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ヴィーナスの誕生

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第四章

「仮にも俺がモデルに頼んだんだぞ」
「しかもヴィーナスに」
「美人だぜ」
「可愛いじゃなくて」
「ああ、美人だよ」
 そちらだというのだ。
「凄いな」
「美人なんですね、その人は」
「俺が保証するよ」
「あの、先輩の好きなアイドル、女優さんは」
「シノマリ、さしはら、こじはるだな」
 AKBで言うと、というのだ。
「まあシノマリさんは卒業したけれどな」
「奇麗系ですね」
「どの人もそうだろ」
「それもお姉さんって感じで」
「ちなみにAV女優だと波多野結衣さんな」
「マニアックですね」
「あの人がダチのお母さんかお姉さんだったらな」
 先輩はこのことは大真面目で言った、はっきり言って僕がこれまで見た中で一番真面目な感じにさえなっていた。
「いいよな」
「何でいいんですか」
「そんなの言わなくてもわかるだろ」
「そのお母さんやお姉さんとですか」
「フランス書院の本は読んでるか?」
「読んでたら怒られますよ」
 親なり先生にだ。
「あそこの本は」
「そうか。俺は読んでるけれどな」
「中学生なのに」
「馬鹿言え、そこは黙ってるんだよ」
 実にブラックな話だった、先輩はあくまで大真面目だ。
「古本屋とかで買ってもな」
「そうした本を読んでいても」
「言わないんだよ、それでな」
「AV女優ですと、ですね」
「波多野結衣さんだな」
  この人が一番だというのだ。
「ああした人がいいな」
「年上で奇麗な人ですね」
「そいつは同級生だけれどな」
「奇麗な人ですな」
「だから見てみろ、俺がモデルに頼んだ娘をな」
 こんな話をしながらだった、僕達は美術部の部活に行く前にだった。バスケ部の部活に行ってだった。そうして。 
 その人に会ってみた、みれば。
 切れ長の大きな見事な目でだ、睫毛は長く瞳は黒くてきらきらとしている。
 髪の毛は黒くて長く伸ばしていてそれを後ろで束ねている。顔は面長で唇は小さくて紅色だ。お鼻は高くて西洋人みたいだ。
 すらりとしていて足も長い、何か小説とかのエルフみたいだった。服は体育会系の部活らしく上下共に学校指定の青いジャージだ。ちなみに僕達は詰襟のままだ。
 その人はだ、まずは先輩を見てだった。先輩にむっとした顔で言った。
「あの話は断ったわよ」
「もうしねえよ、こっちも」
 先輩もその人にむすっとした顔で返す。
「延髄斬りに卍固めか」
「今度言ったらネックブリーカードロップも仕掛けるから」
「だから言わねえよ、とにかくな」
「とにかくって何よ」
「ちょっと会いたいって奴がいてな」
「そっちの子?一年生よね」
「俺の一つ下の後輩だよ」
 先輩は僕を指し示しつつその人に話した。
「こいつがな」
「私に会いたいっていうのね」
「そうなんだよ」
「そうなの、ねえ君」
 ここでだ、その人は。
 僕に顔を向けてだ、こんなことを言って来た。
「こいつから話を聞いたのね」
「あっ、はい」
 その通りだとだ、僕はその人に答えた。見れば見る程足が長くてすらりとしていて背も高くてだ。エルフみたいだった。 
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