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シークレットゲーム ~Not Realistic~

作者:じーくw
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温もり


――そして 同刻別の場所にて。


 悠奈と刀真は見回りに行くというのは名目。本当の目的は襲撃者に備えて武器を手に入れておきたいと言う事だった。既に2人とも1丁ずつ持ってはいるが、他のメンバーがわからず、少なくとも1人は好戦的だから、まだ心もとないと思ったのだろう。それを言い出したのは悠奈からであり、刀真自身は、さほど不憫に思っていないのは又、別の話。

「………当たり、だな」
「そう見たいね」

 刀真は悠奈が掘り起こした≪それ≫を見てそう言っていた。手に握られているのは拳銃。恐らくは世界でも最も有名な銃として名が通っている物。

「ベレッタM92FS。……比較的扱いやすいものだな。使用自体は問題ないのか?」
「ええ。モデルガンで練習もしてるし……、初めてでもないからね」

 悠奈は過去を思い出すように遠い目をしていた。
 あまり、思い出したくないが……、忘れてはいけない事とも思っているのだろう。

「だが……解っているよな?」
「ええ……。武器を持ったところで、努々油断しない事。近接戦闘では特に」
「解ってるなら良い。……抑止力の武器、か」
「え?」
「いや、何でも無い。さぁ、今日の所はこれくらいで良いだろう?……修平あたりが同じような行動を取ってるかもしれんからな」

 刀真はそう言うと、背を向けた。
 悠奈はその意味がいまいち解ってなかったようだ。

「修平が?」
「ああ、何やらメモリーチップを隠し持っていたのを見て……な」
「………」
「その時なぜ止めなかったか、……か? アイツは、《あの少女》を守りたいと強く思っているようだ。自分の命よりも大事だと思ってるんだろう。……そう言う人間を見るのは、正直好ましい。危険だとしても妄りには否定したくは無い。……あまり 思い出したくない事はあるがな」

 少しだけ……この時少しだけ、刀真の闇を垣間見た気がした。

 この男も、私と同じ、いや……それ以上のモノを背負っているのだと。

「……刀真は、私と≪同じ≫なんだよね」
「………」
「アンタも、私と同じ苦しみを味あわされた……って事?」

 悠奈は、気づいたら刀真の背中。背中に手を当てていた。

「……さぁな。だが、言える事があるとしたら……」

 刀真は自身の手を見た。開き、そして握り締める。


「オレはお前とは違う。……根本的に違う。それに……」


 そう言うと、月夜の空。月明かりの下で振り返った刀真。ゆっくりと微笑む。


「オレは≪死神≫だ。お前達とは違う。」


 また、その言葉を訊いた悠奈は少しだけ 目を見開いたけど、初めての時の様な反応はしなかった。

「死神って……、まーた、そんな事言って」

 悠奈は苦笑いをしていた。
 あの時の様な感じはしない、寧ろ真に迫っていると感じたのだ。

 死神とは死を司る神。
 死を支配する者。

 つまり、そこから連想させるのは、死を……何度も経験しているという事。そして、恐らくは……。

「(この地獄を何度も経験している、って事。……かな)」

 悠奈はそう確信していた。
 リピーターどころではないと言う事を。異様な強さも、ここで培われてきたのだろうか?それは解らないが、常に野生に身をおいている様な強さ。


「さっさと戻るぞ。……全員を仲間にする、と言うなら、まだ半数にも満たない仲間に心配させる訳にはいかないだろう?そんな形で全員を仲間にするのは無理だぞ……?」
「……ええ。そうね」

 刀真の言葉に悠奈は頷いた。
 悠奈は少し、刀真の事を知れた気がしていた。……全てを見せてくれてはいないだろう。
これからもそれは無いのかもしれない。でも……、彼に魅かれた気もした。



―――……もう、こんな事、二度とないって思っていたのに。




 そして、元の場所に戻っていった時。

「誰か、いるわね」
「みたいだな」

 夜の闇のせいか、誰かまでは解らない。
 だが、いるのは間違いなかった。PDAの独特の光があり地面を照らしているようだった。それが意味するのは、恐らくメモリーチップの示す場所を掘り起こしている可能性が高い。

「っ……!」

 悠奈は、即座に足音を消し接近していった。そして……。

「――動かないで!!」
「!!」

 鋭い声を上げそして、手にした銃を突きつけた。相手は驚き、動揺しているのが見て取れる。あそこから、反撃は無理だろう。手練ではなく素人。最初に思ったとおりの人物だった。

「――ってなんだ。修平じゃない? やっぱ刀真の言うとおりだったね。」
「っ……その声は、悠奈か? 言うとおりって事は、二手じゃなくて刀真と一緒にいたのか」
「ご名答」
「まぁ、途中で合流しただけ、だがな」

 悠奈に続いて刀真も出てきた。
 修平もその声に振り向くと、悠奈が立っていた。しかもその手には1丁の拳銃が握られている。……探していた物だ。

「随分と物欲しそうに見ているな? 修平。……それが目的のものだったのか。つまり、そっちは外れた見たいだな」
「っ……。バレてるか。ああ……、仲間を守る為にも、襲撃者に備えて武器を手に入れておきたかったんだ。昼間のヤツがまた襲ってこないとも限らないからな。……また、刀真だけに無理をさせるわけにもいかないからな」
「中々殊勲な男だな……。だが、本心はそこじゃないだろう?」
「何?」
「私からも言うわ。修平、アンタは一見皆の事を考えてる様でいて、実は 自分の事と琴美の事しか考えていないでしょう?」
「……!!」

 悠奈の指摘、そして、刀真が言う本心はまさにその通りだった。

 あわよくば、その銃と日本刀を交換して貰おうとまでしていたのだ。……自分は、琴美の命と、他のメンバーの命を修平の中にある天秤の中でかけたとしたら、圧倒的に琴美の方へと傾く。それは火を見るより明らかだと自分の中でわかっている事だ

 そして、それはたとえ自分の命を他のメンバーの側に乗せたとしても結果はなんら変わらない。

「……言ってたよな。≪ただゲームをクリアしたいだけじゃない≫と。それがあの少女なんだろう?」
「そうよね。大切な人まで、このゲームに参加させられてるんだから、あんたの気持ちも解らないでもないけどさ。……でもね、武器を手に入れたからって、人間は強く慣れはしない。刀から銃に換えたってそれは同じコトよ」

 悠奈は修平の足元にある刀をチラリと見てそう答える。そこまで見抜かれた修平だったが、もう黙ってはいなかった。

「……何を言ってるんだ? 危険が迫っているのなら、それを退ける力が必要だろう? 自分や仲間の身を護る為には力が必要だ。……違うか?」
「間違っては無い。確かに力が無ければ何も守れないからな。だが……」

 刀真は目つきを鋭くさせた。

「自分以上の力。……大きすぎる力は身をも滅ぼす危険性を孕んでいる。それは、大小関係ない。拳銃でも、例え核であっても同じ事だ」
「核って……」
「まぁ……、少々例えをでかくさせすぎたかも知れんが、分相応のもの出なければ、いつかは自分に牙を向く。……それが武器だ。そのせいで、お前の大切なものを失うかもしれないぞ? ……そこまで考えているのか?」
「いや……、だが、オレは琴美を守れればそれでいい。……失うのだけはゴメンだ」
「それって、格好良さげな台詞だけど、はっきり言って狭量じゃない。男ならヒーローを目指して欲しいわね」
「ヒーローって。子共じゃないんだ。それに映画やゲームの世界とは違う。そんな都合のいい存在、この世には存在しない!」

 仮にそんな存在がいたとしても、間違いなく自分以外の人間だとわかる。……力で言えば、刀真が一番相応しいのではないかと思える。

 なぜなら、たった一人で襲撃者迎え撃ち、仲間全員を逃がした。
 それだけでも十分そうだ。

 自分自身は、琴美を通じてしか、世界を愛する事が出来ない人間だ。

 だからこそ、彼女を守りたい。
 だが…、まるで2人はその想いを否定されている気がするんだ。武器を持ち、彼女を守ろうとしている。だが、2人は武器を持ったところで守れない。失うと言うんだ。


――そんな未来……あってたまるか。


「修平。……その気持ちは大切な事だ。強い想いは時として、奇跡を引き寄せる事だってある。……現実だろうと、非現実だろうとそれは同じ事だ。否定するつもりは無い。寧ろ持ち続けろ」
「っと、私の悪い癖だわ。……言い過ぎたみたい、ごめん。誰かを守りたいと思う想いも……大切なものだもんね。守ろうと言う想いが無ければ、武器はただの人を傷つける道具。その意志が、想いがあるからこそ、≪守る為の力≫になるんだから」
「っ……」

 否定されたと思った矢先……、刀真にその否定されたと思った事を否定され、そして悠奈は不意にしおらしくなってしまった。その為、睨んでいた修平は我に返っていた。

「……すまない。こっちもムキになり過ぎたようだ」
「いや……、それだけ引けない想いがあったんだろう。……それは当然だ。寧ろ凄いとさえ思えるぞ。この世界で……、いや こんな異常な世界に放り込まれても尚、自分より大切なものを見出せる修平は」
「……オレはそんなに深く考えてない。ただ、琴美は特別なんだ。それだけで」
「ふふ……。私も持論を振りかざしちゃったしね」
「まぁ……悠奈は基本的にそうだよな」
「ゔ……返す言葉もないわ」

 熱くなりすぎて回りが見えてない。
 修平や他のメンバーから見れば、悠奈は優秀だが、何故か 刀真の前ではその影が薄れてしまっている。

 良く言えば自分の素を出せているのだろうか。

 それは、悪い事ではないって思える。そして、もう1つ聞きたいことがあった。

「でも……なぁ刀真、悠奈。お前は自分の事をヒーローだって思っているのか?」
「……」
「……まさか、私の方はただ真似をしてるだけ、昔いたヒーローの真似をね。……後を追いかけてるだけだもの」
「……?」
「それに、刀真もヒーローじゃないよ。……私のナイト様よ」
「………」

 刀真は何も答えなかった。

 自分がヒーローか、と問われて直ぐに答えることなんか出来ない。いや…、首を縦に振ることはありえない。

「ヒーロー、か。……英雄と言うのそんな簡単じゃない。味方からすればそうでも、相手側からすれば、悪魔。……いつの時代も紙一重の存在。勝てば官軍の世の中。……それが俺の中のヒーローと言うものだ」

 そう答えて後ろを向いた。

「それより今日はもう遅い。修平用の銃を探すにしても明日の方が良いだろう。……それに、素人にはリーチの長すぎる日本刀よりは銃のほうが良いのは確かだからな」

 刀真は足早に立ち去る。

「ちょっと……」
「先に、行ってる……。お前達も明日に備えて眠っておけよ」

 悠奈の言葉に振り返らずにそのまま闇に姿を消した。

「……なぁ 悠奈」

 修平は、刀真がいなくなった後悠奈に話しかけていた。

「アイツは……一体何者なんだろうな」
「何って……?」
「普通に見ればこの状況で一番順応している異常者だとも思えるけど、アイツの言葉のひとつひとつがとても重いんだ。……こんなに言葉が重いって思ったのは始めてなんだよオレは」

 修平の素直な、計算の無い言葉であった。
 これまでは、ずっと信用しきるのはやめていた。助けてくれたとしても……、最後の一線にはブレーキを踏み込んでいた。それは、決して表に出さないようにしていたが、あの刀真はそれすら見越しているかのように、笑っていた。そして、構わないといっているようだった。

「さぁ……私にも解らないわよ。ただ……ここにいる誰よりも、何かを背負っている。そんな気がするだけ。……でも、私は刀真と考えが違う部分がある」

 この時の悠奈は視線を鋭くさせていた。
 これまで、刀真の言葉は信頼できるものだと自分の中では最大級に信頼していた。だが、あの言葉だけは違った。

「刀真の言うヒーローと私の言うヒーローは違う。……私の中のヒーローって言うのは……」

 悠奈はぎゅと、自分の肩を抱きしめる。そして、ポケットに入っているある物を握り締めていた。

「悠奈?」
「ゴメンね。忘れて。……さぁ、もう戻りましょ」

 修平は、悠奈がさびしそうな微笑を見せていた事の意味が気になっていたが、それ以上追求する事が出来なかった。……それに、しようとも思えなかった。



――……5分後。



 小屋に戻ると、刀真が戻ってきたのに、修平達が戻ってこないから心配して琴美が1人入り口で立っていた。刀真から、直ぐに戻ってくると言われていたが……心配だった様だ。
だって、≪2人きり≫なのだから。

 そして、その2人は帰ってきた。

「……修ちゃん、悠奈さんと2人で何処に言ってたの?……悠奈さんは日影さんといた筈なのに」
「ああ、ちょっとな」
「『ちょっと』って? 私にもわかる様に言ってよね? 日影さんより、遅くなった理由も知りたい」

 琴美の声がいつもと違う……。
 何処か、怒気を含んでいた。勿論修平もそれに気がついていた。

「……え? 待ってくれ琴美、何をそんなに怒ってるんだ?」
「私は別に怒ってません!」

 客観的に見ても……、明らかに怒っている。そして、良く解る。嫉妬していると言う事を。

「あちゃー、なんか誤解させちゃったみたいねぇ?」
「ごっ、誤解ってなんの事ですか!? わ、私は別に修ちゃんと悠奈さんが変なことしてないかなんて、全然疑ってませんからねっ!!」
「へぇ~……べーつに、あながち間違いじゃなかったりして……、ねぇ? 修平?」
「えええっ!? やっぱり、2人で何かしてたんだ!? それで、日影さんだけ、追い返しちゃったんだ!?」
「……悠奈、琴美をからかうのは止めてくれ」

 修平は悠奈に苦言を言っていた。
 琴美は天然が入っており、からかい甲斐がある様なコだと言うのは知ってるが、今はそれどころじゃないからだ。

「あははっ! ごめんごめん! っとと、日影さんだけ、って事はアイツもちゃんと帰ってきたのね?」
「あ、は、はい。少し前に。ってそれより、修ちゃん! どういう事なのっ!?」
「はぁ……、だから、琴美が思っている様な事は何も無いよ。俺たちは武器を取りにいってたんだ」
「え、武器……?」
「ああ、ほら見てくれ」

 修平は琴美の誤解を解く為に、手にした日本刀を見せた。
 途端に琴美の顔が薄闇の中でも解るくらい緊張していた。

「……!!」
「琴美、そんなに心配しなくても大丈夫よ。修平は誰かと戦う為にじゃなく、琴美を守る為にそれを手に入れたんだから。ね? 修平?」
「まぁな」
「え……そ、そうなんだ?」
「あ~それに、刀真にばっかり格好つけられたら、立つ瀬が無いってさ? 琴美を守るんだ~って。いろんな意味で」
「……そ、そこまで言ってないだろう」
「しゅ、修ちゃん……」

 悠奈はからかうつもりでそう言っていたのだが、琴美はちょっと本気にしたのか、頬を赤く染めていた。

「あはははっ……とと、流石に今日は疲れたし、私は先に寝ようかな?」

 悠奈はそう言って、さっそく小屋へと入っていこうとする。と、その小屋の入り口の前で振り返った。

「ねぇ、修平。例のメールで24時間って決まりだったけど、私は暫くアンタと一緒にいるわ」
「何?」
「……だって、アンタを放っといたら、何か悪い方向へ行きそうだし。……アイツがしてくれた様に私がアンタを止めないと。それに、アンタは昔の私に少し似てるきがしてね……。なんか、放っとけないんだ」

 そう言い残し、悠奈が小屋の中へと消えていった。
 修平は彼女の後姿を何もいえぬまま、見送っていた。琴美も、悠奈が修平を見る目は、心配していたそれとはまた種類が違う事を悟っていた。

「……修ちゃん。悠奈さん何かあったんだよね。きっと……」
「何でそう思うんだ?」
「だって、時々だけど……、とても悲しそうな表情をするから」
「……そうだな」

 琴美の言葉は、恐らくは的を得ているだろう。
 それが、どんな過去なのかはわからない。悠奈にしかわからないんだ。それに、そんな事を聞けるわけも無い。

「でも、悠奈さんには日影さんが着いてくれてるから大丈夫って思う。……日影さんが支えてくれるって思うんだ」
「刀真が、か……。ああ、そうだと良いな」

 修平も頷いた。

 刀真と悠奈。

 恐らくはここで会ったのだろう。だが……、このメンバーの中で一番信頼しあっている2人だと思える。その信頼と言うのも、まだ薄く、儚いものかもしれないが、それでも会った期間を考えたら、随一の絆だと解る。

 だからこそ、あの2人なら大丈夫だと思うんだ。


――……そう、思いたいんだ。











――そして、小屋の前で2人きりになっていた修平と琴美を冷たく見つめる双眸が1つ――



「あぁ……、修平様。どうしてそのような女狐に愛しげな視線をむけていらっしゃるのですか……。私が、あなたのメイドがここにいると言うのに……」

 赤く、そして黒い炎を内に秘めた瞳だった。或いは、狂気か。

「……ですが、修平様の身に危険が訪れた時は、その時は、私が必ず……!!」


――…そう、それは、あの本に描かれていた、出会いの場面の様に。


 深い闇に身を潜めながら、粕谷瞳は、誰に気づかれる事も無く、ただじっとその時を待ちわびていた。強大で、巨大な悪を、理想のご主人様と共に叩き潰すその時を夢見て。

 《粕谷瞳》は、その内に秘めた狂気の刃を今も研ぎ続けていた。







――一方その頃、フィールドの北東にある山小屋では――


 《三ツ林司》が小窓から夜の森を見つめながら、今日一日で起きた出来事の整理と分析を終え、今後の算段を立てていた。

「最も注意すべきプレイヤーは、日影先輩。……そして、次点に藤田先輩と藤堂先輩かな。……藤堂先輩の方は、頭は良くなさそうだったけど、怪しい所だらけだし。もっとも、まだ出会ってないプレイヤーの中にも、危険な人がいるんだろうけど……」

 このゲームは、この世のあらゆる快楽を享受した連中の欲求を満たす為に作られた、悪趣味なエンターテイメントだと、推察していた。そして、それは恐らく間違いは無い。だとすれば、プレイヤー同士が殺し合いをするような仕組みがいくつも仕込まれているに違いない。
 だからこそ、司は山小屋の周囲に張り巡らされていた罠を修理し、武器も手に入れたのだ。

「一番の問題は、僕自身が身体を動かすのが得意じゃないって事、かな……、ま、その分頭を使うつもりだけど」

 だが、本音を言えば、実際に戦闘が起きた場合に、動ける人間が、仲間として欲しかったのは事実。……あまりに未知数な人物がいるからだ。頭脳にしても、身体能力にしても。
 そして、まだ見ぬプレイヤーに好戦的な者がいないとも限らないのだ。

「穏便に済めばそれが一番なんですが……、≪ゲーム≫である以上は不可能に近いですよね」

 司はそうため息を付くと、寝床の準備を始めていた。











――そして、また別のエリアで、森を彷徨う少女が1人――



「うぅ……刀、刀が欲しいです。……それに、お腹も空きました。……こんな事では、彰の仇を討つ事など……。う、うぅ……」

 《蒔岡玲》は、空腹に呻きながら周囲の闇に血走った目を向ける。

 その目に捉えようとするのは、刀と食料とそして仇――。彼女は今、その全てに対して餓えていた。その姿は正に獣の其れである。

 明らかに、動きも鈍くなりつつあるのだが、一度獲物を見つける事が出来れば躊躇なく攻撃が出来るであろう事が見て解る。

 ……だが、見つからなければ、ここで朽ちることになるだろう。それは、彼女の運と今後の展開次第だった。










――そして、ある森の茂みでは――


 黒河正規は、眠りこけている2人の奴隷の横で、リボルバーの銃把を握り締めていた。
 何が何でも、生き残る。そして自分にこんな目に合わした連中をそれ以上の力を持ってぶち壊す事を考えながら。










――ある川の下流の洞穴では――


 ゲーム序盤に、悠奈、刀真の2人と遭遇している真島が息を潜めていた。
 刀真に譲ってもらった古びたノートは全て読破しており、メモリーチップについても、今日で2つ入手済み。その点を考えても、あの男には借りがあると強く思っていた。

 100%信じたか?と言われれば、首を縦に振ることは出来ないが、可能な限りは力になろうと決めていた。

「………」

 そして、自身の拳を握り締める。未だ錆付いてはいないその拳を固めていた。









――山奥の獣道の倒木の傍では――


 いち早くクリアに向けて行動を開始していた《細谷春菜》は、クロスボウを掻き抱く。
もう、数度撃ち放ったその矢。使用にはまるで問題ないが、今だ震えは止まる事は無い。

「無様……ね」

 ぎゅっ……と拳を握り締め、そしてクロスボウのグリップ部分も握り閉めた。
 今回で、何度目になろうか……解らないが間違いなく難易度は高いが、アドバンテージはある筈だ。

 ……だが、それを嘲笑うかのように一笑された気分だ。

 だが、それだけならばまだいい。握り締めた手を開き、自身の手を見た。その手は小刻みに震えているのが解る。

「あの男は……一体何者……」

 今、思うのはあの男の眼だった。

 初戦目は不意打ちをあっさりと見破られた。近づく際には細心の注意を払ったはずなのにだ。


 そして、二戦目。


 ……圧倒的な優位の立場。
 武器を手にし距離も取っていたと言うのに、一蹴された。隠れていたのに、意味も成さなかった。

 次弾装填するのも忘れ、逃げるしか出来なかったのだ。

「この武器じゃ……もう無理よね。でも、私の条件じゃ……これじゃないと……」

 それもあるのだ。クロスボウは確かに殺傷力は高いが、拳銃ほどではない。それも状況次第だが、敵を殺さず傷つけるには、今の武器が一番最適なのだ。……だが、あの男にそれは悪手。最悪の手だと言う事はもう理解できていた。

「あの男以外を狙わないと……。付かず離れずに……」

 そして、震える手を押さえつつ、寝床についた。









――集落・離れた小屋の中――


 手を組んだメンバーの全員が、寝息を立てていた。
 その中で、横にならず、小屋の入り口に近い所で座り、片膝を立て腕を組んでいる男がいた。

「………」

 目だけは閉じているが、眠っていない事はその雰囲気が物語っていた。
 殆どがその男に気づかず、眠りについている。当然だろう。……今日の疲労度を考えれば。唯一その男に気づいていた者もいた。

「……起きてるんでしょ。寝ないの?」

 小声でそう聞く。
 その言葉に片目だけを開けて見上げた。月明かりのみで、殆どが暗闇の中だが、誰がいるのか。はっきりと解った。

「……オレにはこれで十分だ」
「そう……」

 赤髪の少女……悠奈は、その男のとなりに腰を降ろした。
 その行動の意味をいまいち把握してなかった男、刀真は、苦言を呈す。

「少しでも寝ておけ……。まだ長いんだぞ」
「ここが良い。……ここにいさせて」
「………」

 そう言うと、悠奈は、背を刀真の肩に預けてきた。
 悠奈の鼓動が触覚を通して伝わってくる。刀真は何も言わず、その行動もとめる事は無かった。確かに、無理にでも眠っていた方が為になるとは思うが、今は良いと判断したようだ。

「……私は空っぽだった」
「空……?」
「あなたが、……刀真がその私に足り無かったものを埋めてくれたんだ。……本当にありがとう」
「……大袈裟すぎるだろう。オレは思った事を言っただけに過ぎない」
「………ふふ、アンタならそう言うって思ってたわ」

 悠奈は、そう言って笑っていた。
 そのまま、明け方まで悠奈は温もりを感じながら眠っていた。



――……正直な気持ち。自分は元々死人みたいなものだと思っていた。


 本当は、死んでいた筈の人間だった。だから、温もりなんて……別にいらないって思っていた。本当に欲しい温もりはもう二度と得られないんだから。

 だけど、今はこの温もりが愛おしくて仕方が無い。もう少しだけ、……あと、少しだけでもいい。

 悠奈は、この地獄の中で……、唯一の幸せな温もりを欲していた。……忘れていたささやかな、幸せを感じていた。







――そうして15人のプレイヤーが抱く、様々な思いを呑み込みながら……――



 ゲームの一日目は終わりを迎えた。








































~プレイヤー・ナンバー~



 No. 氏名  解除条件


□ ??? 上野まり子  ??????????


□ ??? 粕谷瞳   ??????????


□ ??? 細谷春菜  ??????????


□ 4  藤田修平  ??????????


□ ??? 黒河正規  ??????????


□ ??? 吹石琴美  ??????????


□ 7 真島章則   ??????????


□ ??? ????    ??????????


□ ??? 蒔岡玲   ??????????


□ ??? 伊藤大祐   ??????????


□ J  藤堂悠奈   ??????????     
 更新:No.4と24時間行動を共にする。

□ ??? 阿刀田初音  ??????????


□ ??? 三ツ林司   ??????????


□ ??? ????    ??????????


□ XIV 日陰刀真  PDAを5台以上所持する。 
 更新:No.J、4と24時間行動を共にする。(離れる場合の制限は2時間以内とする)






 
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