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木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
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第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  ヒルゼン


「あっはははははははは!!」

 笑う大蛇丸の顔は美しく、それでいて恐ろしかった。
 他人の体の中に転生する転生術――大蛇丸が用いたのは十中八九それだ。シソ・ハッカの母親。若くして去ったハッカ最愛の女がこうやって哄笑しているのを見たら彼はどう思うだろうか。いずれにせよ彼の記憶からそれは全て抹消されているのだろうけれど。
 大蛇丸がその顔の前で手を翳すと共に、その顔は元に戻った。

「貴方にご自身の生涯を悔い、運命を呪いながら死んでもらうには、シソ・ハッカの母親などではなく、やはりこの顔が一番」

 その理由にヒルゼンは瞠目するのと同時、どうしようもない哀れみと悲しみに襲われた。ヒルゼン先生と自分を慕い、自分から多くの知識を得ようとした、知識に強い欲望を持った少年はもういない。いるのはその欲望の大きさに道を踏み外し、狂気を歩んだ男。師を甚振り、殺すことしか念頭にない、蛇のように狡猾な者。
 初代が印を結ぶ。大樹が結界の内部を充満した。

「気を抜いちゃだめですよ先生……貴方はいつも甘すぎるんです」

 くっくと大蛇丸が肩を震わせた。その手にしたパステルカラーの風車が樹海の中で、まるで一輪の花のように煌いている。はあはあとヒルゼンは荒い息を繰り返した。
 猿魔の存在に改めて感謝の念を覚える。もし猿魔が金剛如意で咄嗟にヒルゼンを守ってくれなければ、ヒルゼンは大樹に貫かれるか押しつぶされるかして死んでいたはずだ。今日自分はここで死ぬかもしれない。けれど例えここで死ぬとしても、それは彼らを倒してからでないといけない。彼らを残したまま安らかな死に自分だけ逃げるなど言語同断。どんなに苦しくても、辛くても、最期まで戦わなければ。

「行くぞ猿魔!」

 金剛如意を手にし、飛び降りる。大蛇丸と初代、先代を視界に捕らえ、影分身を使う。チャクラになんて構っていられない。何れにせよこれが最期だ。ヒルゼンは印を組んだ。かつて四代目が九尾の狐相手に組んだのと同じ印を。
 そしてその瞬間、ヒルゼンの背後に、一人の青年の姿が現れた。

「ジャシンさま――?」

 大蛇丸が息を飲む。異様な光を宿した瞳に、長い黒髪を垂らした姿。その姿は髪を伸ばした再不斬に他ならず、しかしそれでいてその異様な雰囲気を持った瞳がその全てを否定している。
 ぐるりと突風が渦巻き、その顔が変わった。角の生えた頭、尖った歯、白装束を纏った姿。その胸元に縛り付けられているのは、ヒルゼンの魂だ。

「三十二人分の死。誰かは確かに受け取った。誰かは知った、他にも四十六人分の死があることを――。あと十二人分で契約は成立する。誰かは一人の男の魂をもらった。〈忍の神〉と讃えられた男の魂だ。彼は更なる魂を封印していようとしている。誰かは死の方が好きだが、魂も嫌いではない」

 ジャシン――もしくは、死神が。ヒルゼンとの契約を受けて地上に舞い降り、その真の姿を見せたのである。ある意味で死神、つまりジャシンも大蛇丸と同じで、他者の体を乗っ取り移りすむ存在だったのだ。
 死神が見えるのは術を用いて死神と契約したヒルゼンと、ヒルゼンの前にジャシンと契約をしていた大蛇丸のみだ。彼の使わんとする術がなんなのかを知った大蛇丸が顔をゆがめる。
 
「木ノ葉の里はわしの住む家じゃ! 火影とは、その大黒柱として、家を守り続ける存在! それは、木ノ葉の全ての意志を受け継ぎしもの。簡単には歪まんぞ!!」

 木ノ葉の里で毎年生まれる沢山の忍びが。ここで生き、育ち、そして里のために死んでいく。

「そんな里の者達を……、例え血のつながりはなくとも――わしにとって、大切な――」

 走馬灯とも言うべきか。脳内に里の者たちの姿が一つ一つ映し出されていく。
 千手柱間。千手扉間。うたたねコハル。水戸門ホムラ。志村ダンゾウ。うちはカガミ。秋道トリフ。
 大蛇丸。自来也。綱手。みたらしアンコ。波風ミナト。シズネ。はたけカカシ。のはらリン。うちはオビト。
 うみのイルカ。夕日紅。マイト・ガイ。シソ・ハッカ。森乃イビキ。エビス。
 うちはサスケ。うずまきナルト。春野サクラ。
 奈良シカマル。秋道チョウジ。山中いの。
 油女シノ。犬塚キバ。日向ヒナタ。
 日向ネジ。ロック・リー。テンテン。
 一文字はじめ。いとめユヅル。狐者異マナ。
 
「大切な――!」

 そして、猿飛アスマと。
 猿飛、ユナトと。
 猿飛木ノ葉丸と。

「家族じゃ!!」

 それ以外にもたくさん、たくさんの顔。
 今は亡き者。
 今も木ノ葉を守り続けている者。
 子供の名付け親になってほしいと尋ねてきた女とその子や。
 辛い思いをさせて、そして結局救えなかったうちはや狐者異や。

 たくさん、たくさん、たくさん、たくさんの。数え切れないくらいに多くの人の顔が。浮かんで、消えて、また、浮かんで。

 里の為に自ら命を捨て死んでいった者や。
 里の為に仲間を屠ることを選ばざるを得なかった者や。
 里に刃を向けることになってしまった者や。

「例えわしを殺したとしても、その柱は折れはせぬ!!」

 救えずにひどく後悔したことは、たくさんある。
 悲しく辛く想い、涙を流した死も、たくさんある。
 身を切るような犠牲も、たくさん、たくさん、ある。

 でもそれでも。

「初代さま……二代目さまの木ノ葉の意志を受け継いだ!」

 誰かの笑顔を見て喜んだことも。
 嬉しさに涙のでるような生も。
 助け合って生きていける幸せも。

 後悔や、死や、犠牲よりも多くの喜びが、愛が、幸せが、ここにはあるから。
 だから例え後悔や、死や、犠牲のことに涙を流し、昨日を悔い、無力な己を呪ったとしても。
 今日と、明日と、続く未来の喜びや、愛や、幸せのために歩き続けることが、出来るから。

 きっとどの火影だって過ちを犯し、悩んだことはあったかもしれない。
 でも最期まで木ノ葉を幸せにしようと、木ノ葉を守り続けようと頑張ってきた、彼らの。
 その意志を受け継いだ、自分は。
 自分が。

「この男が! 三代目火影じゃ!!」

 ――だから木ノ葉は。
 自分が守らなくては、ならない。

「封印術・屍鬼封尽(しきふうじん)!!」

 そして発動される、三代目火影最期の術。
 猿飛ヒルゼンは飛び出していった。木ノ葉を守るために。

 自分の体を突き抜けて出てくる、死神の、そしてジャシンの呪われた手が初代と二代目の魂をそれぞれ掴んだ。死と血と滅亡を何よりも愛するジャシンの顔が喜悦に歪む。

「千手柱間と千手扉間……その死を二度も手に入れられることに、誰かは笑いがとまらない……!」

そんな狂気じみた笑い声を立てる契約対象たる死神の言葉すらもう耳に入らない三代目は。
魂を持っていかれる寸前の初代と二代目が微笑むのを見て、僅かに救われたような気がした。
分解していく塵芥。その下に現れたのは二名の死体だ。
初代火影の形を成していたはずのそれは、長い黒髪の少女――音隠れのキンに。二代目火影の形を成していたはずのそれは、雨降り小僧のクゥに。何れも大蛇丸の部下だったであろう二人の死体に、三代目は打ちひしがれる想いだった。

「この者達は……お前を信じてきていたのではないのか……っ!」

 大蛇丸を信じて。ここまでついてきたはずの子供を。何故そうあっさり殺せるものなのだろうか。何故穢土転生の生贄に出来るものなのだろうか。

「あら、私も不本意なんですよ、先生。本当は片腕を失った二人組にしようと思ったんですけどねえ……でも何しろ二人が消えていたものだから。呪印に適合できたカイナとミソラは捨てがたいし……尾獣チャクラを抑止できるケイは勿論捨てられないもの。能力としてはドスとカイの方がキンとクゥよりも上だったってだけですよ」

 その大蛇丸の言葉に更に絶句させられる。
 片腕を失った二人。それはザクと、いつぞやの任務の報告書の中で語られていたサンカという少女に違いあるまい。その二人とて大蛇丸の為に戦い、そしてその戦いの上で片腕を失ったのではないのだろうか。
なのに大蛇丸は。彼に従ってきていた沢山の子供たちを天秤に乗せ。能力の高さや、呪印に適合したかどうかや、持っている能力やらで二人の子供を迷わず切り捨てたというのだろうか。
 こんな人外が自分の弟子であったことが無念でしかなく、そしてあの時彼を殺せなかった自分を恥じるばかりだ。

「来い、猿魔ァア!!」

 影分身を消し、金剛如意を手に走り出す。これが最期の戦いだ。大蛇丸が草薙ノ剣を構える。受け止め、受け流し、殴り、突き、うねらせながら。最期の戦いに挑む。
 ついにヒルゼンの金剛如意が、大蛇丸の草薙ノ剣を弾き飛ばした。金剛如意を投げる。そこから伸びた猿魔の手が大蛇丸を掴もうとするが、大蛇丸の口寄せした蛇が金剛如意に巻きつき、その攻撃を封じた。だがこれは目晦ましに過ぎない。真の目的は。
 がしり、とヒルゼンが大蛇丸を掴んだ。すう、と伸びてくるジャシンの手に、大蛇丸の目が見開かれる。

「〈白い大蛇〉は、契約以上に多くの死と血を誰かに齎してくれた。だから誰かは〈白い大蛇〉の命は奪わない。けれど誰かは〈忍の神〉との契約を裏切るわけにもいかない。だから誰かは〈白い大蛇〉の、部分の魂だけを奪う」
「――やめ……!!」

 咄嗟に印を組む。草薙ノ剣が青白く輝き、浮き上がった。
 殆ど同時に、かつての師弟は叫んでいた。

「「死ね!!」」

 大蛇丸の魂が僅かに引き出され。
 そしてヒルゼンの血が散った。
 
 

 
後書き
やっとここまでこれたなあ。木ノ葉崩し、出来れば今年中におわらせたいです。
 
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