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ガラスの十代

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2部分:第二章


第二章

「それじゃあ」
「実際には吹いてないっていうのかい?」
「そうじゃなかったらいいけれど」
「だから練習してるよ」
 うんざりとした口調になっているのが自分でもわかった。
「本当にね」
「じゃあ今は?」
「今はって?」
「今は練習する?できる?」
 僕に今問うのはこのことだった。
「今は。できるの」
「今は」
 僕は彼女のその顔を見てだ。眉を顰めさせて返した。
「止めておくよ」
「どうしてなの?それは」
「気分じゃないから」
 本当にだった。何かやる気がなくなっていた。言われてみれば最近こうしてやる気がなくなってはまたやる、それの繰り返しだった。
「だからね」
「それじゃあ駄目だから」
「駄目って」
「練習しよう」
 言う言葉は同じだった。見事なまでに変わらない。
「また」
「だからいいって」
「練習しないと」
 僕の目を見てだ。咎めるようにして言ってきた。
「駄目よ。だからね」
「だから今はいいって」
「それでも。本当にできるようになりたいのなら」
「今はいいって言ってるじゃないか」
 自分でも言葉が荒くなってきているのがわかった。けれどそれでもだった。その言葉を変えることができなくなってきていた。 
 心が荒れてだ。僕は遂にこう言った。
「もういい、いいんだよ」
「いいって」
「今日はもうこれで帰るから」
 部室に残っているのは僕達二人だけだった。それではだった。
 僕達はそのまま部屋を後にした。サックスを置いたまま。深く考えていなかった。今はただ何もかもが嫌になって。そうしただけだった。
 部室を出てから下駄箱に向かおうとした。帰るつもりだった。
 けれどここでだ。その下駄箱でだ。
 彼女が来た。後ろから必死に駆けてきてだった。僕に言ってきた。
「練習しよう」
「まだいうんだ」
「ええ」
 咎める顔でだ。僕に言ってきた。
「演奏できるようになりたいのよね」
「うん」
 それは本音だった。嘘じゃなかった。
「それはね」
「それじゃあやっぱり」
「練習しかないっていうんだね」
「そう。結局のところはね」
「何でも努力しないとね」
「できないわ」
 これもいつも言われることだった。この吹奏楽部ではだ。
 その言葉を受けてだった。僕は。
「それじゃあさ」
「どうするの?やっぱり帰るの?」
「いや、気が変わったよ」
 こう彼女に返した。
「ここはね」
「ここは?」
「部室に戻るよ」
 意を決した顔でだ。僕は答えた。
 
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