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エレンゲレクキ

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第六章

「本当に着なくなりました」
「もう昔のもの」
「完全にですね」
「しかし残ってますので」
 それで、というのだ。
「晴れの場に着たり博物館に出したりします」
「そういうものですか」
「今は」
「そうです、ではどうぞ写真にも」
「はい、撮らせてもらいます」
「これから」
 二人も言ってだ、そしてだった。
 実際に少女が着ているエレンゲレンキの写真も撮った、少女は撮られる間にこりと笑っていた。そうして。
 村長と今度は孫娘も交えて四人で話した、少女の話は村長のものよりもさらに現代のものだった。その話が終わり。
 全ての調査を終えてだ、二人は村を後にしたが。見送りに来てくれた村長に約束した。
「では論文書かせてもらいます」
「そのうえで発表させてもらいます」
「では、です」
「また機会がありましたら」
「何時でも来て下さい」
 村長は孫娘を隣に置いて応えた、孫娘は今は完全にロシアの服を着ている。
「楽しみに待っています」
「ではその時に」
「また」
「その時はこの娘が」 
 今度はその孫娘を見て言う村長だった。
「結婚して子供がいるかも」
「まだ先よ」 
 孫娘は祖父に苦笑いを向けて返した。
「それは」
「おや、そうか」
「そうよ、私まだ学生で」
 それにという返事だった。
「これからよ」
「昔は御前の歳にはな」
 村長は笑って言う自分の孫にこう返した。
「もうな」
「結婚していたっていうのね」
「そうだったんだがな」
「そうしたところも変わったみたいね」
「全くだ、本当にな」
 村長は腕を組みどうにもという顔で言った。
「世の中変わったな」
「私達もね」
「ナナイ族もな」
「私昔のことは知らないけれどね」
「しかしそれもです」
「ナナイ族の方々ですね」
 二人にだ、グローニスキーとグルシチョフは笑って話した。
「世の中は何でも変わっていきますが」
「この村もナナイ族の方々も同じですね」
「万物は変わっていく」
「一つの例外もありません」
「そしてそのことをです」
「私達は学者として学ばせてもらっています」
 調査し論文に書き発表するというのだ。
「変化することは悪いことではありません」
「むしろ永遠に変わらない方がおかしいです」
「ですから変わっていくことを残念にも思わず恐れもしない」
「そうあって下さい」
「そうですか、ではあの服は置いておきますが」
 村長はエレンゲレンキのことを笑って話して二人に応えた。
「これからも変わっていきます」
「そうされて下さい」
「それが世の中というものですから」
「わかりました」
「じゃあ今度はね」
 孫娘は楽しげに笑って祖父に言った。
「テレビ買い換えようね」
「うむ、そうするか」
「携帯も買い換えてね」
 そうしたことも話してだ、村長と孫娘は二人を笑顔で送った。二人は村からウラジオストクに戻りシベリア鉄道に戻った、そして車内においてウォッカを飲みつつ話した。
「いい論文を発表出来そうだね」
「そうだね」
「いい調査が出来たよ」
「今のナナイ族の人達が」
「そして残っている文化も観られた」
「満足すべきだね」
 ウォッカで赤くなった顔で満足して話しつつ戻るのだった、二人にとっては最高の調査となった。ただ。
「まあ海面のことはね」
「普通だったね」
「第一の目的だったけれど」
「そちらはね」
 最大の目的についてはこうしたものだった、それはそれであった。


エレンゲレクキ   完


                   2016・2・25 
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