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寄生捕喰者とツインテール

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申し出の理由

 
 四者四様、四色の驚愕が響き、数秒間静寂が訪れる。
 しかしそのゴーストタウンにも勝る閑散とした空間も、次の瞬間二人の少女の手によって打ち壊された。
 

「きょ、きょきょきょ共闘!? グラトニーが私達と共闘!? 教頭とか驚倒とかの間違いじゃなくて!?」
「グラトニーちゃんが教頭の学校なら行ってみたいです! そして驚倒したなら優しく起こして、お尻ナデナデしてあげますからねっ!」


 錯乱気味な愛香に、目をなるとの如く渦巻かせたトゥアールも続く。

 その後の鉄拳でぶっ飛ばされたトゥアールは……まあ取りあえずさておき、総二と慧理那もカプセルに詰め寄る。


「お前、俺達とは敵が同じでも共闘できないって、そんな感じでやってきてたじゃないかよ……いや、そりゃ頼もしいけど、なんでなんだ?」
「理由が分からないんですの。何かありまして?」


 二人の疑問は尤もで、キャットファイトという名の一方的なリンチを終えた愛香達も、回復カプセルのそばに近寄っていく。

 未春は傍観する方が面白いと思ったのか、それとも単純に自分にはあまり関係ないからか、テーブル傍に椅子に腰かけたまま動こうとしない。
 表情には、悪戯好きな子供染みた物が映っているのだが……されど巧妙に隠した本心は窺えない。

 そして息子(総二)からしてみれば “窺いたくもない” が正解であろう。


「俺達の手も借りたいとかそんな感じだったり?」
「グラトニーちゃんの手を使って私にアレコレしてくれるんですね!」
「んな事誰もいっとらんわ!!」
「ブギャーーーーーーオオオオオオオォォォウ!?」
「……ほ、他に可能性となると何があるっけか?」
「そうですわね……もしや、身体に異変が起こってますの?」

『当たりダ、イエローの嬢ちャン』

「「「「えっ?」」」」


 ラースの突飛な正解発言に、総二、愛香、トゥアール、慧理那は素っ頓狂な声を上げた。

 一体何が彼にそんな言葉を言わせる事になったのか、四人が四人難しい顔で頭を悩ませている。慎重に探る様な聞き方だった事と、鋼鉄を穿つ極大な打撃音が響いた所為で、思い当たる節が遠ざかっているのだろう。

 心なしか“答え教えて”的な表情となったツインテイルズ一行に、ラースは態々深い溜息を吐いてから、彼等の疑問に答え始めた。


『だからさっきイエローの嬢ちゃんが言ってたろウガ。[体に異変が起こってるのか]―――っテナ』
「じゃあ、その異変が俺達と共闘する理由?」
「……正確には、共闘 “せざるを得ない”理由……」


 総二の言葉にグラトニーが続き、ラースが話を再開させる。


『その前にオレ等、アルティメギル無所属のエレメリアン―――イヤ、単純感情種について軽く説明しとクゼ。いイカ―――――』


 其処からラースは自分達『単純感情種』の事について、能力などの詳細を告げていく。


 曰く、個体数が、アルティメギルと比べても結構少ない。

 曰く、アルティメギルの連中と違い、直に属性力を食べたりできる。

 曰く、此方の攻撃が“熟成”出来るのに対しツインテイルズの攻撃は“腐敗”させているも同義で、トドメも“放出”と“消滅”で結果が違う。

 曰く、兼ねてより負傷している為、より多くの属性力を得る為に、一緒に戦う訳にはいかなかった。
 
 曰く、彼等『単純感情種』は、一般的に雑魚と呼ばれる個体でもアルティメギルの “幹部クラス” の実力を備えると言う。

 曰く、誰でも使える基礎的な力の他、個体毎に特殊能力を有しており、グラトニーは空気の力。

 曰く、戦う個体がグラトニーレベルだと、総二達はまず勝てる可能性が低い。

 曰く、まだまだ上には上がいる。

 曰く、アルティメギルですら存在を認知する者は少なく、全貌などとても知らない―――


 この他にも……グラトニーとラースはとある事故で共同体となっており、お互いの身体の損傷や力が元に戻るまで、グラトニーが行動しラースが体内(なか)から支える関係だと言う事も、包み隠さず明かしてくれた。


「なるほどね……要するに飢え死にしない為に、二回目の交渉を蹴ったわけ」
『そういう事になルナ。……どウダ? 謎がある程度氷解しただロウ?』
「正直、怪物級が何人も居るって事に変わりはありませんけど……」
「でも何も分からないよりは大分マシだよな。有難うな、ラース」
『なーニ、これはオレの為、そして相棒(バディ)の為ダ』


 総二の純粋な気持ちからのお礼に対して、ラースは言いながらも多少嬉しげな声色で答える。

 此処までラースが語った情報で、分からなかった事は無いかと皆に彼が聞き、全員首を横に振ったのを確認して……本題に入るべくまるで吸うな音をたて、数秒間ゆっくり息を吐いた。

 ……グラトニーが呼吸している訳でもなく、ただ音だけが聞こえる代物なので、それなりどころか違和感バリバリだが……其処を追求する者は幸いにも居ない。


『サテ……そんじゃオレ等につイテ、簡単に理解してもらえた所で、お待ちかねな今回の主題ダナ』
「属性力摂取効率を下げてなお、わたくし達と共闘しなければいけない理由……グラトニーに起こった “身体の異変” ですわね」

 未だ『単純感情種は鬼強い相手だ』位しか認識しきれていない総二は、会長たる慧理那の理解力の高さと速さに、内心大いに舌を巻く。

 トゥアールは勿論では有るが、愛香もちゃんと着いていけている事に、内心ちょびっとだけ不安を覚えているのは、所謂一つの余談だ。
 ……恐らく、ツインテール以外にパラメータが省けず、こうなっているのだろうと推測できる……聞き様によってはかなり空しい。


「とはいっても大体見当つくけど―――その何時もと違うオレンジっぽい左腕でしょ」
『正解ダ……デ、この腕に見覚えはあルカ?』
「え? 見覚えって言われても……う~ん」


 異変そのものは当てたモノの、次の質問には即答できず悩む愛香。

 そんな彼女の思考中に、顎に手を当てたトゥアールが割り込んでくる。


「そうですね……ニュースにもなっていた、あの“腕”のエレメリアンのモノに、非常に酷似していますが……」
「……ピンポン。大正解(せーかい)
『アア、そいつの“腕”ダヨ、これりァナ』

「「「「はい?」」」」


 再三意味の分からない、しかも今後は総二達ですら覚えの無い事柄であり、間の抜けた呆気にとられる顔となってしまう。

 噴出しても仕方がない四つ揃えられたお馬鹿な表情に、しかしラースは笑う事無く話を続けていった。


『ウージの奴との戦闘で左腕が予想以上にぶっ壊れちまっテナ。属性力によって再生させるって手もあっタガ、あの状況じゃ時間がかかり過ぎる上ダメージも蓄積しちマウ。だから事前にとりこんで『消化しなかった』分を直に使って左手へ応急処置を施したって事ダ』


 ここでトゥアールが手を上げて、何か疑念があるのか一旦話を遮った。


「でも……おかしくないでしょうか? 普通兎耳属性(ラビット)を取りこんでも兎耳が生えてくる訳じゃあない様に、処置にあてた所で以前の所持者と同じ腕になる筈が―――」
『今までの属性力と俺らの力を一緒に住んじゃあねエヨ。……マア、相棒との共同体だカラ、色々と良く分からねえ部分もあルシ、そのおかげでの偶然て線もあるガナ』


 ニヤリと笑っている顔が容易に想像できるぐらい、科学者の予想の上を言った事が嬉しくて、また楽しいと言わんばかりの声色でラースが告げる。

 自分の知らない事は幾らでもある―――こう言われては、さしものトゥアールとて黙らざるを得ない。

 ……だ、ラースの声に含まれていた気勢は、次のセリフでは一転して沈んだモノに変わった。


『……ケド、これは本当に応急処置そのモノ。オマケに他人の身体を無理矢理くっつけてるも同義ダ』
「ネクロ-シスが起きないだけ儲けモノ、という事ですか」
「……そゆこと」

「何それ?」
「私も知りませんわ」
「ちょっと教えてくれ」


 専門用語らしきものを出されたことで総二達が一旦トゥアールへ質問する。

 途中―――慧理那には素直に教え、愛香を軽く突き飛ばして総二へと……何やら「では私の細胞へ総二様の細胞をくっつける事で、それが起きるか検証してぇ、み・ま・しょ・う♡」……などと用語とはまるっきり関係ない展開に持っていき、思い切り蹴り飛ばされると言う奇妙なやり取り事あったものの、己々なりに理解しラースの説明へと戻った。


『問題は此処カラ……完全治癒までの補強になってくれるのと同時ニ、自分の力をも邪魔して戦闘能力を下げちまってンダ―――――それコソ、お前らと同レベルならまだいい方カモ、ってぐらいにな』
「……ん、よわよわ……」
「! じゃ、じゃあ協力したい理由って……!!」


 此処まで言えば流石に総二も気が付き、そしてこの場にいた全員が目を丸くした。


『このままだと “アルティメギルにすら” 殺されかねねぇかラダ。ましてや同種でアル、単純感情種の奴等となンテ、奴さん方の強さによっちゃ自殺行為……イヤ、自殺ダゼ』


 あれほど優位を保っていた状態からの、余りにも急激な弱体化……例え摂取量を減らしてでも生き延びる為の、正に猫の手も借りたい状態だったのだ。

 とんでもない助っ人が加わるかと思った矢先、その申し出の本心はまさかの《従来の戦闘が不可能》だと言う事による、寧ろ助っ人となってくださいなモノだったのだから、二重の意味で目が皿となってもいたしかたなかろう。

 だからこそ、本来ならばワープで別の場所にまで飛んでから養生すればいいだけなのに、総二達の基地への招待を引き受けたのだとも推測できる。
 全ては自分の、否自分 “達” の身を守る為の、それなりに思案した故の決断だったに違いない。


『今まで散々ぶっ飛ばしといてなんだガヨ……頼ム、一時的に共闘させてクレ』
「……お願いします」


 回復用カプセルの中だからか頭を下げられず、軽く顔を傾けるだけにとどまって入るが、しかし懇願の言葉の中に必死さが窺える。

 彼等のこのお願いに……先ず答えたのは――――



「わかった」


 総二だった。


「というか、こっちからもお願いしたいよ。今まで俺達が迷惑かけちゃった事もあるしさ」


 その迷惑をかけた張本人である、ツインテールな彼の幼馴染が「うっ……!」とつまり、調子に乗って大笑いした銀髪の科学者がゴムボールと化したが、そんなものを放っておいて総二の話は続けられる。


「それに単純感情種相手にまともに戦えないなら、やっぱりグラトニーの力は必要だと思うんだ」
「……そうね。復活してもらわないと、訳も分からない奴等にみんなが殺されるなんて、やっぱり耐えれないし」
「ならば何で私がこうなってるんでしょうかああああああぁぁぁァァァアアアァァァァ!?」


 背に腹は代えられぬと、愛香も総二の意見に賛同した。

 ……とある少女がバウンドにバウンドを重ねて、軽く室内にエコーを作り出している域まで来ても、やっぱり誰も見向きもしない。


「会長は、如何思う?」
「私も賛成ですわ。何より、志が同じなれど異なる道を歩まねばならない者が……一時とはいえ手を組む! 中々にやる気のたぎるエピソ-ドですわ!」
「ははは……何時も通りだな」

『ケド、もったいぶったモンよりかは何ぼか “マシ” ダゼ……ありがトナ』

「何言ってんだよ。俺達はツインテールというつながりがある! それだけでも十分信じられるってもんだ!」


 総二としてはこれ以上ない名台詞を決めたつもりであろうが……周りの反応は非常に『微妙』だった。

 トゥアールでさえも、未だ跳ね回りながらやる気なさげな表情をしている。


「……如何反応すればいい?」
『……適当にやっトケ』
「ん、りょーかい……」

 ラースから言われたためか適当にそのあたりをスルーし、総二以外の空気が冷え冷えとし始めた……しかし当の本人は気づいていない。
 何という胆力だろうか。

 そしてグラトニーの目の前に、この空間を支配する寒さによって凍りついたか、白銀なる塊が勢いよく落下してきた。


「私も大いに賛成です! グラトニーちゃんが味方になるなんて、何処まで幸運なんでしょうか私は!」


 いや、“ソレ”は元より凍り付いてなどいない……髪が尾を引いた為にそう見えただけらしい、トゥアールだった。

 内容はアレなモノの、基地の所有者の賛同も得られ、最後に総二が母へと目線を向ければ、


「フフフ……」


 不敵な笑みのままで、意味深にウィンク。
 否定はしなかったのだし、寧ろこの母親ならこう言ったイレギュラーを肯定する派だろうと、総二は勝手に了解したと受け取った。


(ただ可否を判断すればいいだけじゃないかよ……! 頼むから、こういう時にまで中二的な仕草をしないでくれよ……)


 ウィンクを送られた主な対象であるグラトニーの頬が、本当に気の所為かと思うぐらい若干緩んだ。
 されど喜びでというよりは、呆れに近く見える……総二と同じ思いを抱いているに違いない。


「……ありがと」


 それでも、グラトニーはちゃんとお礼を言った。
 彼等の優しさによりグラトニー達が抱いていた懸念は霧散し、ツインテイルズ+α全員に受け入れられる事となった。



 ―――そうしてまとまった雰囲気の中、トゥアールが【試作型トゥアヘル】内に寝転がるグラトニーへ、何やら企んでいるのかニヤけ顔のままに声を掛けてきた。


「えー、ところでグラトニーちゃん? 何か異変が起きたりしてませんか?」

「? ……何も」

「ちょっと鼓動が速くなったりとか、身体に熱を持ったりとかがありません? 異常事態があればすぐに対応せねばならないので、無理せず言ってくださいね?」

「……大丈夫(だいじょーぶ)、何もない」


 ゆっくりと首を振るグラトニーの反応を受け、トゥアールのニヤけ顔が段々と不安の混ざる思案顔に変わる。

 一体何が気に食わず、何がダメだったのだろうか。


『一応言っとくが俺らはエレメリアンだかラナ。 人間基準で “意図的” に体に異常起こそうとしたって無理ダゼ』


 ラースが種明かしをしてくれた。
 トゥアールはどうも懲りてないらしい。


「な!? ではムラムラして思わず私のおっぱいにしゃぶり付きたくなる、総二様用にも改良し始めた媚薬的超音波が利かないですと!?」
「やっぱりコレ悪様目的だったじゃないのよ! この年中野生的発情期がぁっ!」
「しまった!? つい口が滑って身体も滑るうおおおおおああああぁぁぁ!!」


 奇天烈な叫び声と共に、カーリング選手も大絶賛であろう綺麗なフォームで、津辺愛香選手の投げたストーン(銀色)が勢いよく滑って行く。


「痛い痛い痛い痛い床で皮膚が擦れて痛いいいぃぃぃぃぃぃい!!」


 苦悶の声を上げる可笑しなストーン(銀色)は、そのまま壁にぶつかって数回転し、バタリと仰向けに寝っ転がった。

 言うまでもなくカーリングは、地面に描かれた円形目掛けて放った位置による得点を競う競技なので、これだけ長距離滑走すればまず間違いなく無得点である。


「うふあぁぁぁ~~~……」


 律儀なのかやり過ぎなのか、己そっくりな天使を頭の上で飛びまわらせながら、星を飛ばして目を回すトゥアール。
 ……心なしか、総二へ向けてスカートの中が見える様な、絶妙な位置に居るが気のせいだと言う事にしておこう。


「そう言えばさ。傷はどれぐらいしたら治るんだ?」

『後もう少しってとこダナ。応急処置に回さなかった分の属性力デ、お前らでいう細胞の活性化を行ってるかラヨ』

「はー……やっぱ便利なんだな~、エレメリアンて」


 関心半分、畏怖半分で溜息を吐く総司に、ラースの笑い声が重なる。


『ハハハ! コリャ、俺達だから出来る芸当ダヨ! 同種なら分からねぇがアルティメギルならまず無理ダ!』


 そもそもそんな回復機能を備えている敵ならば、今までの敵ですら十二分に驚異となった筈である。

 苦もなくとは流石に言い辛いが、普通にお決まりパターンで爆散させる事が出来る分、そんな能力が変態達(アルティメギル)に備わっているとは考えづらい。

 一度考えかけたその可能性は、頭の片隅にでも飛ばした方が良さそうだと、総二も慧理那も見つめあって頷いた。
 本人達は真剣なれども、傍から見ればカップルに見えなくもない息の合い様だった。


「何、なのよアレ……っ!! 幼馴染を差し置いて何で意気投合できるのよっ……!」
「だって愛香さん野獣ですしゴリラですし蛮族ですし、幼馴染って友達ポジションで大体終わっちゃいますしおすし」


 流石に殴られはしなかったが、凸ピンで脳を揺さぶられまたもトゥアールはぶっ倒れる。

 スカートがめくれあがって、特に総司に見えやすい位置であっぴろげになっているが、これも運悪く起こった偶然だろう。

 そう思いたい。


『そんじゃあ大分話が逸れちまったけドモ……これから暫くよろしクナ』
「……ん、よろしく」

「おう! よろしく!」
「うん、よろしくね」
「よろしくお願いいたしますわ」
「勿論大歓迎ですよ! そしてアッチの方でも宜しくしましょう!」


 歓迎の簡素な言葉を、総二から順番に口にしていった。

 誰かさんがコンマ数秒後にぶん殴られたのは言うまでもない。


「話は纏まったわね?」


 ざっと無駄な動作八割、必要な動作二割を占める数十秒ぐらい使った、緩慢な挙動で漸く席を立った未春が、同様のたっぷりと時間を無駄にする動きで総二達へ歩みよっていく。

 自分の顎を軽く撫でて、思わせぶりな流し目を作り、フッ……と息を軽く吐いて―――


『早よせイヤ!』


 我慢出来ずにラースがキレた。

 良く行ってくれたと周りの殆どが頷いた。


「もう……こういった雰囲気作りだって、そこそこ大事なのよ?」


 “そこそこ” なら微妙じゃん……そう、皆の心の声が一致した。


「じゃあ母さんは今から、そんなに重要な事を話すつもりなのか?」
「勿論。……グラトニーちゃん」

「……何?」

「二階の奥の部屋だから間違えないでね?」

「……うん……」








「……はい?」
「はい?」


 余りの事に反応が遅れる。
 更に総二と反応が被る。


「あと、洋服も買っちゃうからサイズを測らせてね。大喰いかもしれないけど其処は我慢して貰って―――」
「ちょっと待ってよ母さん! なんかその言い方だとグラトニーが今日から家に住むみたいな……」
「そのつもりよ?」


 あっけらかんと当たり前の如く言われて、傍に立っていた愛香諸共、大口を開けて固まってしまう。


「住む場所も放浪暮らしで、固定された家なんて無いでしょう? なら身を守る意味でも我が家にに居た方が良いと思うの」
「……えっと……」


 実はグラトニーに変身している中身の都合上、拠点となる建物がちゃんと存在していたりするのだが、当然ながら未春がそんなこと知る由もない。
 しかしながらグラトニーは大丈夫だ、と断ろうともせず少しばかり挙動不審気味だ。

 コレにもまた、中身が関係している。


相棒(バディ)、受けちまエヨ』
「……でも……」
『どの道、再生するまでずっと “このまま” 、元には戻れやしネェ。不用意な問題起こすよリャ、なんぼかマシだと思ウゼ?』
「……」


 暫しの間、第三者からでも表情の変化が分かるぐらい変え、充分に潜考した後―――――グラトニーは答えを出す。


「……分かった、よろしく」

「ええ。自分の家だと思って、気を置かずゆっくりしてね」
「……まあ、いきなり襲われるよりはいいと思うけどさ……」
「それにしても不思議ですわね。昨日まで所在も知らなかった人物が、すぐ近くに住まうだなんて……」
「あら、世の中そんなものよ?」

『あんた何経験してきてンダ……?』


 これで、グラトニーの件は片付いた。

 ……が、黙って居られないのが愛香とトゥアールの二人組みだ。


「ちょ、ちょっと待ってくださいよ未春おばさん! こんな子を住まわせたら何が起こるか―――」
「食べる事以外に執着しない子よ? それにツインテール属性が実質無いなら、愛香ちゃんにもチャンスはあるわよ」
「う……」


 確かにグラトニーならばトゥアールの様に露骨に色香を振り撒いたり、慧理那のような行き成り現れた虎の子でもないのだし、更に協力を取り付けてもらう側が “向こう” な為に、怪我も合わさって警戒する必要は無に等しい。

 納得いかずとも反論が思いつかないのか、愛香は言葉に詰まってしまう。
 一方のトゥアールも同じ思いだったのか、一言も発さず黙りこんでいた。


「低めと言えどライバルとなる可能性もありますが……まあ仕方ありません。納得しましょう」
「幼女が増えるから?」
「勿論! というか何を言ってくれてるんですか!? それ以外、他にどんな理由があるっていうんですか!!」
「戦力増強とかあるでしょうが!」


 結局最初と似たような状況になり、双方ともグラトニーそっちのけで言い合いを始めた。


「ふふふ……思わぬ伏兵、というのも乙なものよね……覚醒した時が楽しみだわ……フフフフ……」

(何考えてるかは分からないけど、良からぬ事企んでるのだけは分かるぞ、母さん……)


 此方も此方でやはり親切心以外の裏があり、悪の幹部よろしく異様に口角の上がった笑みをつくる未春。
 それを確り目視してしまい、総二の口から自然と深いため息がこぼれる。


 こうして…………観束家に新たな仲間が一人、増える羽目になったのであった。


 
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