| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

衛宮士郎の新たなる道

作者:昼猫
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第22話 真のサムライ?

 夜明けよりもまだ、薄暗い時間に士郎は何時も通りの時間に起床した。
 だが今日は何時もの自室の布団の上では無い。
 ゴールデンウィーク中で泊まっている、ホテルの一室のベッドの上だ。
 見慣れぬ天井に安らぎ過ぎる程のベットの感覚、そして今自分の顔の横には二つのマシュマロがぴたりとくっ付いていた。
 そのマシュマロとは小雪の胸だ。
 葵ファミリー+αは小雪以外全員男なので、本来なら必然的に小雪だけ1人霧で夜を明かす事に成る。
 だが旅行中でそれは寂しいと言う事で、分別を弁えられて自らも律せる士郎が、小雪と共に一緒に寝る事に成ったのだ。

 (確かに我慢は出来るが、俺も一応立派な男なんだがな・・・)

 勿論お互い寝間着なので直接では無い。
 それでも十分過ぎる程の感触が伝わってくる。

 「んにゅ~~」
 「・・・・・・・・・」

 上を見上げれば気持ち良さそうな小雪の寝顔に、端っこの方で微かに谷間が見えてしまう。
 士郎は枯れているワケでは無い。この世界ではまだ一度たりとも誰かと行為に浸った事は無いが、本来の世界では幾人もの女性達と結果的に関係になり時にはその女性達全員相手した事もあるので、男としての衝動を抑えることが出来る様になっただけだ。
 そんな士郎は抱き枕状態のまま、さて如何したモノかと考える。
 その時丁度良く、小雪が寝相で少し動き抱きしめが緩くなったので、瞬時に抜け出すと同時に近くにあった枕と入れ替わった。
 小雪と言えば、抱いているのが枕だとも知らずに幸せそうに寝続けている。
 そんな妹分を見下ろす士郎は苦笑する。

 「小雪ももう、立派な女性に近づいて来てるんだな」

 改めて実感するのだった。


 -Interlude-


 士郎達――――葵ファミリー+αらは、今日は川沿いにて用意してきたキャンプセットを持って来て、楽しくゆったりと過ごそうと計画通り来ていた。
 水難が起きぬ様に言霊で鎮める京極に、持参したもので簡易的調理場やリラックススペースを設営する士郎と準、それに現地調達として釣りの用意をする小雪と冬馬。
 因みに、今も監視の目はある。
 本来の任務はクリスの護衛なので多くはクリス達に割かれているが、同じ川神学園生徒であると言う事もあって数人の監視の目がこちらに向けられていた。
 士郎としては気付かないふりをして過ごし、他の4人にも不安にさせないように敢えて教えていない。
 この件については今朝に早速電話をして、いざとなれば藤村組の名を出していいと許可をもらっていた。
 そんな皆がある程度の準備を終えそうな頃、風間ファミリーがやって来た。

 「うおっ!?また本格的すっね!」
 「そこまで大したものじゃないけどな。良し、こっちは終わったが準の方は如何だ?」
 「もうすぐです」

 風間ファミリー達の声には反応しても、自分たちの作業に専念する士郎達。
 そして風間ファミリーたちは、1人1人やりたいように行動し始めた。
 一方で、当の士郎は事前に用意しておいた食材を持ってくるために、近くに停めてあるキャンピングカーまで戻って来ていた。
 食材を一気に運ぶために準備していると、川の方からキャップの楽しそうな声が聞こえて来る。

 「風間はアウトドア好きだって京が言ってたからな。早速釣り上げたんだろうな」

 士郎も以前の世界では、世界中を回った時の生存スキルの一つとして始めた食糧調達が、何時の間にか趣味の一つになっていた事を思い出した。

 「赤い弓兵(アイツ)程はっちゃけた事は無いけど、俺も釣り(アレ)は結構楽しみだからな。クー・フーリン(ランサー)と競い合った時みたいに、風間と勝負するのも面白いかもな・・・・・・っ」

 光の御子、クー・フーリンを思い出すと同時に、色々と因縁深いある女性2人を思い出そうとしたが、強制的にノイズが頭の中で走った。
 士郎はこの世界に転生して来た直後から切嗣に拾われるまで、自分が衛宮士郎だと思い出せない記憶喪失に陥った事があった。
 それまで士郎は衛宮士郎では無く、シロウだけで呼ばれていた。
 これは無理矢理な世界移動と、一気に赤子に転生された時の衝撃が関係していると思われる。
 そして記憶を思い出せてからも思い出せない事が今もあった。
 思い出せない事は幾つかあるが、その代表として終わらない四日間とランサーに深く関係していた2人の女性達の姿は思い出せるのに、名前を如何しても思い出せないのだ。
 他にも思い出せない人物名があるが、そこは今は割合させて頂く。
 だがまぁ、日常生活にはさほど支障をきたす事は無いから、そこは安心と言えるだろう。

 「・・・・・・今さら、無理に思い出す必要も無いか」

 ノイズが収まり、独り言もやめた士郎は、事前の用意していた食材を即席調理場へ運んでいく。
 そこへ、運び終えると川神姉妹と京の姿が無い事に気付く。

 「あれ?直江。川神達と、お前の伴侶はどこ行った?」
 「姉さんなら京とワンコの格闘修業の稽古で奥まで行きましたよ。そ・れ・と!俺と京はそんな関係じゃないと、何度言えば解るんですか!!」
 「勿論理解してるさ。けどやっぱり可愛い後輩だからな、如何しても応援したくなるんだよ」

 何所までも京を薦めてくる士郎に、大和はため息を露骨に吐いた。
 そのやり取りを見ながらモロは、乾いた笑いをする。

 (京ってば、大和が告白を受け入れてくれないから、外堀から埋めていく作戦に出たんだなー)

 モロは京の執着心に、呆れを通り越して尊敬の念すら覚えるのだった。
 そうこうしている内に大和は風間ファミリーの新人ペアに近づいて何かしていたり、士郎は持ってきた食材の調理に取り掛かり始めて、準はその補佐に回り、残りは釣りに回っていた。

 「いやー、それにしても京極先輩が釣りする姿って、結構レアっすよね。もしかして趣味だったりするんすか?」
 「趣味と言うほどじゃないが、たまに衛宮と行くぐらいだ。――――働かざる者食うべからず、と言う事で釣りで協力しているだけで、趣味だと言うなら寧ろ衛宮の方だな」

 京極の言葉にへぇーと、士郎の方へ向きながら感心と興味心を含んだ視線を送る。

 「興味が有るなら後で競い合いでもすると言い。風間も相当だと見受けたが、衛宮も釣り人としての腕はすごいモノがあるぞ」
 「そいつは燃えて来るぜ!」

 そんな雑談を各自でしながら2人以外が釣りをしていると、百代だけが帰って来た。

 「ん?川神、2人は如何した?」
 「組手に入らせたんだ」

 百代が出てきた先を辿ってみると、組み手をしている2人の近くに軍服に身を包んだ赤い髪の女性が近づいて来てる事が解った。

 (あれは、ドイツの猟犬部隊の“猟犬”か)
 「・・・・・・はぁ。準、ちょっと任せてイイか?」
 「分かりましたが、如何かしたんですか?」

 ちょっとなと言い、徐にそこら辺の石を行くとか拾い上げる。

 「まったく、あそこの軍隊は犬の躾けもしてないのか」

 士郎は呆れ果てながら、狙いを付けて石を投擲した。


 -Interlude-


 京と一子は、一子が安請け合いした戦いで本気を出してから一応の勝利を収めたのに、頭に血が上った相手はトンファーを取り出して襲いに来た。
 2人とも主兵装は薙刀と弓なので、如何考えても不利だった・・・・・・と思ったが、そのトンファーによる連撃攻撃が2人に届く事は無かった。

 「っ!」

 赤い髪の軍人――――マルギッテは、自分目掛けて飛んで来る何かをトンファーで叩き落とした。

 「えっ」
 「石?」

 何かとは言ったが、マルギッテは飛んでくるものが瞬時に石だと理解出来た。
 そしてもう一つ理解させられた事がある。それは――――。
 この石は避けられない(・・・・・・・・・・)
 ドイツの神童のなせる業か、何故か瞬時にそう感じたのだった。
 しかしその回避不可の石は、マルギッテに体勢を整えさせないかのように次から次えと殺到してくる。

 「っ!くっ、はっ、ええ、いッッ!鬱陶っ、しいぃッ!!」

 まるでマルギッテの動きを完全に呼んでいるかの様に、何所からか投擲されて来ているであろう石の流星群により、自由を封殺されていた。
 しかし幸か不幸か、その流星群も長くは続かなかった。

 「鬱陶しいのはお前だろ?人様のバカンスを邪魔してるくせに何言ってるんだか・・・」
 「ハッ!私の後ろを取った!?」
 「お姉様!」
 「モモ先輩」

 マルギッテは、漸く石の流星群から解放されたと思いきや、いつの間にかに百代に背後を取られて軽く驚いていた。
 
 「川神と名乗った野ウサギにモモだと・・・?まさか、武神・川神百代か!?」
 「いかにもそうだが・・・・・・衛宮の言った通りの展開だな」
 「ホントだ。ワンコに京無事か?お友達で」

 まず始めに百代を先頭に、大和が当直次第京と一子の心配をする。保険を掛けた上で。
 その2人の後からクリスがやって来てから、殺気じみた空間が一応の晴れ間を見せるのだった。


 -Interlude-


 その光景を川で見ている士郎も、4人に断りを入れる。

 「ちょっと行ってくるから続けていてくれ」
 「ウェ~~~~イ!」
 「はい」
 「うす」
 「うむ」

 何の用かなど聞かない4人は、士郎の背を見送る。
 士郎が奥に何の用かなどそこまで興味は無い上、全幅の信頼があるので反対意思などある筈もないからだ。
 その4人に見送られた士郎は、瞬時に現場近くまで行き、何所までも上から目線で立ち去ろうとするドイツ軍人達に待ったを掛ける。

 「すいませんが待ってもらいましょうか」
 『ん?』
 『え?』

 士郎の制止により、その場にいた全員の視線が士郎に集まった。

 「ふむ。何か用かね?」
 「勿論用件があるから制止を掛けたんですよ。ドイツ軍にその人ありと言われた名将、フランク・フリードリヒ中将殿」
 「私の事を知っているか。それでどの様な用件かな?」

 自分とマルギッテに制止を掛けた少年――――衛宮士郎を、値踏みするかのように見る。
 しかし士郎はそんな態度に目もくれず、用件を口にする。

 「私自身が被害を受けたわけではありませんが、そこに居る彼女たちは大切な後輩とその親友です。その彼女たちに一言の謝罪も無しに上から目線とは、随分ですね」
 「貴様っ!?中将に向かって、何と言う口を――――」
 「黙っていてもらえますか?」
 「っ!!?」

 士郎が目を細めた途端、マルギッテは電撃を受けたかのように止まった。

 「マルさん?」

 姉同然の突然の行動停止に、クリスは首を傾げる。
 クリスの困惑である当人は、士郎の濃密な殺気を当てられて動けなくなっていた。
 クリスが困惑するのも当然だろう。
 士郎は語尾を強めたわけでも、殺気を無闇に振りまいたわけでもないのだから。
 ただ1人、静かに殺気を当てられているマルギッテは驚愕するしかなかったが。

 (馬鹿な!?この私が動けないだと!しかもこんな男風情に・・・!)

 マルギッテが尊敬している男など、手の指の数ほどしかいない。
 故に、異国の初めて会った男に油断や慢心をしてしまうのが彼女の短所なのだが、その決めつけは何時も当たっていたので問題にはならなかったのだ。今までは。
 今までにない現実に憤りを見せるマルギッテだが、士郎から当てられる殺気は尋常では無い程の濃密さで、ただただ戦慄するしかなかった。
 しかし士郎は、マルギッテを戦慄させたまま話を続ける。

 「フリードリヒ中将殿も、娘さんであるクリスティアーネ嬢も、日本の何所に憧れて来たのかは知りませんが、その内の一つはサムライであると聞いていますので言わせて頂きますが、中将殿が興味関心を持ったサムライと言うのは一見紳士な対応に見せかけて、自分のエゴだけを押し通して部下の行動も諫めず気持ちを込めない謝罪をする存在なのですか?」
 「む」
 「と、父様・・・」

 クリスはマルギッテの事とは別に困惑していた。
 正直自分の尊敬する父に、反論してくる士郎に僅かな反感を感じたが、説明を聞き終えてから感心しきってしまった自分を見つけたのだ。
 だが、尊敬する父にそれを強要する事も出来ないクリスは、何も言えないでいた。
 そして娘の気持ちを知ってか知らずか、フランクは愛娘であるクリスの身を心配し過ぎて、少しばかりか身勝手に振る舞っていた事を自覚し、反省する。

 「・・・・・・いや、確かに君の言う通りだ。私は如何やら、少々自己中心的になっていた様だ。改めて謝罪させてもらおう諸君、部下の行動も含めてすまなかった。全ては指揮官たる私の責任だ」
 「と、父様・・・!」

 先程とは違い、軽い礼では無く深々とした謝罪に軽く呆れと憤りを心に秘めていた何人かは、これを治める。
 士郎の説明の後と前では違いすぎる反応に、若干気後れする程だった。
 そして素直に反省し、謝罪する父の姿に流石は父様だな感心するクリス。大げさな言葉で言えば感動していた。
 その謝罪が本心からだと理解した士郎は、マルギッテへの殺気を治める。

 「クッ、ハァ、ハァ・・・」

 殺気の拘束から外れたマルギッテは肩で息をする。
 正直自分をこんな風にした上で、第二の父親の様な存在足るフランクに頭を下げさせた士郎に噛みつきたい気持ちに駆られるが、それではさらにフランクに恥の上塗りをさせてしまうので、堪えた。
 だが何より本能で理解してしまったのだ。
 今の自分ではこの男に勝てないと。
 故にマルギッテは雪辱を誓った。

 (いずれこの借りは必ず返します・・・!)

 そんな自分の失態をまるで自覚していないマルギッテを他所に、フランクは士郎に向き直る。

 「そして君にも謝罪と共に礼を言わねばなるまい。危うく私は大人として、1人の親として、娘に誤った理想像を自分の行動で教えてしまう所だったよ」
 「いえ、私の方こそすいません。あくまでも被害を受けたのは彼女たちであるにも拘らず、出過ぎた上に生意気な口を使って恥を掛けてしまいました」
 「・・・・・・・・・」

 先程とは打って変わる士郎の姿に、フランクは面を喰らうも、直に笑みを作る。

 「何でしょう?」
 「いや、不義理があったのは間違いなく我々だと言うのに、その姿勢に感心してしまってね。成程、君のような人間こそ、真にサムライと言うのだなと感心してしまったよ」
 「え、あっ、いや、私はそんな大したものでは・・・」
 「そして自分を律する精神性、クリスよ。私達は運がいいぞ!彼こそが真のサムライと言う人間だ。私もそうだが彼をよく観察しなさい。彼の様なサムライ精神が完成している人間性を学ぶことで、さらに私たちは飛躍する事に成るからね・・・!」
 「はい、父様!」

 もはや自分たちの世界に入ってるのか、フリードリヒ親子は当人である士郎を置いて勝手に興奮しだす。
 最早士郎の否定する言葉も全て、サムライ精神のなせる業だと受け止め続けられていた。
 そんな暴走する親子に、以外にもマルギッテが水を差す。

 「中将、そろそろ時間なのですが・・・」
 「む?もうそんな時間だったか。仕方ないが引き下がるとしよう。それでは諸君、そして・・・・・・そう言えば、君の名を聞いていなかったね。サムライボーイ。良ければ君の名を教えてくれないかな?」
 「・・・・・・士郎です、衛宮士郎」
 「――――士郎君か、いい名前だ!それでは真のサムライ、衛宮士郎君。如何か君もクリスの事を頼んだぞ!彼がいるから要らぬ心配だと思うが、クリスよ、何かあればすぐに駆けつけるよ!」

 言いたい事を言い終えたのか、フランクは士郎の返事も聞かずに笑みのまま、マルギッテと共に撤収して行った。
 そんなある種の台風を見送った士郎は、クリスの爛爛とした視線を受けながら誰にも聞きとられない声音で呟いた。

 「なんでさ」 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧