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衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
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第21話 入浴後の醍醐味

 衣服に身を包んだ京は、女湯の暖簾を手で退かして左右を見る。
 誰もいないことを確認してその場を逃れようとするが、曲がり角の死角に大和が待ち構えていたようで、荒々しく肩を掴んで逃げないように壁ドンする。
 そんな大和に京は、わざとらしく気恥ずかしいように振る舞いながら身を捩る。

 「だ、ダメだよ大和。幾ら湯上りで私の色気も増してるからって、廊下で押し倒されても困る―――」
 「そうじゃねぇよ!このタイミングでもう上がって来たって事は、お前男湯の会話を盗み聞きしてたんだろうから知ってんだろ?何、衛宮先輩に吹き込んでんだよ!?」

 大和の攻め立てるような勢いに京は黙って聞いてから、一言。

 「てへぺろ☆」
 「そんなんで誤魔化されるかーーーー!!」


 -Interlude-


 風間ファミリーや葵ファミリー+αが箱根を満喫し始めた時に、昼間の間にモンスターペアレントと言う名の怪物を撃退した鉄心は今、雷画と向かい合って囲碁をしていた。
 鉄心が今いるのは自室では無く、冬木市の藤村組本部にある雷画の自室である。
 川神院と違って、藤村組は24時間体制の警備制を敷いているので、こんな夜遅くに集まるなら藤村邸が打ってつけだったのだ。
 しかしながらそんな理由もあってか、今の鉄心の周りには味方も居らず、孤軍奮闘状態だった。
 まぁ、既に死に体寸前だったが。

 「――――それで?儂にとって孫同然の士郎に、これからどれだけ迷惑かけるつもりかのぉ」
 「・・・・・・・・・」

 先程からこのような嫌味に、鉄心はとても眼前の囲碁に集中など出来ずにいた。

 「そもそも、百代ちゃんの精神面の幼さ具合は、お前おせいじゃろぉ?鉄や」
 「・・・・・・」

 この2人はこう見えて、兄弟の様に育ってきた幼馴染である。
 その為基本遠慮などない上、たまに昔に呼び合っていた愛称なども出る。

 「流石にこの時点で判っとるんじゃろ?お前のは孫可愛がりでは無く、甘やかしだと言う事が」
 「・・・・・」

 ズバリの指摘に士郎に言われた時と同様に何も言えない鉄心。と言うか、何かいい訳でもすれば、たちまちさらなる攻撃を与える隙を作る事に成るので、耐えるしかなかった。

 「ルーに負けたから、掟に従って息子夫婦を修業に出すのも色々如何かと思うが、兆歩譲って一先ずそれはいいじゃろ」
 「・・・・」
 (兆歩?百歩じゃなくて?)

 つまり相当遺憾に思われていた事に他ならない。
 当時も雷画には色々言われていたのだ。
 いくら掟とは言え、年ごろの子供がいるのに世界を回らせる武蔵修業に出して、親と別々に暮らさせるべきではないと。
 勿論それは川神院としての問題故口出しを禁じた鉄心だが、百代の破天荒すぎて躾が行き届いていない行動が起きる度、雷画に嫌味を言われてきたのだ。
 言うまでも無く自業自得だが。

 「息子夫婦を修業に出したのだから、同じ一族のお前が躾けなければならんところを、今では士郎が試みているぞ?普段からエロい事ばっかり考えてるからこういう事になるんじゃ。それに――――」
 「・・・・・・・・・」

 自業自得とは言え、一切の反論を封じられた上での嫌味による怒涛の連続攻撃に、鉄心は現実逃避したくなってきていた。

 (・・・・・・儂も旅行に行こうか)
 「旅行に行く行かないかはお前の自由じゃが、自分の影響力をよく考えていく地域を選定するんじゃぞ?そんな事でとばっちりなど喰いたくないからのぉ」
 「!?」
 「何か驚いた顔してるかは知らぬが、どれだけの腐れ縁じゃと思ってる?お前の考えそうな事など、手に取るように判るわい」

 考えまで見抜かれて、驚きを通り越して泣きたくなる鉄し

 「ほれ、泣きたいならタオル貸すぞ?すっきりしたらまだまだ言いたい事はいくらでもあるからのぉ。ほれ、とっとと泣け」

 本気で泣きたくなった。


 -Interlude-


 あれから温泉から出た風間ファミリーと葵ファミリー+αは、それぞれ好きに動いた。
 ガクトは、夜に加えて旅行中に羽目を外している女子大生などを狙うと言ってナンパしに行き、モロがそれにいざとなれば制止しようと付き添った。
 後は何時ものペースを取り戻すと言う理由もあった。
 そして珍しく、それに京極が付いて行くと言った。
 恐らくはモロへの人間観察なのだろうが、京極が加わった事により、このガクトのナンパのオチ見えた気がした。
 そして残りの11人は――――。

 「ここで、スマァアアッシュゥウウウっっ!!」
 「なんの!」

 卓球場に来ていた。
 此処には風間・葵ファミリー以外の利用客も来ていたが、彼らのほとんどが容姿に恵まれているせいもあって目を引いていた。
 因みに今のはキャップとワンコである。

 「連続スマァアアッシュゥウウウっっ!!」
 「燕返し!」

 隙あらば相手を仕留めにかかる様なラリーを繰り返している2人を、大和と京は並んで眺めていた。

 「2人とも楽しいそうだネ、大和(あなた)。まるで仲睦まじい私達みたい♡」
 「確かに楽しそうだけど、俺達の中はそんなに深い関係では無いな」
 「そうだね。私達の関係が深まるのは、今夜2人きりになってからだもんね♡」
 「2人きりになれる部屋だなんて無いぞ?」
 「それは暗に、初夜は外でするって事?誰かに見られるかもしれない背徳感に苛まれつつ、互いに貪りあいたいだなんて・・・・・・大和大胆♡」
 「それが今夜の妄想シチュか?ワンコ達と相部屋なんだから大概にしろよ・・・」

 此方も隙あらば、相手を仕留めかかる会話におけるラリーの応酬を繰り出し続けていた。
 先程注意されたのに全く反省を見せない。
 まぁ、正直今更なのだが。
 そんな4人をよそに、冬馬達3人も同じく卓球で楽しんでいる。

 「行くぞ、ユキ!これぞ、必殺のシャイニングサーブだ!」
 「ハゲだけに?お約束過ぎてつまらないよ、ジュン」
 「それは余計です」
 「準、パフォーマンスもいいですが負けてるんですよ?」

 そして風間ファミリーの新人たちも・・・。

 「このっ!」
 「はい!」
 「やるな、まゆっち!」
 『クリ吉こそなかなかやるな、付喪神アタック!』

 まゆっちは、クリスの反応しにくいポイントに激しいスマッシュ(勿論ラケットと卓球台が壊れない位の加減をして)を打ち込んだ。
 狙い通りクリスは反応できずに終わる。

 「おわっ!?今、松風居ないだろ!」
 「心の声です、心の声!心が清らかな人は、距離があっても念話で聞こえるんです」
 「それは自分が既に松風に憑りつかれていると言う事か?」
 『オラ、地縛霊じゃなくて付喪神だぞ!』

 他の利用客から見れば、楽しそうだが漫才にも見える。
 そんなメンバーの中でも、一際目立っている組み合わせがあった。
 それは百代と士郎の打ち合いだ。

 「そら、そら!そら!!」
 「はいはい」

 例えるなら嵐。
 強さの次元を超えた2人の打ち合いは、人目を集めるには集めるが、音速を越えてるのでちゃんと視認出来ているのはまゆっち位だろう。
 京は、弓兵としての自分の強みである集中力を高めれば見えるが、今は大和に寄り添ってるので見る気は無かった。
 因みに、ホントはいけないのだが卓球台は気を練り込んだ強化の魔術により、2人の打ち合いに耐えられるように頑丈にしている。
 勿論ラケットについても、お互い壊さない様に気で強化している。
 何故こんな事に成っている理由を知るために少し遡る。

 ~回想~

 皆卓球を始めてから百代は少し不満になった。
 百代は圧倒的に強すぎるので、やるにしてもかなり力をセーブしなければならないからだ。
 それ故に、百代は気分を変える為に美少女に走るのだ。

 「まゆまゆ!私とやろう!それで負けたら一晩だけ私の言う事を聞いてもらう!」
 「ほえ!?」

 クリスと愉しむ様にラリーを続けていたまゆっちは、いきなり背後からねっちり現れた百代に赤面しながら驚く。
 しかも一方的な要求に若干引く。
 しかし百代は止まらない。

 「安心してくれ!過度な要求はするつもりは無いぞ?先っぽだけだから!」
 「いや、あの、その・・・」
 「コラ、川神。怖がってるだろう?」

 しどろもどろになっているもゆっちに助け舟を出したのは、自動販売機にて皆の飲み物を買いに行って帰ってきた士郎だった。

 「邪魔するな、衛宮!今の私にとって、まゆっちを口説けるかどうかは死活問題なんだぞ!それとも、お前が私の相手になってくれるのか?」

 どの様な事であれ、自分と戦おうとしない士郎を封じるために言い放った言葉だった。
 だからこそ、士郎から出る言葉は意外だったろう。

 「ああ、いいぞ」
 「そら、言わんことじゃない!邪魔す・・・る・・・・・・・・・・・なんて言った、今!?」
 「いいぞと言ったんだ。だから彼女から離れてやれ」

 あまりに以外過ぎる言葉だった故、直には信じられる呆然とした百代だったが、この機を逃すまいと直にテーブルを確保してやることになったのだ。

 ~回想・了~

 そして今に至る。
 百代は非常に楽しそうにしながら打ち続けて往く。
 それを士郎は衝撃を極力殺しながら打ち返していく。
 この暴風雨、それから10分以上続いたのだった。


 -Interlude-


 士郎との打ち合いに気分爽快になったのか、テンションMAX状態の百代はその足でガクトのナンパに乱入して行った。
 さらにオチが見えた気がした。
 そんな訳で手持ち無沙汰になった士郎が椅子に腰かけて休んでいると、あの奥手のまゆっちが声を掛けて来た。

 「あ、あのあの!先ほどはありがとうございました!」
 「いや、そっちこそ大丈夫だったかい?黛由紀恵さん」
 「はい。――――それにしても私自己紹介しましたか?まだ名乗っていなかった筈ですが・・・」

 士郎の言葉の一部に反応したまゆっちは、警戒と興味の両方を持った。
 勿論隠す理由が無い士郎は、ちゃんと答える。

 「黛大成さんとはちょっとした知り合いだからね。君の事は聞いていたんだよ」
 「父と面識が!なるほど、そうでしたか。――――あのそれでは、もしかして衛宮先輩はあの刀匠EMIYAの御家族の方ですか?」
 「いや、本人だよ」
 「えぇええ!?」
 『学生で刀匠やるとか、マジ半端ねぇパイセンだぜ!?』
 「・・・・・・・・・」

 士郎の告白に驚くまゆっち達?に、何とも言えぬ表情をした。

 「まさかこの剣を鍛った刀匠EMIYAが衛宮先輩ご本人だったなんて・・・」
 『付喪神のオラを驚かせるなんて、パネェなんてレベルじゃねぇぞ!』
 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 実に同意できる感想だが、士郎は沈黙を続ける。
 別に引いているワケでは無い。
 松風の事は大成からある程度聞いていたので、どう対応しようかと考えているだけだった。
 いや、訂正。少しだけ引いていた。
 此処までほぼ初対面の自分にこうまで松風の腹話術を押して来るとは、士郎も計算外だったからだ。
 だが士郎が考えているのはそれだけでは無い。

 (正体不明の視線が消えたな。完全には安心できないが、よかった。・・・・・・だが・・・)

 そうして士郎が先ほどから喋らない事にふと疑問に感じたのか、まゆっちが覗き込んで来る。

 「あの・・・、如何かしたんですか?」
 「ん、いや。如何やらホテルから一定以上離れた地点で、囲まれてきてるなと思って」
 「囲まッッ!?」
 「この無駄なく洗練された動き・・・・・・軍隊だな」

 どの軍隊かはあたりを付けていた士郎は、今は夜遅いので明日藤村組に電話しようと決めた。
 例え日本の同盟国の軍隊とは言え、関東圏内で我が物顔させるわけにはいかないからだ。


 -Interlude-


 そんな士郎に気付かれてるとも知らないある軍隊――――ドイツの猟犬部隊は、夜闇に紛れるように配置に着いた。
 その中の隊長である赤き髪の美女軍人、マルギッテ・エーベルバッハがクリスの父親に連絡を取る。

 「中将、全員配置に着きました」
 『そうか、クリスには今のところおかしな点は無いかね?』
 「ハイ」
 『よし、では私が到着するまで頼んだぞ?少尉』
 「ハッ!」

 あまりにも親馬鹿過ぎる、クリスの監視及び護衛任務が今始まった。 
 

 
後書き
 あくまで来ているのはマルギッテと猟犬部隊のモブメンバーですので、A5で出ました例の5人はまだ出ません。 
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