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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第2章:埋もれし過去の産物
  第37話「窮地」

 
前書き
主人公の出番がないなんて思っちゃいけない。(戒め)

古代ベルカについてよく知ってるのは今の所アインハルトとユーノだけなんですよね。
と言う訳で序盤はその二人ばっか喋ります。

...え?リインフォース達?あの人らは魅了受けてるから使い物になりません。(おい
 

 




       =椿side=



「....緋雪....。」

  通信が葵に入り、全員がアースラに撤退した。
  その中で私は、私を姉のように思ってくれた緋雪の名を呟く。

「...知っての通り、今、緋雪は暴走...いや、狂ったような状態になっている。彼女を止めようとした兄である優輝は、海に落とされてしまったようだ。今、サーチャーで探索を行っている。」

  クロノが緊急会議として事情を簡潔に話している。

「その緋雪の強さなんだが...これまた厄介だ。君達には、神夜に普通に殴っただけでダメージを与えれるレベル....と言えば分かりやすいか?」

  その言葉にほとんどの人がざわめく。
  ...確か、一定未満の攻撃は一切効かないのだっけ?そしてその“一定”が結構高いと。
  ちなみに、私達未来から来た人や、“ギアーズ”と呼ばれる姉妹はよくわからないのか、首を傾げている。...まぁ、姉妹の方は実際に戦ったから恐ろしさは分かっているだろうけど。

「...間近で感じたけど、少なくともSS以上の魔力はあるよ。」

「....とのことだ。...U-Dの事もある以上、相当切迫した状態だという事を自覚してくれ。」

  私にとっては、主戦力になる優輝が倒されて、切迫どころか絶望なんだけどね..。

「....クロノさん、発言よろしいでしょうか?」

  そんな時、アインハルトが挙手する。

「なんだ?」

「...緋雪さん....いえ、シュネー・グラナートロートについてです。」

  シュネー...?確か、アインハルトが探索の時に呟いていたような...。

「シュネー・グラナートロート?...どういうことだ?」

「...今の緋雪さんの言動、行動には全て見覚えがあります。...古代ベルカ戦乱時代、“狂王”として恐れられた人物と、容姿を含めてほぼ同じなのです。」

「“狂王”...?」

  狂王と言う単語に、聞き覚えはないのかクロノは首を傾げる。
  ....私も知らないわね。
  しかし、今度はユーノが反応を示した。

「...聞いた事があるよ。確か、その名の通り、狂ったように辺りを破壊し尽くし、幼馴染だった一国の王さえも殺した悪魔だって...。」

「彼女はそんな人じゃありません!!」

「っ、ご、ごめん...。」

  そう言ったユーノに、アインハルトは憤る。
  ...文献でしか知らないのだから、それは理不尽なのだけど。

「...シュネーは、好きで破壊しまわった訳じゃないんです...。ずっと...ずっと護られて、怯えられて、罵られて...彼女の心は限界だったんです...!なのに...なのに!」

  後悔するかのように、自分たちの非であると訴えるようにアインハルトはそう言う。

「何も分かっていない導王の民が!導王を裏切って、殺さなければ...!」

「...文献にあった事とは、真逆...。導王を殺そうとしたのは狂王ではなくて、導王の民...!?」

  ユーノは文献が間違っていた事に驚く。
  ...あの、皆ついて行けないのだけど...。

「.....アインハルト、なぜそこまで知っている?」

「...ここまで話したのなら言っておきましょう。私はハイディ・アインハルト・ストラトス・イングヴァルト...覇王の記憶を受け継ぐ者です。」

「覇王の...!?」

  ...だから、私達には分からないのだけど...。

「.....この際、覇王だとか古代ベルカの事はおいておこう。...本題はなんだ?」

「そうですね、先に本題を言いましょう。...彼女とまともに戦えるのは、私とヴィヴィオさんだけです。他は無理...いえ、邪魔です。」

「なっ...!?」

  アインハルトの言葉にクロノは驚愕する。
  “敵わない”ならまだしも、“邪魔”だとはっきり告げられたのだ。

「....かつて、覇王と聖王はどうやって狂王を打ち倒したと思ってるんですか?」

「.....詳しくは文献にも載ってなかったはず...。」

「...“導王流”のおかげです。覇王流も、狂王には歯が立ちませんでした。」

  導王流...?それって、確か....。

「優輝も使っている武術の流派...?」

「...はい。それでなぜ私達が...というのは、言わない方がいいでしょう。」

「...未来に関わるという訳か。」

  ...大体は予想できるわね。口には出せないけど。

「つまり、導王流を扱える私達でないと碌にシュネーとは戦えません。」

「そ、そんな事はない!俺たちだって頑張れば...。」

「では、彼女の攻撃を正面から受けれますか?」

「っ....。」

「そう言う事です。」

  ...緋雪...いえ、シュネーと戦うからには、あの攻撃を凌ぐ術がないとダメ...ね。

「そしてもう一つ。....もう、彼女を正気に戻す方法はありません。」

「なっ...!?それはつまり...!」

「殺すしかありません。」

  ....そう言う事。道理でアインハルトはそこまで思い詰めた顔を...。

「ふざけるな!そんな事、できるはずが...!」

「ではそれ以外に、なにがあるというのですか!?」

「っ...!?」

  涙ながらに叫ぶアインハルト。

「シュネーの心を救うのは、それしかないんですよ!?」

「だ、だが...。」

「かのオリヴィエやクラウスだって、彼女を助けようとしました!だけど、無理なんです..!彼女の心の傷は...全てを壊すか、自身を理解してくれる者に殺される以外、癒される事はないんです...!」

  ...殺すしかないという選択肢は、子供にはきついでしょうね...。
  そのオリヴィエとクラウスという人物は王らしいから大丈夫だっただろうけど、その記憶を受け継ぐアインハルトは、心苦しいでしょうね。

「しかし、緋雪がそのシュネーと同じとは...。」

「同じです。それは断言できます。...緋雪さんは、シュネーの生まれ変わりですから。」

「なっ....!?」

  ....本当に絶望したくなる状況ね...。
  片やU-D、片や狂王の生まれ変わり。
  どちらも人員を欠かす事のできない強敵で、緋雪の方は殺さなくてはいけない。
  これは....。

「....行きましょう、アインハルト、ヴィヴィオ。」

「っ、君は...!」

「葵!」

「りょーかい!転移!」

  どちらも早い事片づけないといけない事案。
  なら、もたもたしていられない。
  相手にできるのがアインハルトとヴィヴィオだけなのなら、さっさと二人を連れて転移すればいい。
  ...殺すかどうかで悩んでいる時間はないわ。







「....ヴィヴィオ、大丈夫かしら?」

「..う、うん。大丈夫...だと思う。」

  相手にできるのは二人だけだとしても、クラウスと言う人物の記憶を受け継いでいるらしいアインハルトと違って、ヴィヴィオは本当に子供。
  殺し、殺される戦いに身を投じるのは怖いのだろう。

「無理しなくていいわ。...いざとなれば、私が殺す事を担うから。...私と葵が、一番“殺す”事に慣れているからね。」

「う、うん。...ありがと、椿お姉ちゃん...。」

  ん...なんか、“お姉ちゃん”と呼ばれるのはむず痒いわね...。

「しかし、よかったのですか?他の人達を置いてきて。」

「今の緋雪...私はとりあえずこっちのが呼びやすいからこう呼ばせてもらうわね。...緋雪は狂気の赴くまま、暴れ回るのでしょう?なら、早い事決着を付けないといけない。...でしょ?」

「...はい。かつての時も、そうしなかったせいで、無数の屍が...。」

  そこまで言って青い顔をするアインハルト。
  ...記憶から思い浮かべてしまったのかしら?当時の事を。

「...悪いわね。殺すかどうかで悩んでる暇もなかったから、誰も連れ出せなかったわ。」

「いえ、連携を取る際には、ヴィヴィオさん以外は邪魔なので...。...椿さん、葵さん、未来ならともかく、過去のあなた達も含めて。」

「ええ。理解してるわ。」

  アインハルトのいる時代の私達なら二人の動きを理解してるでしょうけど、私達はそんなのは分かる訳がない。

『...!見つけたよ!適当に転移したけど近かったみたい!』

「...覚悟を決めなさい。ここから始まるのは戦闘じゃないわ。...死闘よ。」

「「.....はい!!」」

  私も視認できる程の距離に緋雪を見つける。
  っ...!あれは....!

「...なるほど。どちらも、負の感情を増幅している。...なら、反発する事もないわよね。」

「嘘...なにあれ...。」

「まさか...そんな....!」

  遠くに佇む緋雪。その下には....。

「あれ、全部妖の闇の欠片って事ね...!」

『うわー...百鬼夜行みたい。』

  ビルの時に現れた群れとは比較にならないほどの妖の群れ。
  ...緋雪が何かしらの方法で従えたのね。

「....あれらは私達が相手をするわ。あなた達は緋雪を頼むわ。」

「し、しかし...!」

  あの数は、私でもきついとアインハルトは心配してくる。

「大丈夫よ。多対一には慣れてるわ。」

「...椿お姉ちゃん...葵お姉ちゃん...。」

「....ヴィヴィオ、そっちは任せたわよ。」

  そう言って、私と葵はヴィヴィオ達を置いて妖の群れの真ん中に降りる。
  妖の群れはほとんどが地上にいるから上空にいる二人にはあまり被害はないはずよ。

「.....さて、葵。」

『ユニゾンは解除しておくね。』

「ええ。」

  ユニゾンが解除され、葵が私と背中合わせになる。

「....二人での共闘は久しぶりね。」

「江戸以来だねー。あたしの背中は任せたよ!」

「私の背中はあんたが守りなさいよ!」

  その言葉と同時に妖の群れは襲い掛かってくる。

  来る....!









       =out side=



「....シュネー...。」

「...あは♪やぁっぱり止めに来たんだ。」

  椿たちが妖の闇の欠片と戦い始めた頃、アインハルトとヴィヴィオは緋雪と対峙していた。

「私、気づいてたよ?二人はオリヴィエとクラウスに関係...ううん、二人に近い存在だって!そう!例えば私のように生まれ変わったみたいに!」

「っ...シュネー、貴女は....。」

  アインハルトの言葉に、緋雪は一切耳を貸さない。

「ふふ、あはは!さぁ、始めましょう!生きるか死ぬかの、パーティーを!」

「っ.....。」

  緋雪から魔力が溢れ、二人は身構える。

「さぁ!あの時のように殺してみせなよ!オリヴィエ!クラウス!!」

「ヴィヴィオさん!」

「...うん!」

  今ここに、聖王と覇王対狂王の死闘が再現される....!









「....やっぱり殺させない!俺は行くぞ!」

「おい!待て神夜!」

  ...アースラでは、神夜がやはり助けるという決断をし、転送ポートを使う。

「神夜君が行くなら私達も行くの!」

「なのは...!君達も...!」

  それに続くように女性陣(ついでに帝)も転送ポートへと向かう。
  行こうとしていないのは、戦闘不能なフローリアン姉妹と、マテリアルの三人、クロノやユーノ、司、リニス、プレシア、後はトーマとリリィぐらいだった。

「くそ...!全員身勝手な...!」

「...クロノ、僕達はどうするの?」

「....どの道、U-Dも彼女も放ってはおけない。挨拶も碌にできず済まないが、君も協力してくれるか?」

「お、俺..?...はい。緋雪さんにはお世話になりましたから。」

  トーマとリリィも未来で緋雪に世話になったらしく、行くことに決める。

「...私も行くよ。」

「...助かる。」

  司も間近で緋雪を見てきたから、助けようと決意する。

「...結局、僕らも行くんだね。」

「そうだな。」

  クロノ達も結局結界内に向かう事となる。
  そして、残されるのはマテリアルだけだが...。

「....君達はどうするんだ?」

「知れたこと。我らの目的はユーリのみ。他の事など知った事ではないわ。」

「...王よ、そわそわしていては説得力がありません。」

「ええい!できるだけ誤魔化しておったのに貴様は!」

  三人もU-Dが目的ではあるが緋雪の事も気になるようだ。

「ぬぅ...。...なんというかだな...。彼奴は我らと同じ“闇”の性質を持っておる。...故に、我にも理解できてしまうのだ。彼奴の悲しみがな...。」

「...そうか。...まぁ、三人の好きにしてくれ。この緊急事態だ。君達の行動を制限できるほどの余裕はないからね。」

  言外に“できれば手伝ってほしい”という想いを込めてクロノはそう言う。
  そして、そのまま他の三人(+一人)を連れて結界内へと転移していった。







「はっ!」

「やぁっ!」

「...ふふ。」

  左右からの挟撃。それを軽々と受け止める緋雪。

「まだです!」

「っ!」

  アインハルトは受け止められた瞬間に反転、その際にもう片方の手で受け止めた手を上に弾き、懐へと入り込む。

「『ヴィヴィオさん!』」

「っ、やぁあああっ!!」

  念話で合図を出し、ヴィヴィオも緋雪の上を取って、アインハルトは掌底、ヴィヴィオは踵落としでまた挟撃を試みる。

「...くすっ♪」

「「っ!?」」

  しかし、それは緋雪が放った魔力の衝撃波によって吹き飛ばされ、不発になる。

「....当然、一筋縄ではいきませんね...!」

「うん...!」

  一度体勢を立て直し、二人は並んで緋雪と対峙する。

「あはは、やっぱりその程度なんだ。...いくら二人に近い存在だからって期待しすぎちゃったかな?...じゃあ、殺すね。」

「『っ、来ます!!』」

「『絶対にまともに受けてはいけない...だね!』」

  瞬間、緋雪がその場から消える。
  ...正確には、一瞬でアインハルトとヴィヴィオの所に接近したのだ。

「っ...!?」

「...っ、導王流“流動”...!」

  振りかぶられた拳を、アインハルトは手首を掴んで後ろへと受け流す。
  ..しかし、それでもある程度のダメージは受けてしまったようだ。

「..はぁあっ!」

「っ、っと。」

「はああっ!」

「っ、ぁあっ!?」

  すかさず入ったヴィヴィオの攻撃を緋雪は空いた手で受け止るが、その上からアインハルトのカウンターが入り、緋雪に明確なダメージが入る。

「入った...!」

「油断しないでください!」

「っ...!?ぁあっ!?」

  攻撃が通った事に一瞬喜ぶヴィヴィオだが、反撃に来た緋雪の攻撃をぎりぎりで受け流し、そのまま吹き飛ばされてしまう。

「ヴィヴィオさん!」

「ふふっ、よそ見厳禁...だよっ!」

「くっ...が....!?」

  ヴィヴィオが吹き飛ばされた事に動揺したアインハルトにも攻撃は及び、受け流し損ねて吹き飛ばされる。

「『アインハルトさん!無事ですか!?』」

「『なん...とか...!ヴィヴィオさんこそ大丈夫ですか?』」

「『これでも緋雪お姉ちゃんに散々鍛えられたもん。大丈夫...!』」

  どうやら緋雪は積極的に攻撃する事はないようなので、ヴィヴィオとアインハルトはその隙に体勢を立て直す。

「『....手加減されています。』」

「『...やっぱりそうだよね。.....でも。』」

「『だからこそ付け入る隙が....あります!!』」

  念話でそう言った瞬間に、アインハルトは飛び出し、緋雪に接近する。

「はぁっ!」

「っと、ふふっ。」

「っ...!」

  回し蹴りを繰り出し、それが躱され、反撃がくる。
  それを、顔面スレスレでアインハルトは避ける。

「せいっ!」

「残念♪」

「その防御魔法は....何度も見たよ!」

     ―――パキィイン!

  すぐさまヴィヴィオが後ろから殴りかかる。
  それを緋雪は防御魔法で防ぐが、未来で同じような防御魔法を何度も見たヴィヴィオにとっては、それは絶好のチャンスだった。
  一瞬で防御魔法を破り、隙を作る。

「「はぁああっ!!」」

「っ....!」

  そして、挟むように二人で緋雪を攻撃する。

「ぐっ...いい加減に...しろっ!!」

「「っ....!」」

  しかし、その攻撃は受け止められ、反撃が繰り出される。

「させ....!」

「ないっ!!」

  それをヴィヴィオが受け流し、アインハルトがカウンターを決める。

「ぐっ....うざったい!!」

  またもや攻撃が通るが、次の瞬間、二人がいた場所を魔力弾が通り過ぎる。

「(魔力弾...遠距離攻撃を使ってきた...!)」

「(付け入る隙があるとはいえ、戦いが長引けばこちらが不利...!)」

  間合いを離し、魔力弾を避ける二人は同時に同じことを考える。

「(だからと言って、緋雪お姉ちゃんは短時間では倒せない!)」

「(決め手となるのは....!)」

「ふふ...あははは!!なーんだ、結構やるじゃん!じゃあ、もうちょっとだけ本気出してもいいよね!!」

「「(導王流による強力なカウンター....!!)」」

  長期戦になればなるほど緋雪は本気になり、強力な攻撃をしてくる。
  それを導王流によるカウンターで決めれば倒せると、ヴィヴィオとアインハルトは念話で話さずともそれを理解した。

「「(...ここからが正念場....!)」」

  まだまだ続く死闘に、二人は身を投じた。







「“弓技・矢の雨”!」

  一方、椿の方では、椿が矢の雨を放ち、妖の群れを貫く。

「はぁあああっ!!」

  矢の雨を逃れた妖に向けて、葵がレイピアで貫き、どんどん処理していく。
  ...が、妖はそこそこ強いのか、矢の雨にもレイピアにも貫かれて生きている個体も存在していた。

「....っ、キリがないわね...!」

「雪ちゃんによって強化されてるんだろうね...。頭に風穴開けても死なないよ..!」

  妖でも頭を貫かれるのは致命傷な事が多い。
  だが、今回はそれでも死なない場合が多いのだ。

「蜂の巣にしてやるしか倒せないわね...。」

「この数相手に一体一体それをするのはきついね...!」

「文句言ってる暇はないわ..よっ!」

  二人はその場を飛び退き、妖の攻撃を回避する。
  椿は回避した後、すぐに矢を番え、そこを狙った妖の攻撃を葵が防ぐ。

「煌めきなさい...“弓技・閃矢”!!」

  そして椿から光の矢が三つ放たれ、妖の群れを穿つ。

「ついでよ受け取りなさい!」

   ―――“旋風地獄”

  さらに、振り向いて御札を三枚投げる。
  それらに込められた術式が一斉に発動し、風の刃が群れを吹き飛ばす。

「...貫け。」

   ―――“呪黒剣”

  それにより一時的に妖の攻撃を防ぐ必要のなくなった葵が、レイピアを地面に刺し、巨大な黒い剣を地面から生やし、大量の妖を貫く。

「っ、っと...!」

「葵!」

  攻撃の隙を突かれ、葵はレイピアで攻撃を防ぎつつも後退する。
  そこへ椿が回復の術式を込めた御札を投げつけ、回復させる。

「ありがと....かやちゃん!後ろ!」

「っ...!くっ、きゃぁっ!?」

  しかし、椿の後ろから来た攻撃に、椿は回避しきれずに吹き飛ばされてしまう。

「嘘...あれって....!」

「っ....そうね、負の感情を増幅させた存在が多いのなら、いるはずよね...!」

  体勢を立て直し、椿は葵の傍で呟く。
  目に映るのは、椿の闇の欠片...ただし、黒いオーラのようなものを纏っている。

「嘆き、怒り、憎しみ、全てを祟ってやろうと思った私が!」

「ぁああ...!かえ、せ..!薔薇姫を...返せぇええええええ!!!」

  瞬間、闇の欠片から黒い瘴気のような触手が伸びてくる。

「じょ、冗談じゃないよ!それってかやちゃんが祟り神化したようなものって事!?」

「ホンット、冗談じゃないわ...!アレ、別格の強さよ...!」

  しかもそれだけじゃない。椿の闇の欠片の他にも、妖の群れもいるのだ。

「....責任持ってアレは私が相手するわ。葵は他の奴を。」

「かやちゃん!?それは....!」

「私の事は私がよく知ってる。...私が招いた事だもの。私が処理するわ。」

「っ....分かったよ。他はあたしに任せて。」

  椿は御札に仕舞っていた短刀を取り出し、単独での戦い方に変える。
  葵も構えを変え、護りから攻めへと変える。

「...司や優輝がいなければ、私はああなってたのね。」

  椿は自身の闇の欠片を見てそう呟きつつ、苛烈になる戦闘へと再び身を投じた。







「これ...は....!?」

  一方、結界に転移してきた管理局組は、街で蠢く妖の群れに戦慄していた。

『そこら一帯に何かの術式が仕掛けられてるよ!多分、それが闇の欠片を集めてる原因だと思う!』

「なるほど...!厄介すぎる...!」

  追いついてきたクロノがエイミィの通信にそう言う。
  結界内の闇の欠片がここに集まるとなると、相当危険な事になる。
  しかも、この地帯の近くに椿たち四人や緋雪がいるのだ。放置しておけない。

「全員!戦闘態勢に入れ!この闇の欠片を殲滅する!」

  クロノが鋭く指示を飛ばし、全員が戦闘態勢に入る。

「(この数...!しかも中心地で明らかに戦闘が起きている。あの四人は一体どうやって戦っているんだ...!?)」

  闇の欠片を集めてメリットがあるのはU-Dか緋雪だけ。
  だから放置もできず、その中心で戦っている椿たちをクロノは心配していた。









「あぐっ....!?」

「アインハルトさん!」

  受け流し損ね、吹き飛ばされる。
  だが、威力はだいぶ流せた方なので、まだアインハルトは戦える。

「油断禁止。」

「しまっ...!?」

     ―――ズパァアン!!

  背後に回り込まれた一撃を、ヴィヴィオはギリギリで受け流す。
  平手で叩いたような、空気が殴られる音を聞きつつ、受け流した反動で吹き飛ばされる。

「実戦経験がまるでなし。そんなんじゃ、私は殺せないよ!」

「っ....シッ!」

  復帰してきたアインハルトが拳を繰り出す。

「その戦法は....。」

「っ、はぁっ!」

「見飽きたよ!!」

「がふっ...!?」

  回避され、反撃の拳を受け流し、カウンターを決めようとして...魔力を使った掌底のような攻撃で吹き飛ばされた。

「『っ...ヴィヴィオさん!』」

「っ!?バインド...!?」

「“セイクリッドブレイザー”!!」

「....甘い!」

  アインハルトが吹き飛ばされた瞬間にバインドが仕掛けられ、その背後からヴィヴィオが特大の砲撃魔法をお見舞いする。
  ...しかし、それを緋雪はあろうことか魔力を纏わせた手の爪で切り裂いた。

「てやぁああっ!」

「....っ!」

  だが、それすら読んでいたようにヴィヴィオは接近し、回し蹴りを放つ。
  それに対抗するようにもう片方の手で吹き飛ばそうとして...。

「『させ...ません...!』」

「なっ...!?ぐっ....!?」

  そこへ、ピンポイントに衝撃波が手に当たる。
  アインハルトが放った衝撃波だ。

「っ...ふふ...あははははははは!!いいよ!そこまで足掻くなら遠慮なく殺してあげる!親友に似てるからって遠慮しすぎだよね失礼だよね!!」

  ヴィヴィオの回し蹴りは決まった。
  しかし、それが原因かは分からないが、ついに緋雪は本気を出してしまった。

「っ!?」

「....吹っ飛べ!」

  回し蹴りの隙を突き、緋雪はヴィヴィオの足を掴む。
  そのままアインハルトがいるであろう方向へ投げる。

「ぁああああああっ!?」

  凄まじい力によって無理矢理投げられたヴィヴィオは、何とか途中で体勢を立て直す。

「...貫け。“スカーレットアロー”。」

「(っ...!私が避けたらアインハルトさんが...!)」

  緋雪はそのままシャルを用いて紅の矢を放つ。
  ヴィヴィオをアインハルトの方向に投げたのは、ヴィヴィオが避けれなくするため。
  だからこそ、ヴィヴィオは避けずに矢を対処しようとした。

「...パパ、力を貸して...!」

   ―――導王流“流水”

「っ....ぁあっ!!」

  目の前まで来た魔力の矢に、手を添え、するりと横へ逸らす。
  瞬間、ヴィヴィオは吹き飛ばされるが、アインハルトが吹き飛ばされた場所よりは大きく外れ、ヴィヴィオへのダメージも最小限に抑えられた。
  ...それでも十分なダメージだったが。

「(まだ...まだまだ....!!)」





「はぁ...はぁ....。」

「っ...ふぅ....。」

「ふふ♪あはは♪あははははははは♪」

  受け流し、反撃し、受け流し、吹き飛ばされ、その繰り返しで、ヴィヴィオとアインハルトはボロボロになっていった。

「(なんとなく分かる.....()()()()()()()()()...!)」

「(それに対して私達は限界...でも、戦わなければ...!)」

  止められるのはアインハルトとヴィヴィオしかいない。
  実際、もし二人以外が戦っていれば手加減もなく容赦なく惨殺されていただろう。
  かつてのオリヴィエとクラウスに似ており、さらに導王流を扱うからこそ、緋雪の油断に付けこみ、相性の良さで戦えているのだ。
  ....だから、二人はここで倒れる訳にはいかなかった。

「(形勢は圧倒的に不利。むしろ、窮地と言ってもいい...!)」

「(それでも、緋雪お姉ちゃんを倒せるのは....!)」

  息を整え、再び二人は限界を顧みずに緋雪に挑みかかった。

「「(私達だけ.....!!)」」











   ―――狂気との死闘は、終わらない...。







 
 

 
後書き
導王流“流動”…簡潔に言えば導王流の中で基本的な受け流しの技。流れるような動きに敵の攻撃を巻き込み、受け流すという技。
導王流“流水”…流水の如き動きで敵の攻撃を受け流す。“流動”の上位互換。

...あ、今はU-Dの姿が影も形もないですが、離脱する際の優輝の魔法が少しは効いている&完全に目覚めた訳じゃないのでそのための休息状態になっています。(運よく?見つかってないだけ。) 
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