| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

木ノ葉の里の大食い少女

作者:わたあめ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第一部
第三章 パステルカラーの風車が回る。
  ヒルゼン


 ヒルゼンは苦悶の呻きをあげた。
 大蛇丸はどうやらこの「穢土転生」を、まだ徹底にマスターしきれてはいないようだった。どうやら術で初代と先代の意識を強く縛ったようだが、初代と先代の戦い方を知らない為だろうか、術と術の繋げ方には初代や先代らしからぬものもあり、まだ技術が足りていないのかコントロールが荒いし、雑だ。この術を使えるようになれること自体かなり凄いものだが、まだ完全に操れる領域には達していないらしい。
 そしてこの結界も大蛇丸の意識しないところで彼の邪魔をすることとなった。本来初代の使う木遁と、先代、つまり二代目の扱う水遁は広範囲の攻撃を主とするものである。結界は広範囲の攻撃であるそれの威力を格段に低めてしまった。彼らの本来の実力を知らない大蛇丸がそのことを察知できないのはヒルゼンにとって幸運だったと言えよう。出なければヒルゼンはもう既にこの世の人ではなくなっていただろうから。
 ただし穢土転生を完全に操れていなくとも、老いたヒルゼンを窮地に追い込むのには充分過ぎるほどだった。それが初代と先代の実力を現している――千手の実力を。ついこの間里に戻ってきたばかりの綱手が脳裏を過ぎった。
 絡み付いてくる木が胸を圧迫して苦しい。動こうとすれば直ぐに木が絡みついてくる。枝が首を締め付けてきた。苦しい。苦しい。息が出来ない。
楽になりたい、そんな弱音を吐きそうになってしまう――
 
 遠くの方で、水柱が上がった。
 振り返る。あやめ色の髪の少年がこちらに向かって、一直線に走ってきている。
 屋根のオレンジの瓦に着地して、結界を解こうと水遁の印を結び、多量の水を呼び出して結界に直接ぶつける。殆ど結界と相殺されてしまったが、しかしその水遁の強さはつい今しがた見たばかりの二代目火影を思い出させるものがあった。

「一文字、はじめ――?」

 荒い呼吸を繰り返しながらも必死で水遁をぶつけてくる少年の面影と二代目の面影が重なる。連鎖して思い起こされていく数多の記憶。里に召喚された蝦蟇と蛞蝓の姿。初代と二代目の後を追いかけて走った日々――

「――――」

 こんなのは、違う。
 二人が初代と先代ではないと、知ったつもりでいながらわかっていなかった。けれど今、わかった。
 彼らは初代と先代ではない。
 初代のこの木遁は仲間を縛り付けるためではなく、里を守るために生えていったのではないか、枝葉を茂らせていったのではないか。先代の水遁ははじめの水遁のように力強く、そして仲間を守る為に流れたのではないか。
 ぐっと親指の皮膚を噛み切る。溢れでる血の暖かいこと。そうだ、まだ自分は生きている。
 腕を伸ばし、手近な枝に触れる。あがる蒸気、その中から出てきたのは――

「哀れだのう猿飛。あの時に殺しておかんからだ」

 猿の妖――「猿魔(えんま)」。
 血と血で契った、長い月日を共にしてきた相棒。

「これからやるのだ」
「へっ。もう遅せーよ」

 長い白髪を伸ばした猿の妖は立ち上がり、結界外のはじめへと外を向け、ほう、と面白そうな笑い声を立てた。

「二代目の面影を持っているな、小娘。……まあ、二代目よりはちと女っぽいが、女だから構わんだろう。よく来てくれた――だが、ここはもういい。お前は他の所へ援助にいけ。ここはわしと猿飛がやる」
「……あ、ああ……」
 
 ニヤリと笑って見せた猿魔に、自分は男であることを訂正して置くべきかそれともしないでおくべきか少し迷う。結局今はそういう場合ではないと判断し、はじめは踵を翻して走り出した。
 猿魔は契約主の方を一瞥した。更なる一撃を与えようとやってくる初代と先代の姿に嘆いたのもつかの間、すぐさま「金剛如意(こんごうにょい)」に変化し、ヒルゼンを縛る木々を断ち切る。金剛如意、自在に伸縮出来る棒だ。術者に扱われるだけでもなく、自らの意思でも動けるこれは、血と血で契った相手の武器としかならない。それを見た大蛇丸が目を細め、両手を自分の腹に当てた。
 すっと上へ向かって腹をなぞり、上を向く。その舌が蛇に変化し、その蛇の口内から更に剣が――草薙(くさなぎ)(つるぎ)が現れる。
 大蛇丸がそれを構えた。ヒルゼンは金剛如意を構え、元の形態から細長く戦闘に利した形態へ変化させ、そして走り出した。
 ――猿飛、気をつけろ。いくら金剛如意のこの体でも、草薙ノ剣は痛てーぜ
 語りかけてくる猿魔の声に答える間もなく、ヒルゼンは前に向かって突進した。飛び上がって金剛如意を構える。すぐさま下へ向かって伸びていった金剛如意をかわし、回転し、唸りをあげながら襲い掛かってくる金剛如意をかわして、草薙ノ剣をその黒い棒にぶつける。がきん、がきんと火花がちり、耳障りな金属音が結界内にこだまする。
 唸り、うねり、回り、蠢き、貫かんとする金剛如意をかわしながら大蛇丸が草薙ノ剣を振るう。初代と先代が背後から奇襲をかけ、それを受けてしまいながらも二枚の札を掌から飛ばし、二人の体に貼り付ける。
 が、気づいた時には、ヒルゼンは大蛇丸の拳を顔面で受け止めていた。転がる。大蛇丸が自分をあざける声がする。何故影分身も使わぬのかと。

「それとも使えないのかしら? 年を取りすぎて? 老衰でチャクラの量を失ってしまったら、影分身なんてチャクラを捨てるのに等しい行為ですものねえ、ヒルゼンセンセ?」

 嘲るような声。この状況が可笑しくてたまらないとでもいうような笑い声。

「あーあ、おかしいおかしい。ねえ、先生、ガッカリさせないでくださいよ。もっと楽しませてくださいよ、ねえ。――あーっはっはっははっはっは、あははははっ!! おかしい、おかしいですよヒルゼンセンセ!!! これで木ノ葉の里はもう終わり!! ああ、木ノ葉の風車も長く回りはしなかった、あっはっはっははは!! ちょっとの間つまらなくなるけれど……でも愉しかったですよ、センセ」

 弟子だった男が狂った笑い声を上げる。爬虫類めいた瞳には狂気が宿り、その聞くも恐ろしい笑声は狂気そのもの。その姿を見たヒルゼンの瞳から涙が溢れ、目元を伝う。

「おろち……まる」

 前は。もっとずっと、何十年も前は。
 大蛇丸は大人しく、聡明な子だった。天才として回りからも一目を置かれた子で、その麗らかな外貌からも彼を好く女子は多く、自来也や綱手との仲も良好であった。好奇心が強く、知識への欲望が強い、ヒルゼンの可愛い弟子の一人だった。
 それが狂いはじめたのはいつからだろう。その両親が死んだ後ぐらいだろうか。どんどんと変貌していくその姿。気づいていたはずなのに止められなかったその異変、その狂気。例え大蛇丸がその知識への欲望の為に狂気の沙汰に足を踏み入れるのが運命だったとしても、ヒルゼンは責めを感じずに居られなかった――狂気の沙汰に足を踏み入れていく彼を止めることが出来なかった罪悪感。
 だからこそ彼が禁術の実験をしていることをしっても、手を下すことが出来なかった。弟子への愛しさとその狂気への罪悪感、その二つがヒルゼンの手を止めた。
 でも。

「この、戯けがァアアあああ!!」

 大蛇丸を思い切り蹴り飛ばす。猿魔の腕がその首を掴む。
 今日こそ終わらせなければ。今日こそけじめをつけなければ。
 弟子への愛しさとその狂気への罪悪感、それは言い訳でしかない。彼が禁術の実験をしていたのも自分がそんな彼に手を下さなかったのも、そしてその判断が今の木ノ葉に絶大な危機を及ぼしているのも事実。
 あんなに幼い少年が戦っているのが見えなかったのか。きっと彼以外にも沢山の少年少女達が、そして沢山の上忍や中忍が、里を守る為に戦っている。火影たるヒルゼンを信じて、里の皆を信じて奮闘し続けている。なのに今自分がここで躊躇うわけにはいかない。
 火影の名を背負ったその意義を忘れては、いけない。
 
「はああッ!」

 猿魔の掴んでいた大蛇丸が土くれとなって崩れ落ちた。そこから現れた本物の大蛇丸を蹴り飛ばし、初代と先代の体に貼り付けていた札を発動させて、その体を爆破させる。二人が吹っ飛び、地面に倒れた。
 だがやはり、穢土転生に縛られている魂をなんとかせねば意味はないようだった。塵芥が飛び交い、爆破されて欠落した部分を塵芥で埋めていく。爆破された部分を取り戻した二人がゆっくりと立ち上がり、地面に転がっていた大蛇丸も黒髪を揺らしながら立ち上がる。
 
「ならば、四代目の術を使うしかないか……!」

 自らの命を代償に魂を封じる、あの術を。
 ――初代さま、二代目さま、お許しくだされ
 この術を使うということは、死神の腹の中に自らを封印し、そして死神の腹の中の相手と永久に戦闘を続けることになる術。自らの魂を代償に死神と契約して他人の魂を封ずるこの術は、正しく四代目が九尾の狐を封じるがために使ったもの。

「ふふ……」

 大蛇丸が、笑った。

「何が可笑しい」
「いいえ……哀れでね。かつては忍の神とまで謳われた貴方ですら、老いには勝てないなんて」

 病的に白い大蛇丸の指が己の皮膚を掴み、そして引き裂く。
 その下から現れたのは、白い肌にばら色の唇をした見るも美しい娘。

「お前、何者だ……!?」
「突然のこと過ぎて理解が追いつきませんか? 私です、大蛇丸ですよ」

 その顔立ちに、ヒルゼンは思わず一人の人物を思い出した。
 シソ・ハッカの母親。ある日突然、ハッカだけ残して行方不明となった娘。あの美しかった黒い瞳を、今は爬虫類めいた金の瞳がとって変わっている。楽音の如き声はかわっておらずとも、その声によって奏でられる言葉の一言一言が狂気に満ちている。あの穏やかな微笑を浮かべていたハッカの母親はどこにもいない。いるのは爬虫類めいた金の瞳を持ち、醜悪な笑顔を浮かべる大蛇丸だけだ。

「まさか貴様、あの禁術を完成させていたのか……! 恐ろしき人外の者よ……!」

 狐者異を人外と呼ぶのはひどいことだと、ヒルゼンは前々から思っていた。狐者異は妖だ。確かに人とは違う血を持つが、何も妖は狐者異だけではない。けれど木ノ葉の里は前々から狐者異をずっと追い詰めてきたのである――狐者異が木ノ葉の里に所属するようになってからずっと。様々なことが重なって狂っていった狐者異達を人外と呼ぶのなら、そうさせた自分たちもまたそうではないかとヒルゼンは時たま思う。
 大蛇丸が狂いはじめたのはその両親の死かもしれない。けれどそれだけで狂わない者もたくさんいる。その欲望を押さえつける術も沢山あったはずなのに抑えられず、自ら狂気を選んだ大蛇丸こそまさに真の人外だと、ヒルゼンはそう知った。

「あはっ……あはははははは、あっはははははは!! あっはははは、あっははははははっはっあははははは!!! うふふ、ふふふふ……あっははっはははははは!!」

 それを奏でる声は楽音の如し。ガラスを叩いたかのように美しい音であるのに、その中に混じる感情は嘲りと狂気の入り混じった醜悪なもの。これほどまでに美しく、それでいながらおぞましい音色を、ヒルゼンは未だかつて聞いたことがなかった。
今まで雲に覆われていた太陽がきらきらと顔を現し、大蛇丸を照らす。
 大蛇丸こそ正に狂気の象徴であると、この瞬間ヒルゼンはそう感じた。
 
 

 
後書き
戦争編で生き返ったなんか子を見守る親のような大蛇丸も好きですけど、この頃の気違いじみた空気も好きです。
穢土転生で柱間細胞など追加されているとは言え、マダラ>>>>>>五影な状況と、そんなマダラより強いはずの柱間が弟と一緒でも三代目に一緒にやられてるって点にちょっと違和感を抱いたので、大蛇丸はこの頃まだ術をきわめておらず、二人を上手くコントロールできなかったと解釈させていただきました。
一応同期との戦闘は大蛇丸との戦闘を終わらせてからにするつもりです。三代目が死んでしまうのは残念なので中々筆?が進みませんが、それでもちゃんと書き進めるつもりです。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧