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SAO二次:コラボ―Non-standard arm's(規格外の武器達)―

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chapter4:Light that plugs into trouble(思案に差す光明)

 
前書き
キリト:銃撃機構付き片手直剣

シノン:スナイパーライフルからアサルトライフルへ変形する銃

リーファ:魔法の放てる剣型武器

シリカ:両手槍への可変機能を持つ短剣


―――こうして見ると、リーファが一番使い勝手良さそうですね。
 でも狙う個所もあるし、火力がそこそこ出そうなのはシノンかなぁ……。

 そして一番使い勝手の悪そうなのは、やっぱりシリカでしょうか。それともキリト?
 まあ使い手の技量もありますから、どっちもどっちかもしれませんが。


では、本編をどうぞ。 

 
 
 
 所々に数本の木が立ち並ぶ、初心者御用達の草原。
 現実時間とリンクしている為かやや陽も傾き始め、黄金(こがね)の光がその草原を照らす頃。
 

「もう……一回!」
「次頼む!」
「はい! ――――せえぃっ!!」


 約一時間前に響いた声と、ほぼほぼ同じ声が草原に僅かに木霊し、吸い込まれて消えていく。
 三対四という数の違いこそあれど、他を比べるならメンバーにも武器種にも、何ら大きな違いなど存在しない。

 キリトは銃撃機構仕込みの剣を手に持ち接近戦を行い、
 リーファは魔法具を手に持ち中距離をメインに据え、
 シノンはスナイパーライフルで遠距離からの狙撃を続け、
 シリカは短剣を手に己の出来る事を実行する。


 役割分担は変わらず、《見た限りで》異なる物を上げるとするなら―――モンスターの数が違う為、キリトとシノンが二体を、リーファとシリカが一体を請け負っている事だろうか。


 否……もっと大きな変化が、彼等パーティーの間に起きていた。


「よし……教えて貰った通りに……!」


 ブツブツ呟いていたシリカだが、槍型の牙を持つ猪が自分目掛けて突っ込んでくるのを見やると、すぐに短剣を胸の前で斜めに構える。

 攻撃事態は単調なので苦も無く回避でき、間髪いれずに接近。
 高速で刃を往復させ、二の字を描いて切り付ける。


[ブギィッ……!!]
「シリカ、下がって!」


 振り切ったその隙を狙う槍牙猪を牽制しつつも、リーファは彼女へと声を飛ばす。

 が、何故だろうか……シリカは下がろうとせず、一定距離からも離れない。
 それどころか―――更にもう一発斬り付け、“流れ” に大きな歪みを作ってしまったのだ。


「シリカっ!」


 リーファの叫びも空しくイノシシの牙は振り被られ、至近距離に陣取るシリカへ迫る―――!


「はっ!」
[ウウウゥゥゥッ……!!]


 直前に軽く跳躍したかと思うと短剣が両手槍に変形し、掴んでいるシリカの身体を空中へ持ち上げてしまった。
 勢いからか、握った手を支点としてポールダンスの如く、僅かながらシリカの位置がずれた。


 しかしシリカが攻撃を避けれようとも、握った槍は動かない所為で牙を避けられない。
 打ち払う様に柄に激突して、小柄な体が振り回される…………直前、再び短剣へと戻った得物をシリカは徐に振りかぶり、


「せいっ!!」


 上空から落下しつつ一発、高らかな風切音とともに斬り付ける。
 そのまま跳び込んでのローリングで猪の横に抜けるともう一度跳躍し、モンスターの振り向きざま両手槍に変形させ突き刺しつつ距離を放す。


 最後……バランスを崩す前にまたも短剣に戻して、隙有りとばかりに突進してきた槍牙猪をヒラリとかわして見せた。


「……へっ?」


 一時間前とは段違いのキレと滑らかさ、そして可変機構の絶妙な差し込みに思わず、リーファは呆け棒立ちになってしまった。


「リーファさん前っ!!」
「!? ちょ、うわわわ!? ……あ、あぶなぁ……!」


 寧ろ驚きに引き摺られて動きが悪くなっている分、彼女の方が危険を呼び込んでいるかのようだ。

 呼びかけのお陰か紙一重なものの、如何にかこうにか猪の突撃を避け切ったリーファは一旦息を整え、槍牙猪が蹄で地を掻く動作をしている間にシリカへ問いを投げかけた。



「シリカ、動きすっごく良くなってるけど何かあったの?」
「えへへ……実はですね、とある人にこの武器の使い方を、色々と教えて貰っちゃったんです」
「有る人って―――」

[ブギイイギギイィイィ!!]


 誰なのかとリーファが続けて問い掛ける前に槍牙猪は、濁った響きの鳴き声を上げ、またも草を散らし誇りを巻きあげ体当たりを仕掛けてくる。
 バッ、とほぼ同時のタイミングで二手に分かれ回避し反対側に居るシリカをチラと見やったリーファは、取りあえず聞くのもこの戦闘が終わってからにしようと表情を引き締めた。

 弧を描いて若干ながらドリフトして止まり、現在のパラメータでは近付くのも少々躊躇われる数メートル遠くに陣取る猪は、蹄で地を軽く叩き目線をシリカとリーファの間で往復させている。
 目的と定めるはリーファか、シリカか。
 打ち据えるは魔法具使いか、槍&短剣使いか。

 大凡五回は所作を繰り返し、一回強く地面を穿ち突っ込んでいった先は―――――リーファ。

 後方へと派手に砂煙を上げ、今までと何ら変わらぬ力強い足音を上げて、巨体と槍牙を突き刺さんと迫りくる。


「甘いよ、っと」


 されでいくら迫力があろうとも、初戦それは見慣れた動作。リーファとて慌てる事はしない。
 余裕の表れなのか、マタドールもかくやのギリギリさと身軽さを持って体を翻し、通り抜けざま猪に一本の赤い切り傷を刻む。

 更にまた舞う様な半回転から、トリガーを押しながら振り切る事で臀部目掛け風の魔法刃を三つ、全て狙い通り命中させて見せた。

 ヘイト値の変動により、ターゲットがリーファへと固定されたかいっそ執拗なまで槍牙を持ち突撃してくる猪にも、彼女はまたダンスさながらの動きにて次々回避していく。
 三日月と蕀が宙を舞い、槍牙猪に突き刺さっていく。


「私もっ……!」


 ターゲットが自分から逸れているのを隙と見たか。
 シリカが右後部から近付き、短剣を振い数度も斬り付ける。

 より深い赤のダメージエフェクトが刻まれるが……現実のファンタジーならいざ知らず、ゲームであるこの仮想世界なのだから、当然その程度で狙いが変わる筈もない。


[ブギイイッ!!]
「! シリカ!」


 だが逆にゲーム “だからこそ”、例え本来なら焦って然るべきものであろうと、一寸の狂いすら見せず決まった反応を見せてくるのもまた事実。

 背後にプレイヤーがいる事と、二人のプレイヤーに挟まれた事をシステムが感知し、数瞬の為からシリカ目掛け、最大の武器足る槍牙を豪快な動作で振ってきた。
 重苦しい風切り音は、牙が空気を唸らせるに足る威力をもっているのだと、受けてへ否応にも分からせてくる。

 僅かに反応が遅れたシリカの目の目には、鈍く光る牙が既に見えている。このタイミングでは、受け止めるしかない。
 が、短剣は本来受け流す防御が主体の武器。自分よりも大きな敵の一撃を受け止める事が、果たして出来るのか……?


「なめないでください……!」


 否、確実に “出来る” 。
 何せ彼女の短剣は、両手槍に変形できるのだから。


「う、く……っ!」


 後ろ足を器用に扱い、軸に使って反転しながら振り上げられた牙を、僅かながら斜めに構えた槍の柄で完璧ではない物の受け流しに成功する。

 それでも勢いから弾き飛ばされてしまう……のだが、即座に短剣へ可変させていた事で、受け身無しに叩きつけられるという最悪の事態を回避する事が出来ていた。


 更に半回転したという事は―――思い切った攻めの出来なかったリーファに、この上ない好機(チャンス)を与えるという事。


「っ……めええぇぇぇん!!」
[!!??!???]


 それは即ち、リーファ本来のスタイルである『剣道ベースの剣術』活躍所に他ならない。

 気合い一発叩き込まれる最上段の一撃と、高らかな一声と共に至近距離で打ち込まれる魔法の刃。
 とうとう猪はHPを喰らい尽され……ポリゴン破片となって、煙を撒き散らしつつ消えていった。


「リーファさん、次行きましょう!」
「ん、OK!」


 視線の先、キリトとシノンの相手する猪二体のHPだが、片方はレッドギリギリなのに対し、もう片方は思うように減っていない。
 まだ緑色な事から、精々半分近くは奪ったという所。

 されどキリトもシノンも安全性と武器への慣れを優先している所為なのか、そこまで苦戦しているといった様子も見られない。

 これなら今すぐ双方に加勢するだけで、用意に流れを彼女等側に引き込めるだろう。


「キリト君、加勢するよ!」
「あぁ頼む!」

「シノンさん! 私も入ります!」
「……分かったわ、前衛お願い」


 キリトはリーファに即時返答したのだが、シノンはやはり不安があるのか多少還すまで間が開いてしまう。

 幾らか余裕があるといっても二頭は二頭。
 戦いに集中せなばならないので、先のシリカの事を確認出来てはいないのだし、この反応は至極当然のものだ。


 だから―――


[ブギギィッ!!]
「わっ……」


 猪の単調な突進を避け隙だらけになった所へ……本来ならまだ走らなければ届かない位置にも関わらず、たった二歩の踏み込みから切っ先を相手へ向けたまま、右半身で眼前にダガーを構え、


「せいあっ!」
[ブフオッ!?]

「……!」


 スピアーに変形させて腰を入れて貫いた事に、シノンは驚きを隠せなかった。
 そしてそれと同時に、自分の小柄な体と武器の相性を、よく考えて構えていると感心すらしていた。

 普通に構えて可変させてしまうと、柄の長さが影響してすぐに両手持ちには構えられない。
 だから宛らレイピアで突きを入れる直前の様な、身体を捻った格好を取ったのだ。
 体の近くで槍を抱える事が出来る上、捻る為の僅かなワンアクションを省けるのだから、よく考えられていると言えるだろう。


 更に近寄って繰り出された、猪の色う下段への頭突きを、今度は意図して行った棒高跳びの要領で何とかかわし、すぐに短剣へと戻した事にシノンはまたも驚かされる。


(小一時間で此処まで出来るようになるなんてね。……一体、何時の間に思いついたの?)


 シリカを無事範囲外へ逃れさせるべく援護射撃を行いながらも、シノンの口には小さな笑みが浮かんでいた。


 連続で叩きつけられる弾丸に怯んだ間隙を狙って、追い打ちとばかりにグレネードを投げ猪の上体を空へと打ち上げる。

 シリカも追随すべく跳躍、空中でも補正が利くお陰でバランスも崩さず、素早い二連撃を容易に打ち込み終える。


[ンギィィィイイイイイ!!]
「! しつこい奴ね……!」


 残り一割強の体力で、尚悪あがきを繰り出してくる槍牙猪へシノンが発砲。マズルフラッシュの瞬きから一瞬遅れてヒットエフェクトが鮮やかに咲く。


 しかし何時の間にか逆側へ構えられていた右蹄は、未だ空中へいる容赦なくシリカへ襲いかかってきた。


 多少のダメージは避けられないか。


「わわわっ!?」
[ブゥギイイィッ!!]


 情けない声音と共に鈍い音が鳴り…………両手槍に変化していた武器が猪を土台として、シリカの身体を強引に押し下げる。


 結果、最後の最後な悪足掻き虚しく空振り―――脳天を穿つシノンの狙撃で猪は硬直。
 直後に破片にかえり、煙と消えていった。


「……ヒュウ♪」


 情けなく尻餅をついてしまったシリカに対し、しかしシノンは口笛を吹いて意外な成長と健闘を称えるのだった。















「凄いよシリカ! あんなに美味く扱えるようになってるなんて!」
「素直に驚いたわ。中々やるわね」
「え、えへへ……まだまだですよ」
「いや、未だ銃撃に慣れない俺と比べれば十分だって」


 戦闘後、己々アイテムを確認する暇もなくシリカへ詰め寄り、興奮冷めやらぬと口々に褒め言葉を並べた。

 謙遜なのかそれとも本心か、シリカは頬を染めて照れながら頭を掻きつつ、呟いた。


「それにしてもシリカ……良くそんなアイデア思いついたな。槍を使って空中に飛び出したり、位置をずらしたりさ」
「構え方も少し変っていたわね」
「あ! もしかして、シリカって発想の天才だったり?」


 口々に推測を述べる面々に対し、シリカは途端に慌てながら眼前で両手を振りまくった。


「ち、違うます、じゃなくて違いますよ! ある人に指南して貰ったんです!」
「指南? って言うとNPCの教官じゃあないだろうし……他のプレイヤーからか?」 
「はい。実はですね―――」


 時折視線を上へと傾けながら、シリカは数十分前の出来事を語りだす。












 数十分前の鍛錬所。

 ロビーで白髪の少女と出会い鍛錬室に入った後。
 シリカはまず自己紹介をしようと彼女を真っ直ぐに見詰めた。


「あ、あの、私シリカって言います!」
「自己紹介ありがとうございます。私は、セツナと言います」
「セツナさん、ですか……」


 この『Non-standard arm's』の世界はゲームなのだから、アバターの容姿は身長・体幅・造形を如何様にも自由に設定できる為、現実世界での白髪の少女・セツナが美人だとは限らない。

 されど……架空の誰かを演じているというよりも、己の有りのままで居る様な彼女を見るたび、どうもただのアバターでないという気配すら、シリカは覚えていた。


 そうして、改めて見ても綺麗な人だとシリカが見惚れている間に、セツナはシステムウィンドウを開き、振り返りながらシリカへ確認を取ってくる。


「済みません。その武器の種類は?」
「あっ……えっと、短剣と両手槍です」
「ふむ、短剣と、両手槍……っと」


 それだけ呟くと後は悩む事もなく、慣れた手つきでメニューを操作し軽くクリックして武器を実体化させた。
 握られている武器は、シリカの持つ灰色系で塗られたシンプル造形のそれと違い、蒼いラインの美しい透き通るような刃と機械的な柄を有している。

 セツナは感触を確かめるかの如く、手の内でクルクル回しながら遊んでいたが……すぐに表情を引き締め素振りを始めた。


「……フッ!」


 袈裟掛けに振り切った直後、槍へと変形させ正面を二度突き、左手を動かして柄で打ち上げすぐさま短剣モードへと移行する。

 右手で受け流しを想定した構えを取りつつ左手に保持したままの短剣を三度振って、先端を上へ向ければ両手槍へ変形。
 架空の敵による攻撃をガードしたか柄が左へ鋭く跳ねて、斬り降ろしと下段刺突を繋げたコンボを実行。
 そこから頭上で槍を風車の如く回転させる。

 と―――唐突に穂先を左足近くへ突き刺し、タックルの要領で槍を撥ね上げたかと思うと一度の牽制から再び短剣に様変わりし、突貫から最後に左手での扱いを超える速度の三連撃で〆た。


「ふぅ」
「…………」


 再び手の内で、円形に見えるほど素早く回すセツナを見たまま、シリカは大口を開けたまま固まっていた。

 ただ無暗に変形させている訳ではない、両武器の役割を理解し使い分けている事もそうだが、攻撃一つ一つの錬度や滑らかさがシリカ自身の比ではない。
 その淀みなさたるや……失礼かとは思いながらも、そして『Non-standard arm's』では初心者なのだから仕方ないと思いつつも、シリカの知る中で一番の実力を持つキリトが霞んでしまう程。

 
 上手く武器の機能を“スイッチ”させ、更には二つの武器を贔屓なくどちらもそれなりに扱って見せた彼女の……たった一度の素振りでも凄みの分かる実力に、シリカは驚愕が止まらなかった。


「シリカさん?」
「ふぇ? ……ふぇ!? あ、はい、何でしょうか!」
「上の空に見えたので、一体どうされたのかと……」
「い、いえいえ! 続けてください!」


 疑問符を浮かべながらもシリカに促されたからか、セツナは疑惑の色のある表情を元の笑みまで戻して、傍にあった機械に歩み寄ると一度指で叩き起動させ、黒かった画面に数多の形と色が現れる。

 画面内に表示される幾つかの専用メニューから何やら選択し、踵を返して再びシリカの方へと戻ってくる。

 そして一つ、軽く咳払いをしてからセツナは説明を始めた。


「まず、シリカさんのアバターはとても小柄です。普通に変形させれば状況などにもよりますが、恐らく柄が地面に引っ掛かったり、構え損ねるでしょう。そういった事故に経験があるのでは?」
「はい……正にそれで躓いてます」


 シリカが武器を扱い兼ねている大半の原因が、その柄に邪魔され思うように振るえない、正にセツナが指摘した事柄だったりする。

 どうやって克服すべきか悩んでいる一番の問題点も、実は大部分が其処にあるのだ。


 セツナの言い分にシリカは素直に頷く…………と、何時の間にやら天井近くには、先まで影もなかった筈のデジタル式タイマーが刻まれたウィンドウが出現している。

 刻一刻と真っ赤なその数字が減っていくものの、『Non-standard arm's』ビギナーのシリカには一体何を図っているのか特定出来ない。


「シリカさんにピッタリな活用法を一つ披露しますので、よく見ていてくださいね」
「活用法……?」


 何が言いたいのかとシリカがセツナに問い掛ける、正にその瞬間、カウントが0になる。


[オ゛オ゛オ゛オ゛ォォォ]

「ふえっ!?」


 同時にポリゴンの破片が中央へ集まり、モノクロの液体で出来た様なモンスターが形成された。
 猪のようにも見えるが、シルエットだけでは特定しにくい事この上ない。

 鳴き声もまた、猪はおろか通常の生物の声とも違う、幾らか人工的なサウンドが混ざっていた。


「……行きますよ」


 瞬間―――土煙のエフェクトが宙を舞うと共に少女の姿は掻き消え、一筋の銀光だけがシリカの目に映る。
 神速にて詰め寄るや否や、四肢で威風堂々立ち尽くす猪型人工モンスターへ挨拶代わりの切傷を刻んだ。

 追撃はせず、二歩だけステップして下がる。


 そして――――如何いうつもりか手の内でダガーを弄びながら、セツナは反撃の構えも見せず重心を後ろへ掛け、明らかな逃げと避けの体勢を取っている。
 爪先でトントン地面を叩き、肩から腰へ、さらに胸元から頭上へ、ダガーを回転させながら次々手のある場所を移動させ、されど迎撃態勢には一向に入ろうとしない。

 まるで相手側の攻撃を、敢えて待っているかのように。


「……」


 セツナの地面を叩く拍子が、唐突に一瞬ばかり遅れて―――


[オ゛オ゛オ゛ォォ!!]


 それが合図となったかの如く、人工モンスターは悠然とセツナ目掛け、猛烈な速度で駈け出して来た。

 構えられし僅かにねじくれる牙に小細工など要らない。
 最早言うまでもない、質量任せの突進こそ一番の威力を発揮できるだろう。


「では、お披露目と行きましょう」
「……えっ?」


 聞き逃してしまいそうな音量で呟かれた言葉にシリカは聞き返し…………その疑問への答えは、“言葉”ではなく“行動”で返って来た。


「はっ!」


 襲いかかる人工モンスターにセツナが取った行動は、如何いう訳か余りに飛距離の足らない跳躍。

 だが驚く間もなく短剣が両手槍に変形し、そのまま『棒高跳び』よろしく頭突きを躱してしまう。
 オマケに越え掛ける直前で猪の尻を蹴飛ばし、空中前転からの着地を決める余裕まで見せた。

 勢い余って牙を地面に擦り付けた強引なブレーキを決める猪を見やりもせず、セツナはシリカへと振り返り、ダガーを再び弄びながら言う。


「これが、シリカさんが身につけるべき応用法の一つです。いうなれば『槍での棒高跳び』ですね」


 言いつつ微笑むと、更なる応用を教授すべくか、今度は相手の行動を待たずに自分から詰め寄るセツナ。

 牙による横薙ぎを同様の方法ながら、今度は武器に押し上げられる形でほぼ真上に飛んだ。
 確かにセツナは避ける事が出来たのだが、両手槍の方は長柄な為に引っ掛けられてしまい、勢いよく横に振れてしまう。

 が……数瞬でダガー形態へと戻しつつ強く握り、弾かれた影響を最小限に落とし、


「はあっ!」
[!!?]


 重力を活かす真上からの烈刃を、一切合財遠慮なしに叩き込んだ。

 驚いて滅多矢鱈と牙を振り回す人工モンスターに対しても、倒立後転から片腕で跳ね様に変形させた槍を突き刺しつつ、モンスターの重量と可変時の押し出しを活かして距離を取るなど冷静に対処して見せる。


「ふ、わぁ……」


 素っ頓狂な言葉を呟いたシリカの目線の先で、セツナはチクッと軽く鼻先を突いた。
 そしてHPが尽きた人工モンスターは声もあげず―――煙とポリゴン破片を散らして消えていった。


「と、まあ……この様な感じですか」


 三度、両手槍からダガーへ戻した武器をクルリと回し、セツナは数歩ほどシリカに近寄り笑った。 


「それじゃあ……出来るだけ丁寧に教示しますし、この動作だけを重点的に指導しますので、頑張ってくださいね」
「え? わ、私がそれをやるんですか!?」
「やるも何も、元よりその心算で見せていたのですが……」


 内心でシリカは【む、むむ無理無理! 無理ですよあんな大技!?】と、叫びたい衝動に駆られていた。

 昨日今日(ダイブし)たばかりのシリカにとって、幾ら初歩級の応用であろうとも、難易度がより高く見えるのは必然。
 追い打ちに、セツナの動作が余りに淀みなかった事も相俟って、余計高度なテクニックに見えてしまっているらしい。

 されど馬鹿正直にそんな事を口にすれば、折角時間を割いてまで教えてくれた彼女に失礼。
 きっかり十秒間黙りこくったシリカは、それでも如何にかこうにか弱音を呑み込み、バッ! と効果音がしそうな勢いで顔を上げる。


「そ、そうですよね! お願いします!」


 妙な気合の入り様にセツナはキョトンとしてしまうが、意気揚々とし始めたシリカを見て、その氷王はすぐに頬笑みへと戻った。



 まずはスイッチによる可変の基礎を改めて教えて貰い、実は二ヶ所あるスイッチを使い分ける方法からシリカは教えて貰う。
 ……ちなみにそのスイッチだが、彼女はテキストをよく読んでいなかったせいで、一番最初の方にしか気が付かなかったのだとか。

 兎も角そこから数十分みっちりと修行し、システムの恩恵や身体操作のコツなども教えても貰いながら『習うより慣れろ』で数をこなして行き―――丁度集合五分前には、実戦でも何とか使えるレベルまで漸く持っていく事が出来るようになっていた。

 当然セツナと比べればまだまだで、よりレベルが上のモンスターや複雑な動きをする敵、動きの読みあいにプレイヤースキルをぶつけ合いとなる対人戦では役に立つかどうか正直微妙だったが、形となった事がシリカには何より嬉しい事柄だった。


「セツナさん、有難う御座いました!」
「どういたしまして。それにこちらこそ、改めて動作を見直す良い機会になりました」
「えっと……また何かあったら、教えて貰っても大丈夫ですか?」
「はい、此方こそよろしくお願いしますね」


 最後に二人はお礼の言葉と再会の約束を交わして、人が心なしか増えてきた鍛錬場を後にした。














「―――と、いった感じなんです」


 シリカがぬきんでた技術を身に着けていた理由――――それに繋がる事の顛末を聞き終えたキリト達は、なるほどと言った感じで一様に頷いている。
 それでもキリトが笑み共に頷いているのに対し、リーファとシノンは若干ながら動きが鈍い。
 頷き方に差異があるのは……恐らくシリカが語った内容にあるだろう。

 言葉を選びながらも『キリトよりは上に思えた』とキッチリ話していた為に、セツナと言う名のプレイヤーの実力がどれ程の物か、彼の腕前を間近で見てきたリーファとシノンにも余り予想が出来なかった。
 寧ろ評価対象となった張本人であるキリトの方が、自分より強い奴は幾らでも居るという意識を既に持っていたお陰で、それなりに想像できている様だ。


「纏めてしまうと、凄腕プレイヤーのお陰で棒高跳びが出来る様になった、って訳なんですけどね」
「……本当、見事に纏めたわね。この上ない位に」


 まあ身も蓋もない事を言ってしまえばシリカが今し方話したような、要点のみを抜き出して話してしまえば、一応それで説明が終わってしまう。

 勿論そんな説明ならぬ説明をしようとも、チンプンカンプン街道一直線なのは火を見るより明らかだが。


「他にも色々教えて貰っちゃいまして……ちょっとした応用法その二、というか基礎中の基礎として、胸の前や顔の高さで水平に構える事で、槍に変形させた際に私の様な小柄なアバターでも引っ掛からず、次の行動に移れるそうです」
「確かに何時も通り構えたままだと、如何やろうとも引っ掛かるからなぁ」


 他にも抱え込んでいる様な体勢となるお陰で、槍を突き出して攻撃するまでの時間を減らせるメリットもあるキリトは気が付き、更なる感心を抱いていた。


「あ、あと他に悩んでいる方はいなかったかと言われまして……それでキリトさんの武器の事を上げたんですけど……」
「!! 何か活用法とか、解決策があったのか?」
「は、はい。といっても……突き刺した際の抵抗でトリガーまで指を持って行って、銃を発砲しながら斬り抜くといった簡単過ぎるもので……」
「それでも十分さ! ……そうか……耐久値がALOとは違う概念になってるし、そういった方法もあるよな……」


 密かながらに一人合点が入ったか、満足そうな顔でキリトは頷いていた。
 ……地味に多少ながら気持ち悪い、曰く“ニヤ~ッ”とした笑みが混ざったのは……まあご愛敬である。


 一頻り考えを巡らせてから、キリトはポンと古風な動作で手を叩き、人差し指を立てて提案した。


「それじゃあ皆慣れてきた頃だし、今日最後の大詰めって事で……クエストでも受注してみないか?」
「さんせーい! 元よりそれがMMOの醍醐味足る一つだからね!」
「……お使い系よりは討伐系が良いわね。より世界に浸れそうで面白そうじゃない」
「わ、私も賛成です! 折角教えていただいた事、まだ試してみたいですし!」


 ワイワイと騒ぎながら己々の意見を言っていくリーファ、シノン、シリカに―――どうやらキリトはある程度その反応を予測していたか、先の表情に匹敵するレベルのニヤつき顔を浮かべ、得意げに語りだす。


「そういうと思って……少し歯ごたえがありそうな奴、最初に探しといたんだよな」
「へぇ、用意が良いじゃない」
「じゃあ早速、そのNPCのとこに案内するぜ」


 本当に楽しみにしていたのは発案者であるキリトではないかと、否応にもそう思わせる軽快なステップで先導していくキリトを、苦笑いしながらリーファ達もまた追い掛ける。

 その傍ら、リーファはこんな事をシリカに問い掛けた。


「ねえ、シリカ。そのセツナさんて人、短剣と両手槍の可変武器の扱いが凄く上手かったんだよね?」
「はい! 見惚れるほどお上手でした。オマケでもう一回殺陣を見せてくれましたし!」
「ってことは……その人のメインウェポンと、シリカの持つ武器がかみ合ったって事かな?」
「きっとそうですよ。あそこまで上手く扱うには、それ相応の時間が必要な筈ですから」
「だね」


 互いに笑いながら問答を終えると、先を歩いているキリトとシノンに追い付くべく、シリカとリーファは小走りするのだった。


 
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