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おぢばにおかえり

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第二十二話 最初の卒業式その六

「ひょっとして今までも飲んでおられたんですか?」
「家じゃね」
「やっぱりお付き合いとかがあるから」
「それって駄目じゃないですか」
 そりゃ皆色々あって子供の頃からお酒を口に含んだりはしますけれど。それでもここまで如何にもお酒大好きですって様子を言われると私としても抵抗があります。私は今までお酒は飲んだことはありません。あくまで二十歳になってからです。煙草は絶対に駄目です。
「そんなことじゃ。幾ら何でも」
「ちっちって真面目ね」
「真面目過ぎるわ」
 高井先輩と佐野先輩がまた私に言いました。少し呆れた顔で。
「そんなのじゃ相手の男の子もねえ」
「大変よね」
「大変でも何でもいけないことはいけないです」
 自分でも少し堅苦しい気はしますけれどそれでもです。
「お酒は二十歳になってからですよ」
「ま、まあそれはね」
「その通りだけれど」
 私の言葉に二人の先輩はかなり戸惑っておられます。
「それでもね。そこは何ていうか」
「まあ許して」
「ちっち」
 ここで長池先輩が私に声をかけてきました。
「はい?」
「確かにね。真面目はいいことよ」
「ですよね。それは」
「けれど。堅苦しいと駄目なのよ」
 先輩に言われるとどうしても。反論できないです。その奇麗な御顔で優しい笑顔で。もう高校ではこの御顔も笑顔も見られないのかと思うと本当に。
「それもね。駄目よ」
「駄目ですか」
「柔らかくね」
「柔らかく、ですか」
「そう、柔らかくよ」
 先輩にはこの一年の間ずっとこれを言われてきたように思います。思えば最初からだったような。けれど高校ではこれも最後になります。
「女の子はおみちの土台じゃない」
「ええ」
 これは誰からも言われます。女の人はおみちを支えるものだって。だからその存在はかなり大きいんだって物心つく前から言われてきました。だからしっかりしないといけないんだって思いますけれど。
「その土台があんまり堅かったらそこには何も出来ないわ」
「土台はしっかりしていないと駄目なんじゃないんですか?」
「しっかりしているのと堅いのは別よ」
 長池先輩の御言葉です。
「そこはしっかりわかっていて欲しいのよ」
「そうなんですか」
「ちっちは。本当に心が優しい娘だし」
「ええ、それは確かにね」
「ちっちみたいな娘はね」
 高井先輩と佐野先輩も今の長池先輩の御言葉には納得した顔で頷かれました。何か御二人の真面目な御顔はあまり見た記憶がありませんが今は違いました。
「滅多にいないわよ」
「こんなに優しい娘は」
「だから。余計に堅くなって欲しくはないのよ」
「柔らかく、ですか。ですから」
「そう。全部包み込む」
 先輩は今度はこう表現されました。
「そういった気持ちでいて欲しいわ」
「だから柔らかくなんですね」
「堅いと跳ね返すわ」
「はい」
 これはわかりました。鎧を思い出しました。
「けれど柔らかいと受け止められるから」
「何でも包み込んで」
「私は。堅いから」
 また。長池先輩の御顔に悲しいものが宿りました。どうしても一年生の時のことが心に残ってそれが先輩の御心を痛めるのでしょうか。
「それで酷いこともしたし言ったし」
「そういったことがないようになんですね」
「ちっちにはそんな思いして欲しくないの」
 私への御言葉でした。
「私みたいなことをして欲しくはないし」
「先輩・・・・・・」
「わかったら柔らかくね」
 そしてまた言われました。 
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