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馬鹿兄貴

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5部分:第五章


第五章

「何にも頭に入らないティラノザウルス並の知能のあいつがね」
「ティラノザウルスですか」
「それかベルセルク」
 今度はこれであった。
「どっちにしろ壮絶だからね」
「何、わかってますし」
「わかってて何でここに来るのよ」
 日和にはそれが不思議で仕方ないのであった。
「死ぬのがわかっているのに」
「何かそういうのが愛だって思いますから」
「そういうのが愛って!?」
「ほら、昔の漫画にあるじゃないですか」
 相変わらず何の迷いも怯えもないはっきりとした声で言う彰人である。
「愛は命を賭けるものだって」
「初耳よ。何て漫画なの?」
「愛と誠って漫画ですけれど」
「知らないわね」
 タイトルを聞いても首を捻る日和だった。
「そんな漫画」
「三十年以上前の漫画ですけれどね」
「そんな古い漫画知らないわ」
 やはり知らないのであった。
「そこまでいくとね」
「巨人の星と原作者同じなんですよ」
「巨人の星は知ってるわ」
 流石にこれは彼女も知っていた。
「巨人は嫌いだけれどね」
「僕もですよ」
「それはいいわ」
 彰人がアンチ巨人だというのはいいとするのだった。
「君がアンチ巨人なのはね」
「それはいいんですか」
「私巨人嫌いだし」
 まず自分自身について述べる日和だった。
「それにあいつも巨人は大嫌いだし」
「お兄さんもですか」
「中日ファンなのよ」
「竜党なんですね」
「それも熱狂的なね」
 そういう趣味なのであった。
「尊敬する人は杉下茂」
「また随分とマニアですね」
「そのせいで特別に中日新聞まで取ってるんだから」
 名古屋の新聞でありドラゴンズの親会社である。その野球コーナーは最早中日一色となってしまっていることであまりにも有名になっている。
「もう帽子だって」
「完全にそっちなんですか」
「他のチームにはまだ寛容でも巨人だとマジ切れするのよ」
「そっちにもなんですね」
「そうよ。名古屋ドームで何回暴れたか」
 ここでまたうんざりとした顔になる日和であった。
「全く」
「まあ僕はそれは安心ですから」
「全然安心じゃないわよ」
 冷めて、かつ剣呑な目で彰人に言うのであった。
「っていうか君、本当に死ぬから」
「君の為なら死ねるって」
「ひょっとしてさっきの漫画の台詞かしら」
「はい、そうです」
 にこりと笑って日和に答えたのだった。
「わかりました?やっぱり」
「何となくね」
 こう答える日和だった。
「そんなのだと思ったわ」
「それでですね」
 彰人はさらに話を続けてきた。
「これを言う岩清水宏って本当に想い人の為に何度も命を捨てようとするんですよ」
「何度も!?」
「はい、何度も」
「あっきれた」
 日和の本音そのものの言葉であった。
 
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