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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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会談-ブリーフィング-

ケムール人襲撃から2、3日たった頃。
仮病のことを明かされたものの、サイトからの嘆願もあり、ハルナに対する咎めはなし。ハルナはルイズたちとの蟠りと完全といえる形で解くことができた。これでサイトはハルナから少しはこちら側に傾いてくれると考えていたのだが…。
「平賀君、平賀君。この棚の使い方なんだけど」
「ん?どれどれ…」
結局サイトはハルナにかまってばかりだった。今、ルイズの部屋で、せめてもの詫びということでハルナはサイトが日々行っているルイズの世話の手伝いをしていた。
「サイトの奴、仮病なしでも結局ハルナに構ってばかりじゃない!犬よ犬!誰にでも尻尾を振る犬に違いないわ!」
無論ルイズにとってこれは不満でしかなく、この結果と当初の目的から考えると先日のシエスタとの作戦は最初から無意味だったことになる。
(私も病気になろうかな…)
シエスタは密かに、ハルナと同じようにいっそ病気になってサイトに構ってもらおうかとも考えていた。
すると、ルイズの部屋をノックする音が聞こえてきた。
「あ、はい!」
サイトが扉を開ける。訪ねてきた人物は、コルベールだった。
「おぉ、サイト君にミス・ヴァリエール。やはりここにいましたか」
「ミスタ・コルベール?何かご用でしょうか?」
「学院長からのお呼び出しです。すぐに学院長室へ着いて来てもらえますか?」


コルベールに引き連れられ、二人は学院長室に向かった。いつも通りオスマンは学院長用のデスクに着席し、来訪者たちを待っていた。傍らには、すでに到着していたアンリエッタとアニエスの二人がいる。彼女たちはサイトたちへの予告通り、魔法学院に来訪した。今回は以前のゲルマニアからの帰還ついでの来訪と違ってごく少数の、お忍び同然の来訪だった。とはいえ、まだ魔法学院には生徒たちの大半が戻ってきていない。忍ぶ必要がないほどだ。アニエスたち銃士隊を引き連れ、アンリエッタは学院長室に到着していた。
「オールド・オスマン。ルイズたちを巻き込むこととなって申し訳ありません。ですが…」
「いえ、我々は女王陛下の僕にございます。力を貸すように命じられるというのならお力となりましょう。ただ、一つだけこの老骨のわがままをお許しとなるならば…」
「なんでしょう?」
「この若者たちを、どうか大切にしてくだされ。それだけがわしからの願いですじゃ」
「もちろんです。彼らは私の大切な友人にして、恩人ですから」
アンリエッタが躊躇うことなくノックする音が聞こえ、コルベールの声が扉越しに聞こえてくる。
「コルベールです。学院長、入出してもよろしいでしょうか」
「おぉ、入ってきておくれ」
オスマンから入出の許可をもらい、コルベールはサイトとルイズの二人を連れて入出した。
「ごくろうじゃったミスタ・コルベール。そしてよく来てくれたサイト君、ミス・ヴァリエール」
「お二人とも、お元気そうで何よりですわ」
アンリエッタがいつも通りの姿を見せるサイトたちをみて、微笑する。
「姫様!」
「女王陛下がサイト君らと話をしたいと言っておったそうじゃな。じゃが、わしらも先日の未確認の亜人襲撃の一件、そしてその前の魔法学院を襲った謎の円盤のこともある。生徒の安全を考え、ぜひわしらも今回の会談に参加を申し出たのじゃ」
「そうだったんですか…」
直接話した方が都合がいいとも考えたため、ジャンバードとビデオシーバーを介した会談ではなく、こうして直接会う形での会談を求めてきたのだが、確かにオスマンたちからすれば今回のことは、今までが今までなだけに、無視することはできなかったようだ。


「では、さっそく会談を始めましょう」
出席者はサイト、ルイズ、アンリエッタ、オスマン、アニエス、コルベール。
このメンバーで会談は始まった。
「現在このトリステインは知ってのとおり、レコンキスタや彼らの操る怪獣の脅威にさらされています。その戦力はいずれも強大。対して我が国はこれまでの怪獣災害での被害が未だに癒えておりません。魔法衛士隊も以前も私が言った通り、壊滅的な被害とワルドの裏切りによって信頼は地に落ちたことで、再編はほぼ不可能となりました。
レコンキスタから降伏した兵もいますが、軍の兵として運用するにはまだ日が浅いです。それに、レコンキスタのことです。降伏した兵の中に、ねずみが入り込んでいるということも考えられます。
しかも、トリステインがこれほどの危機になってなお、己の利益のためだけに動く輩がこの国に居座り続けています。モット伯爵や、チクトンネ町の徴税官チュレンヌのように…」
貴族とは模範たる存在であるべし、トリステインではその教えは色濃く浸透している…のは口先だけだった。魔法衛士隊グリフォン隊隊長でありながら離反したワルド、権力や力を盾に慰み者目的で女性を次々と拉致し、逆らう者を排除してきたモット伯爵やチュレンヌ。その内の二名はハルケギニアでは及びもつかない力を味方につけてさらに暴走していたほどだ。
「嘆かわしいことですじゃ…我々貴族は、その身に生まれたからこそ、成さねばならないことを優先させねばならないというのに…」
オスマンは残念そう呟く。長く生き続けた分、貴族が溜め込み続けてきた負の側面を見続けてきたのだろう。
「……」
アンリエッタとしては、国を危うくさせているという点ではワルドたちを笑うことはできないと、自分でも自覚していた。レコンキスタに操られたウェールズの誘いに乗って、女王となる身でありながらその役目を放り出してしまったのだから。
「でも、私は女王です。彼らの行いを見過ごせば国の滅亡に繋がることでしょう。そのためにも、この会談にはこの国…この世界の未来のため、非常に意味があります」
「失礼ですが姫様…いえ女王陛下、それだけ重要な会議なら、むしろこの場ではなくトリステイン王室主催の会議にするべきだったのでは…」
ルイズが一言、差し出がましいと思ったが意見を入れてみると、アンリエッタは首を横に振ってきた。
「いえ、残念ですが…会談を通してサイトさんから、異世界の情報を得る必要があります。この国では平民として扱われている彼の話に、耳を傾ける貴族はほとんどいないでしょう。
それに、今のトリステイン貴族たちは重役も含めて大半の者は信用なりませんから…」
「それは、ワルド子爵の裏切りや貴族の不祥事も絡んでいるからなのですかな?」
オスマンが問うと、アンリエッタは頷いた。
「はい。私はこの国を本来のあるべき姿に正すため、アニエスたち銃士隊の者に隠密調査を命じました。その結果は…残念なものでした」
伏し目がちに語るアンリエッタ。その心は、できれば信じたくないものを知ってしまった、という目だった。
「残念な結果って…?」
なんとなく創造はついていたサイト。それは何の確証も得られる情報が手に入れられなかった、という結果ではない。おそらく…
「不祥事を起こしている者、そして…裏切り者が、ワルド以外にも我が国にいるのです。それも何人も」
「なんですと!!ワルド子爵以外にもまだ!?」
コルベールがそれを聞いて声を上げた、やはりそうだったか、とサイトは思った。
「無論、その者達はレコンキスタと繋がりを持っています。あのチュレンヌも以前チクトンネ街に出現したサソリ型の怪獣の情報も含め、アニエスの訊問で自白しました」
「そうか、あの時の怪獣もレコンキスタから買い取ったものだったんですね!」
だとしたら、あの小悪党役人がアンタレスを従えていた理由がわかる。怪獣を操るレコンキスタに所属する者から買い取ったに違いない。
「それだけではありません。他にもまだ無視できない事態が起きました。それも、この魔法学院の事情に深くかかわる事態です」
「魔法学院の事情にかかわるですと?」
コルベールの目つきが変わる。
「本来は時期にこの学院は新学期を執り行うことになっていると聞いております。ですが、不思議とは思いませんか?魔法学院の生徒たちがこの時期になっても戻ってきている人数がごく限られた者たちだけであることに」
「!」
まさか、と言葉を発しているように、サイトたちの目の色に変化が起きる。
「銃士隊を中心に調査を行ったところ、ここ最近魔法学院の生徒たちをはじめとした貴族のご子息・ご息女の方々が、魔法学院へ戻られる道中に行方不明になったとの情報があります」
「なんですと!それはまことですか!」
「先生、今は女王陛下がお話ししている最中だ。落ち着かれよ」
「も、申し訳ない。アニエス君…」
興奮したコルベールが効き捨てならないことを聞いて思わず声を上げると、アニエスが一言喝を入れてきた。
「では続けます。先日、この魔法学院にて怪人が出現し、それをウルトラマンゼロが応戦したと聞き及んでいます。サイトさん、その怪人に思い当たることはありますか?」
「確か、黒い液体をかけて人を消す力を持つ怪人よね?確か、サイト言ってたわよね。この世界とは異なる星から飛来した、人間と同じ思考を持った種族だって。あの時の怪人もその宇宙人の一人で…」
「あぁ、ケムール人はかつて俺の世界でも現れた宇宙人で、次々とその黒い液体を浴びせることで人をさらっていったそうです」
「なるほど。さらわれた生徒たちの消失地点にも黒い液体がしみ込んでいた痕跡が残っていました。おそらく同一犯でしょう。サイトさん、場所の特定はできますか?」
「ジャンバードの機能に生命反応を探知する装置があります。あれで位置を特定すれば、捕まった人たちがどこにいるのか、または犯人の居場所を特定できるかもしれません」
「でも、それ以前に宇宙人たちがメイジをさらう理由ってなんなの?そこがよくわからないわ」
「…魔法だよ」
その時ルイズが抱いた疑問に、サイトはすぐに答えを出した。
「この世界では、魔法はごく当たり前のものだけど、魔法は俺の世界じゃ空想の産物でしかなかった。奴らにとって魔法が使えるメイジは、貴重な実験サンプルってことなんだろうな。これまで魔法学院の生徒たちが狙われていたことを照らし合わせると、可能性が高い」
「許せない。なんて不届きな奴らなの…」
モルモット扱い。ただの道具か何か程度にしか見られていないということ。そして、死ななかったとはいえ、先日サイトを目の前で消したことといい、ルイズはケムール人への怒りを募らせる。
「この手の宇宙人は大概そういう奴らが多いんだ。正直、俺も腹が立つ話だけどな…」
地球人も同じような理由で狙われたことがある。そして自分だけじゃなく、ハルナたちも苦しめた。思い出すと怒りで身が震えてくる。しかしサイトはふと疑問に思ったことがあった。
「でも、変ですね。ケムール人が倒されたのなら、さらわれた生徒たちが戻ってくるはずなのに…」
「それが、一人も生きて戻ってきた痕跡がないそうです」
「え!?」
一人も戻ってきていない?それを聞いてサイトは驚きをあらわにした。
「そんなはずは…!ケムール人が倒されたら、奴にさらわれた人たちは戻ってくるはずなのに!」
考えられない事態に取り乱すサイトを、彼の中でゼロがたしなめてきた。
『サイト、落ち着け。お前が取り乱したら話が続かなくなっちまうぞ』
『そ、そうだった…悪い、ゼロ』
ゼロの一言もあり、サイトは一呼吸を置いた。
「すいません、みんな。取り乱しちゃって…」
思わず腰を上げていたサイトは頭を下げながら着席する。
『でもわからないな…どうしてケムール人にさらわれた筈の人たちがまだ戻ってこれないままなのか』
そう、さっきも言ったが本来、ケムール人の攻撃で誘拐された人間は、犯人であるケムール人を倒せば戻ってくるはずだ。かつての初代ケムール人の事件にかかわった人たちも何事もなかったように発見されたと伝わっている。
先日、ゼロに変身したサイトの手によってケムール人は倒された。だが…誘拐された人たちはまだ誰一人として戻ってきていない。ゼロもケムール人のことは知っていただけにそれが疑問だった。
「本来ならそのケムール人という亜人がウルトラマンゼロに倒されたことで、さらわれた魔法学院の生徒たちが戻ってくるはず。それが起きていない理由がサイトさんでもわからないのなら仕方ありません。
でも、魔法学院の生徒はいずれトリステインの未来を担うかけがえのない存在です。なんとしても救出しておかなければなりません。
とはいえ、救出部隊を安易に出しても、敵が未知の存在である以上返り討ちにされるのは目に見えています。
サイトさん、ルイズ。あなたたちに対怪獣対策組織の一員として最初の任務を送ります。アニエス率いる銃士隊と協力し、魔法学院の生徒をなんとしても奪還してください」
「私たち、二人だけですか?」
ルイズが首を傾げる。二人だけではさすがに頭数が少なすぎて戦力的にあまりに不安が残ってしまう。
「本来なら、お二人以外にもシュウさんに入隊を申し込むつもりでした。そのためにも今回の会談へお呼びしたかったのですが…彼との連絡が現在取れなかったのです」
「連絡が、取れない?」
おかしい。異世界でも己の使命を全うしているので、あいつはウルトラマンとして、そして地球防衛軍の隊員としての自覚が強いはずだ。そんな彼が連絡してこないとはおかしい。
「サイトさん、彼からの連絡は来ましたか?」
「いえ…一度も来てないです。ラグドリアン湖で別れて以来一度も話してないです…」
アンリエッタ誘拐の後から一度も、サイトはシュウからの連絡を受けていなかった。これはおかしい。
「女王陛下、その『シュウ』なる人物について、我々はよく知らないのですが…」
すると、まだシュウと会ったことのないオスマンが説明を求めてきた。コルベールも同じだった。
「サイト、説明してあげなさい」
困っている二人を見かね、ルイズはシュウのことについてサイトの口から説明するように言った。
「え。俺!?」
「あんた以外に誰があいつのことでうまく説明できるのよ」
いきなり指名されたサイトは驚いたが、まだ彼の全てを知っているわけではないとはいえ、ルイズの言うとおり彼のことをこの場で一番説明できるのは自分だけ。サイトはうまく伝わるかどうか不安だったが、とりあえず彼が自分と同じ地球の人間であること、もとは地球防衛軍の対怪獣対策チームの出身であったことを説明した。
「ふむ、サイト君にハルナ君、そしてシエスタ君…さらにもう一人異世界の血を引く者がこの世界に来ているとは。ぜひ会ってみたいものですが…」
コルベールはシュウの存在にも興味を抱いた。
しかし、彼から連絡が取れないなんて、考えられなかった状況だ。
「まてよ…まさか!あいつも巻き込まれたんじゃ!?」
あり得ない話じゃない。いくら腕が立つとしても、シュウはこの世界とも自分とも完全に異なる世界から来た者だ。この世界…M78世界の怪獣や異星人の生態や能力は知らない傾向が強い。自分たちの知らないところで星人や怪獣の能力によって…自分たちの預かり知らぬ間に連絡が着かなくなっているとなると、そうとしか考えられなかった。
「それ、まずいじゃない!あいつしか黒いウルトラマンのこと知らないのに!」
黒いウルトラマンたちはどちらも脅威で単独で戦うには危険だ。怪獣以上の強敵である上に、彼が詳しいスペースビーストのことも詳しく知ることができない。なのに、シュウと連絡が取れないこの状態はまずい。
「サイトさん、今あなたの方から彼に連絡は入れられますか?」
「今、やってみます!」
アンリエッタに促され、サイトはすぐ腕に付けていたビデオシーバーを起動させてみた。しかし…返事はない。画面に映るのは砂嵐だけだ。
「…だめです。こっちからも連絡がとれません」
『くそ、なんてことだ!シュウの奴まで…!』
話の流れから考えて、サイトとルイズ、そしてゼロはシュウも事件に巻き込まれたのではと考えた。
「…彼の力が借りられないのなら、仕方ありません。彼はひとまずいない者として捉えましょう」
残念だが、彼の安否が確認できないのならそうとらえるしかない。アンリエッタは残念そうにした。
(シュウ…)
自分のビデオシーバーの故障というわけではない。あいつの持ってる通信機が壊れただけだろうか?それだけだったのならいいのだが…サイトは妙な胸騒ぎを覚えた。
「もちろんお二人とシュウさん以外の、新設する組織のメンバーのことは考えております。これからの任務で救出することになる魔法学院の生徒から、立候補者を募集する形をとることにしました」
「隊員を、魔法学院の生徒から!?本気ですか女王陛下!!?」
魔法学院の生徒を、怪獣と戦うための組織に導入する。それを聞いてコルベールはこれまで以上に声を荒げ、腰を上げた。
「陛下の前だぞ、ミスタ・コルベール」
すると、アニエスが彼に警告を入れ腰を下ろすように言う。だが予想外なことに、コルベールはここで引き下がろうとはしなかった。
「すまないがアニエス君。私はこればかりはたとえ女王陛下がお相手だろうと、引き下がれないのだ!」
「コルベール先生…」
その気迫は、いつもの朗らかなコルベールの姿とは違ったのをサイトは感じ取った。
「女王陛下!あなたは未来ある生徒たちに、我々の力の及ばぬ怪獣などという人外の相手をしろと!?もはや死にに行けとおっしゃっているようなものではありませんか!
それにお忘れですか!レコンキスタには怪獣たちだけじゃない!奴らを従えているのは、我々と同じ人間なのですぞ!軍人でもない、未来ある生徒たちに、人殺しを強要するのですか!」
コルベールはたとえ、アンリエッタが相手だとしても、譲れなかった。たとえ自分が不経済で罰せられることになっても、生徒の命と未来を預かる教師として…レコンキスタや怪獣、そしてトリステイン国内で救う愚者たちとの危険な戦いに赴けという彼女の申し出は聞き捨てならなかった。
「ミスタ…」
コルベールの気持ちは、理解できる。アンリエッタも無茶な願いを出しているとはわかっていた。だが状況が状況なだけに、仕方ないのだ。魔法学院の生徒を、この国を守るための戦士に鍛えなくてはならなくなっていた。
「コルベール…今は戦時だぞ。悠長に授業などしている場合でもあるまい」
アニエスはコルベールの言い分に、露骨な嫌悪感を顔に出し始めていた。
「戦時だからこそ、戦いの…命の奪い合いの愚かさを学ぶべきではないのかね!?学院の中にまで戦いを持ち込まないでもらいたい!」
「黙れ!」
ついに我慢ならず、彼女はコルベールの喉元に剣先を突きつけた。
「アニエス!」「アニエスさん!」
殺気とも取れる気迫がコルベールに向けられたことに、思わずサイトたちは声を上げた。対するコルベールもいきなり剣を突きつけられぞっとしている。
「…どこまでものんきな男だな。貴様が生徒の命を重んじているのは理解したが、貴様こそ忘れたのか?この魔法学院は二度にも渡って襲撃を受けたのだぞ?訓練さえもさせず、授業などにかまけ続ければ、無抵抗のままいずれ奴らに我々は蹂躙される。貴様の愛する生徒たちも同じようにな」
「アニエス。剣を納めなさい」
「ミスタ・コルベール。冷静になりなさい。女王陛下に対して無礼すぎるぞい」
「……は」
「…申し訳ありません…」
あまりに一触即発な空気。アンリエッタとオスマンが二人に対して下がるように言うと、コルベールは着席、アニエスは剣を鞘にしまった。
「陛下、とんだご無礼なことを申してしまいました。いかようにも罰を」
さらにコルベールは、アンリエッタに対して生意気な口をたたいてしまったことを詫びた。女王相手に、たかが魔法学院の一教師ごときが先ほどのような態度を本来とるべきではない。場合によっては極刑だってあり得るほどだ。それでもなおコルベールが女王相手に自らの信念からくる生徒たちへの情熱を主張できたのはある意味すごいものだろう。
「ミスタ・コルベール、お気持ちは理解しています。でも…アニエスの言っていることが正しいと思うのです。目の前の脅威に対して戦いを拒んでは…明日という日が来ることさえも許されない。そうなれば、戦争の愚かさを知り、学ぶ機会さえも永久に失われてしまうのではないでしょうか」
「う…」
「代わりにこのアンリエッタ、誓いましょう。未来を担う者たちと共に、私も命を懸けましょう」
「…………」
強い決意。ことによっては自らの命さえも危険へと投げ打つ覚悟を彼女は示した。女王自らが強い覚悟を示され、コルベールも何も言えなくなる。
「ともかく、今は銃士隊とあなたたち二人の共同任務として、ケムール人の手によって誘拐された方たちの救出を行うしかありません。
ルイズ、サイトさん、アニエス。あなたたちが頼りです。任務を全うすることもそうですが、何より無事に生きて帰ること。これを約束してください」
「わかりました!陛下から承った任務、必ず果たして見せます!」
忠誠すべき女王にして、幼き日からの友であった姫からの頼みをルイズが断れるはずもない。ルイズは二つ返事で、アンリエッタに必ず成功させてみせると誓った。
すると、横からサイトが大丈夫なのか?と怪訝な表情でルイズを見ながら口を開いてきた。
「ルイズ、あんま無茶すんなよ。お前なんかどうあってもそうしちまいそうな気がしてならないから」
フーケ事件のこともあるし、ワルドの裏切りが発覚し直後に飛ばされたウエストウッド村でアルビオン王がレコンキスタの手で崩御されたと聞いたときは頭に血を登らせて殴り込みに行こうとしたほど。ルイズは冗談をいうタイプじゃないのでいずれもマジなのだからタチが悪い。
「な、何よ!その言い方だと私が言って聞かせても聞かないみたいじゃない!しかも陛下の前でなんてこというのよ!」
アンリエッタの前で自分が学習しない人間みたいに言われ、ルイズはサイトに怒鳴り返す。
「こ、これこれ。女王陛下の前であまり声を荒げては…」
「いえ…大丈夫です」
オスマンが女王の前で喧嘩を始めようとする二人をいさめようとする。コルベールも何か言おうとしたが、その女王であるアンリエッタ自身が気にしなくていいと告げた。
彼女の読みが当たったのか、次のサイトのセリフでルイズの暴走は収まった。
「だってさ、やっぱ心配になるだろ」
「え…心配?あんたが、私を?」
自分を心配する、という言葉に、ルイズは引っかかった。
「当たり前だろ?俺はお前の使い魔やってんだし」
「ふ、ふーん…あんたなりにご主人様をしっかり見てるわけね。一応褒めてあげるわ」
「へいへい。そいつは光栄でありますっと」
サイトが自分を心配していると聞き、言っている言葉は多少ツンケンしていたものの、少し顔が朱色に染まり表情が柔らかくなっている。さりげないサイトの気遣いが、本人の知らないうちにルイズの好感度を上げたようだ。
「よく二人が収まると読みましたな」
「女の勘、というものです。なかなか侮れませんよ?」
その時のアンリエッタの可憐な笑みに隠れた、彼女本来の強かさを、オスマンたちは確認することができた。
「あ…そういえば姫様。ロマリアから助っ人が来るって言ってませんでした?」
すると、サイトが大事なことを思い出してアンリエッタに言った。
「ちょっとサイト。この場で姫様ってなれなれしく呼ばないで。ちゃんと女王陛下って呼びなさい!」
「ふふ。ルイズ、私はそのくらい気にしないわ」
以前の通信にて、アンリエッタからくると伝えられていた、ロマリアからの助っ人のことだ。他国からの国際的な助力者ならこの席に来てもよかったはずだ。しかしそれらしい人物が、今回見当たらない。全員あらかじめ見知っていた顔だ。
「ですが、確かにおかしいですね。予定では本日に来られるはずだったのですが…」
「陛下。来ていない以上はやむを得ません。先ほどのシュウという人物同様、今回の任務にはいない者として扱うべきです」
「仕方ありませんね…この会談終了後、ロマリアに早馬を出して、助力者の方がすでに出発しているかの確認を行います」
それが無難だった。話を聞いていてルイズはどんな奴が来るのかと気になった。姫様の会談に遅刻…いや、欠席してずいぶんと図太い奴だと思う。もし不遜な奴だった一言物申してやろうと誓った。
「その次ですが、サイトさん。今度は少し私的な部分も混ざることになりますが…あなたの世界『地球』では、対怪獣防衛軍を結成し、あらゆる脅威に対処していた…そうおっしゃっておりましたね?今後の参考としてぜひ教えてください。あなたの世界における、ウルトラマンと防衛軍の歴史を…」
「はい」
異世界人のお姫様が、自分の世界に興味を示す。これは地球人としてちょっとは嬉しくも感じる申し出だ。
「サイト、陛下はもちろん、私にもわかるように説明しなさいよ」
「わ、わかってるよルイズ」
ルイズには話したことがないわけではないが、より詳細なことを話したことはなかったかもしれない。相手は機械文明とは異なる、魔法の世界の人間、口下手な自分だが、ちゃんと気を配りつつ、サイトは彼らに説明していった。
数十分間に及ぶ、半世紀近くの地球の歴史。そしてそれらに対する地球防衛軍とウルトラマンたちの戦い。それらはアンリエッタたちにとって深く興味深いものだった。
「ふん、作り話にしては出来過ぎている。それに嘘は…言っていないようだな」
アニエスからは多少棘のある言い方をされたものの、嘘をついているとは見られていなかったようだ。
「さすがはサイト君の世界じゃ。単に守られているわけでなく、自らの手で自身の世界を守るために精一杯の努力をしてきたのか」
関心を寄せるオスマン。かつて若き日に名前がわからないままのMACの隊員に命を救われたことは老人となった今でも忘れていない。ただ、それだけにMACが悲劇的な壊滅を遂げたことが頭の中に焼付いた。
「まだ少し理解しがたい部分こそありましたが…とても参考になりました。ありがとう、サイトさん」
「いえ、お姫様の力になれて、俺も嬉しいですよ」


それからしばらく会議が続いた結果…

・ケムール人およびそれに組する者たちによって誘拐されたと思われる学院の生徒の救出、および犯人の追跡。

・トリステインを内部から蝕む貴族の排斥
・連絡のつかなくなったシュウの捜索
・対怪獣対策組織の編成。サイトとシュウの存在が必須


以上が今回の会談で決まった今後の方針である。
しかしコルベールも言っていたとおり、まだ戦い慣れてもいないサイトたちに全てを任せるわけに行かないので、アンリエッタもタルブの戦いでの勝利で得たアルビオン軍の捕虜やレキシントン号などの奪取兵器など、可能な限り軍の建て直しを図ると告げた。


「それで…また街に行くことになったの?」
部屋に戻ってから、二人は待っていたハルナとシエスタに会談のあらかたの内容を伝えた。
「ええ、これは姫様から頼まれた大事な任務よ。
レコンキスタや怪獣のほかにも、サイトやあなたも知っている『宇宙人』ってやつらの脅威も、先日の事件で明らかになったの。けど今のトリステインは戦闘員を補充する余裕もない。しかもその候補者である魔法学院の生徒たちは行方が分からなくなっているわ。今回の任務は、脅威に立ち向かうだけの戦士を見つけ育てるため。そのためにもサイトと私の力が必要とされたのよ」
「そう、ですか…」
となると、またサイトは危険なことに首を突っ込むこととなるのだ。しかもサイト自身に不満そうな様子はない。自ら望んでの決断だったに違いない。
サイトは一緒に地球へ帰ると約束してくれはしたが…。
「ねぇ、平賀君。ルイズさん」
ハルナはこらえきれず、二人に向かっていった。
「私も連れて行って!」
「ハルナ…!?」
自分も連れて行ってほしいと申し出てきたハルナに、サイトは目を丸くしたが、すぐにその意図を理解した。サイト以外に傍にいて安心できる人間がいない。そのサイトがここを離れる以上は自分もついていきたいと願うのは当然だった。
「駄目よ。これは危険が伴う任務なのよ。場合によっては敵と戦うことになる。あなた、戦うことはできないでしょ」
「それは、そうですけど…」
サイトやシュウと違い、同じ地球人でありながらハルナには戦闘力はないし、経験も全くない。攻撃魔法を持つルイズのような特技もないので、任務に連れて行くには、きついいいかたいになってしまうが足手まといになる。
「ルイズ、悪い。ハルナも連れて行ってやってくれ。ハルナは、俺以外に頼れるやつがいないんだ。別にハルナを戦わせるわけじゃないだろ?ただ、トリスタニアのどっかに拠点が必要になるし、そこで待たせてあげるくらいはしてあげられないか?」
「私は確かに戦うことなんてできません。戦場に出ることだってできない。でも…二人の邪魔だけはしませんから、軽いお手伝いくらいまでで、それ以上は望みませんから…ルイズさん、お願い!」
必死に頭を下げるサイトと、そんな彼のためにとハルナも頭を下げて、自分も同行させてほしいと申し出る。
ハルナを気遣うサイトを見て、ルイズは少し胸が痛むのを感じた。
(サイト、やっぱり故郷に帰りたいのかしら…)
どうしてもサイトが他の女子を大切に扱う姿を見ていると、無性にムカつく。が、時に今のように、奇妙な切なさのせいで怒る気さえ申せることがある。
(…何をやってるのよ私。考えてみれば当たり前じゃない。ハルナがこうしてサイトを求めるのは)
「…わかったわ」
先日の事件でハルナとの関係に一区切りを付けたおかげもあってか、ルイズは許可を出すことにした。
「でも、わかってると思うけど戦いには出向かないで、私たちの帰りを待ってなさい。約束よ?」
「はい!ありがとうルイズさん!」
「ルイズ、ありがとう!恩に着るよ!」
「お、恩に着るって…別にあんたのためじゃないんだから!貴族は平民を守ることも使命の内なんだから…ほ、ほんとそれだけなんだからね!」
ハルナ以上に、太陽のような笑みを見せ自分に感謝してきたサイトに、ルイズは思わず顔を赤らめた。
「あの、ミス・ヴァリエール…」
しかし、もう一人忘れていないだろうか?
「私もついて言ってはダメですか?」
そう、この場にいたメイド、シエスタである。ハルナに続いて自分も同行を願い出たシエスタだが、ルイズは首を横に振った。
「悪いけどあんたはダメ。これ以上頭数増やせないし、ハルナと違ってあなたは絶対的な理由があるわけでもないでしょ?それに学院でのメイドの仕事はどうするの?」
「そんな…」
シエスタは断られてさすがにがっかりした様子だった。理由としてはハルナと同じく、サイトと共にいたい、ということなのだろうが、ハルナの場合は精神面で他に安心できる人間がいないからこそだ。しかしシエスタは今ルイズが言ったような理由もあり、危険な任務にわざわざ彼女まで同行させるわけにいかなかった。
「シエスタ…ごめんな。さすがにこればっかりはさ…」
サイトもできればこんなシエスタの残念そうな顔を見るくらいなら連れて行きたかったが、危険が伴う以上、ゼロもきっと反対すると考えたのでルイズの断りに反対を入れなかった。
「わかりました。サイトさんもそうおっしゃるなら、学院でおとなしくしています。でも…無事に戻ってきてくださいね?」
「ああ、もちろんだよ」
ルイズにも、ハルナにも…そして今シエスタにも約束したのだ。守れなかったら男じゃない。サイトは必ず戻ることを誓った。
(必ず戻る…か)
ふと、サイトの脳裏にシュウの後ろ姿が映る。アンリエッタが今回の会談で招くはずだった一人であるシュウが、この日は来ておらず、それどころか自分の方からも連絡を取ることができなかった。
(連絡が着かないなんて、あいつに一体どうしちまったんだろう…)
あいつにだって、帰りを待っている人がいるはずだ。あの村…ウエストウッド村にいたティファニアたちが。なのに…。
『サイト、それを確かめるのも兼ねているんだ。今度の任務は。もしあいつの身に何かあったら、今まで助けられた借りを返してやらないとな!』
今のサイトの心情を察してか、ゼロがサイトにそう言ってきた。
『ああ…そうだな!』
考えてみれば、サイトとゼロは今までシュウから何度も助けられてきた。しかしその恩を一度も返していない。今回はその絶好のチャンスでもあった。
すると、サイトは自分の腕に何か和ら無いものを感じた。まるでマシュマロのような甘い感触がする。
「「あ!!」」
ルイズとハルナの大きな声が聞こえる。よく見ると、シエスタが油断しているサイトの腕にギュッと捕まってきたのだ。
「し、シエスタ!?」
「サイトさん…やっぱり優しいですね。私、また一つサイトさんが好きになってきちゃいました」
もちろんサイトはいきなり美少女から抱きつかれるというシチュエンーションに、胸が一瞬高鳴ってしまう。
「あ、あのシエスタ…」
「はい、なんでしょう?」
「そろそろ手を…」
「嫌です♪しばらくサイトさんとまたしばらく離れてしまうのですから…これくらい許してください。それとも…私からこうされるのは、お嫌ですか?」
しかも、熱っぽい目でじっとまっすぐ見られ、彼女の大きな胸がサイトの二の腕をすっぽり包むほど押し付けられている。
「いや…その…」
その時、サイトは背後から激しい悪寒を感じていた。その原因は…言わずともわかるだろう。背後から突き刺さる二つの視線が、サイトの胃と心を…いや、体そのものを貫こうとしているのをサイト走っていた。
(うぅ…胃が痛い…)
『もてる男って…つらいねぇ』
(こいつ…ッ!他人事だと思って…)
サイトの中にいるゼロも、一体化しているとはいえ、もとは別人で赤の他人。完全に他人事として静観を通すことにしていた。
「いやぁ…女ってやつは怖いねぇ。にしても…俺っち、やっぱ影薄くなってない?」
壁に立てかけられたデルフがため息交じりに呟いていたが、誰も聞いていなかった。

 
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