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首輪

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4部分:第四章


第四章

「凄く気持ちいいから」
「気持ちいいの」
「一度味わったら止められないわ」
 こうまで言うのである。
「だからね。絶対にね」
「今夜ね」
「そう、今夜よ」
 時間はしつこいまでに言ってくる。
「今夜だからね」
「わかったわ。それじゃあ」
 とにかく約束はした。しかし一体何が行われるのかわからない彼女は怪訝な顔になるだけだった。そのうえで今日また増えた首輪をしている同級生達を見るのだった。見れば彼女達の誰もが時折思い出したように恍惚とした顔になっているのだった。
 そしてだ。その今夜だ。消灯の時間が過ぎた。先輩達は自然と部屋を出て行っていた。そのことにも妙に思っていると部屋の扉を開ける音が聞こえてきた。
 そしてであった。寮の外を照らす薄明かりと共に菖蒲が入って来た。寝巻き姿の彼女がだ。
 彼女は部屋に入るとだ。薫のベッドのところに来て囁いてきた。
「薫ちゃん」
「あっ、うん」
 彼女の言葉に応えて目を開ける。そうしてだった。
「これからよね」
「そうよ、これからよ」
 微笑んで彼女に言ってきた。
「じゃあ行こう」
「ええ、それじゃあ」
 ベッドから起きてそのうえで部屋を出る。そのまま菖蒲に先導されていく。そうして辿り着いた場所は何処かというとだ。
 寮の一階のある壁の前だ。そこに着いたのだ。
 だがそこに着いてもだ。薫は訳のわからないといった顔で自分の横にいる菖蒲に対して問うのであった。
「ねえ」
「どうしたの?」
「この壁に何かあるの?」
 眉を顰めさせての問いであった。
「今夜のそのことに関係があるの?」
「あるわよ」
 菖蒲が言うにはあるというのだ。
「あのね、ほらここ」
「ここ?」
「この灯りだけれど」
 今は消えているキャンドルを模した灯りである。寮の中は非常灯の緑色の光だけしかない。その弱い光で照らされているだけだ。
「ここをね」
「ここを?」
「こうするの」
 その下を押す。するとだった。
 白い壁が左から右に開いた。するとそこから下に降りる階段が出て来たのである。
「階段!?」
「そうなのよ」
 その階段を見ながら答える菖蒲だった。
「ここを降りて行くのよ」
「下にあるの」
 それを聞いて見てだった。ここで薫は昨日のことを思い出した。
「あの時下から聞こえてきたのは」
「あら、漏れていたの」
 それを聞いても気さくに笑うだけの菖蒲だった。
「何だ、それだったら話は早いわ」
「早いって?」
「もうすぐわかるから」
 そうしてだった。階段に入った。ここで菖蒲が左手の自分の方の壁を少し押すとだった。後ろの壁が閉じた。そして階段は左右のキャンドル型の灯りに照らされた。
 その灯りに導かれて下に進む。すると果てに一つの大きな、まるで大講堂の扉を思わせるような重厚な造りの扉がそこにあった。
 その扉を前にしてだ。また菖蒲が薫に言ってきた。
「この中よ」
「この中?」
「そうよ、この中よ」
 そこだというのである。
「この中に入ればね」
「何があるの?」
「最高の快楽があるのよ」
 今の言葉はだ。とても菖蒲の言葉とは思えなかった。不気味なまでに艶のある、そんな声だったのだ。
 
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