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FAIRYTAIL転生伝 ~ 黒き魔王は妖精と共に ~

作者:ラドゥ
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第六話『エルザの決意』






「・・・・・・・・」


その少女、エルザ・スカーレットは見るも無残な姿になりながらも自らが普段寝床にしているその牢屋へと戻ってきた。



ざわっ・・・!



「エルザ!!!」
「姉さん!!!」


そんなエルザを出迎えたのは、仲間の自分の名前を呼ぶ声と、同じ牢屋にいる奴隷たちの驚きのざわめきだった。


仲間の一人であるシモンはあることに気づきエルザに問いかける。


彼女を助けにいった二人の仲間たちの姿が見えないことに。



「ジェラールとユウトの奴らはどうした?あいつら・・・・奴らの目を盗んでエルザを助けに行くって・・・・」


だがエルザは答えない。ただ震えながら黙り込むだけだった。

シモンはさらに質問を続けようとするが、それをいさめる者がいた。


彼の名は“ロブ”。この楽園の塔においてジェラールやユウトたちのような子供の奴隷の面倒を自分から率先してみる、彼らからしたら楽園の塔での親代わりのような存在の老人だ。


「そっとしておいておやりよ。かわいそうに懲罰房でよっぽどヒドイ目にあったんだろうねえ」


それはエルザの今も小刻みに震えているぼろぼろに体を見ての言葉だった。ロブはエルザが黙っているのは懲罰による恐怖と疲労からだと判断したのだ。


しかしその考えは半分は間違いであった。


エルザの体を襲っているその震えは、ロブが想像したように長時間懲罰という拷問を受けていた恐怖と疲労によるものでももちろんあったが、なによりも自分を助けにきてくれた大事な人たちがひどい目にあってもなにもできない自分の無力さへの絶望感から来たものだった。


(わたし・・・なにもできなかった・・・)


エルザは自分を責める。


彼女にとって自分を助けてくれた二人、ジェラール・フェルナンデスとユウト・ベラトリックスの二人は特別な存在だった。


ジェラールは正義感に溢れ頼りがいのあるリーダー的存在。エルザは彼のことを心の中で兄のように慕っていた。


そしてユウト・ベラトリックス。この楽園の塔にきて初めてできた同年代の仲間。


彼とエルザが出会ったのは約一年前。エルザがこの塔に連れてこられてまだ一週間ほどしか経っていなかったころのときだった。


そのときのエルザはまだ仕事を覚えたばかりで慣れないまま塔の建設に従事していたが、やはり来たばかりの幼い少女には塔の仕事は無理があったのだろう。運んでいた建材が崩れ落ち、あたり一面に散らばってしまった。


当然神官は怒り、エルザにむかって何度もムチを叩きつけた。彼女が泣いても謝っても許さず、何度も何度も。


エルザは絶望した。無理矢理連れて来られ、無理矢理仕事をさせられ、そしてそれに失敗すると暴力を振るわれるこの理不尽な状況に。



それから助け出してくれたのが、ユウト・ベラトリックスだった。




ユウトは突然現れたかと思うと神官のムチからエルザをかばい、その神官を口で黙らせエルザを折檻から救い出した。


エルザは目の前で起きた出来事に最初はなにが起こったのかわからなかった。信じられなかったのだこの楽園の塔で誰かが自分を助けてくれるなんて。


彼女はこのとき、この楽園の塔に来てからまだ一週間だったが、その間、彼女を助けてくれる者はだれもおらず、気に掛ける者もだれもいなかった。皆自分のことに精いっぱいで見知らぬ少女に構っていられなかったから当然といえば当然だろう。


少女もそれが当然だと心の中では理解していたからこそ、ユウトが自分を助けてくれたことに心の底から驚いたのだ。


ユウトはエルザを自分の仲間に招いてからもなにかと彼女のことにいろいろ気を配ってくれた。仕事の仕方を丁寧に教えてくれたり、自分ひとりで運べない貨物を運ぶのを手伝ってくれたり、落ち込んでいるときはよく励ましたり、おもしろい話をして楽しい気持ちにさせてくれたり。


ユウトにとってもなんでもなかったことかもしれない。しかし絶望に心をむしばまれ、荒んでいた少女にとって、そのユウトの優しさはとても温かく、心にしみていった。


それからエルザはユウトのことを常に目で追うようになっていた。


仕事をしているユウト、汗を拭いているユウト、不機嫌なユウト、笑っているユウト、眠っているユウト、食事をしているユウト。そうやってユウトのことをこっそりと観察しているうちに、エルザはユウトがどういう人間かわかってきた。


ユウトはジェラールのようにリーダーシップをとるような人間ではなく、一歩後ろから皆のことを見守ってくれている、ジェラールが皆を導く太陽ならば、皆を安心させるような月のような存在。それがエルザからみたユウト・ベラトリックスという人間だった。


エルザはそんなユウトのことをみているうちにあることに気がついた。


彼を見るたびに自分の胸が締め付けられるようなそんな痛みを感じることに。





エルザはいつの間にか惹かれていたのだ。ユウト・ベラトリックスという少年に。


少女を襲っているのはそんなユウトの危機になにもできない自分への失望。それだけだった。


(なんて・・・私は無力なんだろう・・・・・)



と、そこでエルザは誰かのすすり泣くような声に気づく。

見ると自分の仲間の一人であるショウが目から涙を流しはじめていた。



「ぐす・・・もうやだ・・もうこんなトコやだぁああっ!!!」



ジェラールとユウト。この二人の兄貴分の存在は、塔の過酷な環境で生きる中で、少年にとって重要な心の支えになっていた。だが今回のことでその兄貴分二人を失ったショウは今まで押さえていたこの場所への恐怖により心が塗りつぶされ、我慢がきかなくなってしまった。それ故の慟哭だった。


やがてショウのその泣き声に二人の神官がエルザたちの牢屋にやってくる。


「何の騒ぎだーーー!!!」


それを見たロブやウォーリーたちはさすがにマズいと思ったのだろう。ショウを落ち着かせようとするが、ショウは泣き止まず、神官の脅しの声も全く効果がなかった。


エルザはその騒ぎを、目を瞑り耳を塞ぎ、必死でおさまるのをまった。


もううんざりだったのだ。年端もいかない少年奴隷を神官が武器を振りかざして恫喝する。その見慣れた、いや見慣れてしまった(・・・)光景が。



そこでエルザの脳裏にある映像が浮かんだ。


それはエルザが最後に見たユウトの姿。

そのユウトが最後に口にした言葉をエルザは思い出した。








『もう戦うしかないんだ』




「ッ!!」

そうだ!ユウトたちは私を決死の覚悟を決めて助け出してくれた。


なら、


(私も戦う覚悟を決めるべきだ!!)


それからのエルザの行動は早かった。



「うぁあぁああぁあぁあああぁっ!!!!」
「「ッ!?」」


油断している神官の一人の武器を奪うとそのまま二人まとめて吹き飛ばした。


「なッ!?」


同じ房にいた奴隷たちは驚愕する。自分たちの上位者である神官に、自分たちより幼い少女が手をあげたことに。


「反乱だーーー!!!!」


エルザの行動を見た神官が叫んで仲間たちに呼びかける姿を見てエルザは思う。



もう後戻りはできないと。



エルザは自らがいる牢屋の中を見渡す。その誰もが、エルザを呆然とした顔で見ていた。


「従っても逃げても自由は手に入らない」


彼女は語る。自由とはなんたるかを。


「戦うしかない!!!!」


彼女は呼びかける。自由を手に入れるために。






彼女は叫ぶ!自由を勝ち取るために!!



「自由の為に立ち上がれぇぇ!!!!」



オォオォオォオ!!!!



エルザの言葉をうけた奴隷たちは咆哮する。戦いの覚悟を決めて。







そして彼女たちの反撃が始まった。


 
 

 
後書き
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