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ヴィーナスの誕生

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第三章

「なってくれるかって聞いたら」
「殴られました?」
「延髄斬りの後で卍固めかけられたぜ」
 アントニオ猪木さんのファンらしい、その先輩は。
「その後でダーーーーッ、って叫ばれたよ」
「猪木マニアなんですね」
「それでモデルはなかったんだよ」
「難しい話だな」
「とにかくな」
 先輩は僕にさらに話してくれた。
「この絵の話は俺もまだ描いてないよ」
「オリジナル描いた方がいいですよ」
「こういう名画を描いてみるのも練習なんだよ」
 実は先輩は部活は真面目だ、確かにふざけたところはあるにしても。
「だからやってみたけれどな」
「そうなんですね」
「とにかくな、今こうしたスタイルの人はな」
 あらためてだ、先輩はそのヴィーナスの誕生を指差して僕に話した。
「絵のモデルにはならないな」
「そうなんですね」
「美人ってのは時代によって、その人によって違うんだよ」
「好き嫌いってありますからね、そういえば」
「そういえば?何だよ」
「先輩に延髄斬りと卍固め決めた人ですけれど」
 そのバスケ部の女猪木さんだ。
「絵のモデルにお願いしたんですよね」
「ああ、そうだよ」
「それもヴィーナスの」
「ってことは」
 そう聞いてだ、僕は先輩に言った。
「その人って」
「ああ、確かにな」
「美人さんですか」
「一回見てみるか?」
 こんなことも僕に言ってきた。
「よかったらな」
「この目で、ですか」
「百聞は一見に然ずだろ」
「はい」
「だったらな」
「その人バスケ部ですよね」
 僕は先輩にこのことも確認した。
「そうですよね」
「さっき言った通りだよ」
「じゃあバスケ部の部活に行けば」
「いるぜ、いつもな」
「わかりました、じゃあ」
「俺も一緒に行くからな」
 こうした話をしてだった。
 僕は先輩がヴィーナスのモデルにとお願いしたその先輩と会うことになった、だがこの時にふとだった。僕は。
 放課後にバスケ部の部活が行われている体育館に向かいながらだ、こう尋ねた。
「あの、先輩に延髄斬りですよね」
「裸になってくれって言ったらな」
「いきなりですか」
「凄い一撃だったぜ」
 その延髄斬りはというのだ。
「効いたぜ、それでな」
「その後で、ですね」
「アントニオ=スペシャルな」
 即ち卍固めをというのだ。
「これも効いたぜ」
「最後はしかもあれですね」
「いいダーーーーーッ、だったな」
「まさかと思いますけれど」
 ここまで聞いてだ、僕は言った。
「アントニオ猪木さんそのものですか?」
「性別が違うだけでか」
「顎が立派で」
「いや、違うからな」
「ただの猪木ファンですか」
「趣味はな。確かにプロレス好きでな」
 それで猪木ファンでもというのだ。 
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