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5部分:第五章


第五章

「お裁縫よ」
「家庭科ね」
「一番の問題よ」
 こう母に言うのであった。
「一番の難敵よ」
「最強最後の難関ね」
 まさにだ。それこそがだった。
「裁縫こそが問題なのね」
「参ったわね」
 また言う真央だった。
「どうしたものかしら」
「やるしかないでしょ」
 母の言葉は簡潔なものだった。
「それとも宿題すっぽかすの?」
「それはしないから」
 真央は母に対してきっぱりと言い切った。
「というか宿題忘れたら大変なことになるから」
「シベリアに送られるの?」
「北朝鮮送りよ」
 よりによってそちらだった。
「もうね。独裁対象地域に送られるのよ」
「凄いわね。それは」
「例えだけれどね。流石にそれはないけれどね」
「まあね。そんな怖い学校実際にはないわよ」
「校庭のグラウンド五十周よ」
 それがお仕置きだというのだ。夏休みの宿題を忘れた場合のだ。
「だから。何としてもね」
「やるしかないわね」
「やるわ。意地でもね」
 こうしてだった。真央はだ。
 その最大最強の難関に挑んだ。裁縫である。
 見ればタオルを縫って雑巾を作っている。しかしだった。
 一針縫う度にだ。指や手を刺してしまっていた。
「痛っ」
「また?」
「うう、またよ」
 苦い顔で母に答える。
「お裁縫って何でこんなに難しいのよ」
「雑巾作ってるだけでしょ」
「それでも難しいのよ」
 彼女にとってはだ。まさにそうだった。
「こんなに難しいのって世の中にあるのね」
「何か行くみたいなこと言うわね」
「東大?そんなレベルじゃないわよ」
「もっと上なの」
「上も上よ」
 裁縫を続けながら話していく。その間も指を刺してしまう。
「阪神を日本一にさせる位難しいわよ」
「そこまでなのね」
「そうよ。ミシンを使ったら駄目って」
「あんたミシンも駄目でしょ」
「全然駄目よ」
 とにかくだ。不器用なのだ。そんな真央にとってはだ。裁縫こそはこの世で最も苦手なものなのだ。だからミシンも駄目なのである。
「けれど実際に手を使うのはね」
「もっと苦手なのね」
「全然進まないわよ」
 見ればその通りだった。怪我ばかりして全然進んでいない。
「どうしようかしら」
「一日もあるじゃない」
 母はあっさりとした口調で話した。
「そうでしょ。一日もよ」
「一日ね」
「そう、一日もあるのよ」
 こうだ。それだけの時間があるというのだ。
「しかもユンケルとコーヒーも飲んだじゃない」
「スッポンのエキスもね」
「だったら頑張れるわね」
「まあスッポンもあったら」
 頑張れると話す真央だった。少なくとも体力的には大丈夫だった。しかも気力もだ。二日徹夜だったがそれでも充実はしていた。
 
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