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竜から妖精へ………

作者:じーくw
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第3話 ギルドの名前



 そして 時刻は夕刻 マグノリアの街。

“ゴーン…ゴゴーン…ゴーン……ゴゴーン………”

 突如、マグノリアの街に 低い鐘の音が響き渡った。それはある事を 知らせる合図である。

「おお! ギルダーツが帰ってきた!!」

 その鐘の音を聞いて真っ先にナツが反応した。

 そして、街中でも同じ様な反応を見せていた。


「ギルダーツが帰ってきたぞ。ってか今回は早いな……。出て行ったのって、今朝方じゃね?」
「だな。簡単な仕事だったのか、或いは単なる忘れもんでもしたのか……。まぁ、なんでもいいから早く移動しようぜ? ここにいちゃあぶねえ!」
「そうだな」


 街の住人達のそう言う声がちらほらとそこら中から聞えてくる。

 そして、街に備えられている魔導拡声器。放送センターからの声が、鐘の音同様に街全体に響き渡った。


『これより、マグノリアを《ギルダーツシフト》に切り替えます! 町民のみなさん!! すみやかに移動をお願いします。繰り返します、これより…………』



 放送が街へ響き渡った数秒後の事だ。
 街の中心線部分に不自然な直線の溝があり、それが一斉に開きだしたのだ。だが、周囲の建物や家を壊したりはせずに、上手く折りたためる様に改造を施しているらしい。

 初見であれば、誰でも驚くだろう。最初にあった筈の街が、ぱっくりと割れているのだから。
 割れ、そこには道が生まれていた。その終点はマグノリアの魔導師ギルドである。



 これが《ギルダーツシフト》と呼ばれる街の形態である。



 その大きな一本の道にゆっくりとした足取りで近づいてくる影があった。それを確認したナツは一目散に駆け寄った。

「おらーーー!! ギルダぁぁーツぅぅ!!!」

 駆け寄る、と言うよりは、猛ダッシュだ。手に炎、足に炎。色々と炎でブーストさせて、速度を上げていた。


 そして、そんなナツを冷ややかな眼で見ているのが、先ほどまで喧嘩をしていたグレイだ。


「……馬鹿なのか? アイツは。毎度毎度」

 勿論半裸のままで。いや もうズボンが脱げており、下着のみになってしまっている。

「グレイ! 服っ!! もう! ギルダーツが帰ってきたんだから! しゃんとしてよね!!」

 盛大に叱られているグレイを見ると、どっちもどっちなのである。







 ナツは、今はギルダーツにしか眼が行ってない。朝言っていた続きを、としか考えていないのだ。……盛大に吹っ飛ばされたのも、もう忘れた様子だ。

「いたなっ!! ギルダーツ!! 朝の続きだぁぁぁ!!! ……ってあれ?」

 ナツが、ギルダーツに飛び掛ろうとした時だった。
 ギルダーツが 何かを持っている……ではなく、誰かを抱きかかえている事に気がついていたのだ。

「よぉ……ナツか? 出迎えご苦労だな。ありがとさん」

 ギルダーツは、笑顔で手を上げてナツにそう言っていた。

「別に出迎えたんじゃねえって! 勝負しにきたんだよ! 朝の続きだ! 約束したしな! ……って言うか、誰だ? そいつ」

 ギルダーツが抱きかかえている……子供? を見てギルダーツに訊いていた。

「ん? ああ…こいつな。 ま 後で説明するわ。とりあえず、マスターはいるか?」

 ギルダーツが、若干言葉を濁しながらこう答えていた。
 さすがのナツも、ギルダーツの腕の中で 寝ているのか、意識を失っているのかわからない。そんな子供を抱えているギルダーツに攻撃を仕掛ける事など出来ない様だ。

「ん? じっちゃんか? ギルドにいるぞ」

 そう言ってギルダーツと一緒にギルドへと帰っていくだけだった。







 そして、2人、いや 3人は ギルドの中へと入る。



「お帰りギルダーツ!! ……って」
「いつもより早かったな? ………って」
「ナツはどうしたんだ? 大人しいじゃないか………って」


 全員が、ギルダーツやナツを出迎え、言葉を交わしたのだが、直ぐに言葉につまり、そして次の瞬間には一斉に。


「「「「誰だ??」」」」


 とギルダーツに訊いていた。
 仕事帰りに、ギルダーツが子供を抱えて帰ってくるなんて事、これまでには無かったから。


「ああ。とりあえず、コイツについては後で説明するわ。マスターはいるか? 話てぇ事があるんだ」

 集まってきたメンバーにそう言ったその時だ。
 ギルダーツが帰ってきた事は、当然知っている為。

「ここにおるぞい。」

 奥からマカロフが出てきたのだ。今回の依頼についても早めに聴きたかったから。

「おおっ マスター。……ちょいと、内密な話があるんだ。奥でいいか?」

 ギルダーツは、マカロフの事を見ると手を上げ、そして 抱いている子供に目をやった。
 マカロフも、ギルダーツの腕の中で眠っている少年を見て、眉を寄せた。

「ふむ……。その子が…例の?」

 そう聞くと、ギルダーツは無言で頷いた。
 とりあえず、依頼内容は果たせた様子だったが、やはり 簡単な事ではないのだろう、と感じていた様だ。


「ふむぅ……とりあえず奥の医務室じゃ。そこで安静にしてやろう。」
「ああ、そのほうがいい。ちょっと無理させちまったからな」

 ギルダーツとマカロフは、そう言うと、とりあえずギルダーツとマカロフ、子供の3人だけで、奥の部屋へ入っていった。






 当然だがその後、ギルドの中では ギルダーツが連れ帰ってきた子供についての話題が途絶える事は無かった。
















~ギルド内・医務室~




 ギルドの奥にある医務室のベッドにとりあえず子供を寝かせ、身体に毛布をかけた。
 
 規則正しい寝息が聞こえてくるから、唯眠っているだけだとすぐに判断した。外傷らしい外傷もなく、血色も良い。だから、ギルドの顧問医である 《ポーリョシカ》を呼ぶまでもないと判断していた。

「んで? どうしたんじゃ。この子は……」

 マカロフは、眠っている少年の顔を見ながら、ギルダーツに訊いた。
 ギルダーツは、それを訊いて軽く頭をかく。

「んーそれがよお……。後で説明する~なんて言っといて、オレにも実はわかんねー事なんだよな。はっきりとは……」


 その後、ギルダーツは、今まであった出来事を。あの時に合った出来事の全てを話しだしたのだった。











~回想 マグノリアの街 外れの渓谷~



 
 それは、2人の渾身の一撃が交差し合ったあの時まで、あの地震が起こった後の時にまで遡る。



 あの2つの力から発生した大爆発と衝撃。それらが周辺の大地を砕き、砂埃となって舞い上げていた。

 その砂埃には、赤い夕日の光に照らされた2つの影が見えていた。その影は立っていたのだが、片方の影が、暫くして崩れ落ちた。




「ぐ……ぅ………く………ぁ……」


 地面に手をついたのは、それは小さい方の影の方、少年の方だった。


「……本当にやるな。お前。オレのアレ(・・)を受けて、衝撃を喰らっても まだ萎えねぇか?」


 ギルダーツは、完全に膝が折れ、地面に手をついていても尚、少年のその背中から伝わる闘志を感じてそう言っていた。

 余程、この場所が大切な場所だと見える。この場所を守る為に戦っているんだという事も判った。……何かを守ろうとする者は例外なく強いのだから。


「………オレは……お、オレ、は……」

 ギルダーツが感じた事は正しい。膝をついても尚、体に力を入れていたのだ。まだ 抗おうとしていた。最後の最後まで抵抗をしようとしていたのだ。

 そんな少年を見て、ギルダーツは笑っていた。


「……この場所を離れたくない…か? ああ、判ってるよ。いや もう判った。それで良い」


 ギルダーツはそう言った。

「……………え?」

 少年は、意外な言葉に、いや 予想外の返答に耳を疑った。

 
 自分自身は、これまで、数多くの大人たちを追い返しているのだ。それも1度や2度じゃない。だから、力で物を言えば、必ず 更に大きな力で反される。

 それは、どこかで頭のどこかでは、きっと 判っていたんだ。

 だからこそ、その時が、来たのだろう、と思っていた。



 だから、もう捕まってしまう。或いは殺されてしまうと思っていたのだ。だけど、目の前の男は『判った』と言ったんだ。そして、『良い』とも。


「オレとここまで戦り合う奴なんて……、オレ自身も初めての事だったんだぜ? 最近じゃ特によ。 それにお前の意思の強さも十分見せてもらったよ」


 そう言って、ギルダーツは更に笑顔を見せていた。





 ギルダーツがこの場所に着た理由。

 当然、本来の彼の目的は 《少年の保護》であった為、有無を言わさず、さっさとこの少年の保護するつもりだった。

 だが、戦ってみて、直に拳を触れ合って、この少年の意思の強さを。そして想い高さも。全て見て、体感した。全力でぶつかり合う事は、何よりも勝るコミュニケーションなのだから。


 恐らくは、少年の強い想いが、その強すぎると言っていい想いが そのまま力となっているのだろう。
 《魔法》と言うのは、本来そう言うものだ。

 術者の強い思いが、奇跡を生む。その奇跡が魔法なのだ。



「オレは、強引につれてく様な真似は、もうしねぇよ。最初は連れて帰るつもり満々だったんだがな。 ……だけどよ? お前さん寂しくねえのか?」

 ギルダーツは少年に向かってそう聞いた。たった1人でこの場所に留まり続ける事にそう思えたのだ

「お…オレ…そんな…こと…。」

 少年は まだ息が上がっていた。
 先ほどの衝突で魔力も霧散してしまった為、消耗も生半可ではないのだろう。

 だから、まだ整える事が出来ずにいたのは仕方がない。

「ははは…そうか? でもよ……お前さん、最初に会った時、そんな目をしてたんだぜ? オレも結構長い事 いろんな仕事をしてきたからな……、多少なら目利きが効くんだ。眼を見たら、大体判るんだよ」

 ギルダーツは更にそう言って笑った。

「……1つ、教えてくれないか? お前さんがこの場所に拘るのは何故だ? そんなにここに思い入れがあるのか……? 別にこの場所はただの渓谷で 何かある、って訳でもない筈……なんだがな」

 この場所にいる理由。
 それが判らないのは最初からだった。依頼書にも明確には書かれてない為、聞き出せてもいないのだろう。

「…………………」

 少年は、ギルダーツの質問に、何も言わなかった。
 いや、違う言おうと思って、息を整えているようだ。

「って…わりーわりー。 随分と無茶させた見てぇだ。大丈夫か?」

 ギルダーツは現状を見てそう謝った。
 まだ ふらつく子供相手に更に質問を投げかけるのは 大人気ないだろう。

 それに、先ほどもそれなりには 本気でやったんだ。並みの術者ならば……、あの衝撃を受けたら起き上がるどころか意識すらないだろう。

 いや、違う。ギルダーツの拳を受ければ、空高くに飛んでいく事だろう。文字通り。それも空高く彼方へ。


 そんな一撃を防いでいるんだ。それも年端もいかない子供がだ。

「ほら、大丈夫か?」

 ギルダーツは、まだ膝を落としている少年の背中を摩っていた。

「……全部、アンタがやったのに……、次は 介抱? わからない大人だな」

 少年は、少し落ち着いたのか 荒くなっていた息も整え、スムーズに話せるようにはなっていた。それを訊いたギルダーツは大分安心した様だ。

「まぁ…そりゃあそうか。いやぁよ? あんな場面だったら……やるだろ? 普通。あんな状況になったんだからよ? 男だったら」

 冷静に考えつつ、おかしいと思いつつも そう返していた。
 ただただ、少年は胡散臭いものを見る様な視線をギルダーツに向けた。

「もう、知らないよ……そんなの」

 少年は僅かだが、笑えていた様だ。

「んで? さっきの質問は答えてくれるのか? まあ…無理にはきかねぇよ」

 ギルダーツは改めて質問をしようとしたんだが、まだ無理をさせる訳にも、と考えた様で、無理にきかない、とも付け加えていた。

 そんなギルダーツの言葉を訊いた少年は俯いた。

「………んだ」

 小さな声で、絞り出す様に言うが ギルダーツには届かない。

「ん?」

 ギルダーツは、聞こえなかった為、ギルダーツは少し傍によった。

「わから…ないんだ。オレ…なんでここにいるのか。なんで…この場所が大切なのか……。自分の全てが……自分の全部……、何も……」
「え……?」

 ギルダーツは思いもしない返答に言葉を失った。
 何か理由があるという事は判っていたが、まさか 何もわからないとは思ってもいなかったのだ。

「ただ……わかるのは この場所がとても大切な……大切な場所だって事……オレ…気がついたらこの場所にいたから……なのかもしれないけど……」

 少年はその後も続けた。


 数年の間、この場所でサバイバルをしていたらしい。
 何故戦えるのか? と言う話も 厳密には判らないと言う事だった。実戦については、体が覚えていたこともあった。

 そして、生きてく為に、小動物を狩ったり、傍に流れる小川で水を飲んで、魚も獲っていたと言う事だった。


 自然に育まれた力、と言えば聞こえは良いだろうが、それだけで、ギルダーツとやりあえるだけの強さを得るのは有り得ないだろう。


「アンタが……さっき、オレに『寂しくないか?』 っていったけど、そう言うのは 無いよってまでは言わないけど。きっと、薄いんだと思う。……オレはそんなに感情ないんだって………。だから…前に来た人たちも、追い返してるし…… その中には怪我させちゃった人だっている。……簡単にそんな事が、平気でそんな事が出来るんだから」

 そう言っていた。
 淡々と話をしているようだが、泣いている様にも見える。それだけでもよく判る。この少年が心優しいのだという事は。
  
「いーや、俺そんな風には思わねぇな」

 ギルダーツは、少年の告白をあっさりと否定した。

「え…?」

 当然ながら、困惑するのは少年だ。ずっと、思っていた事でもあったから。

「だってよ? 考えてもみろよ。……ここは、大切な場所なんだろ? 確かに 理由はわからねえかも知れねえが、そう言う強い気持ちを持ってる奴が、感情が薄いわけねえだろ。……それにお前、自分で気づいてるか?」

 ギルダーツは、笑顔のまま、少年の顔を見た。

「お前、オレと戦ってる時、すげえ自然な顔をしてたんだぜ? 戦う前よりもずっと自然な顔をな。……感情が薄い奴にんな顔は出来やしねえ。オレが保証してやるよ」

 ギルダーツはそう言い終えると、右手を伸ばして、俯きがちの頭を撫でた。

「ッ!!」

 少年は、頭を撫でられたなんて 初めての事だった。
 だから、戸惑ってしまったのだ。

「はは。お前はまだまだガキだ。確かに、魔力は無茶苦茶高い。それに力だってある。……正直、目を見張るものがあるが、内面はまったく見たとおりにガキなんだ。 そう言う奴には大人が教育する必要があるんだよ」

 そう言って、撫でてる手の力が強くなった。遠慮なく力を込める。すごく雑に撫でられていると言う事は、幾ら初めてでもよく判った。

「つー訳もあってだ。……大人としては、やっぱし、お前の事を 連れて帰りたいと思ってるんだが……」

 ギルダーツが手を離して、そう言うと同時に、少年の体が一瞬だが震えた。
 当然、ギルダーツもそれを感じ取って手を上げた。

「……とりあえずは今日の所は止めとくわ。これから、長い時間をかけて様子を見るとするよ」

 そう言うと、ギルダーツは片眼を閉じて、ウインクをした。

「だからよ。寂しくなったらいつでも相手してやるからな。お前はもう1人じゃねえ」

 そう言うと、最後に少年の頭を軽く2度叩たたいた。
 それは、本当に温かみのある手だった。

「で、でも…オレは……」

 少年は、まだ複雑そうだったが、最後まで言わせずにギルダーツは続ける。

「お前は悔しくなかったのか? オレに負けてよ?」

 ギルダーツがそう言うと同時にだった。

「なっ! オレはまだ負けてない! まいった、なんて言ってないっ!」

 少年は、咄嗟にそう言ってしまった。それは、考えていった言葉じゃない。負けず嫌いな所もあるんだ、と今自分自身でも知った瞬間だった。

「ははっ、だろ? すべからず、男ってのはそう言うもんだ。お前は強い。きっと、これからもどんどん強くなる。……だが、オレも お前には負けたくねえ。それには歳とか関係ないからな」
「ッ!! も、もう…… ほんとによく笑う人だ……」

 少年の顔にも、薄らとだが、また 笑みが溢れ出ていた。

「はははっ! 笑いてえ時に笑わねえと損なんだぜ? 人生はよ。っと、そうだ… お前さんは名はあんのか? ここに拘る理由はわからねえっていってたけど、自分の名前は?」

 今更だった、と思いつつも名前が無いと色々と不憫だった為、ギルダーツはそう聞いた。

「オレの名……ん……」

 少年は…思い出すように考え出していた。
 名前を名乗る事、それは普通の事だが、これまで無かった事なのだろう。

「ゼ……ゼ……」

 少年は、思い出しながら、口に出そうとする

「お?」

 ギルダーツは出てきそうで出てこない感じを楽しんでいる様に口元を歪ませていた。

「《ゼ…ク…ト……》 名は、《ゼクト》、だと思う……」
「ゼクトってんだな? よぉしわかった。オレの名は《ギルダーツ》ってんだ。よろしくな? ゼクト」

 ギルダーツは そう言って、笑顔で手を差し出した。

「え……? えと……、う…うん」

 ゼクトは戸惑いながらも、ギルダーツの手を取ろうとした時だった。
 この渓谷に一陣の風が舞った。決して強い風ではない。ギルダーツとゼクトが戦っていた時の暴風に比べたら、微々たるもの、そよ風だ。

 風が吹き、ギルダーツ身に付けていたマントが捲れて靡いたのだ。


「え……?」


 そして、それは一瞬の事だった。
 一瞬だけ、見えた。……ギルダーツの体に刻まれていた紋章を。



 それを見たと同時に、ゼクトの身体が固まった。




「ん? どうしたんだ?」

 突然、表情が固まったゼクトを見て、ギルダーツは不思議そうに聞いた。先ほどまでの戸惑いとはまた違ったから。

「そ……、それ………は……?」

 ゼクトは、また風にマントが靡き、再び現わになっているギルダーツの胸の部分についている紋章を指差した。

「ん? ああ……これか? これは、オレが所属しているギルドの紋章でな? ただの通りすがりじゃないんだ。オレ。……ギルドに所属している魔道士だからな。……って、そう言うのは判るか?」

 自分の全てが判らない。名前の全てが判らないと言っていたのだ。だからこそ、そう訊き直したギルダーツだった。
 
 だが、ゼクトはその問いには答えない。


「そ…その……、ぎるどの、なまえ………は?」


 ただただ、何かに驚いた様に、聞いていたのだ。



「ああ……、紋章の事は知ってんのか。ま、前の連中もどっかのギルド所属だったかも知れねえしな。ん。オレがいるギルドは、《妖精の尻尾(フェアリーテイル)》っていうんだ。その紋章だよ」








“   ド   ク   ン  ッ   ”





 その名を訊いた途端に、ゼクトは、胸が高鳴ったのを感じた。意識が遠くなった感じもした。


「おっ? おおっ?? ど…どーしたんだよっ!!」

 次に、ギルダーツがあわてていた。


 

“ポロポロポロポロポロ…………”




 ゼクトは……、大粒の涙を流していたからだ。

「ど、どうしたんだよ? やっぱ、どっか痛てーのか? オレ! やりすぎちゃったのか??」

 突然の事に、ギルダーツは慌ててそう聞くが、ゼクトは何も言わないし、何も答えなかった。



 只々、大粒の涙だけが零れ落ちていたのだった。


 
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