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SAO‐戦士達の物語《番外編、コラボ集》

作者:鳩麦
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コラボ・クロス作品
戦士達×RoH
  Roh×戦士達 《一話─始める為の出会い》

その日の朝、その青年は、自宅の居間で新聞を読んでいた。
時刻は午前7時。既に日課の訓練を終え後は出掛けるだけといった所だが、そう言えば昨日買ったまま読み忘れていたことを思い出して、居間のテーブルに置きっぱなしだった新聞を手に取った次第だ。

殺人(レッド)ギルドねぇ……」
「怖いね……殺人を、ギルドぐるみでなんて……」
「…………」
元旦に買った新聞だと言うのに、一面に載った記事には、なかなかに血なまぐさい内容が掲載されていた。
曰わく、「殺人(レッド)を名乗るギルド《ラフィン・コフィン》結成か。 初犯で数十人規模の一ギルドが全員犠牲に」
なんでも、去る大晦日の夜、ミストユニコーンなる激レアモンスターの狩りに成功したとある一団が、その恩恵を得てギルドを設立。設立を祝した野外パーティーをしていたらしいのだが……その全員が、突如現れた笑う棺桶(ラフィン・コフィン)を名乗る30名程度の集団の襲撃を受け、メンバー十数名全員が殺害されたと言うのだ。

SAO(このせかい)で死んだ人間は、現実世界でも死ぬ。その事実を今一度確認し直す。つまり、この殺人集団は文字通りただのPKではない、殺人をしたのだ。

「禄でもねぇ」
「……リョウも、気をつけてね?」
飲み終えたティーカップをしまいながら、傍らにいた少女……サチが、不安げに言った。やや暗く揺れる瞳を見て、リョウと呼ばれた青年が肩をすくめて笑う。

「ま、人並みに用心はすっけどな。どっちかっつーと用心すべきはお前の方じゃねえか?生産職だからって容赦してくれる奴等でも無さそうだ。ま、当分はあんま家から出んなよ?」
「う、うん……」
どこか緊張した様子で頷くサチの顔に一瞥くれてやってから、リョウは立ち上がる。

「さてと、んじゃ行ってくるわ。多分八時前には戻る。足りねぇ食材とかねぇよな?」
「あ、うん。年末に買った分でまだ使える食材が沢山。今日は……シチューで良い?」
「お、いいねぇ。冬はやっぱあったけぇ料理が良いよな。その内鍋でもするか?」
「ふふっ、うん、良いかも」
笑いながら他愛ない事を言い合って、二人は玄関先へと出て行く。

「ほんじゃま、行ってくる」
「はい、行ってらっしゃい」
寒空の中、片手をヒラヒラ振って出て行くリョウの背中を、サチは微笑みながら見送っていた。

────

「破っ!!」
一閃した鋼鉄の薙刀が、金属質な光沢のある鰐の表皮に、正面から打ち込まれる。
つい先日攻略、解放された第50層に登場する、《メタリゲイター》と名付けられたこのモンスターは、表皮の殆どが鋼鉄で出来ていて、並みの剣や重さの無い武器で正面から打ち込んでも、刃が通らず弾かれてしまうと言う、かなりの防御力を誇るモンスターだ。
ただ高さが無いので、その鋼鉄製の身体は堅いだけ、大きさを利用した突進等は無く、全体的に機動力が低いのが救いか。
まぁそれでも油断していると、大口を使った豪快な噛みつき攻撃からの回転(デスロール)で、体力とついでに片腕を抉り取られたりするので、注意すべき相手である事に変わりは無いのだが。
しかしそれだけの防御力を持った鋼鉄の鰐の表皮に対して、リョウ持つ薙刀は意外なほど素直に刃が入った。
といっても、刃によって鱗が切れた。なんて上品なものではない。こちらも全体が鋼鉄で出来た無骨な薙刀が、鱗を割り砕いて鰐の背に“食い込んだ”のだ。

「うっ、羅ぁ!」
そのまま自慢の剛力で薙刀を引き、半ば引き裂くように強引にして長い身体の前方半分を縦に真っ二つにされたメタリゲイターは、裂かれた口から弱々しい断末魔を残して、硝子の割り砕けるような音を残して消えた。

「ふー……」
首を慣らしながら捻るリョウのため息に混じって、レベルアップのファンファーレが鳴り響く。これでレベルは73。割といい感じに上がって居るようだ。

「さてと、帰りますかね」
後でステ振りしないとな。などと考えつつ(といっても全て筋力値行きなのだが)、リョウはのんびりとした様子で主街区に向けて歩き出す。転移結晶が無いわけではないが、無駄遣い出来るほど裕福なわけでもないのだ。リョウにとっては、節制とはそれすなわち美徳である。

――――

「流石に年明けの直後ってだけあるなぁ」
現在最前線の第50層主街区……《アルゲード》には、正月明けの買い物でもとしゃれこもうとするパーティやカップルが其処ら中に行き来していた。

元々最前線の主街区というのは物珍しさから期間限定の観光地のような場所になりやすい。中でもここ、アルゲードは、裏通りや細かい店などが多く、一つの巨大な迷路のようになっているおかげで、言わば町全体が宝探しの会場のような……掘り出し物好きのプレイヤー達にはたまらない街になりつつあった。

「とはいえ、入ると出にくいのもこの町だからな……」
苦笑しながらリョウは歩く。そう、宝探しに夢中になりすぎて路地の奥に行き過ぎると……その内帰り道がわからなくなるという話も、この町には有ったりする。まあそんな行き倒れ人間になるのも偶には一興かも知れないが……

「腹が減るのは勘弁だな」
残念ながら彼には強烈に腹の減る行き倒れは合わないらしい。

『買い物は俺も頼まれ物なしか……。一応確認だけして、さっさと帰りますかね』
そんな事を考えながら、転移門広場にさしかかった所でリョウはストレージを開いてメッセージ制作を始める。とりあえず本当に買い物は無いなと確認を入れて、ついでに今日の夕飯のメニューを……

『――――――ッ!!!』
「……ん?」
不意に……本当に不意に、何かが聞こえた気がした。それはまるで空風のような、擦れて、霞んで、引き裂くような、けれど何処か響き渡るような、そして何よりも、悲痛な音。
その響きが余りにも耳に残ったせいなのか、あるいは唐突過ぎで不意を突かれた為なのか。いずれにしても、「気のせいか」という結論に至るよりも早く、リョウは周囲を見回していた。

「…………」
とは言え周りにいるのは人、人、人。この人込みでは、本当に気のせいなのかそうでないのかすら定かでない音の発生源を突きとめるのは相当に難しいだろう。
結局のところ、周囲を見渡した所でたどり着く結論は一つ。

「……気の所為か」
そう言って最後の一文を掻き足し、メッセージを書き終えると、送信ボタンを押してリョウは転移門に向けて歩きだす。返信はそれ程時間もかからず来るだろう。買い物をするにしろ、まだよく知らないこの迷路街よりも下層にいく方が確実だ。

「ん~、んんん~、ん~ん~♪」
軽く鼻歌を歌いながらリョウは広場の中央に向けて歩いて行く。やや上機嫌なのは、強いて言うなら夕飯が近いせいだろうか、基本的に毎日美味い物しか作らないので、サチと生活するようになってからはホームに戻るのが楽しみになりつつあるリョウである。既に頭の中はシチューでいっぱいだ。と、そんな彼の耳に、

『なぁ、あれ見たか?』
『あぁ、なんだよあのボロボロの。気味わりィ……』
「?」
こんな言葉が届いた。ふと耳を澄ましてみると、ところどころから似たような調子の、やや不快そうな声が聞こえる。

『なんであんな所に?』
『大みそかから居たぞ……?』
『何か言ってなかった?』
『使い魔がどうとか』
『知らねえよ。自分で何とかしろよ』
『いきなり叫んでたよな』
『まだ居たのかよ』
『不潔だよね』
『気持ち悪い……』
『怖い……』
『変……』
『どっかいけよ……』

こんな具合である。何やら彼等の不快感を煽る何かがこの層にはいるらしい。

『なんだぁ?』
首を傾げて、リョウは軽く左右を見た。既に広場の中央付近だが、相変わらず……いや、だからこそと言うべきか、人混みが途切れる気配は無い。転移門前に来たお陰か、いささか人々には間が有るが、それでも特に何かおかしな物が見える訳では……

「……ありゃあ……」
否。一つだけ、妙なポイントが有った。と言ってもリョウからは何も見えはしない。ただ、その位置だけ人が明らかに避けて通っている部分が広場の中に一カ所ある。もしかすると、平均的なゲーマーと称される人よりやや背の高いリョウで無ければ気が付くことすら無かったかもしれないほどの小さな人口密度のポケット。其処に、何かが有るのだろうか?

「…………」
何故だか其れが妙に気になって、リョウはその場所へと歩いて行く。
ただ、近づいてゆく自らの行動と矛盾していると知りつつも同時に、彼は近づくことに躊躇いつつもあった。
彼の信頼する自分自身の直感が、その場所から危険性とはまた違う……“厄介事の気配”とでもいうべき物を感じ取って居たからだ。
出来るなら、関わりたくは無い。そんな雰囲気。其れを無視してでも身体が動いて居たのはきっと、その厄介事の気配以上の、「放置すべきでない気配」を、彼の直感が感じ取っていたからだろう。
そして……

「……ッ」
その場所まで10mと言った所まで来た時、リョウはその場所を人々が避けて歩いている理由を理解した。其処に、人影が一つが倒れていたからだ。周囲の人間が近寄らないのも道理だろう、にぎわいを見せる華やかな最前線にあって、その人影はあまりにも異質だった。
その人物はボロボロで所々ほつれた上に、雪と土で出来た汚れだらけのマントとフードをかぶって居て容姿も何も分からず。装備も、そもそも戦闘を行う冒険者なのか生産職の人間なのかも、性別すら不明だ。唯一つ予想できるのは、体格からして、子供かもしれない言う事だけ。

「……あー……」
額に手を当てて、リョウは唸った。まったくもって此処まであからさまな厄介事の気配も珍しいくらいだ。と言うか珍しいからこそ皆避けている。あれに関わろうなどと言うモノ好きなどそれこそアインクラッド中探しても滅多にいないだろう。其れが分かっている故の唸り。
そしてその物好きの一人になろうとしている馬鹿なプレイヤーが、自分であったりすることも分かっている故の、心底自分に呆れたような唸り声だった。
何故其処まで言っているくせして関わろうとするのかと言えば、簡単だ。
こんな場所に人が、其れも子供かもしれない人間が倒れているから。そんなどうでも良い、それこそ安っぽくて薄っぺらい、ごく一般的な偽善である。

「……~~チッ!おい!おいコラ!」
とにかく倒れた人物のすぐ真横まで駆け寄ると、肩をゆすって意識が有るのかを確かめるために呼びかける。近寄った拍子に、煤けたマントのカビのような、泥のような匂いに混じって、微かに柑橘系の爽やかな香りがした気がしたが、そんな事は今はどうでも良い。

「……ぅ……」
微かに顔を上げたその瞳は、やはり年若い物だった。フードに隠れて半分の目しか見えないが、翡翠色の瞳が確かに自分の表情を映しているのをみて、リョウは問いかけを続ける。

「おいお前、立てるか?こんなとこで倒れてんじゃねェよ、ったく……立てるなら早く立て、っ……?」
「……けて、ください……」
リョウの問いを遮って、フードをかぶったその人物はしゃがみこんだリョウの腕を握った。
声はやはりと言うべきか、大人の声にしては高い声だ。ただその口から紡ぎだされる音はそのどれもがか細く、その上枯れ果て掠れていて、よく聞いて居なければ何を言っているのか聞き逃してしまいそうなほどに小さい。まるで……

『半死人の声だぞこれ……』
内心で苦虫をかみつぶしたような顔をしながら、リョウは少し唸った。
細く、弱弱しく、震えたその手は、振りほどこうと思えば簡単に振りほどける其れ。だが其処に、彼の精一杯であろう力が、強く強く込められているのだろう事は、その必死な、悲痛な気配から、いやと言うほどに伝わって来る。

「助けて……ボクを……ボク等を……助けて、下さい……お願いします……お願い……」
「……分からん」
「…………」
何度も何度も、同じ言葉を繰り返そうとするその言葉を更に遮って、リョウは言った。同時に右腕を握る彼の手に左手を掛ける。と同時に、彼の瞳がビクリと揺れる。きっともう何度も何度も、こうやって掴んだ手を振り払われて来たのだろう。その位の事は、彼の瞳が移した色濃い絶望と、悲嘆の光を見れば否が応でも分かった。だから、死人のように冷たくなったその手をリョウはしっかりと握りしめて……両手をつかって、ぎこちなく包んだ。

「お前が何を言いたいのかとか、なんでこんなとこにいんだとか、おれは何も知らんから、お前のその“助けて”って言葉の意味も重さもさっぱり分からん。……が、知りゃしないが事情があんだろ。話くらいは聞いてやる……だからせめて立て。こんな場所じゃ、話も出来ん」
「…………ッ!」
彼はその言葉に目を大きく見開くと、うるんだように震えるその瞳でリョウを見た。真っ直ぐにその瞳を見返す。
数秒の間見つめあっていると、やがて彼は何事かを決心したように目を閉じ、力を振り絞るように、か細い声を上げてリョウの手を支えにゆっくりと立ち上がろうとした。
が、どうやら悪ふざけで倒れていた訳ではないらしく、その脚はまるで生まれたばかりの鹿のように震えており、頼りない。

「ふらふらだなオイ……お前、まさか飯食ってねぇのか?」
「…………」
何も言わずに押し黙り、肯定も否定も彼に、リョウは再び額を押さえて溜息を突いた。其れは最早肯定してるのと同じだ。

「しょうがねぇな……」
言いながら、リョウはストレージを表示させると、自身のアイテムリストの中から一つの物を実体化させる。其れは、小さなランチバケットだった。

「……?」
「ほら、食え」
「えっ……」
其れを差し出すと、彼は戸惑ったような声を上げる。バスケットとリョウを交互に見るように、首を上下に振っているが、相変わらず顔は見えない。

「良いから食えっつーの。飯も食わずにいりゃそりゃ倒れるわ。つか、街中の、雪の中で腹へってぶっ倒れるとか、マッチ売りの少女かお前は」
「…………っ」
立て続けに言ったリョウの勢いに気押されたのか何なのか、彼はおずおずとバスケットを受け取ると、パカリと其れを開いた。中に入っているのは肉と野菜を挟んだサンドウィッチ。
本来は不足の事態で夜食が必要になった時の為にサチが何時もこしらえてくれる第二の弁当で、リョウも何度かこれに精神的に救われた事のある品だが……

「ッ~~~!」
『うわ……』
その鼻腔をくすぐるスパイシーな香りと、いかにも美味そうな見た目に対する彼の反応は、想像以上に必死さの強い物だった。

「ッ!ッ!!」
「おいおい、んな急いで食ったら……」
「ングッ!?」
「言わんこっちゃねぇ……ほら、お茶」
「~~~~!」
まるで詰め込むように一気にサンドを食べ始めた彼に、リョウは呆れたような視線を向ける。一気食いで喉に詰まらせるまで完全にデフォ、此処まで分かりやすいと逆に笑えてきそうですらある。……と言うか……

『んなに腹減るまでこんなとこで何してたんだよ此奴……』
広場のど真ん中で一心不乱にサンドを食べるフードの人影と、それにつきあうプレイヤー、と言うのは周囲からますますもって奇異の視線を向けられたが、正直な所、目の前にいる彼の方がよっぽどおかしな物なので、周囲の目線は気にならなかった。
しかし、六切れのサンドがあるうちの四切れを食べた辺りで、不意に彼の手が止まった。

「?」
「……とう……ます……っ!」
「あ?」
どうやら、彼は食べるのをやめて何かを言っているらしかった。そんな様子に頭を掻いて、リョウは繰り返されるその言葉に、耳を澄まそうとする。と……

「……お前」
「あり、がっ……とう、ございまず……ありがどうございますっ……!」
ポタリ、ポタリと、雪の上に小さく透明な滴が何度も何度も落ちるのが見えて、頭を掻く手をリョウは止める。彼は……泣いていた。
泣きながら何度も何度も、まだ枯れたままの声で、感謝の言葉を重ねていたのだ。

「…………」
頭を掻いていた右手を、リョウは静かに降ろす。そのままその手を彼の頭に持って行くと、ぎこちなく、その頭を撫でるように、フードの上に積もった雪を掃った。

「良いから、今はそれを食っちまえ」
「…………」
再び押し黙って、彼は無言でサンドに喰らいつく。まるで今この瞬間を、絶対に忘れまいとするかのように。自らの記憶にその味を覚え込ませるかのように、ただただサンドをかみしめる子供の姿が、其処には有った。

────

2024年1月2日19:18

「っと……さて、と、先ず何から聞いたもんか……」
結局、近場の……けれど人目を避けるように、ある程度路地を行った先にある宿屋へと二人は入った。店内は薄暗く、かろうじて各テーブルの位置やカウンター、それに一台だけおかれたピアノの位置が照らされてはいるが、それ以外は足元を見るのもやや辛い光量だ。
彼等二人の他には客は無く、壁際のピアノはNPCによって何やら悲しげな音色を奏でている。
運ばれて来たココアを眺めながら、リョウはトントントンとこめかみに指を何度か当てると息を吐き、未だにフードを深くかぶって顔の見えない子供に聞いた。

「とりあえず、自己紹介と行くか。俺はリョウコウだ。リョウで良い。お前、名前は?」
「…………ユミル、です」
もう幾分か回復した声で、彼は言った。枯れ果てていた先程までの声と比べると、まるで別人のように澄んだ声だ。声からして、やはり子供らしかった。

「ユミル、ね。んで?お前、あんなとこでぶっ倒れて、飯も食わずに一体何してたんだよ。助けが居るとか言ってたか?」
「は、はいっ、はい……!」
その話題を振った途端、ユミルはまるで其れまで静かだったのが嘘のように身を乗り出した。

「あ、あの、ボク……使い魔が居て、それで、その仔がころ……死んでしまって……」
「ふむ」
「その……その仔を、蘇生させてあげたいんです。お願いします!助けて下さい!!」
「あ、あー……蘇生……?」
ガバッと頭を下げたその剣幕に気押されるように、リョウは後ろ手に頭を掻いた。

「えーと、な……何だっけ、確か、使い魔って死ぬとアイテム落とすんだったか?」
「はい……」
何はともあれ、リョウは脳内から覚えている限りの使い魔に関する知識を引っ張り出す。現在確認されている情報によると、|獣使い《ビーストテイマー)と呼ばれる、フィールド上のモンスターを一定確率で飼い慣らし(テイム)する事に成功したプレイヤーたちが所有する、《使い魔》と呼ばれるモンスターたちは、なんらかの要因で死亡する時、「心」と言うアイテムを落とすのだと言う。
しかしその「心アイテム」は、三日が立つと、自動的に「形見」と言うアイテムに変わるのだと、何処かで聴いた気がした。

「ってぇと、お前はその、“心”だか“形見”だかを持ってると?で、それ、蘇生できるのか?」
「わ、分かりません、でも……心アイテムが形見アイテムに変わるまでの三日間は、使い魔の蘇生猶予期間かもしれないって噂が有るって聞いて。それで、攻略組の人ならって……!」
「わ、分かった分かった!」
凄まじい必死さで迫って来るユミルに気圧されるようにリョウは上体を逸らして両手を上げ、待て待て、とするようにユミルの方に掲げる。

「……とりあえず、俺はビーストテイマーじゃねぇから、先ずその当たりの情報に詳しいわけじゃねぇ。ひとまずは知り合いの情報屋に聞いてみるとこからだな……で?お前の使い魔が死んだのは何時なんだ?」
「……12月31日です」
「成程大みそかの日ね……ん?」
言われた言葉を当然のように反復して、頷いてから、リョウは首を傾げる。
はて、今日は1月2日、ユミルの使い魔が死んだのが12月31日となると、タイムリミットは今日の0時だ。今が夜の七時半だから……

「後……四時間半しかねェのかよ……」
「…………」
今から情報を集めるにしては少々短いタイムリミットにリョウは焦りながら、自分の知る限り最も情報の出が早く正確なとある情報屋に知りたい事の情報を送付する。

「……ユミル、最初に言っとくぞ」
「……は、はい……」
「俺もこんな事言うのは癪だが……“最悪”は覚悟しとけ。運にもよるが、事としだいによっちゃありうるからな」
「っ…………!」
フードの向こうで、目を見開く気配がした。
膝の上に乗せた手の平が、カタカタと震えているのが分かる。恐らく彼に想像しうる最悪の結末は、同時に彼にとって最も想像したくない結末だったのだろう。しかし、其れを想定させなければならないほどに、とにかく時間が無い。何しろリョウの勘が正しければ、もしその手の方法が存在するとして、其れは恐らく……

「はええな。もう来やがった」
と、視界上に浮かんだ新着メッセージありの表示に反応して、リョウがメッセージウィンドウを開く。リョウの言葉一つ一つに対してユミルがビクリと反応しているように見えるのは、決して気の所為などでは無いだろう。先程リョウが言った言葉の意味を考えれば、彼にとってはある種、肉親の死亡告知を聞く前ような気持ちなのかもしれない。
メッセージの内容に一通り目を通して、溜息を一つ付くと、腕を組んで向かい合ったユミルを見る。

「さて……ま、結論から言うとだな。「最悪一歩手前」ってとこだな」
「一歩、手前……」
すがるかのように、ユミルはその一言を繰り返す。頭の中で言いたい事を整理して、リョウは話し始めた。

「まず前提として、現時点で使い魔を蘇生する方法ってのは、このアインクラッド内の誰も知らんらしいな。詰まる所、確実に蘇生できる方法は……無い」
「えっ……」
呆けたように、目を見開いたユミルは、リョウの顔を見て黙り込む。やがて、フードの向こう側に見える瞳に透明な滴が溜まりだし……

「ち、ちょっとまて!泣くな!てか泣くにしてももうちょい後にしろ!」
「う……うぅっ……」
慌てた様子で泣くこと自体を制止したリョウに、ユミルがしゃくりあげながら震える。

「えーとな、そいで……あぁ、そう、その方法なんだが……」
「な、なにかあるんですか……!?」
「さっき言ったろ、“確実”な方法はねぇ。ただ、情報だけなら……な。其れっぽく聞こえない事も無い事を言ってる爺さんのNPCが居るんだと……けどなぁ……」
「ど、どんな話……ですか!?」
「…………」
涙声のまま、けれども身を乗り出すような剣幕で聞いてくるユミルに、またしても気押されつつ、リョウは溜息がちに話しだす。

「えーと?『花の野の彼方は、(うつつ)の彼方、彼方にて降る(しずく)は種を濡らす。滴を纏いて種は根を張り、現の恵みにて芽吹き、想いを糧とし花開き、誘いし獣の心を癒す』ってんだとさ」
「獣の、心……」
そのフレーズだけを小さな声で繰り返して、ユミルは小さな拳を握りしめる。その様子に頷いて、

「他の文章はともかくとして、其処だけはまぁ、心アイテムと関係が有りそうだと言えなくもねーな。現状アインクラッドに転がってる中で、少なくとも俺が調べられる限り、これが唯一の手がかりだな……ただな、これは……」
「行きます!お願いします!連れて行って下さい!」
「話を最後まで聞けっ!!」
「あうっ!?」
ズビシッ!とフードの上から指先で額を一突きされて、ユミルは思いっきりのけぞる。

「ったく、そもそもそんなアイテムが有るとして、タダで手に入る訳がねぇだろが!」
「う……」
腕を組んで軽く苛立ったように言うリョウに、ユミルは黙り込んだ。とは言え、彼にとってはのんびり話しているような時間は無いのだが……

「いいか、低い確率に時間の無いお前がとにかく賭けてみるってのは、まぁある意味じゃ合理的ともいえなくもねぇがな、それでも慎重さを失うんじゃねぇよ。そもそも、今言った情報の場所が何層だか分かってんのか?47層だぞ?」
「47……!?」
その絶望的な数値を聞いた途端、ユミルの顔が青ざめた。
何故ならユミルがついこの前まで狩りをしていたのは第22層。47層との差は実に25層である。其れはユミルのレベルでは危険地帯どころでは無い。完全に即死圏内(デッドライン)だった。
だが……だがそれでは……

「そんな……そんな……っ……ルビー……、ルビー……っ!」
「……お前の使い魔の名前か?」
カタカタと震えながらも、ユミルははっきりと頷いた。「そうか」と短く返して、リョウは溜息を吐きながら言う。

「……正直な結論を言うぞユミル……これ以降は泣いて良い。……ルビーの事は、諦めるべきだ」
「…………」
ユミルは何も言わず、ただ首を弱弱しく、嫌々するように横に振る。しかしそれに構っている事は出来ない。これは、彼自身の命にかかわる問題なのだ。
そもそもユミルが求めている、「使い魔の蘇生方法」と言う要素自体の存在が不確定な上に、時間も全くない。つまり、どう頑張っても準備期間が足らな過ぎるのだ。にもかかわらず、向かうべき場所の危険性がユミルにとって高すぎる。ほぼ命を落とす場所に行くのに、目標はあるかないかも定かではない使い魔の蘇生方法。
要するに、危険性(リスク)と|見返り(リターン)の採算が、全く取れていないのだ。

「お前だって分かんだろ?どう考えてもいくべきじゃねぇって……」
「……いやです……いやだ……!」
「チッ……オイ、死んだら何にもならねーじゃねぇか。お前の使い魔だって死んでまで……」
「嫌だ!ボクは……ボクは……!もう一度ルビーに会うんです!もう一度……!せめて、一度だけでも良いから……!」
「……んなこと言ってもな……」
先程までとは打って変わって驚くほど頑なな様子で主張し始めたユミルに、リョウは少なからず戸惑う。「このゲームの中で死ねば、現実世界でも死ぬ」その絶対的な不文律が有る以上、この状況下で諦める以外の選択肢が無い事位は、彼とて理解してくれると思っていたのである。
しかし……

「ボクは……!ボクは……」
「あー、駄々捏ねんな!お前とルビーの、どっちの命が大事か。なんつー馬鹿な質問すんのは御免だぞ!」
「それはっ……!でも……!うぅぁぁああっ……!」
頭を抱えてユミルは唸る。泣いているような、怒って居るような声と共に、小さな身体が震える。どうしようもない事実と、自らの望む結末との間で、その心が揺れ動いている。と言っても、もしも彼が妙な事を考えたなら、その時はリョウは全力で止めるつもりだった。
自殺を是としないリョウにとって、流石に此処まで関わった相手を殆ど確実に死ぬと分かっている場所へ送る訳にはいかないからだ。
最悪“一歩手前”。等と言っておいてあれだが、結局のところ結論は初めから決まって居たのである。

「……一応、疑わしいとこに行って調べては来てやるがな……其れにも、お前をつれてくわけにはいかん。当然心アイテムももっていけねぇから、何れにしても、期待はすんなよ」
「…………」
つくづく何と言うか、自分はオブラートに包むのが下手くそだな。とリョウは思う。とは言えこればっかりはオブラートも糞も無い。ただ、事実を告げるしかないのだから。

「でも……でも……」
「まだ何かあるか?」
「っ……~~~っ!」
話は終わったと言わんばかりに突き離すような言い方で返したリョウに、ユミルはついに黙り込んだ。
同情はする。気持ちが分からない訳でもない。だが甘い言葉で誤魔化した所で、同情で希望的な事を言った所で、現状と言う事実は変化しない。
落ち着かせる事は後でも出来るだろう。ただ今必要なのは、彼を納得させることだけだ。

「……まだ、まだ何も……!なのに……!なのに……こんなのっ……!」
「……そういや、お前の事もルビーの事も何も知らねーな。お前らどの位一緒に居たんだ?」
頭を振って、言ったユミルに、リョウは何気なくそんな事を聞いた。これだけの愛情を持っていたのなら、きっと長い付き合いだったのだろう。
その相棒関係を足場に、彼の事を少しでも落ち着かせるつもりだった。

「……一日です」
「え……一日ってお前……そんじゃ、出会った次の日に使い魔死なせたのか?」
「っ……!」
突然、其れまで顔を伏せていたユミルが一気に顔を上げた。相変わらず瞳しか見えなかったが、その瞳が怒りと悲しみに揺れているのはリョウにもよく分かった。

「違うっ……!ルビーは……っ、ルビーはっ!」
その高く澄んだ子供らしい声とは裏腹に、抑えきれないほどの激怒と怨嗟を含んだ声から、リョウはうっすらと彼に起こったことを悟る。

「……殺されたのか……Mobに……?」
「ッ」
殆ど反射的な行動だったのだと思う。だが確かに、ユミルは首を横に振った。行動してからしまったと思ったのだろう。慌てて彼は首を振るのをやめたが、もう遅い。

「……プレイヤーに、やられたってのか」
「…………」
否定も、肯定も帰ってこなかった。先程と同じだ。それでは応えているも同然である。
この子供は、恐らく嘘を吐くのが下手なのだ。

「……何でんなことになった……?お前それ普通じゃねェぞ?」
首を傾げて心底疑問そうに聞いたリョウに対して、ユミルは黙り込んだまま俯くようにして顔を逸らした。小さく息を吐いてリョウは椅子に座り直す。

「……答えたく無い……ってわけか」
言ってから啜ったココアは、もうとっくに冷めてぬるくなってしまっている。

「……友達、だったんです……ボクの……初めての……」
「…………」
沈黙の続いた二人の間で、不意にユミルが言った。

「ボク、現実世界でも、友達がいなくて……だから、ルビーが生まれて初めての友達だったんです……なのに……っ」
「……あー……」
思っていた以上に、どうやら重たい話だったようだ。一瞬、聞くべきでは無かったかもしれないとリョウは後悔する。だが同時に、先程までの彼があそこまで必死だった理由に、リョウはようやく納得する事が出来た。彼は取り戻したかったのだろう。自分にとって大切な、本当の意味でかけがえのない友を。
不意に、目の前で身体を震わせて悲しみに耐える彼の姿が、自分の良く知る一人の少年と重なった。大切な仲間達を必死になって取り戻そうと躍起になって闘っていた一人の少年。彼と今のユミルの状態は、酷くよく似ていたのである。

「…………」
だが、だからと言って彼が死地に赴く事を容認することも出来ない。それではキリトと同じだ。あの時、リョウは自分にキリトを止める事は出来ないと判断したから、彼のしようとしたことを知って尚彼を止めようとはしなかった。だが其れをとサチに知られた時はこっぴどく叱られたものだし、今では、危うく弟分を殺していたかもしれないその判断を、反省もしている。

「(だがなぁ……)」
しかしならば自分が付いて行くか?否。仮にそうしたとしてもこの子供を最後まで護衛しきれるかは分からない。自分が少しでもしくじればユミルは死ぬ。必然的に、彼を連れて行こうとすれば自分は彼の命をわざわざ背負い込むことになる訳で、彼に其処までの義理は無く……

『────────』
「ッ……」
不意に、記憶の中に嫌なイメージが浮かび、リョウは表情を硬くした。
体調が悪い訳でも無いくせに、首筋の辺りが妙な冷や汗をかいているのをリョウは自覚する。

『ったく……』
……せめて、別の角度から考えてみよう。もし彼に目的を達成させようとするなら、どうすればよいのかだ。
先ず、前提として自分が付いて行くのは絶対だ。この要素なしにユミルが目的を達成できる確率は、限りなく0に近い。
とりあえず回復アイテムを持てるだけ持たせ、防具を全力で強化させる。武装は取りまわせる範囲での盾。ただし、必要以上に行軍速度を落とす事は出来ない。もしその手の手段が有るとすれば、少なくともダンジョンやフィールドの入口であろう筈は無いからだ。
モンスターは可能な限り自分が相手をする。欲しい所で言うなら《威嚇(ハウル)》スキルだが、手元には……

『いや……』
先程のレベルアップ、あれで派性スキル一つ位で有ればとれるかもしれない。そうでなくともダメージ量の調整からなるべくヘイトを自分に向ける形で、いや、それならユミルの方に隠蔽能力の上昇する装備かアクセサリを持たせ、ヘイトが向かないようにする方が……

『くそ……』
だがそれらの対策をしたとしても、このミッションが達成できる可能性は低い。一つでも不足の事態が出たらそれだけで危ないのだ。それくらい、ユミルのレベルが絶対的に低すぎるのである。レベル差が10前後。それだけでも十分に即死の理由になるのに、時間が無いせいでレベル上げの時間すらとれない。

「やっぱ無理だよなぁ……」
「うっ……う……」
そう、結論を出しかけた時だった……不意に、メッセージの着信がリョウの視界に表示される。

「ん……ちょっと失礼」
はて、誰だろう?と思いながら、リョウはメッセージウィンドウを出す。
差出主は、今は家にいる筈の彼の幼馴染だった。そう言えば彼を宿に運ぶ途中で遅くなるか、あるいは今日は帰らない事を伝えたのだったと今更ながらに思い出す。メッセージの内容はそれ程長くは無く、彼女なりに、読む側の手間にならないようにしてくれたのだろうと理解出来る。

[分かりました。頑張って。それと、気を付けてね]
『……頑張って、か』
ふと、リョウは考える。
頑張ると言うのなら、今このように彼を何とか47層まで連れて行こうと考えているのも十分頑張っている部類に入ると思う。例え実益は伴わなくても、必死こいて打開策を練っているのは確かなのだから。
しかしそうだとして、何故こうも自分はこの子供に肩入れするのだろう?
道端に倒れていたから?いや、それなら宿まで運んで話を聞いて情報を与えた時点で十分なほどに肩入れしたことになるはずだ。少なくともSAO内に置いて、何の見返りも求めずに此処までしたら、寧ろ優し過ぎると疑われてもおかしくないレベルである。
だとしたら、自分が今この子供について行ってまでこの子の目的を果たさせるように考えている理由は何だ?

「……あー」
なんだ、とリョウは唐突に気付く。その答えが、とても簡単な事だったからだ。

「あー、あーあー、ったく、馬鹿だな俺……」
「え……?」
言いながら、リョウは呆れたように唸り、小さく笑った。その様子に戸惑ったようにユミルがリョウを見る。
そう、とても簡単なことだ。詰まる所、自分はどうにかしたいと思っているのだ。この子供に叩きつけられた現実と状況を。

自分はまだ二十歳にもならないガキだ。ガキらしく人並みにどうにもならない現実を受け入れていて、同時にやっぱりガキらしく人並みにどうにもならない現実が嫌いだ。その現実の嫌いな部分から逃げだしたくて、ゲームに走ったのが自分の原点だ。
親が離婚し、母は家をあけがちになり、姉と二人だけで家に居たあの頃、父が唯一残して行ったゲームの世界でなら、何も知らず、何も持たない自分は、英雄にも勇者にも悪人にも兵士にも魔法使いにも戦士にもなれた。だからゲームが好きだった。ゲームの中には現実の寂しさや、訳の分からない悲しさを持ちこまなくて済んだから。
そして今だってその延長線上で、自分は此処にいる。状況は変わってしまったけれど、現実と言う嫌なことだらけの世界から離れて生き、まだ見ぬ敵に、冒険に、人々に、景色に、世界に、ワクワクとした期待感が止まらなかったからこそ、自分は最前線で戦い続けているのだ。そうでなければ、きっと自分は今頃、森の家でサチと二人でつつましく暮らしていたのだろう。

そんな自分が、此処で逃げる?
現実の嫌な部分から逃げてたどり着いた此処で、また現実から逃げる?

『“らしくねぇ”な……』
“ニヤリ”と、青年は笑った。

『ぜんっぜん“らしくねぇ”だろ……!』
冒険者なら、したい事を、したいようにするべきだ。
戦士なら、立ちふさがる壁など力づくで切り裂くべきだ……
そうでなければ、“現実をねじ伏せる自分”でなければ……

『じゃなきゃ“ゲームやってる意味”がねぇんだよ……!』
其れまでのつまらなそうな顔が嘘のように、リョウは獰猛に笑う。まるで雰囲気の違う彼の笑顔で、ユミルがおどおどとした様子で聞いた。

「あ、あの」
「おっし、おいユミル」
「は、はいっ!?」
しかし其れを遮って、リョウが突然彼の顔を覗き込む。びくっ!?と反応して、ユミルが軽く顔を引いた。

「さっきも言ったが、俺達はお互いを何も知らん。お前は俺の実力も、人と成りも、その他何も知らん。其れは俺も同じ。精々お前が本気でその使い魔を助けたがってる事しか分からん。だから、俺は其処に肩入れする事にした」
「へ、へっ?」
何を言われているのかよく分からないと言う風に、ユミルが首を傾げる。驚きで涙も吹き飛んでいるが、まだちょっと涙声の可愛らしい声だ。

「お前が本気で望むなら、俺はお前のその一世一代命がけの賭けに付き合ってやってもいい。だからよく考えて、本っ気で考えて答えろ。お前にとってその使い魔は、お前が“分の悪過ぎる賭け”に“命を掛けて”でも挑みたいと思えるほど、大切な存在か?」
「……!!は、はいっ!!」
真っ直ぐに彼の瞳を見たリョウに、同じく真っ直ぐに見返して、ユミルは答える。

「ボクは、ルビーにもう一度会いたい……!例え、どんな小さな可能性でも良い……でも、その瞬間まで、諦めたくない……!!」
「……上等だ!!」
再び、ニヤリと笑ってリョウは言った。

「その言葉確かに聞いたぜ、手を貸してやる。状況も何もかも最悪だが、後悔すんじゃねェぞガキんちょ!」
「は、はいっ!」
立ち上がったリョウに続いて、ユミルが慌てたように立ち上がる。外の雪は強く、お先は真っ暗だ。それでも、彼等の戦いの火ぶたが、斬って落とされた。


これは、とある世界の物語。

あるいは、救われる事の無かったかもしれない。

小さな心と、小さな想いをめぐる。

とある二人の、戦いの物語。
 
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