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クラディールに憑依しました 外伝

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回り込まれました

 第四十八層リンダースの転移門広場へ向けて、リズとシリカを連れて歩いていると、

 押さえきれなくなったのかシリカが話しかけてきた。


「アシュレイさんと同級生だったんですね、リアルの方ではアシュレイさんってどんな人だったんですか?」

「今と大してかわらねぇよ、リアルの話は止めとけ、ゲームクリア後に面倒な事になるからな」

「前にもそんな事を言ってましたけど、本当に調べれば解るんですか?」

「ん? 簡単だぞ? 世の中ってのは意外と狭いんだ、例えば親がパン屋を営んでいたとしよう。

 そんな話をパーティーメンバーに話していたとして、そいつが故意でも事故でも構わない、誰か殺したとしよう」

「――――え?」


 話がいきなり極論に変わってシリカが目を丸くした。


「ゲームクリア後に『アイツはSAOで人を殺した! 親がパン屋をやっていた探してくれ』なんてネットに書き込んだらどうなる?」

「…………間違いなく『自称善意の探偵』が大量に発生して数時間で特定されるわね」

「だな、しかも親がパン屋をやっている奴が全国に数箇所見つかって、判らないなら全部叩けと無関係の人までサンドバックだ」

「どうしてそんな事するんですか!?」

「身内から死者が出たとか、友達が死んだとか、酷いのになると顔は知らないけど同じ学校だったから叩く権利があるってな。

 SAOがクリアされたらネット世界に囚われていた俺たちが生還者として帰ってくるんだ、

 世間一般様は面白がって有る事無い事片っ端から取り上げて混乱が生じるのは確定だな。

 そこに付け込んで愉快犯がSAO生還者だと名乗ってテレビのインタビューに答えたり、好き放題掻き回して遊ぶつもりでな」


 恐らくだが、クリアされてもないのにSAOから生還して来たとか某巨大掲示板にスレやコミュ立ててる奴とかは既に居る筈だ。

 そこで集めた情報を元に有る事無い事でっち上げる準備を整えてるのだろうな。


「まぁ、そうなると、普段話していた小さな情報がデマと結び付いてとんでもない事になる訳だ。

 そんな情報の中に『殺人ギルドに加担してた奴がリアルでの知り合い』なんて情報が流れて見ろ、人生的にも商売的にも大打撃だろうが」

「…………実感できません。本当にそんな事になるんでしょうか」


 消え入りそうな声でシリカが困惑している。


「それじゃあ、今直ぐログアウトして飯でも食いに行こうぜ、死んでしまった連中も誘ってみんなで飯食いに行こう」

「……………………できませんよ、そんなこと」

「そうだな、世の中楽しい事ばかりじゃないんだ。ログアウトしたとしても、筋力が衰えてベッドから起き上がれない現実が待ってるし、

 死んだ奴らが生きてるなら、まだゲームに残ってる俺たちを放って置く筈がない。死んでも平気なら無理やりナーヴギアを引っぺがして現実に戻す筈だ。

 それとも、茅場晶彦がSAOをクリアした奴に莫大な賞金を送るから『ログイン中のプレイヤーを起こしてはいけない』なんてルールを強いてると思うか?

 お前達の親はそんな賞金の為にお前達を起こさず、お前達の人生を天秤にかけるような親か?」

「違います! あたしの両親はそんな人じゃありません!」

「あたしの親だって賞金が出るからって娘を寝たきりにさせるような人では………………ないと思うわ、うん」


 おい、シリカはともかく、何でリズが自信なさげなんだよ、金で娘を売る親なのか?


「だ、大丈夫よ、いくらあの親でもそこまでは…………」


 リズが遠い目をして、空元気というよりは絶望と諦めの入り混じる乾いた笑い声を漏らしている。

 原作のリズは金に換えられるレアアイテムに目を輝かせていたが、たぶん親も『そう』なのだろうな。


 一人思考の奥深くに沈んだリズを放置しながら歩いていると、人通りが激しくなり転移門と二基の水車がある物件が見えてきた。


「アレがカフェテリアも出せる物件か、店を出すには良い立地条件ではあるが、カフェを運営する心算もないし、

 他に行くのもアリかもな…………でも水車が減るか」

「此処にカフェテリアが開いたら素敵なお店になりそうですね」

「まぁ、店の壁や棚に並ぶのはリズの武器だけだろうけどな」


 リズに目を合わせると、何故か真っ赤になって俯いた。

 良く解らないが、とりあえずアシュレイから返却してもらった資金と手持ちの金をいくらかプラスして店を購入した。


「ほれ、お前らの鍵」

「え? 良いんですか? あたしに!?」

「さっきリズにも渡したんだ、お前も使う機会があるだろうしな」

「あ、ありがとうございます!」


 何やらシリカが笑顔全開で喜んでいるな、今にも頭から音符のエフェクトが生えそうである。

 リズは渡された鍵を見詰めて何やらブツブツ呟いているが、独り言を聞き返すのもな。


「さて、中に入るぞ」

「はい!」


 正面玄関は横開きなので鍵を開けず、隣の勝手口に手を掛けて中に入る。


「やあ、遅かったな」


 ………………………………大きくて真っ白な腰のリボンを揺らしたメイドが部屋の中に居た。

 良く見ると白を基調としたメイド服である。

 手にはカフェのメニューを複数持っており、各テーブルの上に並べている最中らしい。

 部屋の中というか店内は既にテーブルと椅子が並べられている。

 カウンターには、二メートル級と一メートルのウォータードリッパーが複数設置されていた。


「ん? どうした? 此処は正真正銘、君が買った物件で間違いないぞ?」


 硬直している俺たちに白いメイドが話しかけてくる…………って良く見れば、その顔と声には見覚え聞き覚えがあった。

 色々と推測は思い付くが、直接聞いた方が早いな。


「何故此処に居る?」

「前々から準備をしていたからだ」

「何時から此処に居る?」

「こっちに来たのは今朝の事だよ、ボス討伐お疲れ様、アレだけの人数が居るんだ、もう少し何とかならないものか?」

「あいつらも命が掛かっているからな」

「…………すまない、文句のひとつでも言ってみたかっただけだ」

「待ってられなかったのか?」

「本当にすまない。押さえ切れなかったんだ」


 白いメイドはそのまま俯き妙な沈黙が店の中を支配した。


「あ、あの、クラディールさん? その人は?」


 シリカがもっともな疑問を口にする。


「あー、コイツは、何と言ったらいいかな」

「わたしは君たちの言うNPCという存在だ、とあるクエストでわたしたちの家族はクラディールに助けられた。

 わたしも妹も元気になり、父も母も幸せに過ごしている。わたしはその恩返しをしに此処に来たんだ」


 そう言って白いメイドは俺の左腕にしがみ付き頭を摺り寄せる。


「もう、この位置は誰にも渡さないぞ――――そう。君たちにもな」


 ニヤリと妖艶に微笑んだのだろう、シリカとリズの表情に戦慄が走った。


「ちょ、ちょっと待ってください!? NPC!? 思いっきりプレイヤーじゃないですか!?

 普通ならNPCに振れると『NPCへの不適切な接触』って表示が出るのに、完全に抱き着いてるじゃないですか!!」

「わたしは特別製なんだ」

「絶対嘘ですよねそれ!? 離れてください!!」


 何故かシリカが涙目になりながら白いメイドを俺から引き剥がそうとする。


「おいおい、そんなに強く引っ張るな、警告が出るぞ?」

「出ません! アルゴさんとどの程度で警告が出るか検証したんです! この程度の接触じゃ…………」


 ぺコン!


 シリカに警告が出た。
 
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