。だから今のテトリの契約主としてテトリを忘れた事が許せず、ブッ飛ばすそうだ……ぷっくく!」

ある事が気になったペテレーネはリフィアに尋ねた。リフィアは笑いを押し殺しながら答えた。

「あの……エステルさんはセリカ様の正体の事は?」

「当然知っている訳がなかろう。エステルはセリカの事を自分の使い魔の存在を忘れる酷い契約者としか捉えておらぬ。」

「なぜ、奴の正体を言わない?」

「言った所で信じないだろうし、どうせ会う事もないだろうから言わなかっただけだ。」

リウイの疑問にリフィアは悪びれもなく答えた。



「…………確かにな。」

リフィアの言葉にリウイは少しの間考えた後、納得した。

「ねえ、お兄ちゃん。」

「どうした、エヴリーヌ。」

「神殺しで思い出したんだけど、神殺しとフェミリンスの女の事はどうするの?エヴリーヌ達のお家で働いているイリーナっていう人間がお兄ちゃんの探していた人なんでしょ?」

「………………………………」

エヴリーヌの疑問にリウイはしばらくの間考えるかのように腕を組み、目を閉じて黙った。そしてリウイに代わってかリフィアが答えた。

「当然、放置だろう?イリーナ様の魂はあのイリーナという少女に受け継がれているのだから、セリカやエクリアを狙っても意味がないのだからな。」

「………………まあな。イリーナが転生した以上、神殺しの力は必要ない上、依り代であるエクリアを狙っても意味がないからな。」

「……よろしいのでしょうか?エクリア様はその……リウイ様にとって仇になりますが………」

リウイの答えを聞き、ペテレーネは恐る恐る尋ねた。

「……奴を許せると言えば嘘になるが、今更その事を蒸し返しても仕方あるまい。あの時の奴は姫神だったのだからな…………それに自分を殺したエクリアに恨みごとも言わず逝ったイリーナがそんな事を望むとはとても思わん……最も、イリーナの魂が目覚めて元のイリーナになった所で連絡するつもりはないが。」

「……それでもお父様はセリカ様やエクリア様を狙わないのでしょう?私はそれを聞いて安心しました。」

「ほう……なぜだ?」

ティアの言葉が気になり、リウイは尋ねた。

「だって、血のつながった家族同士が争うなんて私には耐えられませんから……」

「ふふ、本当に優しい方ですね、ティアさんは。ティアさんを見ていると、時折ティナさんの事を思い出してしまうほど成長されましたね。」

「ありがとうございます、ペテレーネ様。」

ペテレーネの言葉にティアは微笑んで答えた。

「……エクリアの件はわかるとして、神殺しを狙わない事に安心しているのはなぜだ?奴は現神にとって忌まわしき敵であろう。」

「お父様……わかってておっしゃっているのですか?イーリュンの愛は無限。……例えその相手が神殺しであろうと変わりはありません。私はただ純粋に人と人が争わない事に安心しているのです。」

「フッ……そうか……」

ティアの答えにリウイは口元に笑みを浮かべて答えた。その時定期船の離陸の放送が響いた。



ボース方面行き定期飛行船、まもなく離陸します。ご利用の方はお急ぎください。



「………そろそろ時間か。プリネにはいい劇を見せてもらったと伝えておいてくれ。」

「うむ!」

「うん。お兄ちゃんが褒めてくれたって知ったら、きっとプリネも喜ぶしね。」

リウイの言葉にリフィアは力強く頷き、エヴリーヌはプリネの喜ぶ顔を予想して微笑んだ。

「さて……2人とも行くぞ。」

「はい。」

「わかりました、お父様。それではリフィアさん、エヴリーヌさん。怪我や病気には気をつけて下さいね。」

「うむ!ティア殿も元気でな!」

「ばいば~い!」

そしてリフィア達の別れの挨拶と共にリウイとペテレーネ、ティアを乗せた定期船は飛び立っていった…… 
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