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ソードアート・オンライン 神速の人狼

作者:ざびー
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圏内事件 ー真相ー

 
前書き
解決策があらかた出し尽くされてる感じがする圏内事件。無駄な事を書きすぎたせいで、長くなってしまいましたが、ようやく終わりを迎えられそうです(多分、あと2、3話)。

少しでも楽しんでくれたらと思います。 

 
 アスナさんからのメールを受け取った後、ヨルコが宿泊する部屋に圏内PKの捜査をしている三人と事件の関係者であるシュミット、そしてなぜか攻略組としても、お針子としても知られているシィが一同に会していた。

 ソファに腰掛けながら、私とシュミットの話を聞くアスナさんとキリトさん。そして、SPの様に周囲に注意を払い、壁にもたれかかっているユーリさんとシィさんを見て、あることが脳裏をよぎった。


 ーー全部、私たちの自作自演だったんです。……なんて言ったら、彼らはどんな反応をするだろうか。


 もし、本当の事を知ったら、怒るだろうか……? 悲しむだろうか……? それとも、安心するのだろうか……?


 そこまで考えたところで私は思考を打ち止めにした。
 そんな事をすれば、カインズと積み重ねてきた努力が無駄に終わってしまう。ここまでは冗談のようにうまく行っているのだ。こんなところで気なんて抜けない。
 緩んだ集中力を戻すため、大きく息を吸って、吐いた。

「ーーーッ!」

 ただそれだけの動作で、テーブルを挟んで向かい側に座る大男の全身が大きく震えた。

 偽装殺人を信じ込ませる事も、シュミットに『指輪売却反対派』が狙われていると思い込ませる事も、そして彼に恐怖を植えつける事も……
 ここまでは全て予定通りだ。



 張り詰めた空気の中、シュミットと言葉を交えつつ視線を斜め上ーー自分の視界にのみ表示されているーー防具の耐久値と時刻表示へと向けると、作戦決行の時刻が迫っていた。


(…………そろそろね)


 心の内で呟くと、緊張で震える脚に力を入れる。
 ミスは、許されない。

 平静を装いながら、背中を見せないようにゆっくりと後ろ歩きをしていく。スリッパの底が床に擦れる音を聴きながら、無事大きく開いた窓枠へと辿り着き、一先ず安堵する。

 シン、と静まり帰った室内の中で私へと視線が集まるのをひしひしと感じる。

 ーー大丈夫、だいじょうぶ。ここまで何も怪しまれてはいない。きっとうまく行く。


 踵で後ろの壁を小突く。トン、と乾いた音を響かせ、わざと(・・・)体をよろめかせる。次いで、私の背中に刺さった短剣(ダガー)を見せるようにしながら、窓枠へと手をつく。

『なっーーー⁉︎』

 肩越しに彼らを見れば、大きく目を見開き戦慄していた。
 前後へとたよりなく揺らしていた体を、大きく窓の外へと傾ける。そうして私は、戸惑う事なく、身を外へと投げ出した。

「あっ……!」

 アスナさんの悲鳴染みた声が聴こえた。直後、キリトさんのものと思われる、黒いグローブに覆われた手が窓から伸びたが、しかし、ショールの端を指先が掠っただけで、私の仮想体(アバター)の落下は止まらない。


 ーーキリトさん、ごめんなさい。騙すような真似をして。
 ーーアスナさん、ごめんなさい。もっとお話ししたかったです。
 ーーユーリさん。あのふわふわ、本当は触ってみたかったです。

 窓から身を乗り出したキリトさんの顔がどんどんと遠ざかる中、走馬灯のように想いが巡る。
 全部終わった後で、話したら許してくれるかなぁ。やっぱり、無理かなぁ〜。

「…………ぐっ⁉︎」

 全身に衝撃が走り、不快な感覚に苦悶の声を漏らす。
 ズンッと音が響き、体が大きくバウンドする。それがトドメとなったのか、私の背後、隠されていた短剣が刺さったままのクッションの耐久値が限界に達し、青いポリゴンの飛沫が漏れ出す。

 同時に短衣(チュニック)の内側に忍ばせてあった転移結晶を握り締め、ボイスコマンドを紡ぐ。

「転移ーーー」

 私の仮想体を青いエフェクト光に包まれた。パシャという破砕音とともにーー彼らの目から私を隠すようにーー青いポリゴン片が撒き散らされた。


 ◆◇◆


 あまりにも、あっけなく消滅したヨルコさんを見て、この室内の誰もが言葉を発せずに居た。衝撃が覚めやらぬ中、キリトが二ブロック離れた屋根に佇む不審な人影を見つけ、叫んだ。

「野郎っ……!」

「っ!ばっ……待てっ!」

 窓枠に脚をかけ、飛び出して行ったキリトを追う。

「二人とも、だめよ!」

 背後からアスナの警告が飛ぶ。
 理由は明白だ。圏内でありながら、ヨルコさんを屠った一撃を喰らえば、俺らもただで済まない可能性がある。

 その危険性を十二分に理解しているが、キリトとアイコンタクトを交わすと屋根瓦を蹴り、駆け出した。
 キリトがそうしたように腰に吊るした刀の柄へと右手を置く。理論上、相手にダメージを与える事は出来なくても、一撃死させる投擲を叩き落とす事はできる。

 眼下の道を行き交うプレイヤーたちの視線を構う事なく、ローブの裾をなびかせ、屋根から屋根へと飛び続ける。
 一方で、フーデッドローブの暗殺者は逃げる事も、迎撃する素振りも見せず、猛追する俺らをただ眺めていた。
 両者を隔てる距離が建物二つ分となった時、不意に暗殺者の右手がローブの懐へと差し込まれた。

(……っ!来るかっ⁉︎)

 掴む右手に力が込もる。
 しかし、取り出されたのは黒い短剣ではなく、西陽を浴び青く煌めく結晶体。

(ーーー 転移結晶 (テレポート・クリスタル)!?)

「くそっ!」

 並走するキリトが毒づく。疾駆しながら、ベルトから投げ針(ピック)を三本同時に抜くと、一息に投擲した。
 反射的な回避動作を取らせ、コマンド詠唱を遅延させるために投げられたそれらは銀のエフェクト光を纏ってローブを襲う。しかし、相手へと届く前に紫に発光するシステム障壁に阻まれる。

 悠然とした動作で、結晶を掲げるローブをじっと見据える。頭の上(・・・)から伸びた耳を立たせると、ピンッと直立させたソレへと意識を集中させる。

 ボイスコマンドさえ聴き取れれば、結晶で追跡する事ができる。

 スキル《人狼》と《聞き耳》スキル、さらに派生スキル《広域聴覚》による二重、三重の聴覚強化によって、多少離れた位置にいる物音くらい問題なく聴き取れる。

 しかし、目論見はまたしても裏切られる。今、この瞬間、マーテンの街全体に午後五時を告げる大ボリュームの鐘の音が響き渡ったのだ。

 鐘の音色は肝心のボイスコマンドを塗りつぶす。殺人者が青いエフェクト光に包まれ、転移していく中、顔を苦痛に歪めた。
 だが、その理由は追跡の手段を失ったからではない。
 通常の何倍にも強化された聴覚は日常でも長時間使用すれば頭痛がするのに今回は一度に膨大な量の音情報を受け取ってしまった。脳が処理しきれずに負担がかかり、激しい鈍痛という形となってユーリ自身を襲っているのだ。

「……ぐぅ」

 激しい頭痛で視界が揺れる中、急斜面を走れるわけがなく足を踏み外し、切妻型の屋根を転げていく。
 咄嗟に瓦に指をかけようとするも、頭が割れるような痛みのせいでうまく力が入らない。ゴロゴロと屋根を下っていく中、ぼんやりと「今日はよく斜面を転がるな」と考えていた。屋根から投げ出され、一瞬の浮遊感の後、体全体に重力がかかる。

(地面に激突したって、死ぬわけじゃないし。クソ痛いけど……)

「ユーリッ!」

 半ば諦めていた時、痛みのせいか涙で霞んだ視界の中を黒い影が通り過ぎ、直後体へとかかっていた重力が消えた。不思議に思い、首を後ろに回せば見慣れた女顔が映った。同時に自分が置かれている状況に思考が追いついた。

「ーーーっ!??」

 両の腕で横抱きにされた状態ーー所為、お姫様だっこーーに加え、周りには街を行き交う人、人、人。奇異なモノをみる視線を敏感に感じとり、カッと耳まで熱くなるのがわかる。


「わ、コラっ!あんま暴れんな!」

「離せ!降ろせ!変態!」

「おまっ、危ねっ!ぜってー大丈夫じゃないだろ」

 しつこく残り続ける痛みのせいでうまく力の入らない体を動かし、抵抗を試みる。だが、キリトの筋力値が高いのかなかなか逃げられない。悲しいかな、なんとなく戯れたペット扱いされてる気がしないでもない。

 ようやく地面に降ろされた頃には、頭痛はだいぶ治まっていたがまだ、頭の奥の方がズキズキとする。

「……おまえ、後で覚えろよ」
「洒落にならねぇよ……」

 半目で睨みをつけると、キリトは降参の意を示すように両手を上げて見せる。いまだ体調が全快しない俺を気づかってなのか、ゆっくりと宿屋まで戻っていく。
 途中、ヨルコさんが消滅した路傍でカインズ氏を殺したショートスピアと同じ意匠が施されたダガーを回収し、俺たちは宿屋へと入った。

 ガチャンと扉の解錠音を聴きつつ、中へと入や否や紅い影が抜剣していたアスナの後方から飛び出して来る。

「ーーーっ!ユーリッ!」
「おっとと……」


 胸元に飛び込んでくるシィをよろけつつも、なんとか受け止める。視線を下へと向けると涙で潤ませた瞳とぶつかった。

「……ごめん」
「バカ……心配したんだからねっ」

 チクリと胸を刺すような罪悪感に苛まれ、謝ると落ち着いた声音で怒られた。現在進行形で、胸に擦り寄ってくる少女の頭を撫でていると、不意に名前を呼ばれた。

「ユーリ君。君たちいつまでそうしてるつもり?」
「……あっ」

 額に筋を一本浮かべたアスナがこちらを睨んでいた。どう見ても怒っている。部屋の奥には、罰の悪そうな表情を浮かべたキリトと明らかに怯えた様子のシュミットが居た。少しの間、慰めていたつもりがけっこう時間が経っていたらしい。

「はい、これ。君たちが預かってて。私とキリト君でシュミットさんを送ってから張り込みます。体調悪い人はさっさと帰ってて。攻略に支障が出ても困るから。あとでシュミットさんから聞いた事、メールで送ります。何かわかったことがあったら、連絡してください」
「は、はい……」


 去り際に凶器であるショートスピアとダガーを手渡され、淡々と捲したてるように言付けると男二人を引き連れ、さっさと行ってしまう。

「……なんか、悪いことしたね」
「そーだな」

 自宅待機を命じられた俺はなんだか居た堪れない気持ちになりつつ、相方と顔を見合わせる。肩をすくめると、帰宅するべく転移門へと歩いて行った。


 ◆◇◆


 よほど酷使したのか家に着くなり、ソファに倒れこむようにして寝てしまった相方を眺めて、息を吐き出す。キリトと共に部屋を飛び出し、殺人者を追いかけて行った時はさすがの私も肝が冷えた。アスナがキリトに対し、激怒する気持ちも分かる。

「……まったく、心配したんだからね」
「………………んっ」


 横になって眠っているユーリの横へと腰掛けると、さっき私がされたみたいに髪を梳く感じで頭を撫でる。指の間を通るサラサラの髪が気持ちいい。ついでとばかりに綺麗な銀色の毛並みを持った犬耳を優しく撫でる。寝ているはずのユーリの体がピクリと強張り、ふにゃりと脱力する。心地よいらしい。

「はぁ……びっくりした。さて、……どうしてやろうか」

 一瞬起きたかと思って冷っとしたが、安らかな寝息を立てているところを見るによく眠っていると分かる。今まで自重していた悪戯心が急激に主張し始める。

手始めに犬耳に指を伸ばし、親指と人差し指で擦るようにして触ってみたり、先端を手のひらで包むようにして、撫でたりとしばし楽しんでいた。自分の指の動きに合わせ、自在に形を変えるのが面白くてつい夢中になって弄っていると、「オイ」と若干怒気を孕んだ声をかけられた。

「……なにやってんの」
「あ、あはは……。起きてたんだ」


下に視線を向けると半目に開いた瞳が私に向いていた。一目見て、不機嫌だとわかる彼の表情を見て冷たい汗が頬を伝う。ソファから体を起こし、隣に座ったまま向き合うこととなり、冷や汗が止まらない。ゆっくりと顔が近づいてきてーー

「……え、ちょ、顔近っ」
「ーーッ!!」
「フギャァ!?」

ゴンッと音が響き、目の前に星が散った。すぐに頭突かれたとわかったが、いかんせん意外な行動過ぎて回避もままならず、結果としておでこがヒリヒリとした熱を持つハメになった。思わず眼に涙が浮かぶ。

「ひ、酷いんじゃないかな!? 女の子にヘッドバットなんてさっ!」
「晩飯抜きのが良かったか……?」
「すいませんでしたっ!」


抗議の声を上げるも、冷ややかな声音で返され、見事撃沈。今回は悪戯した自分が悪いので非は認め、反省しよう。そして、次のチャンス(いたずら)に活かすのだ。

「……反省する気ねぇだろ」

ーーもちろん!!


そのあと、宿屋での一件と、アスナから送られてきたメッセージに書かれたシュミットの証言の概要を整理していた。だが、やはり真相はいまだわからない。唸りながら、首を捻って考えてようがわからないものはわからない。私には、某少年探偵のような事件解決能力はないのか、諦め気味になっていると相方に呼びかけられた。

「なぁ、メールだけってのもアレだしさ。シュミットに直接聞きに行かないか?」
「えぇ〜……まぁ、いいけど」


アスナ筆のメッセージはかなり詳細に纏められていたが、ユーリは本人が話したこととの微かな齟齬を気にしているのだろう。本人から聞いた内容と、あいだに人を挟んで伝わった内容とでは若干だが内容の食い違いが発生する。伝言ゲームがいい例だ。
人の生き死にが関わっている事件だけあって、妥協なんかしてられない。

一応シュミットにメールで許可取りをしようとフレンド一覧を開いた時だった。

「…………え、なんで?」
「ん、どうした?」

彼の現在地がDDA本部のある56層ではなく、既攻略層であるはずの19層になっていたのだ。

 
 

 
後書き
少ない知恵を絞って考えた結果浮かんだのが、死亡直前のヨルコさん視点(多分まだ誰もやってないはず!)。
原本では、何ページも使って書かれているところをぎゅっと凝縮したので分かり辛いところもあると思いますが……まぁ、それは原作を買って読んでください。

多分、次回はラフコフとの戦闘かな?なるべく早く書けるように努力します。ではノシ。


ps.呟きにお知らせを載せましたので、目を通して頂ければと思います。 
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