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ウルトラマンゼロ ~絆と零の使い魔~

作者:???
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任務-ミッション-part1/囚われた者たち

「んぐぅ…」
ギーシュは眠っていた。とにかく気持ちよく眠っていた。まるで女性に膝枕でもしてもらっているかのごとく、健やかな眠りについてた。
「…ふぁあ…なんて華麗なんだ君は…今度僕と…あ、だめじゃないか…いきなりキスを求めるなんて…でも、君がどうしてもというのなら……」
…なんと言葉を見つけるべきかもわからない奇怪な寝言。夢の中で間違いなく、彼は美女と華やかなティータイムを、もしくはそれ以上の何かしらのいかがわしいことでも考えていることだろう。しかし、夢であろうとそんな卑猥ともとれる夢を許さない乙女が、眠っている彼のすぐ傍にいるとは、言葉通り夢にも思わなかったことだろう。
「さっさと起きなさいよこのドスケベ!」
ゴポァ!!突如現れた水球が、眠ったままの彼の頭をすっぽり包み込んだ。
「んごぼ!?」
さすがのギーシュもこれには目を覚ますしかない。
「ごぶ!ごぼべぶ!!ば、ばぶべべ!!」
自分の頭を包む水球をつかみながら床の上でもがく彼は、まるで蟻に群がられた尺取虫のような動きだった。が、数秒たってからその水球は風船のごとくはじけ、ギーシュは無事溺れ死ぬことなく事なきを得た。
「ようやくお目覚めね、ギーシュ」
水球を彼の頭に発生させていたのは、いつの間にか彼の傍らにいたモンモランシーだった。
「も、モンモランシー!なんという運命なのだろう!目覚めた瞬間に君の姿を一番に見ることになるなんてええええ!…って痛ッ!?」
さっき地獄を見たというのに、すぐに天国に上ったような気持ちになるギーシュが飛び掛かるようにモンモランシーに抱き着こうとしたが、すぐヒョイと避けられる。そのまま床の上に落ちて床に鼻を打つギーシュ。地味に痛そうだ。対するモンモランシーの態度は、冷水のごとく冷たかった。
「で、目覚める前は違う女といちゃつく夢を見ていた、そうでしょ?」
鼻を押さえながら立ち上がろうとしたギーシュの体が、一瞬だけビクッ!と震えた。
「な、何を言うのかなぁ君は…僕は夢でも現実でも君のことを…」
「ふーん…」
どうせいつも通りなのだろう。そう…『いつも通り』のギーシュだ。まぁ、たかが夢のことでいちいち腹を立てていては身が持たない。どうせ年中頭の中が女の子のことばかりなのだろうから。
「相変わらずだな…君たち」
「だね…」
呆れ声で、もう一つ別の声がギーシュたちの耳に入る。振り向くと、ギーシュたちの同級生と思われるメガネをかけた男子生徒とふとっちょの金髪男子がギーシュを見下ろしていた。
「レイナール!それにマリコルヌ!君たちもか!」
「そんなことより、あなた今の状況わかる?」
「へぇ…?」
モンモランシーが周囲を指さし、ギーシュが間の抜けた声を漏らしながら、その指先に沿いながら辺りを見渡した。
「うおおおい!!出せ!ここから出せ!俺たちを誰だと思ってるんだ!」
「貴族にこんな真似をして、ただで済ませると思うのか!?」
どこなのかもわからない、広々としたとある一室。その中で響き渡る、同じ魔法学院の生徒たちの、罵声。
「な、なんだ…?」
そのフロアは自分たちを誘拐した者への罵声が飛び交っており、最早騒音といっても差支えなかった。自分たち貴族は始祖ブリミルの祝福を受けた選ばれし者。そんな自分たちがこんな目にあわされるなどもっての他だ。彼らがこれまでの長い歴史で無駄に培ってしまった傲慢さが、罵声の中に含まれていた。扉の前で、囚われとなった人たちは喚き続けた。
「くそ!エア・ハンマー!」
捕まった人たちの中で、魔法を使って扉をこじ開けようとしたり、壁に穴をあけようとしたが、犯人の作り出した強固な扉も壁も全くの無傷だった。
「だめだ…やっぱり開かない!」
「アンロックの魔法はもう使ったのか!?」
「あんなコモンマジックで開くなら魔法を放つわけないだろ!」
いったいここはどこだ?ギーシュは混乱した。床は無機質な金属で、部屋は薄暗いライトで照らされている。学院の生徒たちが誰もかしこも、壁をたたいてここから出せとわめく。ならば力づくで外に出ようと魔法を放つが、壁に傷一つ入らずに地団駄を踏む者もいた。
「みんな、あの変な怪人の黒い水をかけられた途端にここに来ていたそうだ。僕もそうだった。君たちも見ただろ?」
「ええ、見たわ。いきなり私を乗せていた馬車にあの目がギョロギョロしていた変な怪人に襲われて…」
「黒い…怪人?なんだいそれは?」
「は?」
しかしギーシュは全く覚えがなさそうに首をかしげていた。その反応は3人には予想外だった。
今回アンリエッタがサイトたちに伝えた魔法学院生徒誘拐事件。その実行犯としてケムール人が動いていたことはすでにこれを見ている皆様にはお伝えした通りだ。
しかし、このギーシュという男、誘拐されたその時点での記憶が全くないのだ。
そのまさかだった。
実を言うと、ギーシュは馬車で学院に戻っている間、眠りこけている間に馬車を襲ってきたケムール人に黒い液体をかけられたのだ。しかも水を思い切りかけられたというのに、目も覚まさずここに運ばれてしまったのである。
「いったいどうなってるんだ!?僕はいつここに連れてこられたんだい!?いったい誰が何のために!?」
「「「…はぁ…」」」
自分が誘拐されていたことに気付いてもいなかったという、貴族の子息にあるまじきことだった。立場上よからぬものに狙われることだってあるというのに、あまりに不用心だった。
なんとなく、ギーシュが自覚なしにここへ連れてこられてしまったことを察し、モンモランシーはそうに違いないと結論付けた。我が恋人ながら情けない…。どうしてこんな男に未練たらしく付き合い続けているのか自分でもよくわからなくなってしまう。
「開けろって言ってるのが聞こえないのか!おい!」
学院の男子生徒の一人がわめき散らしながら扉をついに乱暴に蹴りつける。もはや貴族らしさなどない。
「まるで裏町のチンピラだ…」
それを見てレイナールが呟く。
すると、ガチャリと扉の鍵が開く音が聞こえる。ふん、ようやくか。誰かがそう呟いていた。扉は、スライド式と同様の動きで開かれた。ハルケギニアではこの手の扉はないのか、誰もが困惑しているが、開かれた扉から一人の男性が姿を見せる。その恰好は、見たところ人間だった。しかしその服装はハルケギニアでは見られない軍服だった。
「やっと開けたな。さぁ、さっさと僕らを出すんだ。僕たちはこれから神聖な魔法学院に…」
と、真っ先に一人の男子生徒が軍服の男を見て上から目線の命令を下した。だが軍服の男は目障りといわんばかりにその学生の首を引っ掴み、そのまま持ち上げて行った。
「が、あ…は、離せ…!僕を誰だと…!僕は名家の…」
足でけりつけて話そうt
「お、おい!貴様…!今何をしてると…思ってるんだ!僕たちは由緒正しき貴族の出だぞ!こんなことをしたら、父上たちが黙っていない…」

ゴキィ!!

次の瞬間、何かがへし折れた生々しい音が響く。直後、その男子生徒は何も言わなきなり、自分の首をだらりとぶら下げていた。
「う、うわあああああ!!!」
真っ先にマリコルヌが青ざめて声を上げた。それを筆頭に女子生徒たちの悲鳴も辺りを包み込んだ。
「貴様ら。次少しでも騒いでみろ。その時はこの男と同じ目に合う。嫌ならおとなしく…」
「エア・スピアー!」
すると、女子生徒の一人が軍服の男に向けて風魔法を放った。これが当たれば銃弾で撃たれたように奴の体に穴が開く。貴族に舐めた態度をとったことを後悔させてやろうと目論んでいたが…。
「あぁ…!」
なんとその男は、首の骨を折られた男子生徒の体を盾にしたのだ。当然穴を開けられたのは男子生徒の方。思わぬやり方…それも非道な防御の仕方に魔法を打ち込んだ女子生徒は思わず杖を落とした。呆然としている彼女に向け、男は腰から銃を取出し…

バァン!!

容赦なく、その女子生徒の頭を撃ち抜いた。倒れた女子生徒の貫かれた眉間から、血がおびただしく流れ落ちた。
「き、きゃあああああああ!!」
さらに悲鳴が轟いた。死というものを体感したことも見たこともない学院の生徒たちは、自分たちと同じ学院の生徒たちが、こうもあっさり殺されてしまった光景を見て完全に恐怖した。
しかし、さらなる恐怖を植えつけるかのように、その男は姿を変え始めた。一瞬黒い霧のようなものに包まれ、それが晴れたと同時に、人間の姿だったはずの男の姿は全く異なる異形の姿に変わっていた。
「…!!」
その姿に、ギーシュたちは目を見開いた。
(あ、あの姿は…!?)
男が変身したその姿がどこからどう見ても、人間の姿ではなくなっていた。

その男の正体は…かつてウルトラセブンと戦ったことのある異星人…『甲冑星人・ボーグ星人』だったのだ。

「ば、化け物め!!」
最後にもう一人、風魔法の呪文を唱えていた男子生徒が恐怖に駆られ、ボーグ星人に向けて一発の魔法を発射した。しかし、直撃したというのにボーグ星人は何ともなさそうに平然としていた。
「ま、魔法が効いていないだと!そんな馬鹿な!!」
今放った魔法はエア・スピアー。食らえば敵の体に穴をあけることだってできる。奴を刺殺して脱出を図る目論みだったが、敵の予想以上の頑丈さにあっさりと破られてしまった。甲冑星人の名は伊達ではなかったのだ
その生徒も、さっきの二人と同様に、今度は喉を撃ち抜かれてしまい、そのまま死亡した。彼の周りにいた生徒たちは。血の池を作りながら倒れ行く彼を見て、より一層恐怖した。
「奴隷にしか使えん屑が、ほんのちょっと変わった能力を持ったくらいで威張るな。もう一度言う。おとなしくしていろ。さもなくば…」
ボーグ星人は親指を床の上に倒れこと切れた男子生徒に突きつけながら言った。それ以上誰も言わなかった。恐怖に包まれ、大人しくするしかなかった。
「安心しろ。逆らわなければすぐに殺したりはせん。無論逆らえばこいつらのようになるがな。我々はあくまで貴様らの生態データがほしいだけだ。しばらく時間が経ったらまたここに来る。その時順番に用を済ませて解放してやろう」
そう言い残し、ボーグ星人は扉を閉めて去って行った。



先日の会談にて、アンリエッタから再び依頼された任務のため急遽トリスタニア方面へ向かうことが決まったサイト・ルイズ・ハルナの3名。いざホーク3号に乗って一気に行こうと考えて、ホーク3号の状態を確認しに来たのだが…。
「うーん…」
さっそく問題発生。実はまだ修理が完了していなかった。無理もなかった。いくらガンダールヴのルーンで使用方法を学べても、精密な機械…それも怪獣や星人と戦うための兵器となると、素人のサイトに修理など無茶な話だった。
「なぁゼロ…お前機械の修理とかできない?」
頼みの綱のゼロに頼んでみたが、帰ってきた答えは残念なことにNoだった。
『無茶言うな。俺たちには本来他の惑星の機械技術を学ぶ機会なんてねぇんだぜ。詳しい奴がいたとしても、そいつは俺と違って地球に長期滞在したことのあるウルトラ戦士くらいだ』
「そっかぁ…」
地球に長期滞在したことのあるウルトラ戦士といえば、ウルトラ兄弟たちくらいだ。ゼロが知っているはずもない。それに気づいたサイトは肩を落とした。
「平賀君」
すると、後ろからハルナの声が聞こえてきて、サイトは彼女の方を振り返った。
「あぁ、ハルナか。準備できたのか?…って、その服は?」
ハルナの服装が、学校の制服ではなく、黄色い生地のドレスとなっていた。
「このドレス?ルイズさんが貸してくれたの。いつも制服のままじゃちょっと気になっちゃうから。で…どう、かな?変じゃない?」
少々照れくさげに尋ねてくるハルナ。おそらくルイズの私服の一着だと思われるが、王室とは縁戚関係でもあるヴァリエール侯爵家の令嬢であるルイズから借りただけあってなかなか高価そうなドレスだった。サイトから見て、ハルナは容姿に関してもルイズにも引けはとらないし、胸がシエスタにも匹敵するほどであったりなど、十分過ぎる魅力を持つ。こうしてドレスを着こんだ姿を見ると、彼女もまた貴族の令嬢に見えてきた。
「すごく…似合ってるよ」
「ほ、本当…?」
少しドキドキしながらもサイトがそう答え、嬉しさがこみ上げるあまりハルナの頬がさらに赤くなる。こうしてサイトがルイズだけでなく…いや、少なくとも今はルイズを含め他の誰よりも自分を見てくれている。その機会があるということを知り、仮病などやはり必要なかったのだと彼女は悟った。
「よかった…平賀君から変な風に思われなくて。やっぱり着る服って重要だよね。違う服を着ると、なんだか楽しい気分になってくるし」
ルイズが貸してくれたドレスを見ながら、ハルナは楽しそうに笑っていた。それを見てサイトも笑いかけたが、あのドレスが元はルイズのものだということに関して、ふと疑問に思ったことがあった。
「あのさ、ハルナ。こういっちゃなんだけど…ルイズの服ってちょっと小さくなかったのか?」
「ぎく…」
瞬間、ハルナの様子がおかしくなった。まるで人間の姿に化けていたがその正体を突き止められた異星人のような、なんだか答えにくそうな様子だが、気づくことなくサイトは続ける。
「ほら、ルイズって小柄だろ?ハルナの体のサイズに合うのかなって気になってさ」
「え、えっと…実は、ちょっとキツイかなぁって思ってたの」
若干しどろもどろになるが、ハルナは苦し紛れに適当に答えて見せた。
「あ、やっぱり…やっぱルイズだからなぁ…」
やっぱりハルナにはルイズの服は少々きつめらしく、サイトは予想通りの結果を聞いて軽く笑う。
「もぅ、平賀君のエッチ。そんなこと言ってると…ルイズさんじゃないけど、お仕置きしちゃうぞ?」
考えてみると、女性の体のことに触れた話だからちょっといかがわしい話。ハルナは少しにらみを利かせた目でサイトに言った。
「うは、それは勘弁…」
ルイズ一人でも過剰なのに、ハルナまで加わったら大変だ、サイトはこの話に関しては今後口を噤むことにした。
「そういえば平賀君」
「うん」
ふと、ハルナがサイトとは違う方向へ視線を泳がせた。その先に映ったのは、サイトの傍らに置かれていたホーク3号の船体だった。
「これって…やっぱり本物なの?」
銀色に照り輝くホーク3号に手を添えながら彼女はサイトに尋ねる。
「あぁ。こいつもシエスタのひぃ爺さんが遺したんだって」
「え、でも…じゃあシエスタさんって」
「うん、俺たちと同じ地球人の血を引いてる子なんだ。魅惑の妖精亭のジェシカとスカロンさんも同じだよ」
「そうなんだ。私たちと同じ黒い髪と目をしてたから気になってたんだけど…そういうことだったんだ」
ハルケギニアでは黒髪と黒い目を持つ人間はほとんど見ない。この世界に来てから、ハルナは自分たち以外にそのような髪と目をした人間を見たことがなかった。だからシエスタ一家が持つ髪と目の色が、かえって珍しく見えた。
「シエスタさんのひぃお爺さんって、ひょっとして…ウルトラ警備隊の人だったの?」
ホーク3号は、数年前にGUYSが展覧会のような催し物を開いたとき、過去の防衛チームの戦闘機が空を飛ぶのをニュース番組で見たことがある。そして何より、地球で行方不明になっていたサイトのことを調べる際に、彼の義母であるアンヌが元ウルトラ警備隊の隊員だったことがきっかけとなって、その辺りのくだりもある程度詳しくなっていた。
「フルハシさん…その人がシエスタのひいじいさんだったんだ。俺も知った時はすごく驚いた」
日本文化を体現したあの墓に刻まれた文字は記憶に新しい。まさか母から聞いていた盟友が、異世界で出会った少女の曾祖父として天寿を全うしたなんて信じられなかった。
「…でも、フルハシさんは…帰れなかったんだよね?」
サイトを見ず、ホーク3号の船体を見上げながら、ハルナは呟いた。地球へ帰れず、この世界に留まり続けることに、また不安が募りだしたのだろう。
「ハルナ、正直俺だって不安だよ。こっちでも怪獣が出てきたし、しかもこの前は宇宙人も現れた。そのせいでこの世界がさらに悪い方向に傾いて、俺たちの世界で起こったような恐ろしいことが起こるかもしれない。
俺、この世界に来るまで…ウルトラマンや防衛チームの人たちに、ただ憧れていただけたった。でも、今の俺にだって最悪の未来が避けるために何かできることがあるはずなんだ」
「平賀君…」
「ウルトラマンたちが、どんな状況でも奇跡としか言いようがないことを起こしてきた。彼らと戦ってきた地球防衛軍の人たちだって、負けないくらい頑張ってウルトラマンたちを助けて地球を守ってきた。それを知っているから、俺たちにも何かできることがあるはずなんだ。
『可能性は…ゼロじゃない』」
「平賀、君…」
自分の知っているサイトは、確かに昔から強く惹かれた部分があった。でも普段の彼は授業中で寝ることが多かった。体育の先生から叱られた後、その先生が視線を外している間にネチネチと小声で先生への悪口をぼやいていたり、男友達と時にスケベな話をすることもあったりと、どこにでもいるような普通の男子高校生でもあった。だからどちらかというと、間の抜けた姿の方が目立っていた。
しかし、今のセリフを強い自身を持って言ってのけた時のサイトの姿は、ハルナにはとてもまぶしく見えた。
「…平賀君、こっちに来てから変わった気がする」
「え?」
「なんだか、前よりもかっこよくなった気がする。まるで平賀君がウルトラマンみたい」
「そ、そうかな?は、はは…」
当たらずも遠からず。ハルナのような外見も中身もできた女の子からそのように褒められると、サイトは調子に乗りたくなるような衝動に駆られるほど嬉しかった。
「けど…」
すると、ハルナは伏し目がちに俯き出す。

「だんだんこの世界の人になっていって…地球に帰ることよりも、こっちの世界の方が大事になっていって…なんか寂しくなるな…」

ズキィッ…!

先ほどと一転して、サイトはどこか哀しげに言うハルナの顔を見て、胸に強い痛みを感じた。その時のハルナが、サイトという地球にいた頃の知り合いがいるというのに、一人孤独に取り残されてしまっているように見えてしまった。
「ちょっとサイト!ご主人様をいつまで放っておいてるの!?」
「「わぁ!?」」
突然聞こえてきたなじみ深い声に、二人は背筋を反射的にぴん!と伸ばした。振り返ると、思った通りルイズがそこにいた。
「る、ルイズ…いたのか」
「いたわよ!」
完全に存在を無視されていたことが不服だったこともあってルイズは不機嫌そうだ。
「サイト、ハルナと何を話してたのかしら?『二人で』」
二人で、の辺りをやたら強調して言うルイズ。何かブラックなオーラを感じる。
「は、話してただけだよ!こいつのことで!」
ホーク3号の船体を軽くたたきながらサイトは弁明した。彼を支援しようとハルナも後に続いて弁明する。
「そ、そうですよ!別に変な話なんてしてませんよ!?」
「ふーん…そう。そういうことにしといてあげる」
絶対信じてないよ。俺とハルナがルイズにとって何か機嫌を悪くするようなことを話していたことを疑っている目だよ…サイトは内心げんなりした。
「それよりも、そのホーク3号って動かせるの?」
「悪い…次のフライトは無期限見送りになると思う」
「何よ、役に立たないわね」
ルイズはのけ者にされていたことをまだ根に持っていることもあり、露骨にサイトを悪く言ってくる。
「無茶言うなっての。俺はエンジニアじゃないんだぞ」
仕方ないことだが、サイトはそういいかえすしかない。ちゃんとした整備士としての技量があったら直すこともできただろうが、サイトは素人だし、考えてみれば整備に必要な道具が一切ないのだ。
「ならば、馬車を使うしかあるまい。私が運転しよう」
すると、そこへアニエスも馬車に乗ってやってきた。見送りに来たのか、コルベールとオスマン、そしてアンリエッタも校舎の方から姿を見せた。
「では、道中気を付けるのですよ」
「何かあったら、伝書鳩を飛ばすとよいぞ」
「はい、ありがとうございます。ミスタ・コルベール、オールド・オスマン。このような立派な馬車を御用押して、感謝いたします」
「3人とも、私も共に城へ戻ります」
「姫様もですか!?」
アンリエッタも早いうちに城に戻って政務に当たらなければならない。だからルイズたちと同じ馬車に乗ることになった。
「あら、ルイズ。私も乗っては迷惑かしら?」
「そ、そんなことありません!ただ、姫様と私なんかが同じ馬車に乗るなんて…」
恐れ多いこと。アンリエッタは身分違いの者同士が恐れ多くも同じ馬車に乗るのを避けるために、いちいち馬車の往復などを求めようとはしなかった。敵の動きに少しでも近づけるためにも時間短縮の必要がある。それが友達であるルイズと一緒の馬車に乗って一時の間でも安らぐと着替えられるのなら、アンリエッタにとって願ったりかなったりだった。
「いいのですよ。私は気にしませんわ。寧ろあなたと同じ馬車に乗れるなんて、子供のころに戻ったようで嬉しいわ」
「うぅ…」
「でも、本当にいいんですか?私たち、この世界じゃ身分が低い立場なのに」
ハルナも躊躇いがちになってアンリエッタに尋ねるが、対する女王は朗らかに言う。
「お二人にも、私が女王だからといって遠慮しないでほしいんです。貴族風を吹かせて相手をおびえさせるようでは、平民の方々からの信頼は得られにくいことですから」
そのあともやはりだめだ、とは言うものの、アンリエッタが決して折れないことや、「私となんて嫌なの?」といった時のアンリエッタの無自覚な泣き落とし(決して演技ではない)を受け、ルイズは結局折れた。
「サイト君」
コルベールはサイトの方にも声をかけてきた。
「どうしたんですか?コルベール先生」
「…いや、すまない。なんでもないんだ。気を付けて行ってくれ」
しかし、彼は何かを言いかけようとしたが、ためらいがちに言葉を切って何も言ってこなかった。
(どうしたんだ…?)
何か思いつめたようにも見えるコルベールに、サイトは何か奇妙なものを感じた。もしや、アニエスとの口論で行っていたことだろうか?
(…生徒たちを、戦いに巻き込むな、か…)
アニエスとの口論の一部始終を思い出し、本当はコルベールが口に出して言いたかったことを読み取った。戦いにただ怯えているような意見にも聞こえるが、サイトはコルベールの考えを決して否定できなかった。できるはずもない。本当なら戦争などあってはならない。結局自らの主張を相手の強要するために人の命を奪う…。そんなことが正しいわけがない。だから地球人も異星人の侵略に何度も抵抗してきたのだ。
サイト自身も本来はそれが正しいことだと信じて疑わなかった。だが、アニエスの意見とて間違いではない。何もしなかったら、敵の侵略を一方的に受けて滅ぶのを待つだけなのだから。
「ではアニエス。道中は頼みましたよ」
「もちろんです、陛下。かならずや無事にお連れします」
アニエスは跪きながらアンリエッタに言うと、すぐに3人に馬車に乗るように言い、サイトたちを乗せた馬車はトリスタニアに向けて出発した。
ちなみに、いつぞやのようにタバサとキュルケが、タバサの部屋からこの一部始終をしっかり見ていた。
「見た?タバサ。またルイズとダーリン、面白いことに首を突っ込んでるみたいだけど」
「…」
タバサはいつも通り無言だったものの、馬に乗って去っていくルイズたちを静かに見送っていた。
「ギーシュやモンモランシーたちもいないし、誰もいないところで待ってるのもあれだし、ちょっと見に行かない?」
いつぞやのような興味優先ぶりを見せるキュルケ。しかも当時と同様サイトからの好感度アップを狙っているのだろうとタバサは読む。
「…暇なときは、本を読めればそれでいい」
興味なさそうに呟くが、パタンと本を閉じてメガネをかけなおし、ルイズたちが去っていく方角を見据えた。
「でも、みんなが心配」




「な、なんなんだよあいつ…」
レイナールは腰を落とし、星人が去ってしばらくしてからそう呟いた。
も貴族としての自負があるので、貴族を全く恐れもしない奴の信じられない行為に肝を抜かされた。いや、それ以上にあの亜人は何者だ?トロルともオーク鬼とも全く異なる種族の姿に変えていた。新種の種族なのだろうか。魔法も効かなかったうえにあんな残虐なことを平気でしでかす奴なんて…。
「うああ…」
マリコルヌも恐怖のあまりまともな言葉さえも発することができずにいる。
すると、黙ったままでいるのは限界だったのか、レイナールがギーシュに尋ねてきた。
「な…なぁ、ギーシュ。あいつについて何か知らないの?」
「ギーシュに分かるわけないでしょ」
「モンモランシー、君恋人相手に容赦ないね…」
我が彼氏ながら頼りないことを知っているモンモランシーは早々に決めつける。容赦のなさに
「…いや、確かサイトから聞いたことがある。この星の外に広がる世界から飛来する種族…サイトは彼らを『星人』とか『宇宙人』と呼んでいた」
「知ってたの!?」
意外なことにギーシュが知っているという事実にモンモランシーが目を見開いた。
「その反応はちょっと傷つくぞモンモランシー…とはいえ、僕も実際に見るまでは半信半疑だったが…みんなも、それどころか魔法学院の生徒全員が一度は遭遇しているって言っていた」
「なんだって!?そんな覚えは…あ」
星人なんかにあったことがあるものかと反論しようとしたマリコルヌだが、すぐにその誤った認識を改めた。
「あの変な目をした怪人のこと?」
そう、自分たちが自らの意思と関係なくここに連れてこられた原因であるケムール人のことだ。だがギーシュはそれだけじゃないと付け加えて話を続けた。
「それもあるけど、僕がサイトに決闘を申し込んだあの日もだ。あの日円盤が飛んでいただろう?あれに乗っていたのが星人だ」
「あの時の円盤も…いや、とにかく魔法が効かない以上は、下手に逆らわずに今はおとなしくしている方がいい」
正直、貴族としてのプライド故にかなりの屈辱でもあったが、レイナールは冷静に我慢するのが最善だと悟った。しかし、屈辱に耐えられない者にとってそんなことは頷けなかった。
「おとなしくしろだと!ふざけんな!」
「そうだそうだ!あんな奴らに、このまま貴族としての誇りを捨てて従うくらいなら死んだ方がマシだ!」
「ここでみんな一緒に、トリステイン貴族らしく華々しい死を飾ろう!後世に、我々の雄姿を語り継がせるんだ!」
屈辱を受けて生きるくらいならかっこよく死んでやろうという意気込みを抱く生徒たちが、主に男性陣を中心に盛り上がっていく。だが、それに対してモンモランシーが腰を上げて水を差してきた。
「ちょっと待ってよ!勝手に巻き込まないでくれる?私はまだ死にたくないわ!」
「モンモランシー、お前!それでもトリステインの貴族か!あんな奴らに尻尾を振れと!?」
盛り上がった男子の中心となっていた生徒の一人が、彼女を睨み付けた。
「戦場で華々しく死を飾ろう、ですって!?そんなの、戦場に出る男どもの勝手な言い分じゃない!そんなに死にたかったら自分たちだけで勝手に死んでちょうだい!」
モンモランシーは危険を好まないタチだ。サイトに連れられラグドリアン湖に来たときと同じ。危険を冒してまで貴族としての誇りを守ろうとは思わなかった。
「てめえ!!」
「やめたまえ!彼女は何も悪くないだろ!」
モンモランシーの言い分があまりにも情けなく聞こえ、怒りのあまり殴りかかろうとした男子生徒の前に、ギーシュが立ち塞がった。
「ギーシュ、お前そんな臆病な女のために…!!」
と、男子生徒がそこまで言ったところで彼の言葉を遮るように再び扉が開かれ、ボーグ星人が再び彼らの前に姿を見せた。
「まったく、どうも貴様らは学習能力を捨てたようだな。言った傍から騒ぐとは、醜くすぎて呆れるわ」
「貴様!」
自らまた姿を見せるとは好都合。その男子生徒は星人に、今度は自分が魔法で倒してやろうと思って杖を向ける。
(俺の魔法でなら…!そうだ、俺ならできる。俺なら…)
しかし杖を向けられた星人は全く微動だにしない。あまりにも自信たっぷりに自分と正面から向き合う星人の姿勢が、信じられずにいた。
「…どうした?撃たんのか?俺を撃てばここから出られるんだぞ?」
両腕を広げ挑発するボーグ星人。
「………」
男子生徒は呪文を唱えようとしたが、なぜか声が出なかった。出すことができなかった。奴の視線から感じ取れるものに、すでに気圧されていたのだ。奴は魔法に耐えられるだけの絶対的自信がある。なぜならさっき実際にそれが本当であることを見せたのだから。
(なんでだ…なんで声が出ない…!?早く唱えろ!唱えるんだ!)
心の中で自分に呪文を唱えるように言うが、全く声が出せなかった。足が震え、喉が渇き、酷い脂汗が流れ落ちる。結局、彼は魔法を放つことさえできなかった。ボーグ星人の放つ気迫と自信を前にして、戦う前から負けていた。
「ふん。商品ごときが」
面白くな下げにボーグ星人は扉を閉めて去って行った。ふぅ…とため息を漏らしたのち、レイナールがその生徒に向けて口を開いた。
「冷静になって考えろよ。あんな奴らに特攻したところで、僕らを賛美する奴らなんて一部だけだし、ここがどこなのかもわからない。誰が語り継げるというんだ?
寧ろ、得体のしれない奴に殺された間抜けとしか思われない。ただの無意味な自己満足なんだよ。第一…奴の一言で明らかに恐怖していた君に、華々しく散ることなんて到底無理だ」
「こ、これは…!ちょっとびっくりしただけだ!ちょっと…」
最後まで貴族としてのプライド故に見栄を張ろうとしたが、体は正直というべきか、恐怖で震えきった足のせいで立つこともできなくなってしまっていた。
「…ちくしょう…」
「君だけじゃないんだよ。みんな…悔しいんだ」

 
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