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とある科学の傀儡師(エクスマキナ)

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第14話 幻術と共感覚性

 
前書き
遅れると思いましたが、更新できました。 

 
幻術に嵌められた白井だったが、なかなか気持ちの整理ができないようで、聴き取れない何かを呟いては頭を左右に振るだけの動作をさっきから何度も繰り返していた。

サソリの証言から精神攻撃系の幻を見たらしいので、回復するまでに幾らか時間が掛かるらしい。
白井が落ちついて話せるようになるまで御坂達は別の話題で時間を潰すことにした。
「ねえ、サソリ」
「何だ?」
「黒子に抱きつかれて正直どう感じた?」
御坂はセクハラ発言をするおっさんのようにニヤニヤと質問をした。
「お姉様!?な、何を」
「……別に」
首を傾げるサソリ。真意が分かっていないような感じだ。
「またまた~」
「んー、初めての経験だったからな。くっ付かれるのは」
「うぐ!」
先ほどから頭を抱えて小さくまとまっている白井の身体が更にシューと小さくなって顔を伏せる。
「いや~、アンタの彼女のおろちまるちゃんが知ったら、傷つくんじゃないかしら」
ピクッと白井の耳が反応した。

そうでしたわ......サソリには既に意中の相手が居るのでしたわね。
ふ......やはり私はお姉様だけを愛するだけですわ。
これで変なことを考えずに普段通りの生活に戻りますわ
......な、何故ですの?
胸の奥がチクチクと痛んで、酷く息がし辛い。
この気持ちは一体?
見えない涙がスッと頬を伝っていく。

しかし、サソリの次の発言に事態な一変させた。
「何で大蛇丸が出てくんだ?」
眉間に皺を寄せて訊く。
「だって恋人でしょ?」
...............
少しだけ世界が凍り付いた感じがした。
あれ......あれ、冷房が強くなった?
よく分からないが生物としての第六感が働いたのか初春が軽く身震いをする。

サソリは、不良に浴びせた強烈な殺気を再び発しながら、御坂を見据える。
「何の話をしている?」
心無しか戻っているはずの眼には奮起の色彩を浴びている。

えっ!?
何??
てか、サソリが凄く怖いんだけど

冷や汗がダラダラと流れて、幼き日に皿を割ってしまった時の叱責されるかもしれない恐怖感を思い出す。
思わず御坂は、車椅子から少しだけ離れ、距離を取る。

「??」
身震いが止まらない初春が席を立って、冷房の設定温度を見てみるが、特別に寒いわけではなく温暖化対策をした設定温度だ。
「えっと......前におろちまるちゃんのことを聞いて、聞いて......特徴から女性だからサソリの恋人かなあと思ってね」

写輪眼を解除しているはずなのだが、顔をまともに見ることができない。
だけど、雰囲気で結構ヤバ目の地雷を踏んだことだけが分かる。
「............」
怖い
何も言ってくれないのがなおさら
視界の隅っこでサソリが、指で自分の膝を叩いている。
「そうか......性別を言ってなかったか......大蛇丸は男だぞ」

ふえ!?
男!?
英語でManの方の!?

御坂が大蛇丸についての情報を総動員して照らしあわせる。
長い黒髪
女口調
蛇みたいな人
性別→男(new)

えぇぇぇー!?

フラフラと立ち上がって、壁に額をくっ付ける。
思いのほか暖かい。
そして、ブツブツと考えをまとめるように呟き続ける

男!
この特徴で?!
嘘でしょ!
いや、だからって男らしくしろとは言えないけど
生物学上では男でも心が乙女の方もいるし
この自由化の世界でそんな方々を非難したら炎上騒ぎになるわけで......
でも、でも
勘違いはするわよ
見た目とか特徴とかじゃ性別が分からなくなっているおかげであたしの方に飛び火が......
あたしが悪いの?
勝手に想像したからこんな事態になっているし
いや、この状況を客観的に観ている人達ならあたしの勘違いも仕方ないって言ってくれるはず。

御坂がブツブツと言っている間に、白井は耳をダンボのようにしてサソリの発言を聞き逃さないようにしていた。
べ、別に興味があるとかそんなんじゃないですのよ!

ここは一先ず、おろちまるさんについてよく知ろう
新しい性のジャンルとして「男の娘」があるからきっとその類いだろう。
うん、話しはそれからだ。

「それで大蛇丸君......さん?とりあえず友達として探しているの?」
ピシッ!
サソリの表情に亀裂が入った。
「友達じゃねーよ!前にいた組織でコンビ組んでただけだ」
「わ、分かった!コンビを組んでいたってことは同じ歳くらいね。そうそう友達じゃないけど探しているのですね(何故か敬語)」
「同じ歳じゃねえし。オレより年上で50歳超えてるはずだ」

50ゥゥゥ!?
あの保険のCMでお馴染みの
「50,80 喜ばしく」の!?

もうね、色々破綻していくよね。
サソリが彼女(大蛇丸)を探しに行って大怪我した感動的なイベントのこと。
涙した純愛も何もかもメチャクチャになっていく。
御坂が白い壁に爪を立てて、膝から崩れ落ちていく。

空想上では。
「えへへ、私は大蛇丸よ!よろしくだピョン」
切れ長の眼にキラッとした瞳。
ピースサインをする昨今の萌えキャラ声で可愛らしく挨拶をしているが......

サソリの言葉から可憐で浴衣を着たおろちまるちゃんから50代の腹が少しだけ出っ張り、黒髪ロングの落武者おじ様の風貌へと早変わりし、先ほどのセリフも

「えへへ、私が大蛇丸よ!(声は若本規夫さんで)」
「よろしくだピョン(銀河万丈さんも良いな)」
日本を代表する野太い声で御坂の頭の中にこだましていく。

御坂は頭をガシガシと掻き回して、受け入れ難い現実と向き合う。
そして、半ば幽霊のように生気のない歩き方で近づいてサソリに謝罪した。
「ゴメン、あたしの勘違いだったわ」
「不意打ち過ぎてオレも驚いた。まあ、良いや」
呆れたようにサソリは頭を掻いた。

大蛇丸の前情報を知らず、この場に居たとはいえ、半分も理解出来ていない初春が接客の笑顔を見せて分かったように手をパチンと叩いた。
「えっと、つまるところ......サソリさんには50歳を超えた男性の恋人がいるってことで良いですか?」
火に油を注ぐとはこの事!
「違えよ!何でオレがアイツと恋仲になるんだよ!それをやる位なら白井の方がまだマシだ」
おおー!
ダンボの耳をしていた白井が無意識に拳を天高く掲げてしまう。
白井の脳内には、強大な敵として君臨していた「おろちまるちゃん」をリングに沈めて、チャンピオンベルトを腰に巻く姿をイメージしていた。
沸き上がる歓声!
ヒーローインタビュー!

ん?
この拳は一体何を意味してますの?
自分の拳を信じられないように眺めている。
「いやー、随分大胆な発言を」
「あくまで、大蛇丸と比べてだがな。なあ、白井」

何故このタイミングで私に!

「えっと、そのですわ......」
顔を真っ赤にして困ったように首だけを傾け、拳を前に突き出して固まる白井に御坂が怪訝そうな顔で見た。
「何でガッツポーズをしてんの?」
「ノーコメントでお願いしますわ......」
ダァーとホッとしたような気まずいような複雑な涙を滝のように流しながら言った。

「それで黒子と付き合うとしたら?」
「もう良いだろ......さっさと幻術の話にいけよ」
そうでした!
すっかり議論が白熱して忘れていたが幻術の話しをまとめるのが今回の急務。
初春は自分のデスクの椅子に腰掛けた。
サソリさんのことが分かったような、分からないような......
とりあえず、落ち着くためにコーヒーを一飲みし、白井に質問をした。
「それで幻術に掛かった時はどうでしたか?」
「んん、あまり思い出したくありませんわ......ジャッジメントに成り立ての時にへまをしまして......あとは人形がたくさん出てきましたわ」
ん?
サソリはピクッと反応した。
「人形?」
御坂がお茶菓子のチョコレートを口に入れながら聞き返す。
「ねえ、ゲコ太出てきた?」
「いいえ、残念ながら」
「何だ......もし出てきたらサソリに頼んで見せてもらうのに」
残念そうに首を振った。
何を期待していたのか?
「どんな人形でしたか?」
「そうですわ。初春も人形として出てきましたわよ」
初春は自分の人形姿を想像しているのか、嬉しそうに笑顔を見せた。
「へえー、私がですか!どんな人形だったんでしょうかね」
ドレスを着て、舞踏会で踊っているのを妄想をする。
いや、ここは日本人形のように醸し出す上品さも良いなあって

初春さんの人形か......
こけしかな?

「そんな優しいものじゃありませんでしたわよ。眼が取れてましたし」
眼が取れてる?!
「アレが近付いてきた時は、恐怖でどうにかなりそうでしたわ。思いだすだけで初春にパワーボムを仕掛けてしまいそうになるほど」
と言い、初春の両脚を自分の肩に乗せるとそのまま立ち持ち上がろうとする。
「あわわわ!す、すみません!足を持ち上げないでください」
捲れそうなスカートを必死にガードする。
ここには、男子のサソリさんが居ますのにぃぃ!
顔を赤らめて、チラッと目線をサソリに向けるのだが、サソリは考え込んでいるようで初春のスカートの中には興味がないような感じだ。

はあ、残念
は!間違えました!
良かったです!
良かったんです!

いつも佐天に挨拶代わりスカート捲りをやられるので多少は見られても良いように本人は気にしてパンツを購入している。
感覚がおかしくなっていくが、何度言っても止めてくれないので少し諦めている。

「止めなさいよ!」
ワーキャーと騒いでいる白井と初春に軽くツッコミを入れる。
「分かりましたわ」
「ふわ!ヒドイですぅ」
両脚をいきなり降ろされて、初春は盛大に床に尻もちをついた。
「他には何かあったか?」
黙っていたサソリが徐に口を開いた。
「あとは......痛みでしょうか?足首を踏まれた痛み」
あの時に捻られた足首の痛みを思い出して、摩った。
「人形が見えたということは、視覚があって、痛みがあったということは触覚があったということだな」
「サソリが黒子に掛けたのは、どの感覚?」
「コイツが眼を合わせねえから、身体に直接チャクラを流し込んだ。敢えて言うと皮膚感覚か」
チャクラを流し込む時に白井は、ほのかに暖かさを感じていた。
触覚では痛みの次に用いられる熱センサー。
それをサソリは今回、使用したのだ。

「そうなると、触覚に刺激を与えたのに人形を見る視覚が働いたということになるわね」
一つの刺激に対して複数の感覚が働く。
「何か本で読んだことがあるわね......共感覚だったかしら」
白井もその言葉にハッとした。

共感覚......一つの刺激に対して本来刺激を受け取る感覚器官とは別の感覚が働いて認識すること。
これを持っている人は、人の声を聞いたら「青色の声」や「ちょっと銀紙を噛んだような声」という表現をしたりする。
稀に数字に対してだけ働く場合があり、数字毎に性別があるような感覚がある人もいる。
例として
258は男性
364は女性
と言った感じだ。
法則性はないが、不意に数字を言われると性別がイメージとして頭に浮かび上がるような感じに近い。
生得だけでなく訓練により習得することが可能な能力でもある。

「もしかしてなんだけど......レベルアッパーもそれに近いことをやっているんじゃない?」
「音を使って幻を見せることは可能ですの?」
「ああ、ある」
「じゃあ、この曲を使って聴いた人を幻術に掛けているんですかね?」
「あり得るかも」
御坂達三人が活発に意見を出し合う中でサソリだけは、何処か冷めたようにポップコーンへと手を伸ばした。
「......少し待て。お前ら、オレが幻術を外した理由を分かってねえな」
「?」
「幻術っていうのは、大抵五感に働き掛けた瞬間に発動するようになっているんだよ......それなのに、聴いた瞬間から能力が上がってしばらくして意識を無くすってのが分からん」
「うーん?能力が上がるような幻を見せて意識を失わせたんじゃないですか?」
初春が思いついたように言うが
サソリは、頭を抱えて車椅子の上で頬杖を突いた。
「ちっ、そうじゃねーよ。オレの言いたいことが分かってねえな」
???
「へっへ?!ど、どういうことですか?」
「......傍目から見れば必要ない部分があんだよ」
サソリがヒントを出した。
「あっ!分かったかも......能力が上がるっていう所だ」
サソリが御坂を指差して同意の頷きをした。
「確かに、知っている人の能力を上げることは分かりますが.....インターネット上でバラまかれていたから犯人も知らない人が圧倒的に多いですわ」

「そうだ......この事件を引き起こした犯人の目的が何なのか知らんが......仮に意識不明にさせたいだけなら能力を上げる工程は要らんよな。オレなら聴いた瞬間に意識を奪うようにする」
「あ、言われてみれば!」
「幻術で意識不明になることはあるが、本当に能力が上がるっていうのが納得いかん。そこに何かカラクリがあるんじゃねーの?」

結局のところ
新たな疑問点が浮き彫りになり、調査は一歩前進、二歩くらい後退したような印象だ。
「幻術の可能性はないかー、良い線行ったと思ったんだけど」
「まあ、オレの中では死に案だから......あとは」
「共感覚性ですわね」
「この曲を聴いた人が次々と被害に遭っていますから......その方面で調査をしましょう」

******

ジャッジメント本部の建物を出て、その日の話し合いを終わらせてサソリを車椅子で押しながら御坂はため息をついた。
「はぁ、ちょっとゴチャゴチャしてきたわ」
昼間を過ぎた街路を歩いていく。
車椅子に揺られながら、サソリはもう一度、不良との戦闘を思い出していた。

幻術の可能性は低い、能力向上......頭の上にあった光る線
そうだ、その線を解読しなければならない。
「サソリー、結局あたし達に出来ることってないのかなー」
御坂が訊いてきた。
「まだ不確定要素が多すぎるな。下手に動くとこちらも巻き込まれそうだ......それに今は個人でしか聴いていないみたいだが、それをスピーカーのような物で流したらどうなるか」
サソリの仮説に御坂はゾッとした。
まだ個人で聴く分だけだから、これくらいに収まっているが、大大的に流してしまったら学園都市は一挙に大混乱の縁に落とされる。
「じゃあ、犯人はまだ本気を出していないって事?」
「本気かどうかは知らん。だが、その方が効率的だろ?」
サソリが振り返って御坂を見上げた。
その両眼には巴紋の写輪眼が光っていた。
「サソリ......またあの眼になってるわよ」
「ん!?またかよ」
サソリが視界に意識を集中する。ビルの隙間から依然よりも光る線の束が強固になって空に横たわっている。
また、増えている?!

サソリが空を見つめたまま黙っている。
御坂は、前に聴いたサソリの言葉を思い出した。
「待ってサソリ!その眼でレベルアッパーを使って人が識別出来るのよね?」
「ああ、光る線が頭から伸びているのがそうだ」
「じゃあ、その眼で発見されていない被害者を見つけることができるわね」
「そうだな」
「よし!そうと決まれば!」
御坂が車椅子を押す手に力を込めて歩くスピードを上げた。

嫌な予感がサソリの脳裏を過る。

「さー、行くわよ!」
車椅子を力強く押して御坂とサソリが走り抜けていく。

またしても現れた写輪眼。
発動方法
解除方法が分からぬ今
サソリは発動、解除を探っていた。

不良の戦闘の時に見えた光る線の存在。
それを思い出した時に写輪眼が発動した。
あれは写輪眼でしか観えていないらしい。
観えた時の感覚に身体が反応したのか?
そして、元の眼に戻った時に何をしていたか?
それは、白井を幻術に嵌めて抱きつかれた時だ。
白井の内に秘めた感情を読み取った後で写輪眼は解除されて、元に戻った。
ということは......
「また白井にくっ付いてみるか......」
「えっ!?」
凸凹コンビは坂道を御坂に全譲りして上っていく。

******

AIM解析研究所
電話が鳴り、研究者の木山が通話している。
「共感覚性......ね」
初春が先ほど詰めたアイディアを一任している木山に報告している。
「はい、それを利用すれば音楽プレイヤーで学習装置(テスタメント)と同じ働きをするんじゃないかって」
初春は、調査を依頼し、今後の事件解決へと向けるためにバス乗り場に立っていた。
「先ほどレベルアッパーを楽譜化して波形パターンを分析しましたデータをお送りしました。調査をお願いしたいのですが」
「ああ、そういう事なら『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム』の使用許可もおりるだろう」
「わあ、あの学園都市一のスーパーコンピューター!ならすぐですね。今そっちに向かってますので......」
「分かった」
電話を切り、バスに乗り込んだ初春だったが座席に着く前に携帯電話から着信音が鳴り響き、慌ててしまったばかりの携帯電話を取り出す。

画面の表示には
『佐天涙子』
とあった。
「佐天さん?」
 
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