| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

大統領 彼の地にて 斯く戦えり

作者:騎士猫
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第二話 大統領特地へ

「我々は先の侵略行為に対して、断固として対抗するもものであります。幸い未だ軍縮の行われていないわが軍は、二度の世界大戦を経験した古強者たちです。私はここに宣言します!門の向こうへ報復侵攻をし、市民を虐殺した異世界の者どもに、正義の鉄槌を下すことをっ!」


大統領ペルシャール・ミーストによるこの演説の1か月後、特地派遣軍の第一陣、1個機甲師団・1個機械化歩兵師団が、門の前に集結していた。
この頃、門の半径100メートルは緊急時に備えて民間人の立ち入りを禁止し、軍の直轄地となっていた。ビルなどは改装され、特地派遣軍のロンディバルト側中継地が設置された。

「諸君らは、先に言ったように二度の世界大戦の初期から戦場で戦ったロンディバルト軍屈指の兵士である。諸君らを派遣部隊として送り込むことになるが、この任務は誠に重大なことである。」
ペルシャールは一度言葉を切った。
「派遣部隊の指揮は・・・・。」


「私が直接執ることとなった。副司令官は武装親衛隊長官ラインハルト・ハイドリヒ大将が務める。」
その言葉に兵士たちは特に騒ぎもしなかった。ペルシャールは幾度も戦場に立って指揮を執っていたからである。ある意味慣れてしまったのであろう。
「2週間前から斥候部隊が何度も門の向こうに行っているが、特地では何が起こるかわからない。従って、門を超えた瞬間戦闘が始まる可能性もある。諸君、細心の注意を払って任務に当たれっ!では、間もなく出発だ。全員乗車せよっ!」
ペルシャールの演説が終わると、兵士たちはそれぞれ割り当てられた車両に乗り込み、エンジンをかけた。
門を囲っているドームのゲートが徐々に開いていき、機甲師団を先頭に突入していった。

「現地に到着した途端戦闘になる可能性もあるんだよな・・・。」
「そうなれば、現有戦力で対処するしかありません。」
指揮車ではペルシャールとハイドリヒが先頭車両から転送された映像を見ながら話していた。


「前方に多数の火を確認!敵陣と思われます!つかみで5万!」
先頭車両がゲートから出ると、10キロほどのところに敵陣を発見した。
「全車迎撃態勢を取れ!」
ゲートを中心に各部隊が展開し、射撃準備を整えていく。

「各部隊整いました!」
「射撃開始!」
戦車部隊と自走砲部隊による砲弾の雨が、ゲート周辺に展開中の軍隊を襲った。
いきなりの攻撃に驚いた彼らは、逃げまどい、必死にゲートを目指して突撃していった。
逃げまどっていた者は砲弾の雨で消し炭になり、突撃していった者は機械化歩兵部隊の機銃や小銃によってハチの巣にされた。

「奴らにも魔道士がいるのかっ!?」
「に、にげろっ、ぎゃあああ!!」
異世界の軍隊はロンディバルト軍の攻撃に恐れをなし、統制がなくなって逃げ出し始めた。
こうなれば戦闘ではなく一方的な虐殺である。戦車部隊が一気に敵陣へと突入し、進路上に敵がいればひき殺し、弓を撃ってくれば機銃で撃ち殺し、十人ほどの兵士が縦で防御人を作れば主砲で吹き飛ばした。

戦いは日の出ごろまで続き、異世界の軍隊は2000人ばかりが逃げ出して6万人近くが肉片となっていた。対するロンディバルト軍の損害はほぼゼロに近く、圧倒的な勝利であった。

この戦闘の1週間後、捕虜の情報で”アルヌスの丘”と呼ばれるこの地には、派遣部隊の第二陣、三陣が到着し、強固な砦が築かれていた。


・・・・・・・・・・


時は三日ほど戻る。

異世界を統治する帝国、その中核となっている元老院では、緊急の議会が開かれていた。

「大失態でしたな、皇帝陛下。帝国の保有するそう戦力のなんと4割を損失。いかなる対策をご講じになるおつもりですかな?皇帝陛下はこの国をどのようにお導きになるおつもりかっ。」
ガーゼル侯爵の報告に、議員たちがざわめき始めた。帝国軍は世界最強と呼ばれる精強な軍隊である。そんな軍隊が6割も失われたのだから無理もないことだろう。
しかし、そんな中でも一人だけ口を開かず沈黙を保っている男がいた。
王座に深々と座る、帝国の皇帝モルト・ソル・アウグスタスである。カーゼルの報告を聞いたモルトは、その沈黙を破った。
「カーゼル侯爵、卿の心中は察するものである。此度の損害で、帝国の有していた軍事的な優位が失せたことも確かだ。外国や帝国に服している諸王国が一斉に反旗を翻し、帝都まで進軍してくるのではないかと、不安なのであろう。・・・ふ、痛ましいことである。」
「なっ。」
「我が帝国は危機に陥るたびに元老院、そして国民が心を一つにして立ち向かい。そして更なる発展を成し遂げてきた。戦争に百戦百勝はない。ゆえに此度の戦いの責任の追及はせぬ。・・・まさか、他国の軍勢が帝都を包囲するまで、裁判ごっこに明け暮れようとする者はおらぬな?」
その言葉に今までざわめいていた議員たちが急に静かになった。それを聞いたカーゼルは、”自分の責任を不問に”とつぶやいた。

「しかし、いかがなされる?」
議員たちが静まると、中央に一人の老人が出てきた。
「送り込んだ軍はわずか二日で壊滅してしまった。しかも門は奪われ、敵はこちらに陣を築こうとしているのですぞっ。無論我らも、丘を奪還せんと迫りました。だがアルヌスの丘が点滅し、爆音が響いたかと思った次の瞬間、周りに爆発が起こり、兵士たちは吹き飛ばされたのです。あんな魔術私は見たこともございませんっ。」
「戦えばよいではないかっ!」
門奪還部隊の指揮を執っていたゴダセン議員の発言を遮るように、甲冑を着た軍人らしき議員が大声で言った。
「兵が足りぬのであれば属国から集めればよいっ!再び門の向こうへ攻め込むのだ!!」
「力づくで戦ってどうなるっ!」
「ゴダセン議員の二の前になるぞ!」
「そうだそうだ!!」
「黙れっ、この敗北主義者がっ!」
「脳筋馬鹿は失せろっ!」
「なんだとぉ!?」

議員たちが怒鳴りあっていると、それを見ていたモルトが手で制した。
「事態を座視することは余は望まん。ならば戦うしかあるまい。」
「おおっ」
「くっ・・・」
属国や周辺諸国に使節を派遣せよっ。大陸侵略を狙う異世界の賊徒を撃退するために援軍を求めるとな!我らは連合諸王国軍ゴドゥ・リノ・グワバンを糾合し、アルヌスの丘へと攻め入る!!」
「おおおっ!!」
「モルト陛下に忠誠をぉ!」
一斉に歓声が上がり、モルトに忠誠を誓う声で議会は埋め尽くされた。そんな中、カーゼルは王座にゆっくりと近づいて行った。
「皇帝陛下、アルヌスの丘は人馬の骸で埋まりましょうぞ。」
カーゼルはこの後起きることが予想できたように言った。モルトは、不気味な笑みを浮かべて答えた。


・・・・・・・・・・


ロンディバルト軍による特地派遣から2週間余りがたった頃、諸王国軍13万が、アルヌスの丘周辺に帝国の要請を受けて集結していた。

「帝国軍の司令官がこんだと!?」
諸王国の1国であるエルベ藩王国軍の司令官、デュランが声を荒げた。
「我が帝国軍は、今まさにアルヌスの丘にて敵と正面から対峙しており、司令官がその場を離れるわけにはまいりませぬ。」
帝国軍の使いが弁明をすると、諸王国の将軍たちは渋々納得した。
「・・・解せんな。丘にはそれほど敵がいるようには見えなかったが・・・。」
「デュラン殿、帝国軍は我らの代わりに、敵を押さえてくれておるのだ。」
「リィグゥ殿・・・。」
その将軍の一人であるリィグゥが既に勝った気で言った。
「諸王国軍の皆様には、明日夜明けに敵を攻撃いただきたい。」
「ふっ、了解した。わが軍が先鋒を賜りましょうぞ。」
「いや、わが軍こそ前衛にっ。」
「お待ちくだされっ。此度の先鋒は我々に!」
将軍たちはリグゥと同様既に勝った気で我先にと一番槍を欲したが、その中でデュランだけは何も言わず、何かを考えるように腕を組んでいた。
「それでは、アルヌスの丘にて。」
そういうと、帝国の使いはテントを出て行った。

「朝が楽しみだな。」
「わが軍だけで敵を蹴散らしてくれるっ。」
「無念、惜しくも先鋒はならなんだか・・・。」
見事先鋒を勝ち取った将軍達を見て、リグゥは肩を落として言った。
「異界の敵は1万程度、こちらは合して25万・・・。武功が欲しければ先鋒意外に機会は無いとお考えか。」
「そうとお分かりなら、何故先鋒を望まなかった?」
デュランが呟くように言うと、リグゥは覗き込むように言った。
「此度の戦いは気に入らん・・・。」
「はっはっはっ!エルベ藩王国の獅子とうたわれたデュラン殿も、寄る年波には勝てぬということかぅあっはははっ。」
リィグゥはのんきに笑っていたが、次の日、デュランの言葉が脳裏によみがえることとなる。死ぬ瞬間の走馬灯の一つとして・・・。


・・・・・・・・・・


「全軍進めぇ!!」
「おおおおおっ!!!」

日が大地を照らし始めた頃、諸王国軍の先鋒アルグナ王国軍、モゥドワン王国軍がアルヌスの丘を目指して出陣した。その後方からは惜しくも戦法を逃したリィグゥ率いるリィグゥ王国軍が予備として追った。

「そろそろ戦いが始まるはずだが。」
デュランが出陣準備を整えていると、伝令が報告してきた。
「報告っ、アルグナ、モゥドワン王国軍合わせて2万5千が丘に向かいました。続いてリィグゥ王国軍も。」
「して、帝国軍と合流できたのか?」
「そ、それが・・・、丘の周辺には帝国軍は一兵もおりませぬっ。」
「なんだと!?」
伝令の報告にデュランは驚きの声を上げた。


「どうして帝国軍の姿がない!」
リィグゥはあたりを見渡して言った。
「わかりません。」
「まさか・・・。」
彼の予想は間違っていたが、新たな考えをする前に、彼の人生は幕を閉じることとなる。

”ここからは危険区域となっておりますので、立ち入りを禁止します”

捕虜の情報から日本語と異国語で書かれた看板がいくつも立てられていたが、諸王国軍からすればわけのわからぬことだったので、看板を踏み潰してそのまま進んだ。だが、この看板の意味を、彼らはすぐに知ることとなる。

丘に向かって進撃していると、今まで聞いたことのない爆音がはるか彼方で聞こえた。
何だ?と疑問に思った次の瞬間、地上が爆発を起こし、兵士たちは吹き飛ばされ肉片と化していった。
「うわぁあああ!!」
「な、なんだ!?」
考えている暇もなく次々と爆発は続いて行き、ついにリィグゥ自身のいる場所に、爆発が起こった。


「射撃止め!」
この爆発は丘周辺に布陣していた17式170mm自走砲と、戦車部隊による砲撃によるものであった。
「敵侵攻部隊は全滅!」
「全車戦闘配置のまま待機せよっ。」


「な・・・なんだ。まさか、アルヌスの丘が噴火したのか・・・。」
伝令の報告を聞き、急ぎ駆けつけてきたデュランが見たのは、爆発の後の煙に包まれた焦げた更地であった。

「アルグナ国王は・・モゥドワン国王は・・・、リィグゥ公はどこにいる・・・。」



諸王国軍による第一次攻撃 死者約2万5千
 
 

 
後書き
ご指摘や感想お待ちしております。

本作品では、帝国は23万、連合諸王国軍は16万という兵力となっています。(まぁどうせ半分以上死ぬけど)

本作品に出てくる車両や銃は現実世界の100年後の世界のものですので架空の兵器として理解していただければ幸いです。
兵器や装備は登場するたびにあとがきに記載します。

17式戦車

全長   7.80m
全幅   3.10m
全高   2.35m
重量   39t
速度   85km/h
主砲   45口径100mm滑走砲
副武装  14.5mm重機関銃(砲塔上部)
     7.62mm機関銃(主砲同軸)
装甲   15型複合装甲(全面)
エンジン ハウルラント社15型電気エンジン
乗員   4名


17式170mm自走砲

全長  10.3m
全幅  3.6m
全高  4.5m
重量 38t
速度  56km/h
行動距離 470km
主砲  57口径170mm榴弾砲
副武装  14.5mm重機関銃
エンジン ハウルラント社15型電気エンジン
乗員  4名

 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧