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ソードアート・オンライン 神速の人狼

作者:ざびー
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圏内事件 ー聴取ー

 店に入ってから三十分、店内から出てきた四人はいずれも表情が優れない。というのも、『アルゲートそば』なるものを食べたせいなのだがその味は……

 ヒースクリフ曰く、『ラーメンと似て非なるもの』と断言させ、
 アスナに『……絶対、醤油作る』と決心させたとか。
 一方で、ユーリは『……ありえない』とうわ言のように呟き、犬の耳をへにょらせていたらしい。(某黒の剣士談)



 ◆◇◆

 午後から私用のあるらしいヒースクリフと別れた後、これからの行動について話し合っていた。

「さて、これからどうする」

「……どうするって言われても」

 どう?すぐにいい案が浮かぶほど、柔軟な思考をしているわけでもない。首を傾げているとアスナが思いついたのか、発言をする。

「じゃあ、あの人に話を聞きに行きましょう。つつけば、ポロッと漏らすかもしれないし」

「は?」

 だが、アスナの要領を得ない発言にまたしても首を傾げる。

「ほら、君から槍をかっぱらってった……」

「あぁ……シュミット」

 ヒースクリフの印象が強く残り過ぎていて存在が霞んでいたがシュミットもギルド《黄金林檎》の関係者であるのだ。
 だが、現時刻は午後二時。 迷宮区攻略:午後の部が盛んに行われてる時間帯であり、シュミットの所属する 聖龍連合 (DDA)も狩りに行っているはずだ。
 隣を歩くキリトも同じことを思ったのか、咳払いを一つした後、質問を口にする。

「この時間帯なら、シュミット主将も攻略に向かってるんじゃないのか?」

 対するアスナは「それはどうかしらね?」と言わんばかりに微笑を浮かべる。

「ヨルコさんの話によれば、シュミットも『指輪売却反対派』……つまり《レッド》に狙われるターゲットとなり得る。 そして、その自覚の有無はまぁ、ユーリ君の証言から有ると断定できるわ。 さて、謎の《レッド》に狙われてるとわかっている人物がわざわざ死地に赴くような真似をするかしらね?」

「言われてみれば、そうだな」

 アスナの推論に納得の意を示す。
 だが、カインズさんを殺害した《レッド》は圏内でもPKを行う方法を持っている。 だとすれば、シュミットが取る行動は自ずと絞り込めてくる。

「……籠城か。となると次の目的地はDDAの本部だな」


 ◆◇◆


 (キャッスル)、もしくは 城塞 (フォート)か……。

 小高い丘に聳えるDDAのギルドホームを転移門から捉え、内心で感想を述べる。
 ヒースクリフ率いる血盟騎士団のギルドホームがある一つ上の層、第五十六層に華々しくギルドホームが構えられたのはつい先日の事で、その時は披露パーティーが豪勢に催された。 だが、あいにく人混みはあまり好きではなく、タダでさえ人より目立つ容姿をしているためにパーティーは祝電と祝いの品をキリトに託し、欠席。故にこうして、DDAの本部を初めて目にしたことになる。

 そして、やはり思うのは値段だろう。 二十二層のコラルの村にある我が家も0がたくさん並んでいたが、それよりもスケールが何倍もデカイあのお城はお幾らするのだろうか。

 なんて事を考えながら、塔の頂点で銀の地に青いドラゴンが染め抜かれたギルドフラッグが風にたなびく様子を眺めているとそれを不思議に思ったのか、横からアスナが訪ねてくる。


「どうしたの。 そんなにDDAのホームが珍しい?」

「いや、別に。 ただ、凄い高かったんだろうな〜と。あと、部屋とか凄そうだよなぁ」

「ふーん。まぁ、ウチも負けてないけどね。 どう?多分ユーリ君がその気になってくれれば、部屋とか選び放題だよ?」

「……遠慮します」

 遠回しな勧誘を丁重に断りを入れつつ、この副団長もやはりヒースクリフの部下だなと思ってしまう。
 もっともいくら好待遇だろうと、どこのギルドに属す気もないし、マイホームを手放すつもりもない。 勿論、シィとペア解散なんてあり得ない。



 二人と雑談を交えつつ、赤レンガに舗装された坂を登ること数分、ようやく城門が見えてくる。 だが、そこから姿を現した人物に揃って声を上げる。

 門の左右に並び立つ番兵と挨拶を交わしつつ、出てきたのは紅い髪をポニーテールに結び、赤で統一されたコーディネートを着こなしたプレイヤー。 そして、紅い少女もこちらへと気がついたようで手を大きく振りながら駆けてくる。

 衣装どころか、髪の毛までも赤で纏めそれを着こなし、更に自分達と顔馴染みのプレイヤーなぞ、まず一人しか心辺りしかない。

「なぁ……」
「ねぇ……」

 左右に立つ二人もこちらへと小走りで駆けてくるプレイヤーに大方検討がついたのか、こちらへと視線を向けてくる。

「なんでシィがDDAの本部から出てきたかは、知らんからな」

「「……なんだ」」

 二人の質問に答えている間、紅いプレイヤー……もとい相方、シィはだんだんと加速し始める。そして、およそ10メートルくらいまでにその距離を縮めるとダンッと音を鳴らし、大ジャンプ。こちらへと向かって弾丸の如く飛び込んでくる。

「「げっ……」」
「ちょっ……!」

 いち早く反応した二人はそれぞれ両サイドに飛び退る。だが、自分だけは回避が遅れてしまい……

「ユゥゥゥゥリィィィィ!」
「フグウッ!?」

 満面の笑みのシィのタックルをモロに喰らい、苦悶の声を漏らす。
 スピード型の自分のステータスでは、目一杯まで加速されたアバターを受け止めきれず、上体が揺らぐ。そして、後方にはなだらかな斜面が広がっており……

「ウァァァァァァァァァァ?!」

シィに胴にしがみつかれたまま、斜面を転げて行った。



「……ひどい目にあった」
「いや〜、まさか坂を転げる羽目になるとは」

 テヘッと舌を出しながら、シィはおどけてみせる。反省する気はないらしい。

「てか、いい加減離れろよ」
「え〜、ヤダ〜」

 左腕に巻きついてくるシィを引き剥がそうとするがなかなか取れない。再び坂道を上がっているとニヤニヤ笑いを浮かべたキリトと目が合った。

「よぉ、ユーリ君。 大変だったな」
「…………」


「もー、拗ねないの」
「いや、シィちゃんが原因なんだけどね? けど、なんでシィちゃんがDDAの本部から出てきたの?」

 アスナがツッコミを入れつつ、おそらく三人ともが一番聞きたいであろう事を口にする。

「んー、言ってなかったっけ?私ってば、《裁縫》スキルコンプしてて、よく布系の装備品のメンテとか、アクセ作ってーとかって頼まれるんだよね。で、今回は頼まれた品の納品だね」

「「へぇーー」」

 関心したように二人が声を揃える。 特に金属系の装備を一切装備していないキリトは興味ありといった感じでシィの話を聞いていた。もっとも、装備に関しては自分も言えた義理ではないのだが……

 一通りこちらの疑問に答えると、同じような質問が返ってきた。それに対して、副団長様が簡潔に即答する。

「で、アスナ達はなんで此処に? PKの調査してるんじゃなかったっけ?」

「そうね。その調査の一環として、シュミットさんに話を聞きに行こうとしてたところなのよ」

「けど、時間が時間だからなぁ。シュミットの奴も狩りに出かけてるんじゃないか?」

「って事だけど、シュミット居たか?」

 キリトの言葉を引き継ぎ、いまだ腕にトリモチのようにひっつく相方に訊ねてみる。
 一応納得した表情を見せたシィは何かを思い当たる節があるようで「あぁ……そういえば」などと呟き、ポンッと手のひらを打ってみせた。

「そーいえば、ギルメンの誰かが『シュミットさん、珍しくサボったらしいっすよ』って話してたような……してないような??」

「いや、そこは断言しろよ」

 コテリと首を傾げるシィにとりあえず、ツッコミを入れておく。
「ごみん……」とはにかみながら、右手を振り、窓を呼び出す。そして、幾つかの操作をし、キーボードを出現させ、素早く文章を打ち込むとそのまま送信ボタンを押した。

 今の流れでいくとメール相手はシュミットだろうが……あいつとフレンド登録などしていただろうか。

「シィって、シュミットの奴とフレ登録してあったのか?」
「んー、まぁね。一応、DDAって金ヅ……取引相手だし? 何回か顔出してるうちに、ね」


 金ヅル(仮)発言は置いておくとして、シュミットをフレンド登録してた事は寝耳に水だった。この様子だと、割と多くのプレイヤーとフレンドの登録をしてそうだが。それが原因でホームに頻繁に客人が来る……なんて事にならなければいいが。

 ユニークスキルの事がバラされた時に、ゾンビ映画の如く情報屋共が押し寄せてきたのは、今でもトラウマだ。

 そんな事を考えていると、どうやらシュミットからの返事があったようだ。シィがメールを送ってから、五分ほどしか経っていないが……狩りに出ているのであれば、こんな早くメールを返す事は出来ない。故に、アスナの見立て通りシュミットはギルドホームに立て籠もっているみたいだ。


「アスナ〜、シュミットが要件はなんだ?って聞けって」
「え、早っ……じゃあ、指輪についてって伝えて」

 いつの間にか行われていたシィとシュミット間のやり取りに驚くものの、すぐに思考を切り替えて、簡潔に要件を伝えさせる。
 そして、シィの二度目のメールが送信されて待つ事、数分。フルプレートアーマーに身を包まれたシュミットが城門から姿を現した。そして、自分達を見つけるなり、勢いよく走って来て、『場所を変えてくれ』と一言発すると、さっさと前を行ってしまう。

「……なんなの、アレ」
「さぁ?」

 チョイチョイと袖を引っ張られ、横を向けば、シィが呆れた表情でシュミットを指差していた。その後、一言二言、言葉を交わし、前方を進んでいくシュミットを追った。


「誰から聞いたんだ」
 
 坂道を降りきり、市街に入ったところでシュミットがようやく立ち止まる。
 ガシャリと鎧を鳴らしつつ、振り向くとアスナではなく、何故か自分に詰問してくる。


「黄金林檎……ヨルコさんから」

『指輪』という文言が省かれている事に気づき、慎重に答える。
 問いに対する答えを聞くとシュミットは一瞬目を見開き、次いで大きく息を吐き出した。

 籠城していた件といい、『指輪』で釣れた件といい、既に圏内事件がギルド《黄金林檎》内で起こった指輪事件が原因で起こった事、そして圏内事件の目的が《指輪売却反対派》への報復、もしくは復讐という可能性まで辿りついていると考えられる。

 シュミットの反応を注意深く観察しつつ、自分は直球な質問を放った。

「シュミットさん。アンタが昨日、掻っ払ってた槍の作者……グリムロックさんが今何処にいるか知ってないか?」

「し……知らん!」

 叫びながら、首を激しく振られてしまう。切羽詰まった様子を見るにどうやら嘘ではなさそうだ。残念ながら、現在一番疑わしい人物まで辿りつく事は出来ないらしい。

 ここで、今まで黙っていたアスナが穏やかな声で話しかけた。

「……今一番疑わしいのはあの槍を鍛えた、グリムロックさんです。けど、誰かがそう見せかけようとしている可能性もあるけど、それを判断するためにグリムロック氏に直接会って話しをする必要があるんです。居場所か、連絡する手段に心当たりがあれば、教えて頂けませんか?」

 アスナにジッと見つめられ、シュミットの上体が僅かに引いた。

「アスナが、ここまで言ってるんだからさ。何かあるなら言った方がいいと思うよ?事件が解決すれば、PKの手口だって分かるんだし。……ね?」

 ぐらつくシュミットに追い打ちをかけるようにシィが言葉を発した。
 身長の高いために、意図せずして上目遣いで女性二人に見つめられる事となった彼は、ぼそぼそと話し始めた。

「……居場所は分からない。だが、あの人が異常に気に入ってたレストランなら知っている。ほぼ毎日通っていたから、今でももしかしたら……」

「ほ、ほんとか」

 自信なさげなシュミットの発言にキリトが食いついた。

 ここアインクラッドにおいて『食事』という行為は唯一の快楽と言っても過言ではない。今では《料理》スキルを習得したため、あまり足を運ばなくなったNPCレストランだが、毎日通うほど気に入った店ならそう易々と断ち切れるとは考え辛い。

「うっ……おなか空いた」
「…………」

 キュルキュルと腹の虫を控えめに鳴かせたシィを『少しは空気を読め、馬鹿!』とメッセージを込めて半目で睨む。

 緊張感の欠けたやり取りで、微妙な雰囲気が漂っていたが、キリトが咳払いを一つし、リセットすると話し合いを再開させる。

「……それで、その店の名前は?」
「教えてもいい。但し、一つ条件を呑んで貰いたい。…………ヨルコに会わせてくれ」


 議論の結果、シュミットとヨルコを会わせる事が決まり、その主旨を彼女にメールで伝えると即座に返信があり、了承の返事が貰えた。その際、結果をシュミットに伝えるとあからさまにホッと表情を緩ませた。一応、万が一の事態に備え、場所を彼女の泊まる宿屋に移す事となった。

 なお議論の最中、会話についていけてないシィが理解する事を早々と諦め、近くの屋台で買い食いをしていたのはまた別の話だ。


 
 

 
後書き
【お針子シィちゃん】
デザインの良さと質の良さから、尊敬の念を込めて彼女の作品は『無印良品』をもじって、「C印良品」と呼ばれている。
最近の傑作は『犬耳執事』。黒の燕尾服が銀色の毛を際立たせているらしい。
なお、『傑作』はそのまま、ユーリの黒歴史へと直結する模様。

【空気を読まないシィちゃん】別名:しりあすぶれいかー
今作品の癒し兼ボケ担当
どんなシリアスな場面でも、和ませてくれる清涼剤的な役割。実際には、なんとも言えない微妙な空気感になる。 
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