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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第15話 後悔

ねーちゃん
チョーノーリャクシャになんの?
カッケー!

へっへーん

お母さん
本当は今でも反対なんだからね

ハハッ
母さんは心配性だなあ

頭の中をいじるなんて、やっぱり怖いわ

全然そんな事ないって

はい
お守り

うわ、またヒカガクテキだな

何かあったら、すぐもどってきていいんだからね
あなたの身体が
何より一番大事なんだから

..................

おめでとう!
これで晴れて能力者だ
どうしたの?
何で泣いているの?
あー、友人が倒れたから?
しょうがないよ
だってそれが運命だもん
さあ、残りの時間を精一杯楽しもうよ
憧れの能力者としてさ

君が望んだ道だよ
何文句言ってんの?

バスに乗り込んだ初春に掛かってきた一本の電話。
それは、佐天からの悲痛な声だった。
佐天自身は悪いことをした、ズルいことをしたと自覚しているから家族にも相談できない。
友達の初春にさえも連絡できないと思っていたが、抑えきれない後悔と友人を巻き込んだ罪悪感から自然と携帯電話に手が伸びていた。
「レベルアッパーを使ったら元に戻らないなんて......あたし、知らなくて」

何でこんな事に......
あたしそんなつもりじゃ......

「おっ...... 落ちっ、落ちついてゆっくり最初から......」
友人からの予想外の告白に初春の顔に焦りの汗が流れた。
普段のトーンよりも遥かに弱々しく、自分が聴き返す声でかき消されてしまいそうになるほどだ。
事態はかなり深刻だと直感で理解する。

落ち着かないと!
それは自分にも佐天にも言えたことだ。

「レベルアッパーをたまたま手に入れたんだけど......所有者を捕まえるって言ってたから......どうしようって。それでアケミ達が能力の補習があるって言ってて......」
じゃあ、アケミ達が「補習」があることを言わなかったら、こんな事は避けられただろうか......
いや、たぶん誘惑から手を出してしまっただろう。
罪悪感を持った人間は、変な所で冷静に自分を客観視する。
まるで、主観になることを怖れての考えだ。

こんな言葉を並べた所で改善される訳でさはない。
独りで使うのが恐かっただけ......
「あたしがみんなを......」
「と、とにかく今どこに......」
初春はバスの停車ボタンを押す。
バスの信号待ちでさえ、二人の間を拡げる障壁にしか感じなかった。

繋がっているのは一本の電話。
これが唯一、二人を繋ぎ止めている限りなく細い電波の線。

これ以上、独りにしてはいけない
初春はバスが停車すると自動ドアが開くのを身体を揺らしながら焦りを募らせる。
「あたしももう眠っちゃうのかな。そしたらもう二度と起きれないのかな」

何の力もない自分がいやで
でも憧れは捨てられなくて

「無能力者(レベル0)って欠陥品なのかな」
「何を......」
バスのタラップをやや強めに踏みしめると辺りをキョロキョロと伺う。
もちろん、ここに居るはずはない。
だけど、追い詰められている佐天の影を探し出す。
電波や電子音が伝える音声だけがこの場にいる初春に佐天の存在を教えていることに憤りを覚える。

佐天を奪い去ろうとする電子音
初春と佐天を繋ぐ電子音

このあり得ない同居が初春には許せなかった。

「それがズルして力を手にしようとしたから罰があたったのかな......危ない物に手を出して周りを巻き込んで!あたしっ......」
自責の念に苛まなれてしまい。自分の周囲が見えなくなった佐天は滔々と罪を次から次へと口に出した。
初春は払うように電話越しに大きな声で「大丈夫ですっ!!」
と言い切った。
「もし眠っちゃっても私がすぐに起こしてあげます!佐天さんやアケミさんも他の眠ってる人達もみんな......だからドーンと私に任せちゃって下さい」
「初......春?」
初めて佐天は、聞き入れる用意が整った。
初春の予想外の行為に涙が堰を切ったように連なる。
「佐天さんは欠陥品なんかじゃありませんっ!能力なんか使えなくたって、いつも私を引っ張ってくれるじゃないですか」
もう周りの眼なんか関係なかった。
いま、今切り出して置かなければきっと後悔する。

風邪を引いてなければ
もっと佐天さんを見ていれば
もっと佐天さんを知っていれば
もっと早くレベルアッパーの調査に臨んでいれば......
数えきれない後悔の波が押し寄せてくる。
どう足掻いても変えられない望郷の過去。

だから、取り返しがつく後悔なら解消しておきたい。
「力があってもなくても佐天さんは佐天さんですっ!私の親友なんだからっ」
気がつけば初春も涙を溜めて、しゃくりを上げる。
「だからっ!だからっ......そんな悲しい事言わないで......」
止めどなく流れ落ちる涙が佐天の声を伝える携帯電話に付いた。
道のど真ん中で大きな声で語りかける初春を周りの人間は奇異な目で見ている。
「ぷっ、アハハハハ。初春を頼れって言われてもねえ」
「わっ私だけじゃないですよ!御坂さんや白井さん、それにサソリさんだって居ますから」
気持ちが軽くなった気がした。
佐天には自分が白井さんに助けられた時に、白井さんが攻撃されている間、何も出来なかった。
見ている事しか出来なかった。

そんな中でサソリがいち早く駆けつけてくれた。
サソリが言ってくれた言葉。
「能力なんて人それぞれだろ。お前が気が付いていないだけだけじゃねーの?」

本当だ
何で忘れていたんだろ?
測定ではレベル0でも
最も身近に居て
いつも自分のイタズラを笑って許してくれる最高の親友の存在
能力なんて陳腐な表現なんか要らなくて

「うん分かってる。ありがと初春」
言って良かった。
電話を掛けて良かった。
佐天には病室でバカ騒ぎした日を頭に蘇らせた。
些細な事でケンカをしている白井さんとサソリ。
そのケンカを仲裁する御坂さん。
初春は、いつものように顔を赤くしてニコニコしている。

この人達に任せれば大丈夫かな。
そんな心強さを感じていた。
「迷惑ばっかかけてゴメン。あと......よろしくね」
プッツリと切れる電波の線。
強大で凶悪な線へと佐天を引きずり込んで行くのを静かに傍観して四散していった。

******

「はい、はい!またこちらに倒れている学生が居ますので搬送お願いします!」
御坂が病院関係に電話してレベルアッパーの被害者の発見に尽力していた。
電話を切ると、ポケットに携帯電話を戻す。
「よし、三軒目完了!さあ、次行くわよ」
車椅子に座り、漫然と写輪眼を放出しているサソリの頭を両手で挟み込むと斜め上を無理矢理向ける。
「ぐぐぐ、何でオレがこんな事を......」
サソリに開眼した写輪眼はレベルアッパー使用者から伸びる光る線を識別することができ、そこから線を辿るように行けば被害者を発見することが可能だった。
「いいじゃないの!能力は社会に役立てないとね。さあ、さあ休んでないで見てみて」
「オレは探知機じゃねえぞ」
「大丈夫!今の所百発百中よ」
褒めるところが違う。
腕だけ自由に動くようになったのか、頭を掴んでいる御坂の腕を握ると引き剥がそうとするが勝てないようで力を弱めた。
「ちっ......今度はそこの道を右に曲がってすぐの所だ」
「ほい来たー」
車椅子を押して現場へと急行する。
着いたのは数階建てのマンションだ。
「二階の向かって一番右の部屋」
窓から光る線が伸びている。
「ん??」
サソリのチャクラ感知かわ何かを捉えた。
前に感じたことがあるような
ここに来る前に......
「二階かー、エレベーターあるタイプかしらね」
ベランダ側から逆サイドに回りこんで行き、階段があるマンション玄関口を開けて中に入った
「エレベーターは何処にあるのかな?」
サソリの車椅子を止めて動き出さないようにロックすると辺りをキョロキョロと御坂は見渡す。
すると
「ん?!アイツは?」
サソリが階段を上がっている女性に注意を向ける。
「え?あれって初春さん!?」
必死の形相で上がっている初春に写輪眼の焦点を合わせた。

焦り
戸惑い
哀しさ
そして少量の悔しさ
悔しさ

更にチャクラを写輪眼に回す。
澱みなく眼に合わせると視力が上がり、初春の心を写し取る。
読み取れてきたのは、叫びに近い声。

佐天さん......
佐天さん!

「さてん?......!」
サソリは、顎に手を当てて思案する素振りを見せると、気付いたように前のめりになって眼を見開いた。
そして同時に思い出した。

ま、まさか......

喫茶店で佐天が持っていたレベルアッパーらしき物。
以前に聞いた、自分には能力がないという自覚。
それが意味するものは。

しまった......

普段冷静に対処するサソリだが、今回のケースでは身体を内なる悔しさから震わせた。
そして、語気を強めて御坂に言い放つ。
「御坂!早く行け!」
「えっえ!?どうしたの?」
「さっさと......行け!」
サソリのあまりの剣幕に御坂はサソリの車輪を止めると初春が上っていた階段を二段飛ばしで駆け上がった。

写輪眼によるものか不明であるが
サソリは、椅子に座ったまま項垂れた。
片腕を頭に置き、どうにかなりそうな程に強くなっていく感情のブレを抑え込む。

クソ......
完全に抜けていた
アイツが似たような物を持っていたのは見ていた
これはマヌケ過ぎるぞ
落ち着け
落ち着け
まだ打てる策があるはずだ

サソリは自分の膝を悔しそうに握る。
腕に力を入れて反動を付けて立ち上がると、壁や手摺りを頼りにサソリも御坂と初春の後を這いずるように階段を上がる。

部屋へと入ろうとする初春に御坂が追い付いた。
「初春さん!どうしたの?」
「御坂さん!?さ、佐天さん!レベルアッパーを......」
涙をポロポロと流している。
息の切らし方からして、結構な距離を走ってきたようだ。
呼吸を整えるように扉へと体重を預けた。
「えっ......嘘でしょ」
扉を開けて、二人はなだれ込んだ。
佐天は初春が来るのを信じて事前に開けておいたようだ。
カーテンが閉められている暗い部屋にあるベッドの脇に佐天はうつ伏せに倒れ込んでいた。
手の中には、先ほどまで初春と連絡していた携帯電話が力無く握り絞められていた。
意識が無くなることが分かっての数分間、いや数時間かもしれない。
どれほどの恐怖が襲い掛かってきただろうか。
何時、自分が自分では無くなるか。
それを考えるだけでこの犯人が仕掛けた残酷な装置に憎しみが募る。
能力が手に入っても、こんな仕打ちって......
御坂と初春でグッタリしている佐天を仰向けに寝かせた。
呼び掛けにも反応を示さない。
泣き腫らした顔をしている。
長い時間激闘を続けた親友を初春は、そっと抱きしめた。

絶対に起こしますからね
戻ってきてください

御坂は携帯電話を取り出して急いで病院各所に連絡をする。
机の上には、音楽プレイヤーが鎮座していた。
一連の事件を引き起こしているデータがそこにある。
御坂は電話を掛けながら、唇を噛み締めた。

今まで自分とは関係ないことだと思っていた。
御坂はビリリと電流を迸らせる。
電流は御坂を中心に拡がっていった。
威嚇するように、最小限に瞬かせる。
暗い佐天の部屋が少しだけ照らし出されて、何者かの影が電撃の衝撃を受けて御坂の視界で動きだした。
「!?」
御坂が部屋の電気を付けると部屋の片隅に黒髪の人形がダラリと口を開けたまま静かに浮いていた。
まるでそれは喜んでいるかのように笑ってみえた。

「はあ、はあ......どうだ?」
サソリが足を引きずりながら玄関の前まで移動して、腕の力だけを支柱にして通路にある台所を超えて部屋の中に入っていく。
部屋に入ったサソリの目に飛び込んで来たのはグッタリと倒れている佐天。
幾本も観てきた光る線が今回だけは違って観えた。
眼を閉じたまま力無く横たわる佐天を力の込もった写輪眼で眺めた。
佐天の側に足を崩すようにして座ると、首の頸動脈に触れた。
「大丈夫そうだな」
トクン トクンと心臓の拍動が伝わり、少しホッと一息つく。
これは、命の危険がないことだ。
視認できる範囲では怪我は確認できない。
「サソリさん......」
「......さっきまで佐天と会話していたか?」
唐突にサソリが訊いてきた。
「えっ、はい......」
「そうか、どうりでな」
サソリの写輪眼で読み取った感情に、恐れや怖さはなく。
相手に預けるような安心感のようなものがあり、嬉しく思う感情が溢れ出ていた。

サソリは不意に右手を動かした。
蒼色に燃えるようなチャクラが覆い、佐天の頭へと乗せる。
自分のチャクラを流し込み、流れる向きを写輪眼で見定める。
遠くから観たのでは分からない量の情報がサソリの眼を介して観える。
歪な流れ方だ。
「!?」
サソリの紅い瞳の中にある巴紋が強く回り出した。

「サソリ、アレって何?」
御坂が距離を取って対峙している黒髪の人形を指差した。
急に動き出したため、警戒心むき出しの表情をしている。
「!!?風......影」
サソリのかつての芸術品が静かに佐天に駆け寄る三人を見下ろす。

******

病院へと緊急に搬送された佐天に付き添い、御坂とサソリは病室でアンチスキルの捜査のための事情聴取を受けていた。
「うむ、協力感謝します」
ファイルを閉じて、ガタイの良い中年男性が病室から出て行った。

そこへ入れ替わりに連絡を受けた白井が慌て病室へと入ってきた。
「佐天さんが倒れましたの?」
病院での検査を終えてはいるがレベルアッパー特有の意識不明にとどまっている。
つまり、現状では回復の手段が見つかっていない。
サソリが佐天の頭に手を置くと、出来る限りの情報を探っていた。
集中しているサソリを横目で見ながら、御坂と白井は話しを進める。
「やはり、レベルアッパー絡みですの?」
「そうみたい」
「初春はどちらに?」
発見者である初春の姿が見えないことに疑問を呈する。
「木山先生の所に行ったわ」
「こんな状況でも......少し休んだ方が宜しいのでは?」
「そう言ったんだけどね」
風邪を引いて病み上がりの身体に今回の一件で肉体的にも精神的にも一番キツイ状態だ。

「ふう」
サソリが佐天の頭から手を離して一息ついた。
「どう、サソリ?」
「チャクラの流れが固定されているみてえだ。幻術に近いがそれとは違うな」
簡単には解除できないようだ。
「そんな事が分かりますの?」
「あの眼と複合して分かるみたい。なんとかできない?」
「少しやってみたが、強制的に流されているから短時間では無理だな。大元を叩く必要がある」
腕で車椅子の車輪を回して、サソリが二人の傍に近寄った。
「んー、とっ......今度からは常に二人一組で行動しろよ」
「二人一組......?!」
「一人でいると危険を回避出来んからな」
暁時代に戦術として義務化されていた二人一組(ツーマンセル)を提言した。
一人より二人以上の人数に固まって動いた方が危険性は下がる。
「それと......お前にも渡しておく」
サソリは、外套から透明な包みに包まれた黒い粒を白井に手渡す。
「そういえば......あった!」
御坂がポケットからサランラップに包まれた黒い粒の塊を取り出した。
「これは何ですの?」
御坂から渡された黒い粒を訝しげに覗き込む。
「砂鉄だ。オレのチャクラが練りこんであるから、場所の特定が容易になる。何あったらそれに力を使えばオレに伝わる」

******

佐天の部屋に入った後
部屋に弱めのチャクラ反応があり、サソリが居間へと入ると自身の人傀儡が宙に浮いていた。
それは主を見つけるために宙に浮いていたように見えた。
「三代目 風影......?」
先の死闘で破壊されたはずの自慢の人傀儡をあり得ないモノでも見るかのようにサソリは写輪眼で何度も瞬きをして見つめた。

これは、本物だ

サソリは、ゆっくりと確実に傀儡へと近寄った。
諦めていた再会だ。
傀儡を手にすると、昔の感覚が蘇り手が高速で動きだす。

佐天が無事であることを確認すると、ジャッジメントとしての使命を強く持つ。
本来であれば、親友の一大事にずっと付き添って行きたいがそれをする訳にはいかない。

初春は顔をペチンと叩いた。
奮い立たせてジャッジメントとして自分に出来る最善策を考え出す。
やらなければいけないこと
レベルアッパーの調査を約束していた木山の元へと向かうために初春は何度も頭を下げた。

「すみません!佐天さんをお願いします。これから木山さんの所に行ってきます。もっと早くに着手していれば......」

自分がもっとしっかりしていれば

佐天が普段どんなことに悩んでいたかを把握していれば、こんな結果にはならなかった。
初春は、更に一礼すると佐天の部屋から出て行こうとするが
「ちょっと待て」
サソリが手を伸ばして制止した。
「御坂、何か包むものあるか?」
「えっ!?包むもの?」
部屋を見渡し、見つからないので台所の引き出しを開けだす。
持ち主ではないため、何処に何がしまってあるなんて把握していない。
そのため、目に入った引き出しや引き戸を開けていく。

御坂が台所を漁ると戸棚の中から食品保存用のサランラップが出てきた。
サランラップを手に取ると、適当な長さで切ってサソリに渡した。
「これくらいしかないけど良い?」
「充分だ」
切られたラップを拡げていき、何やら黒い粒を一救い包んだ。
拡がる部分を捻るように巻くと初春へと渡した。
「お前は何か術が使えるか?」
「術ってほどじゃないですけど......温度を一定に保てます」
「何かあったらそれを握って力を使え......オレに伝わるからな。絶対に無茶をするな」
「は、はい」
サソリの迫力に押されながら初春が受け取った黒い粒の入ったラップをポケットに入れる。
そして、初春は再び頭を下げて、玄関から出て行った。
ジャッジメントは、自分だけではなく他の大多数を救うことが求められる。
今こうしている間に被害者が増えているかもしれない。
自分に出来ることを見つけて行動するしかない。
友人を背に走るのは、味わったことのない後ろめたさが伸し掛かった。
だけど、自分が居たところで佐天を意識不明から助けることができない。
また涙が過る。

「いいか。この先は極力単独行動は避けろ。必ず二人以上で動け!」
「でも初春さんを一人になっちゃうわよ」
「今回は仕方ないな。オレは自由に動けないし、木山と会うにしてもオレや御坂が行ったら逆に怪しまれる。最低限のものは渡しておいたから、ある程度は大丈夫だ」

後手後手に回ってが、これからはそうはいかんぞ......

******

病室で三人で話しをしていると検査結果を知らせるために少し大柄でカエルのような老人の医師がゆっくり歩いてきた。
「ちょっといいかい?」
三人をあるモニターの前に移動させるととある波形パターンを見せ始めた。

「レベルアッパーの患者達の脳波に共通するパターンが見つかったんだよ?」
不自然なまでに尻上がりの口調だ。
「人間の脳波は活動によって波が揺らぐんだね?それを無理に正せば......まあ、人体の活動に大きな影響が出るだろうね?」

人間には、それぞれ特有の脳波パターンが存在している。
それは別の呼び名で云えば思考パターンだ。
このパターンは今までの経験から形作られている。
通常であれば、長い時間を掛けて変化していく脳波のパターンを短い時間で強制的に変化すれば......
自分を自分たらしめている脳波はなくなり、別の誰かに思考を機械的に行うだけだ。
心臓を動かす、息をする等の生命維持に必要な場所以外は全て乗っ取られてしまうことを意味する。

「サソリが言った通りだわ。つまりレベルアッパーを使った人達は無理矢理脳波を弄られて植物状態になったって事?」
「誰が何のつもりでそんな事を......」
御坂と白井は、医師の言葉を信じられないように言葉を発した。

サソリは車椅子を動かして、カエル顔の医師の前にあるパソコンへと写輪眼を向け続けている。
「......」
何かを探しているかのように巴紋をした眼が忙しなくサソリの視野を拡げるように動き回る。
そして、カエル顔の医師は続けた。
「......僕は職業柄いろいろと新しいセキュリティを構築していてね?その中に一つに人間の脳波をキーにするロックがあるんだね?」

キーボードを叩き、ある情報のページを表情させる。
三人は覗き込み、御坂と白井は息を呑んだ。
「それに登録されているある人物の脳波が植物患者のものと同じなんだね?」
キーボードを動かし、推定された脳波パターンの主を拡大表示にする。
「木山......春生!」
脳波のグラフと共に、顔写真が映っている。
喫茶店でレベルアッパーの調査を依頼した「木山春生」その人だった。
 
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