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大海原の魔女

作者:てんぷら
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二話 できることから

 


 エンジン音が響き渡っていた。飛行機に詳しい人ならレシプロ機の音にそっくりだと感じるだろう。

 だが、今から飛び立つのは飛行機ではなかった。




「機体に問題ありません。離陸準備完了しました。」
「了解です。発進っ!」

 滑走路に魔方陣が展開される。ストライカーユニットを装着した女性が滑走を開始し、そして、大空へと飛翔した。


「予定高度に到達しました。水平飛行に移ってください。」
『(了解)。』
「ただいま時速200マイル・・・210・・・220・・・」
「時速250マイル(約402km/h)を突破しました!」





 ここはブリタニアの軍と企業が協力して立ち上げた研究所。魔法術式の改良や魔導エンジンの耐久試験など、魔導に関する研究や実験が行われている。
 今日行われているのは航空用ユニットのテスト飛行だ。


 父さんは若くして研究所の副所長だ。私はそれを利用して研究所に出入りし、今では研究を手伝うようになった。
 これでも前世ではエンジニアで、世界が異なるとはいえ未来の工学技術を持っている。それを使いユニットなどを改良すれば 、多少はネウロイとの戦いが楽になるのではないかと考えたのだ。


 ◇ ◇ ◇


「軍の要求速度には届いたな。」 と言ったのは、先ほど飛んだユニットの設計者であるミッチェル技師だ。
「しかし満足していないようですね。」
「当たり前だよ。年若い魔女たちに、あんな欠陥エンジンを背負わせなければならないなんて。」
「軍のお偉方はカタログスペックしか見ていないのでしょうね。」


 ローリング・ロイズ ゴスホークエンジン、ブリタニア空軍の次期戦闘機及び航空用ユニットはこれを搭載したものから選ばれる予定だ。
 だがこいつは、公称呪力(魔導エンジンの公称出力)を発揮できない、液漏れしやすい、ラジエーターが攻撃に弱い、復水器がかさばる、etc…とにかく欠陥だらけのシロモノだった。
 
 
「開発が進んでいるという新型エンジンに期待しましょう。」
  「そうだな…他に何か思ったことは?」
「やはり車輪を廃止して、魔法陣型魔力フィールドだけで滑走するほうが良いかと。離着陸時にすべって転倒しやすいので。」
「それだと魔力の消費量が増えるのじゃないか?」



「実は術式の改良は済んでいます。車輪なしでも従来の半分の魔力で発進できます。」
「…流石だね。」

 まあここまで早く開発ができるのは、固有魔法を応用した裏技が使えるからなのだが。
 

 ミッチェル氏はしばらく黙って考え事をしていたが、ふと口を開いた。何かを思い出したようだ。
  「そういえば遠縁の女性に『娘さんと同じくらいの年齢の、小さな博士がいる』と言ったら興味を持ってね。来週の日曜日にここに来るから案内してくれないかな?」


 ◇◆◇◆◇◆◇

 One week later(一週間後)
 

「あなたが噂のちびっ子博士ね?」
  「どうでしょうかね、見学に来た平凡な小学生かもしれませんよ。」
「普通の小学生はそんな返し方をしないわ。」と彼女は笑った。


「ところで貴女のお名前は?」
「私の名前はミニー・ビショップ、これでもネウロイ大戦でエースと呼ばれた元ウィッチよ。」

 ・・・ビショップだと?
 良く見ると、彼女が連れてきた子供たちの中に見たことあるような顔が…

「ほらみんな挨拶しなさい。」
「ウィルマ・ビショップです。」
「マリナ・ビショップだよ。よろしく。」
「フローレンス・ビショップ です。」

「リネット・ビショップです。」


・・・・・・・・・


『原作』のキャラクターにはいつか出会えるかもしれないと思っていたが、これほど早いとは読めなかった!
『いっしょうのふかく?』とイージスが聞いてくる。 いやそこまでではないが。
  しかし納得がいった。この研究所は民間人立ち入り禁止だが、ブリタニア空軍にコネがある彼女なら見学許可を得ることも可能だろう。
 

「Could you follow me?」
「Sure.」
 そんなことを考えながらも研究所を案内していく。

「あそこは滑走路、しかし今日行われているのは陸戦用ユニットの走行試験です。」

「この部屋では24時間大気中エーテルを観測しています。」
 
 この研究所は日曜日だろうと稼動している。


 ◇ ◇ ◇

 
「ええと、お手洗いはどこかな?」
 リネットの姉の一人,マリナが尋ねてきた。
「渡り廊下を渡ってすぐの所です。案内しましょうか?」
「いいよ、自分で行く。」


 ・・・・・・・


「遅いですね。」十分以上経ったのに戻ってこない。

「あの子、またイタズラでもしているのかしら?」‘‘また”ってなんだ。

「スパイごっこでもしてるんじゃない?」
「有り得る。」
「えぇと、迷っているだけじゃないかなぁ。」
  姉妹にも散々な言われようだな。


 とりあえず探そう。所内の妖精さんと『アクセス』して…って
  「まずい!」
「え、ちょっと何が」
「あの子、整備中のユニットを装備している!」

 走って走って整備庫までたどり着く。だが、制止は間に合わず、彼女は飛び立ってしまった。

 ロッカーから箒を借りる。掃除用だが仕方がない。


 ・・・・・・・


「おい、今すぐ飛行を止めろ!」
「えー、何で?」
「そのユニットは整備中なんだ、空中分解やエンストを起こすかもしれないぞ!」
「別に何ともないよー。ほーら、つかまえてごらん。」そう言うと彼女は曲芸飛行を始めた。

 初飛行でそこまで動けるのはすごい。だが、整備中の機体に負担がかかる動きをしたら…
「あれ、エンジンが…」
「だから言っただろう!?」
 ヤバイっ、墜落する!





 



 この箒では間に合わない。
 だから

「お祖母様、頼みます!」

「まったく、世話の焼ける子たちだね。」

 お祖母様は巧みに箒を動かし、墜ちゆく少女を横から抱え込んだ。



  ◇ ◇ ◇


「娘が申し訳ありません。」
 ミニーさんが研究員の皆さんや私、お祖母様に平謝りしている。

 
「マリナ、エレンちゃんに謝りなさい。」
「えーと、ゴメンね。」
「もっと丁寧に謝りなさい!」
「すいません許してください、何でもしますから。」
『ん?いまなんでもするって』イージスには言ってないぞ。



「マリナお姉ちゃんがすみません。」リネット達まで謝ってきた。
「いや、もう怒ってないから。」
「どうしてですか?」

『あんたはいつもいつもイタズラばかりして!』
『うわ〜ん!ごめんなさい〜!!』

「鬼の形相のミニーさんに叱られている姿を見ると憐れでな。」
「あー。」
「あははは…」


 そんなこんなでビショップ一家の研究所見学は終わった。





「ところでお祖母様はなぜあそこに?」
「・・・たまたまさ。」

 
 

 
後書き
ビショップ家は子沢山らしいのでオリキャラを入れてみました。八人も子供がいれば、一人くらい問題児がいるでしょう。
兄弟もいるようですが登場しません。

以下 設定

ミッチェル技師…本名はレジナルド・ジョゼフ・ミッチェル。のちにスピットファイアを開発する。

ビショップ姉妹 [※が付いているのはオリジナルキャラクター]
長女…ウィルマ(実は年上趣味) 名前の由来…不明
※次女…マリナ(イタズラ好き) 名前の由来…マーリンエンジンから
※三女…フローレンス(占いが得意) 名前の由来…ミッチェル技師の妻の名前から
四女…リネット[リーネ](8人兄弟姉妹の真ん中) 名前の由来…不明
あとは幼い弟たち

ネウロイ大戦…この世界での第一次世界大戦。
ミニーが‘‘第一次”をつけていないのは、第二次大戦が始まっていないから。


 
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