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魔法少女リリカルなのは 平凡な日常を望む転生者

作者:blueocean
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第36話 零治の過去

あれは、私が小学3年生の秋頃だったと思います………

放課後、先生に頼まれて、ゴミを裏庭に捨てにいった時の話です。
途中に通る中庭にある芝生でねっころがっている男の子を見たのは………

アイマスクを着け、My枕まで取り出してぐっすりと寝ようとしていました。
そんな珍しい男の子に気づいたら自然と私は声をかけていました。

「こんなところで寝てると風邪をひくよ」
「はぁ?春と秋って言ったら絶好の気温じゃないか。暑すぎず、寒すぎない。だから風邪なんかひかないさ」

ねっころがっている男の子はアイマスクを外さずそのままの体勢で返事をした。

「で、でも夕方は冷えてくるよ?」
「そうしたら自然に目が覚めるだろ」

相変わらず起き上がって話すつもりは無いようなので私はこれ以上関わらないことにしました。
これが私、月村すずかと有栖零治の最初の出会いでした………………




「ずか…………」

「ん?」

「すずか!!」

「うひゃ!?」

いきなり耳元に大きな声を聞かされ私は飛び上がりました。

「アリサちゃん!?」

「やっと起きたわね、移動教室だからもう移動しないとまずいわよ」

「ありがとう、アリサちゃん」

次は理科の実験だったっけ?
私は机の中から理科の教科書を取りだし、席を立ちました。
そんな時、後ろのドアから大きな音が響き、零治君とフェイトちゃんがやって来ました。

「はぁはぁ………零治って………いつも………こんな鬼ごっこしてるの?」
「ぜぇぜぇ………俺だって………したい訳じゃねぇよ………」

二人共汗だくで息も切れてました。

「どうしたのよ二人共!?」

「フェイトと愛の逃避行してた」

「違うよ、アリサ!!二人で話してたら、神崎の友達に追いかけられて逃げていただけだよ!!」

「そんな露骨に否定されると流石に………」

「まぁあんただからね」

アリサちゃんのきつい言葉に更にへこむ零治君。
今はこんな風に感情豊かだけど小3の秋から冬にかけては特に酷かったと思う。





あの後、私はあの男の子が気になってクラスを転々と探してみました。
だけど小3の全てのクラスを回ってもあの男の子を見つけられませんでした。
そんなとき………

「おい!お前!!」

私は不意に物陰に隠れました。
6年生だろうか?見た感じにガキ大将の男の子と3人の男の子があの時の男の子を囲んでいました。

「杉山くんに反抗してただすむと………」
「そのでかい図体が邪魔なんだよ。少しは痩せないと女にモテないぜ」

あの時の男の子は4人の上級生に囲まれてるのに平然としています。軽口まで言いました。

「あれ?」

物陰から覗いていた私は、その5人のやりとりを見ている女の子がいることに気がつきました。
頭の横に2つのお団子を作っている女の子。
今にも泣きそうな顔で様子を見ていました。

「いい度胸じゃねえか、これは教育しがいがありそうだ………」

杉山くんと呼ばれた男の子がニヤリとして、あの男の子の肩を掴みました。

「ちょっと付き合え」

そう言って、何処かに連れていってしまいました。
私はまずいと思って先生を呼びに行こうとしたのですが、団子の女の子がそれを追っていったので私も追うことにしました。
後ろから見つからないように付いていきながら進み、着いたのは裏庭。

「さあ、最初の一発はくれてやる。どこでも好きにしていいぞ」

杉山くんと呼ばれた男の子は大きな手を広げ、挑発してきました。ニヤニヤしながら零治君を見ています。

「………………」

あの男の子は無言で構えます。
だけど次の瞬間!!


あの男の子は杉山くんの頭上までジャンプして、高々と上げた足をそのまま斧の様に降り下ろしました。

「へっ?フゴッ!!」

杉山くんは全く反応できず、もろに食らってそのまま倒れました。

「「「杉山くん!?」」」

他の3人は大きな杉山くんに向かって叫びました。
3人もまさか3年生に負けるなんて思っていなかったのか慌てて駆け寄ります。

「で、まだやるか?やるんなら容赦しないけど………」

男の子はヘラっとしながら言います。
そんな様子に怒った3人ですが、男の子の目が尋常じゃないくらい怖く、3人は動けません。

「やるんだったら、容赦はしないけどな………」

また構える男の子

「くそっ、覚えてろ!!」

ありきたりな捨て台詞を吐き、3人は気絶している杉山くんを抱えて逃げてしまいました。

「つまんねえな、暇潰しにもなりやしないや………」

あくびをしながらそんなことを呟く、男の子。

「おい、出てこいよ」

後ろを向いて、私の方を見て言いました。
隠れたけど見つかっちゃった!?

「………ごめんね、心配になったから」

出てきたのは団子の女の子。
私じゃなかったか………

「これで問題ないだろ」

「でも、ここまですることは………」

「ただぶつかっただけで女の子にごちゃごちゃ言ってくるアイツが悪い。だけど、お前もちゃんと前見て歩かないと危ないぞ」

どうやら女の子をかばってこのような状況になったらしい。
実は優しい人なのかも。

「さて、俺は授業をサボるからじゃあな」

と、どこかへ行こうとする男の子。

「まっ、待って!!」

「ん?まだ何かあるのか?」
「なっ、名前は?」
「………有栖零治」

そう言って零治君は行ってしまいました。
これが初めて零治君の名前を知った出来事です。





「すずか?」

我に返った私は回りを見てみる。
いつの間にか授業は終わっていて、私の様子をアリサちゃん、フェイトちゃん、フェリアちゃん、零治君が心配そうに見ていた。

「大丈夫か?」

「うん、少し考え事をしていたから………」

「大丈夫なの?私で良ければ相談に乗るよ」

「ありがとう、フェイトちゃん。でも大丈夫だよ」

「そうか、なら早く戻ろうぜ。今日は魔王様がいないんだ。ぐっすり寝たいし」

なのはちゃん、はやてちゃんは明日まであっちの世界にいるようです。フェイトちゃんも学校が終わったら直ぐに向かうと聞いてます。

「それはさせるなと魔王様のお達しだ」

どこからか広辞苑を取り出すフェリアちゃん。

「なのはめ余計なことを。いつかこの復讐を………」
「確実に返り討ちね」

アリサちゃんの言葉に笑いが生まれる私達。
零治君が本気を出せばと呟いているけど多分無理だと思うな。








季節は冬になりました。
あの事件の後、私は零治君をすぐに見つけることが出来ました。

あの女の子と話している所を目撃したからです。
ちゃんと正面から顔を見れたのは初めてで、初めて見て気がついたのだけど、死んだ魚の様な目でした。

まるで、今この時間が退屈で、学校に何の楽しみも感じてない様に思えました。
正直、私はこの時、そんな零治君を不気味に感じていました。



そして私が小4になった頃。
闇の書事件と呼ばれる事件に巻き込まれて、魔法の存在を知った私は零治君の事をすっかり忘れていました。
あの後どうしているのか。ふと思い出したので見に行く事にしました。

なのでまた教室を見て回りました。
今度もすぐに見つけましたが、私は驚きました。

相変わらず、眠そうにあくびをしていますが、決定的に違う部分があったからです。
相変わらず死んだ魚の様な目だった零治君でしたが、前よりも雰囲気が柔らかくなっていました。それたけではなく、前のときみたいに人を避けているようでしたが、それでも前以上に色んな人と話していました。

一体何があったのだろう…………


ホームルームが終わり、みんなそれぞれ帰り支度をしていた時です。ふと外を眺めるとダッシュで帰っている零治君を見つけました。
あんなに急いでどうしたんだろう…………

しかしそれ以上に学校にいるときよりもいきいきとしてました。
学校以外に何か楽しみが出来たのでしょうか?

その次の日もその後も零治君は放課後直ぐに帰っています。中庭で寝ていることも無くなりました。
その謎は一向に分からないまま、月日だけは流れていきました。



そして、中1の春、初めて同じクラスになることが出来ました。
今までは遠くから見るだけだったので、私は直ぐに行動に出ました。

「ノート貸そうか?」

これが零治君と初めて顔を見て話した瞬間でした。
最初こそ無視されたり、流されたりしましたが、しつこく話している内に少しづつ話すようになりました。
そして今に続きます……………




「ふう………」

トイレから帰ってきて、教室に入りました。
時間は放課後。なので教室には誰もいないと思っていましたけど、1人いました。

「どうしたの、零治君?」
「……………神崎組から逃げてた」

よく見ると制服の所々が汚れていました。
また追いかけられてたんだね………

「ったく俺も用事があるのに……………」
「ねぇ、零治君」
「ん?」

ちょうどいい機会だと思い、私は思いきって聞いてみることにしました。

「何で小学3年生の時、あんな死んだ魚の様な目をしていたの?」

それを聞いて少し驚いた顔をしてましたが、直ぐに表情が元に戻りました。

「………………見てたのか?っていうか死んだ魚の様な目って………」

「でもそういう風に見えたから………」

「まあそれは別にいいとして………何で知ってるんだ?すずかと面識あったっけ?」

「零治君が覚えてるか分からないけど、中庭で寝ていた時、声をかけた女の子って私なんだ」

「………そうか」

そう言って黙ってしまう零治君。
しばらく無言の時間が過ぎて、零治君が口を開きました。

「俺にとって、あの3年生の1年は凄く意味のある年だったんだ。今までの生きてきた時間を覆すような………」

零治君は思い出すように話してくれました。





「3年生のあの時、俺は一つの目標と言うか目的があったんだ。それは俺が生きてきてずっと待っていた事でもあったんだ。だけど、タイミングを逃して俺はそれを逃してしまった………それで俺は希望と言うか、生きることがどうでも良くなったんだ」

「そんな……………まだ3年生なのに?」

「それでもだ。それくらい意味のある事だったんだ……………だから後はただ毎日が過ぎていくだけだった」

「だからあんなに死んだ魚の様な目を…………」

「………本当にそんな目してたか俺?………まあでもな、そんな時に俺の前に星達が現れたんだ。ほっとけなくて助けたんだけど、全然世間の事を知らなくてな。面倒見るのに必死だったよ」

「だから帰りが早かったんだ」

「ああ、じゃないと何されるか分からなかったから。特にライなんかはいたずらばかりしていたし」

確かにあの元気のあるライちゃんならありえるかも………

「でもあの3人といる内に俺も楽しくなってな。俺が今こういう風にいられるのはあいつらのおかげでもあるのさ」

これで納得出来た。零治君を変えたのはあの3人だったんだ。

「そうだったんだ………」

「ああ、だからこそ俺はあの時に言ったんだ。あいつらに手を出すならお前たちでも容赦しないって」

「うん、分かるよ」

私にも大事な家族がいるから。
例え血がつながっていなくても零治君の家族は深い絆で結ばれてるんだと思う。

「ありがとう、話してくれて………」

「構わないよ。でもそういえば一年の時にいきなり話しかけたのって……………」

「うん、ずっと気になってたんだ。だから私はあの時直ぐに声をかけたの」

「ふ〜ん、なるほどね。全く気付かなかったよ。おっと、もう遅いし帰ろうぜ。途中まで送って行くよ」

「うん、ありがとう」

私は零治君と共に教室を出ました……………

「まあそれだけじゃ無いんだけどな………」

と呟いた言葉は誰にも聞こえず、風と共に消え去った………







「そういえばあの時の女の子ってなんて言うの?」

「女の子?」

一緒に帰ってるとき、私はふと、あの時に助けた女の子の事が気になったので、聞いてみました。

「上級生から助けた女の子だよ、覚えてないの?」

「えっと…………………」

本当に覚えていないらしく、一生懸命思い出そうとしています。

「ああ、あの団子頭か、思い出した。………けどあいつがどうしたんだ?」
「今どうしてるのかなって、学校でも見ないし…………」
「確か親の都合で引っ越したような………」
「そうなの!?」

零治君の話を聞こうと思ったんだけどな………

「確かな。けどどうしたんだ?」

「別に、ちょっと気になったから」

「変な奴。っていうかよく知ってたな」

「だって私もついて行ってたんだもん」

「マジで!?全然気付かなかった」

「すごいでしょう!」

「ああ、立派なストーカーになれるんじゃないか?」

「ならないよ!!」

そんな感じで後は雑談をしながら帰りました。






「ふぅ…………」

頭をバスタオルで拭きながら今日の事を考えていました。
零治君の生きる意味。それが星ちゃん達だっていうのを感じた。

「アリサちゃん、ライバルは強敵だよ…………」

私は零治君に恋焦がれている友達を心配しながら呟きました………………… 
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