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リリなのinボクらの太陽サーガ

作者:海底
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継承編 決起

 
前書き
この継承編は続編の土台を整える事と、後始末を中心としています。言い方を変えれば後日談のようなものです。もうしばらく続くので、よろしくお願いします。


戦後処理の回 

 
~~Side of ネロ~~

今回の件はあまりの被害と損害の規模で事件の範疇に収まらない事から、後に“ファーヴニル事変”と総称される事になるそうな。それでその戦いが終わった翌日……応急処置の修理が終わったラジエルに乗せてもらい、私はミッドチルダへ渡航した。というのも実は私も言語を奪われて先日まで“退行”してしまっていて……言語が帰って来てようやく自我がはっきりしたんだ。そして到着後、昨日の激戦の最後に何が起きたのかを、皆が病院送りになっていたり事後処理で忙しい中、唯一手が空いていたユーノから詳しく教えてもらった。

ミッドチルダで繰り広げられた決戦で、奪われた言語を全て取り戻し、ファーヴニルをミッドチルダの大地に封印して、元凶のラタトスクをついに浄化した。反撃を受けて氷に閉じ込められていた者達もファーヴニルが封印された事で氷が溶けて解放され、誰一人としてアンデッド化せずに済んだ。世間的にはこの情報だけが知られて歓喜の声があちこちから湧き上がっているが……真実を知る者はこれが完全勝利とは言えない事を理解していた。

破壊光線を受けて多くの局員達が犠牲になった事を忘れてはいないが……戦闘が終わった後、兄様は全ての力を使い果たして寿命を迎えて消滅、シャロンは異次元空間に吸収されて行方不明となった。昨日、ユーノが本局からミッドチルダに戻って皆と合流した時、彼もその事実を知って愕然としたそうだ。かくいう私もこの事を知って、無念の想いがとめどなく溢れて来ている。

「そうですか……。サバタは……逝ってしまったんですね……」

「エレンさん……」

「すみません、用事を思い出しました。私はここで失礼させていただきます……」

会釈をしてから去っていくエレンの姿に、私とユーノはかける言葉が思いつかなかった。後ろを向いているので表情は見えなかったが、彼女の肩が小刻みに震えているのが見えた。やはり昔からの旧友という事もあって、気難しい環境に身を置いていたエレンですら哀しみを全て抑えきれなかったようだ。兄様に救われた事がある私だからこそ、同じような境遇を経てきた彼女の辛さは痛いほど理解できる。それゆえ、兄様がこのタイミングで消滅する原因を作ってしまった私はとてつもない罪悪感を胸に抱いた。

「それでね……大切な人を目の前で失ってしまった、はやてとマキナだけど……正直、かなりマズい事になってる」

「私でも二人の気持ちはある程度察せるが……どういう状況になってるんだい?」

「サバタさんを失ったショックと自分を助ける代わりに犠牲になったシャロンの事で、はやては精神錯乱状態に陥っている。ヴォルケンリッターの皆が必死になだめてるけど、彼女達もサバタさんの死をまだ受け入れられていないみたい」

騎士達も主と同様に真実は知らなかったからな……私と兄様が意図して教えなかったとはいえ、その唐突な別れは歴戦の戦士である彼女達でも理解が追い付かないのだろう。ただ、主はやては私達の想定よりショックが大きく、この状態では時間で解決できるのか不安が残ってしまう。兄様との死別だけでなく、シャロンを犠牲にしてしまったのが更に傷を広げてしまったらしい。

「僕も……まさかシャロンが犠牲になるなんて思ってもいなかったんだ……。あんな辛い出来事を二度も味わって、それなのに異次元空間に飲み込まれるだなんて……救いが無さすぎるよ……」

「私もだ……私はまだあの少女に何も償えていない……。なぜあの場に行けなかったのか、なぜ救えなかったのかと思うと、胸が張り裂けそうで辛いよ……。兄様、シャロン、アクーナの人達、この戦いの犠牲者達……いったい私達はどれほどの命を犠牲にして、生き残ってしまったのだろうか……」

「確か管理局の公式発表では局員の死者は300人弱だって言われてて、最初の破壊光線で撃沈した戦艦の乗組員がほとんどの数を占めてる。他は反撃の怪奇光線や体当たりなどでやられた人達だよ。尤も、なのはが都市部に二発目の破壊光線が撃ち込まれるのを止められていなかったら、死者の数は市民を含めて一気に数万まで跳ね上がっていたらしいよ」

「そうか……。それで話を戻すけど、マキナの方は大丈夫なのかい?」

「マキナもその時は錯乱状態になりかけたんだけど、傍にいたはやて似の少女が咄嗟に手刀で彼女の意識を奪ったんだ。それでサバタさんの仲間の彼女達がラプラスに暗黒剣と一緒に彼女を運んで、持参してきた巨大な質量兵器を外付けの格納庫に戻した後、ラプラスごと帰ってしまった。多分、彼女達は管理局を信用していないから、何処かの拠点に戻ってから自分達の怪我を治療して安静にするつもりだと思う。実際、サバタさん達がファーヴニルの角を破壊するのを身を張って協力しているし、マキナも一人でラタトスクの足止めをしていたから、全身にかなりの傷を負っているらしい」

「たった一人でラタトスクの相手をか……どれほどの激戦だったのか、想像もつかないな……」

「とりあえずその後の彼女達の行方はわからないけど、十中八九はやてに憎悪を抱いてるに違いない。リインフォースの前で言うのもなんだけど、はやてのせいでシャロンを失ったようなものだから……」

「下手すれば復讐者になり兼ねないって事か……主はやてとマキナが敵対する光景なんて、そんなの私は見たくない……」

「僕だってそうだよ。サバタさんが命をかけて守った人達が互いに憎しみ合うのは、あまりに哀し過ぎるよ……」

大切な人を失った痛みは同じなのに、そうなった経緯が互いに憎しみを駆り立ててくる。どちらが悪い訳でもないのに、いくつもの要素が合わさってこんな間柄になってしまった。あまりに辛くて……哀しくて……涙が出てしまう。丸く収めるのはもう不可能なのかもしれない……でも私はどちらも救いたい。一体、どうしたらいいのだろうか……。

「はぁ……駄目だな、私は。こういう時に兄様さえいればと、どうしても思ってしまう……。ずっと彼に頼ってきた報いが、今ようやく回ってきたのだろうな……」

「僕達でさえサバタさんがいなくなった影響はこんなに大きいのに、依存に近い形で懐いていたはやてはそれ以上の空虚感に襲われているだろうね。ただ、素人目から見るとマキナはシャロンを守るために自立しようとしていたし、フェイトとアリシアもプレシアさんがまだ生きているから、こっちの方は多分何とかなっていると思う」

問題はシャロンが吸収されたって所なんだけど、そこはさっきユーノが言っていた兄様の仲間の少女達に任せるしかないのかもしれない。私達ではきっと琴線を刺激して、会う度に憎しみを増加させるだけになってしまうから……。

話は変わるが、なのはとクロノのリンカーコアは深刻なダメージを負っていたものの、月詠幻歌のおかげで奇跡的に回復したらしい。かといって後遺症が無い訳ではなく、魔導師ランクが1か2程度下がるようで、更に過度な使用は身体により大きな負担をかける事になるそうだ。それでクロノはリンディから艦長の座を譲り受ける予定で、基本は後方勤務になって前線に出る機会が下がるから大した問題にはならない。しかしなのはは逆で、むしろ本格的に前線に出るだろうから疲労が溜まりやすくなり、不測の事態で撃墜する危険が一気に上がってしまう。いつか無理がたたって兄様の後を追ったりしないか、かなり不安だ。

ユーノのおかげで事態をおおよそ把握できた私はなのは達の見舞いに行く彼と別れ、聖王教会へと足を運んだ。病院は大勢の怪我人で病室が飽和しているため、教会本部の多くの部屋も治療室にあてがわれている。廊下にもシーツを敷いて安静にしている者達が多くいる中、私は奥の執務室で被害総額などの報告が書かれた書類を読んでいるカリムとシャッハへ会いに行った。

「あら、いらっしゃいリインフォースさん。少しだけ待っててね、すぐ片付けるから」

「後でこちらから出向こうと思っていたのに、わざわざ来て下さったんですね」

「はい。主はやての下に急ぎたい気持ちもありますが、その前に知りたい事を知っておいた方が良いと思ったので」

「ああ……カリムの預言、ですね。こちらもその話をするつもりでおりました」

「あともう少し……よし、書類の確認終わり! ……それで、この預言ね。

【時と狭間の果てより舞い降りし月と暗黒の戦士 異なる大地に満ちた闇をその身を以って浄化し 小さな太陽を目覚めさせん されどその身に秘められた深き慈愛が絶望に染まれば 戦士は破壊の狂気に飲まれ 総ての希望は虚無へ回帰す 天上の黒き戦乙女の加護に導かれし彼の戦士の魂が潰えし時 人の未来は星を越える意思の手で虚空へと消え去らん】

ええ、一言一句、一度たりとも忘れてはいないわ」

「わざわざ見えるように出してくれて感謝します。それで……兄様が消滅してしまったのは既にご存じで?」

「はい、全て聞いています。サバタさんだけでなくマキナの事も、そしてニダヴェリールの生き残りの少女の事も。月詠幻歌を継承していたその少女は、管理世界の人間を恨んでてもおかしくないのに、それでもサバタさんと共にこの世界を守るために頑張ってくれました。サバタさんが彼女の心を支えてくれたから、彼女が月詠幻歌を歌ってくれたのに、最後にあんなことになってしまうなんて……」

「これだけの力があっても、私達は結局彼らを守れなかったわね……。自分の無力さを強く思い知らされるわ。それで察するにリインフォースさんはサバタさんの消滅を、魂が潰えし時、と解釈しているのね?」

「……そうです。兄様が消滅した事で、銀河意思ダークの本格的な介入が始まるのではないかと思うと不安で……」

「そこはすぐにわかるものでもないから、しばらく様子を見るしかないけど……その前の魂が潰える=死って、正直な所、少し安直な考えだと私は思うわ」

「安直……ですか?」

「魂が潰える、というのは彼から教わったもの、受け継いだもの、育んだ心を失う事を意味するんじゃないかと、私達は考えているのです。サバタさんははやてさんやマキナ、皆さんに何度も未来を託すような言葉を繰り返し伝えていたように思うのですが……そこは当事者の一人であるリインフォースさんの方がよくご存じのはずでは?」

「…………言っていた……確かに兄様は私達が生きて、次の世代に命を繋げるように伝えていた。そうか……そうだったのか……。私達は既に兄様の魂を受け継いでいる、一人一人異なる欠片としてだが、確かに受け継がれている。兄様の魂が潰える時とは即ち、私達が兄様の教えを忘れて道を踏み外した時……もしくは次の世代に伝える事が出来ず、命尽きてしまった時……つまり私達が生きている限り、兄様の魂は消えないという事なんだ」

逆に言えば私達が死ぬのは、兄様の魂を潰えさせる事になる。だから兄様は何度も“生きろ”って伝えてくれていた……答えは何回も教えてもらっていたのに、今までそれに気づかなかったなんて……やはり私は気付くのがいつも遅すぎる。後悔しても何も始まらないのはわかるが、それでも後悔したい、懺悔したい、謝罪したい、そして……許してもらいたい。だけど兄様はもういない……だからこの“幻肢痛(ファントムペイン)”は未来永劫、私達が背負っていかなくてはならないのだろう。

心にぽっかり空いた悲しみを改めてひしひしと感じ、ほろりと涙を流して俯く私をカリムとシャッハは黙って見守っていた。だが少し落ち着いた時、カリムに急な通信が入る。相手は治療が終わって回復するまで安静にしているはずのクロノだったが、彼の慌ただしい表情が何事かと私達に緊張を走らせる。

『聞こえますか、騎士カリム! シスター・シャッハ!』

「クロノ、いきなりどうしたんだ?」

『あ、リインフォースもいたのか! それならむしろ好都合だ! 急いでこちらに来てくれ! 実ははやてが……!』

そこからクロノが伝えてきた事情を聞き、その内容に青ざめた私は急いで主の下へと駆けて行った。絶対に、兄様の教えを破らせるわけにはいかないから。

・・・・・・・・・・・・・・・・

~~Side of ディアーチェ~~

ここは管理局地上本部執務室。一旦ウェアウルフ社に帰った後、諸事情で内密に再びここに来た我らの目の前では、妙に目をギラつかせて威圧感を発するレジアスという管理局地上本部の中将と、隣にゼストという槍使いの騎士が佇んでいる。対する我は臣下のシュテルとレヴィを後ろに、彼らと向かい合っている。なお、盟主のユーリは地球で安静にしているマキナの傍で見守っているため、ここには同席していない。
それにしても流石地上本部のトップ候補、相対してわかったが並の威圧感ではなかった。しかし我も成し遂げなくてはならぬ事がある。あれからずっと背負っている教主殿の暗黒剣に背中を支えられるような感覚の中、我らと彼らとの話し合いが始まった。

「先の戦いでミッドを守ってくれたこと、感謝する。あの巨大な質量兵器に関してだが、管理局法に照らすと本来は違法なのだが今回は見逃そう」

「うむ、あれは我らにとっても大事な機体だからな。没収するなどとほざいたら、その瞬間敵対していたところだ」

「だろうな、俺達はわざわざ敵対するためにおまえ達と話をしに来たのではない。映像も見たが、おまえ達の実力は本局の魔導師のそれを圧倒的に上回る。故に――――」

「スカウトなら拒否させてもらう。我らはアウターヘブン社次元世界傭兵部門……わかりやすく言えば地球のPMCに所属している、鞍替えするつもりは毛頭ない」

「地球のPMCだと……? 管理外世界の組織が魔導師を抱えるとは、本局にとっては前代未聞の出来事だな。俺としては別に構わないのだが、それはそれであの質量兵器も地球のものなのか?」

「そうだ。色々魔改造はしてあるが、純粋に地球の技術のみで作られておる」

「そうか……あれだけの物が既にあるなら、性能差があり過ぎてアインヘリアルも作る意味がないな、しばし計画を見直すとしよう」

「そちらの事情はあずかり知らんが、こちらの目的を伝える。管理局は怪我人や犠牲者への支払いが多々あるだろうが、それはそれとしてこちらも命懸けで戦ったのだから、管理局に今回の戦いに関して対価の請求をさせてもらう」

「報酬か……仕方あるまい、言ってみろ」

「マキナとシャロンの故郷であるニダヴェリールの滅亡と、サバタの指名手配という名誉棄損、ファーヴニルの角の破壊による言語奪還と封印、並びに同僚2名の死亡損失を含めて……現金500万GMPを請求する」

「ご、500万だと!?」

「もしくはどこかの世界2つ分の土地だ。金か領土か、半々にするか一方を払うかを選んでもらう」

あまりの内容にレジアスが怒鳴るが、これでも温情を掛けて安めにしているのだぞ。実際、我らが来なければこの世界は確実に滅んでいたのだから、本当ならこれの20倍は請求したい。しかし今後のビジネスのために、後腐れのない関係を築くにはこちらからも上手く立ち会っていかなくてはならないのだ。

「落ち着けレジアス、これは妥当な報酬……いや、むしろかなり安くしてもらっている方だ。俺達だけではファーヴニルに勝てなかった……彼や彼女達がいたからこそ、この世界は生き残れた。その事実から目を背けるわけにはいかないだろう?」

「むぅ……確かにゼストが言うとおり、そんな事をしたら俺達も本局の連中と同じになってしまうな。本局は都合の悪い事を口止めするために、高町なのはを初めとした連中を表彰し、ファーヴニルに勝利した象徴とする事で祭り上げて世間の支持を取り戻そうとしている。サバタやおまえ達と同様に、あの小娘たちも活躍した事自体は否定せんが……明らかに封印を為した貢献者をすり替えて事実を覆い隠そうとしているのが腹立たしい」

「なに、慧眼を持つ者ならば嘘の中にある真実を探ろうとするはずだ。その時に我らが真実を伝える手伝いをすればよい。それに過剰な名声をもらった所で、動きが取り辛くなるだけ……本当に大事な真実さえ覚えていられるのなら、仮初の名声なぞ我らはいらぬわ。それと念のために言っておくが、我らの要求は管理局全体への請求だ。だから地上ではなく本局から報酬を捻出してもらっても構わないぞ?」

「王の言うとおりです。むしろ私達はあなた方地上ではなく本局からむしり取ってやろうと思っていたので、そうしてくれた方がありがたいです」

「それにね、もし払わないとか言ってたら、奥の手があるよ~。え~とね、ジャッジャ~ン! 暗黒カード!!」

レヴィが取り出した暗黒カードは、元々教主殿が持っていたものだ。それで最後の戦いに出る前に、我にもマスター登録を施して授けてくれたのだ。故にあのカードの中には教主殿がバンクに貯めたソルもあり、好きに使っても良いと言ってくれた。心情的にあまり使いたくは無いが、どうしても必要なら使わせてもらう所存だ。ともかく暗黒カードの機能を説明した後、おしおき部屋の事を思い出したのか難しい顔をして悩み抜いたレジアスは最終的に半々を選び、250万GMPを本局とは違うという誠意を示すために地上で支払い、第34無人世界マウクランの土地を譲渡する事に決めた。なんか自然の多い世界らしいが、サバイバルやゲリラ戦の訓練とかが出来そうだとはシュテルの弁だ。

「まあ、金はアインヘリアル製作の予算を回せば十分工面できるし、後で本局の連中がやらかした不祥事と彼女達の名声の真実に対して行ってくるであろう口封じを逆に利用すれば本局から全額奪い返せる。その時に土地も掠め取ってやるから、結果的に地上にマイナスが出る事は無い。それと……PMCとは意味的に傭兵ビジネスのようだが、それなら報酬さえ払えば、我々地上にも力を貸してくれるのか?」

「依頼の取捨選択権がこちらにあって、対等な立場で、尚且つ報酬がまともであるならな。管理局はニダヴェリールの事や教主殿の指名手配の事もあって気に入らぬが、仕事の依頼なら仕方ないと切り換えれる。もちろん時には管理局と敵対する組織にも雇われるだろうし、罠や裏切り、勧誘などの無粋な真似をすれば、即座に報復させてもらうからそのつもりでな」

「そうか……PMCだから雇い主は度々変わるし、おまえ達は全員管理局に対して思う所があるらしいから、理解は一応できる。しかし敵対組織に雇われるのは、心情的には避けてもらいたい所だ。いっそ専属契約のような事は出来ないのか?」

「立場的に専属契約は出来ないが、長期契約や優先契約とかは依頼を受ける者次第だな。そもそも管理局に帰属しない軍事力というのは、優秀な魔導師を本局に引き抜かれて常に戦力不足の地上にも都合がよいと思うぞ。例えば同じ管理局でも闇に紛れて行われている口封じの暗殺現場や違法施設を逆に襲撃する、上層部から命令が来ないと動けない連中の代わりに金さえ払えば即座に動ける高ランク魔導師を貸せるなど、管理局に所属していない事による利点が多様に存在する。未だに管理局に巣食う膿どもを引きずり出すのに、我らのようなPMCは丁度良い手駒だと思うが? あと、必要ならいくつか質量兵器も貸し出せるから、レンタルしたいならそれも構わんぞ」

「なるほど……だが高ランク魔導師を管理局に申告せずに抱え、質量兵器を保持しているという事で本局から違法組織だとやっかみを付けられる可能性が高いな。その点についてはどう考えている?」

「想定の範囲内だ、既に我らは帝政特設外務省のある部隊(ラジエル)との伝手がある。彼らがバックに付いている以上、本局も迂闊に手を出せないはずだ」

「あの秘密主義の部門が後ろ盾とは、用意周到という事か……なら長期契約や質量兵器のレンタルも検討しておこう。おまえ達が気に入らない膿どもも、あの局内でも特殊な部門と俺達地上の情報を合わせれば片っ端から片付けていけそうだ。ところでおまえ達は今回の報酬を基に、次元世界を渡り歩く拠点をマウクランに構築するのだろう? ならば今回の報酬の前払いとして、おまえ達アウターヘブン社に所属する人間は次元世界を自由に動ける許可証を発行しておこう。今後の活動で役に立つはずだ」

「うむ、ありがたくもらっておくぞ。あと、貴様達地上の依頼はラジエルと同様、出来るだけ優先されるようにしておく」

「感謝する。きっかけこそアレだが、今後とも良い付き合いが続くことを願うとしよう」

「それはそちらの財布の中身次第だ。この関係が長く続けば、こちらも安定した収入が得られる。金の切れ目が縁の切れ目……払えなくなったら我らは管理局の敵対組織にも肩入れするようになる。ゆめゆめ気を付ける事だな」

「ふん、頭の片隅には入れておこう。それと今後おまえ達との連絡はオーリスが担当する、俺達はわざわざ出向いて依頼をしに行く暇がないからな」

双方合意に話が付いたことで、我とレジアスは握手をする。そして数日後に報酬を受け取る約束をしてから、部屋から立ち去った。今後、IRVING(月光)などが警備や治安維持のためにこちらにも配備されるかもしれないが、それを見たら本局の連中は質量兵器だ違法だと頭ごなしに否定してくるだろう。だが我らは管理局法なんて馬鹿馬鹿しい物を守るつもりは無い、我らは我らの法で生きる。邪魔をするならことごとくなぎ倒すだけである。

「それにしても………………この役目は精神的に辛い。教主殿とシャロンの命を勘定に含めて、管理局へ冷静に突きつけるというのはどうも癪だ。我らがこれから自分の道を進めるようにするためとはいえ、臣下や家族の命を金で表すのはいくら王たる役目でもキツイぞ。我は臣下を物や数で表すような冷酷な真似は可能な限り避けたいのだ」

「ええ、それは私達もわかっていますとも、王。ですが、あなたがそうやって私達の命を背負ってくれるから、私達は後腐れなく戦えるのです。それに辛くても私達がいます、もし嫌になったら私に任せても構いませんよ」

「そうだよ、王様。もうお兄さんはいないんだから、これからはボク達で居場所を守らなくちゃならないんだもの。お兄さんが背負ってきた物がどんなものなのか、こうやって実際に背負う事でよくわかると思うんだ。それで、ずっと重荷を背負ってくれてたお兄さんへの感謝の気持ちが再確認できる……でしょ?」

「シュテル……レヴィ……ふ、ふん! それぐらいわかっておるわ! これから我らは我らの国を作る、いずれ忙しくなるから今の内にせいぜい覚悟しておけ!」

「了解です!」

「りょ~か~い!」

意気揚々と返事する臣下たちの姿に、我は頼り甲斐のある嬉しさを感じた。教主殿とシャロンを失って辛いのは皆同じだが、ずっと足踏みする訳にはいかない。彼らのおかげで我らは未来へ歩き出せるのだから、下を向いて立ち止まっている場合ではない。背中にある暗黒剣が教えてくれる……過去を背負い、今を生き、明日を信じる。そうやって我らは未来を形作っていくのだ。そのためにも……我らの作る家としての意味も込めて、報酬でもらったマウクランの土地に新しく“マザーベース”を構築する。我らが自分の足で立つために、教主殿から教わった新しい秩序をそこで育てていく。管理局の支配下にあることが天国だというならば、そんな天国はいらない。我らが作るのは天国の外にある世界、即ち“アウターヘブン”だ!

「となると、まずは人を集めなくてはな。人がいなくては何も始まらんし……確かワームホールが開くフルトン回収装置があったはずだから、それを改良すれば……いや、今後の事を考えるのはもう少し後にしよう。まだ我らも仲間を守れなかった過ちを引きずっておるしな……」

そう言うとシュテルもレヴィも一様に暗い顔を見せる。一応我らは教主殿の消滅を事前に心構えていたものの、最後にシャロンを守れなかったショックが色濃く残っている。故にもう少しだけ、心を整理する時間が必要だ。特にマキナにはな……。
元々人の良い性格をしている小鴉は、時間をかければ守護騎士や友人どもの助力で十分立ち直れるとは思う。しかしマキナは人間不信の影響で、我らしか信じられる者がいない。故に我らが傍におらねば、彼女の心が歪んでしまう恐れがある。あの娘も我の臣下だ、彼女を孤独には絶対にしない。我らはシャロンを守れなかったのだから、今度こそ誓いを違える事はしない。それが王たる我の役目……これまで教主殿が背負ってきた役目だ。

聖王教会から見て地上本部の影になる位置に停留していたラプラスの下へ戻る我らだが、二つの内の一つの用事が済んでもう一つの用事を果たそうとした矢先に、ラプラスの傍で見覚えのある者達が待ち構えていた。紫色の髪の白衣を着てニヤニヤしている胡散臭い男、紫のショートカットで青タイツを着た女性と、同じく青タイツを着ている銀髪で体格が小柄な女性、またしても青タイツの茶髪で伊達眼鏡をかけて見下ろすような目つきの女性の、総勢4人が待っていたのだ。

「一人新顔がいるが……貴様達の顔は覚えているぞ。トーレ、チンク、そして……ジェイル・スカリエッティ」

「ん? 我々はおまえ達と直接会った事は無いはずだが?」

「私の推測だが、彼女達は彼の眼を通して私達を見たんじゃないか? まだ彼の中に宿っていた頃にな」

「想い人の身体に宿っていたとは、愛されてますねぇ、ホント。あ、私はクアットロと申します、以後お見知りおきを」

「ん~、それでキミ達ってなんでここに来たの? 確かお兄さんとは敵同士だったはずでしょ?」

「まぁ実際その通りではあるが、私は個人的に彼に対して尊敬の念を覚えているのだよ。彼はこの私が見込んだ通り、素晴らしい男だった。短い寿命の中で人間がどれだけの事を成せるのか、その身を以て証明したのだから! しかも誰かに命令されたり縛られたりは一切せず、ただあるがままの信念でこれまでの全てを乗り越えてきた! 無限の欲望たる私にとって、初めて目標になる生き様を貫いた者と言えるのさ!」

「あなたに目標にされても、教主はどうでもいいと一蹴するでしょうね。ところでなぜあなた達が私達と接触を図ったのか、理由をまだ聞いていませんが?」

「そこまで警戒しなくても、私自身の戦闘能力はそこまで高くないから目立つ真似をして危険を招いたりはしないさ。ただ君達にちょっとしたお土産を渡そうと思ってね」

「お土産……?」

その意味が何なのか見当が付かず、首を傾げる我に向かってスカリエッティは無防備に近づきつつ、白衣のポケットに手を入れた。警戒してデバイスを構えるシュテルとレヴィ、その二人の動きを見張るかのようにトーレとチンク、クアットロも臨戦態勢に入った……のだが、スカリエッティは右手を上げて彼女達に警戒を解くように指示した。

「私達は別に君達と争いに来たんじゃない。むしろ協力関係になれるかもしれないよ? このディスクの中身を見た後なら……ね」

そう言ってスカリエッティは表面に何も書かれていないディスクを取り出し、我に手渡してきた。危険物じゃないと分かった事で、シュテルとレヴィも一旦デバイスを格納する。ひとまず受け取りはしたものの、果たしてこのディスクは何を記録しているのだろうか?

「おっと! 後で文句を言われないよう今の内に言っておくが、それを見たらもう戻れなくなる。二度と立ち止まる事は許されない……サバタのように命が果てるまで戦い抜かなくてはならなくなる。その覚悟があるのなら……」

「ふん、今更何を脅すのかと思えばその程度の事か。我らの魂は常に教主殿と共にある、命ある限りどこまでも突き進む所存だ」

「その程度……? ククク……アレをその程度扱いか! 彼の傍にいた事もあって、君達も中々興味深い思考回路をしているじゃないか! 面白い……ああ面白くなってきた! 君達がそのディスクの中身を見るか見ないか、もし見たのならこれからどうするのか、その様をじっくり拝見させてもらうとしよう!」

「用事はそれだけですか? 終わったのならさっさと立ち去った方がよろしいですよ、ここは一応管理局の膝下なのですから」

「もちろん、そうさせてもらうさ! それではサラバ!! フッハッハッハーッ!!」

「あのぉドクター? そのような大声で笑っていたら、マヌケが多い管理局でも流石にバレますわぁ~」

「とにかく用事は果たした。我々も去らせてもらう」

「まぁ何だ。私もCQCの訓練をしているから、機会があれば手合わせの相手もしてほしい。それじゃあしばらく達者でな」

何やら目立つ笑い声を上げながらスカリエッティは帰っていき、彼に続いてクアットロも去り、トーレは困惑気に彼らを追いかけ、チンクは申し訳なさそうに挨拶をしてから向かっていった。何というか……管理局にとってはかなり厄介な犯罪者のはずなのに、どうも脅威を感じにくい連中だった。……いや、彼らも教主殿に影響されただけだろうな。敵同士だからこそ、何かが通じ合える時もある。傍にいる者にしか影響が出ない、なんて決まってる訳でもないのだから。

「なんか実際に話してみたら、案外ニギヤカな人達だったね~」

「しかしあれは生粋の科学者とその研究で生み出された者達、一応警戒しておくに越したことはありません。ところで王、そのディスクはどうします?」

「どうするも何もここには見るための機材が無いから、地球に戻ってから決める。とりあえず今は小鴉にマキナからの伝言を伝えに行く。面倒な事はさっさと済ませるに限る」

という訳でスカリエッティから渡されたディスクは一旦しまっておき、我らはラプラスに乗って聖王教会の領地へと移動する。ちなみに戦いに赴く訳ではないため、今のラプラスにメタルギアRAYの入った格納庫は取り付けていない。

聖王教会の領地に降り立った時、勤務していた騎士達は我らを見ても特に動くような事はしなかった。別に敵対している訳でもないから、当然と言えば当然か……。
ま、騒がれないなら好都合だと思い、我らはそのまま聖王教会の病院へ足を運ぶ。目的地はそう、小鴉のいる病室……。だがそこへ着いた時、部屋の中はドタンバタンと喧騒に包まれていた。

「離して! 離してやぁ!! 私なんか……私なんかぁ!!!」

「なぁはやて、いい加減落ち着いてくれよ!」

「どうか冷静になってください、主はやて!!」

「ぐ……堪えてください、我が主!」

「駄目よ、はやてちゃん! そんなに暴れたら身体の傷が開いちゃうわ!」

「主のお気持ちは私も十分察しています。ですが自棄だけは起こしてはなりません!」

中からポンコツ騎士やクロハネ、その他数名の声が聞こえてくるが、そんな事を気にせず我らは部屋へ突入する。途端、同じ部屋にいた高町なのはやフェイト・テスタロッサがシュテルとレヴィの姿を見て驚いておるが、相手にしている場合ではない。そのまま我は未だに暴れ出そうともがく小鴉に近寄っていき……、

「この……大馬鹿者がッ!!!」

盛大にチョップをかました。いきなりの出来事にポンコツ騎士どもが阿呆にも口を開けて呆然とする中、小鴉は涙目で我を睨み付けてきた。

「いったぁ!!? いきなり何するんや、王様!?」

「ふん、いきなり何をするだと? この戯け! 貴様は教主殿……サバタから何を言われたのか、もう忘れたのか!」

「何をって……!」

「辛くても生きて、未来へ命を繋ぐ。貴様は最後のあの時、そう言われたはずだ。その意味を……彼の真意を理解出来ない貴様ではなかろうが!」

「だからって……だからって耐えられるかどうかは別やろ! なんでサバタ兄ちゃんは何も教えてくれへんかったんや! 二度といなくならないで欲しかったのに……! もう離れなくて済むと思ったのに……! なんで、目の前で消えちゃうんや……!!」

「そこはタイミングが悪かったのかもしれんが、むしろ最後に言葉を交わせた事実を大切に思うべきであろう。元々サバタはファーヴニルが現れようが現れまいが、最後は何も言わずに消えるつもりだった……自らに残された寿命では年を越せない事を、世紀末世界から来た時点で既に察しておったのだ」

「そ、そんな……! じゃあサバタ兄ちゃんは……どうして変わらずにいられたんや……?」

「何を言う? サバタは変わったではないか。他者の死を利用してでも目的を果たす“暗黒の戦士”ではなく、失いたくない存在のために自らの命を懸けられる“人間”にな。小鴉、貴様と出会えたからこそ、あの者は変わる事が出来たのだ。その結果、貴様は……いや、貴様に限らず我らもこうして生きていられる……。サバタが“暗黒の戦士”のままであったら、ここにいる者の多くもとっくの昔に死んでいたかもしれぬのだぞ?」

実際、やろうと思えば教主殿は我らを救わない選択も出来た。考えてみればそちらの方がはるかに負担も少なく、効率的で簡単なはずであった。P・T事件の時に当時は幽霊だったアリシア・テスタロッサを宿らせずに消滅させたり、有無を言わさずプレシア・テスタロッサを即座に排除してヴァナルガンドが現れる前に虚数空間の穴を閉ざしたり、闇の書が起動した時に知られざる闇を背負うナハトヴァールをリインフォースごと滅して事無きを得たり、暴走する前にユーリごと我らを闇に葬ったり、アレクトロ社に潜入した時に敵のスナイパーとして相対したマキナを保護せずに倒したり、生きる事を諦めたシャロンを放っておいたり、ファーヴニルの襲撃を自業自得として相手にしなかったりと、とにかく教主殿にはこれまで非道ではあるが、あり得なくもない選択肢が山ほどあった。……にも関わらず、教主殿はそうしなかった。最後まで自分の命を懸けて救い出す、という困難な道を選び、そして成し遂げた。

だからこそ……我らはサバタを“教主殿”として尊敬し、彼から貰ったものを守り続けていこうと思っている。まぁ、教主殿一人で成し遂げた訳ではない時もあるが、どんな状況でも大きな影響を与えた事には変わりない。それで教主殿から教わった事を高町なのはやフェイト・テスタロッサ辺りは既に理解しているが、最も近くにいたはずの小鴉が理解できない、というのは流石に考えられない。それがようやくわかったのか、小鴉はポンコツ騎士が手を離しても暴れ出さず、俯いてポツリと心情を漏らす。

「……なぁ、王様……」

「なんだ?」

「サバタ兄ちゃんは……死ぬのが怖くなかったんかな……」

「戯け、誰だって死は怖いに決まっておるだろうが。おくびにも出さなかっただけで、サバタも少なからず自分に死に対して思う所はあったはずだ。だがな……彼は人間として生きた証である我らや貴様らのために、見えない所で死の恐怖を克服したのだ。去った後もできるだけ我らに気遣わせないようにな」

「…………」

「まだ納得がいかんか?」

「……ごめん。正直な……」

「頭では理解できても、やはり心が受け入れるには時間がかかるか。まあいい……小鴉、貴様にマキナから伝言がある」

「マキナちゃんから?」

この我を伝言役にするとは、案外マキナも図太い事をするものだと思いながら、目を覚ました時に彼女が頼んできた事を口にする。

「『お互いに大切な人を失って、気持ちが混沌として言葉じゃ表せないと思う。このままでは前に進んでも、サバタ様が示してくれた教えを守れないかもしれない。私も八神も未来に歩き出す前に、この気持ちに整理を付けるべきだ。八神……これが最後だ。闘いは終わったが……私達の解放はまだだ。ファーヴニルとの未来を賭けた戦いは終わった。最後は……個人的な決着をつけよう。12月25日、午後10時にサバタ様が消えたあの場所……ミッドのシェルター前広場で待つ』だと」

「まるで挑戦状やね。確かに言葉を交わすのも大事やけど、今の私達じゃ余計な火種を増やすだけになる。もう私達は選んだ道が違うのだから、せめて禍根を残さないように感情をぶつけるしかない。これがなのはちゃん流のお話、って奴か……」

「なんか違くない!? 私のお話って、そういう意味じゃないはずなんだけど!?」

「え? なのはのお話って、普通こういう意味じゃないの?」

「フェイトちゃんまで!? も、もしかして……皆もそう思ってたの……!?」

『何か違うのか?』

「えぇ~……なんかショックだよ……」

高町なのはがベッドに手を突いて落ち込むが、自ら蒔いた種なのだから我にはどうでも良い。

「今日は23日だから、決闘は明後日になるのか。局員が模擬戦などを行う訓練場とかでは……駄目そうだな。その時刻の間だけ、結界を張る許可を出してもらうか……」

クロノがそうやって街中の魔法戦に備えた準備を考えているが、どうもマキナは魔法戦を行うつもりではない気がする。ま、真相は当日に判明するだろうから、今は万が一に備えて場を整えてもらおうじゃないか。

「……王様、マキナちゃんに伝えて。“受けて立つ”って」

「承知した。用事は済んだ事だし、我らも帰らせてもらう。シュテル、レヴィ、行くぞ」

「わかりました、王」

「じゃあ、またね~!」

彼女達はまだ話したがっていそうだが、どうせ自分達とそっくりな外見なのはどうしてだとか、友達になりたいだとか、そういう事を言ってくるに違いない。しかし……それはこの決闘が終わってからでも良いだろう。今はまだ、線を引いたままにしておく。この二人のわだかまりに決着をつけねば、仲良くしようも無いのだから。

リンディら管理局の本局連中の事情聴取とやらは全て無視して、我らはラプラスで地球へと帰還した。そこでマキナとユーリに小鴉の返事を伝えると、マキナは静かな決意を秘めた眼で、レックスを見つめるのだった。そのただならぬ様子に、我らはあえて何も言わなかった。

その日の夜、我らはユーリと、何故かリキッドを交えてスカリエッティから渡されたディスクの中身を、コンピュータウイルスの危険に備えて念のために独立したネットワークの入ったパソコンで様子見がてら調べてみた。見たら戻れなくなるとか言っていたが、これは大量の記録ファイルが入っていたため、一見するだけではわかりにくい代物であった。

「これ、データが意図的にバラバラにされています。修復すれば内容が全てわかるのでしょうけど、今わかるのはごく最近どこかで録音されたらしいこの音声ファイルのみですね」

「再生してみよう。ユーリ、頼む」

という事でユーリがマウスを操作して音声ファイルをクリックし、中身を再生する。すると年配のくぐもった声がいくつか聞こえてきて、我らは注意深く耳を傾けた。

『絶対存在め……まさか次元世界全体の魔力を吸収するとは、やはり起こすべきではなかったか。魔法の絶対性が今回の件で崩れてしまうとは、とんだ誤算だ』

『管理局の威厳を示すべく我々がファーヴニルのコントロールをするつもりが、人形使いに先手を打たれたせいでこのような結果になってしまった。イモータルの企みが我々を先んじるとは、次元世界の平穏を保つためにはあってはならない事実だ』

『情報の操作と隠蔽は着々と進めている。あの暗黒の戦士が人形使いを道連れにし、ニダヴェリールの生き残りの片方も死んだ今、真実を知るのはもう一人の生き残りと、暗黒の戦士と共にあった者どもだけだ。連中の口を封殺さえすれば、この過ちが公になる事は無い。銀河意思ダークは存在自体を隠し、ファーヴニルは管理外世界から暴走してやってきたモンスターとして公表するように手回しすれば、次元世界における我々の権威が低下する事は無い。我々の統治があってこそ世界は平穏を保つ……全ての次元の上位領域に意思が存在するなど、決して認めてはならないのだ』

『人は自らの価値を認められる事を本能的に望む。管理局側にいる高町なのはを始めとした者達には、英雄的地位を与える事で暗に真実を漏らさないように図った。彼女達は管理局の内情を変えようと企んでいるようだが、真実を漏らせば我々によって構築された地位ははく奪され、自分達の目的から遠ざかる……故に話せなくなる。一定の地位にまで上げさえしなければ、後は管理局の偶像として、我々が思うまま永遠に使い果たしてやればよい』

『永遠……そういう事か……。確かに魔導師の能力は申し分なく、思考もある意味愚直であるため操作しやすい。命の再利用(ライフリサイクル)には最も都合が良いな。しかし帝政特設外務省と、あの生き残りと共に居る謎の魔導師どもはどうする? 連中には我々の口封じは通用しないし、情報操作も無効化されてしまうぞ?』

『あの管理局に所属しているくせに、管理局の治世に刃向かう愚か者どもか。忌まわしい連中だ……これ以上の害悪となる前に何としても排除せねば。だが毒も暗殺も何もかも効果を発揮しなかった……何か打つ手は無いのか?』

『そういえば……第97管理外世界には、“SOP(サンズ・オブ・ザ・パトリオット)システム”なる管理機能が使われているらしい。この技術を流用して我々も同じシステムを構築し、全魔導師に投与すれば……連中だけを封殺できるのではないか?』

『なるほど、そうすれば全魔導師の管理が直接行えるようになる。不必要だと判断すれば、即座に始末する事も容易だ。それだけではない、高町なのは達の無意識下における精神的支配も可能となる。管理外世界発端の技術とはいえ、画期的なシステムじゃないか。……では、SOPの導入に関して異議は無いか?』

『異議なし』

『異議なし』

『よろしい、それでは管理局最高評議会の名の下、SOPの導入を正式に決定する』

ここでファイルの再生が止まり、砂嵐の雑音が発せられる。ただ……なんというか、管理局の最も深い闇を目の当たりにした気がする。我らとラジエルの話、そしてSOPシステムの話が出て来た時は流石に驚いた。だが隣で聞いていたリキッドは、口の端を吊り上げて我らに言う。

「なるほど、次元世界はこの愚か者どもが支配しているのか。“愛国者達”にも劣る愚鈍極まりない連中だな。SOPシステムを使うという事がどういう結果を招くのか、俺達が見せつけてやらねばな……」

「リキッド、このような事態になった以上、我らも黙ってはいられない。我らはそなたの計画に参加する……そして奴らから自由を勝ち取る! 我らだけではない……教主殿が守った者達も、最高評議会の魔の手から解放する!!」

「最高評議会だけではありません、銀河意思ダークからも守り抜きます。世間に知られない戦いだろうと構いません、教主のように心のまま選んだからやり遂げる! それだけの話です!!」

「考えるのは苦手だけど、これだけはボクにもわかる。このままじゃいけない、このままじゃ過ちが繰り返される、このままじゃお兄さんが守った命に意味が無くなってしまう! そんなのは絶対に止めなくちゃならないんだ!!」

「これから私達は、管理局が倫理のボーダーラインを越えないための“抑止力”になります。サバタさんからもらった自由意思を私達だけでなく、皆が持ち続けられるためにも! そして……囚われた精神を解き放ちます!!」

「ああ、ではよろしく頼むぞ。あの男の意思を継ぐ者達、ダークマテリアルズよ……!」

 
 

 
後書き
マウクラン:リリなのVividでアルピーノ家が住んでいた世界。それにしてもあのだだっ広い訓練場をたった数人で作り上げたのかと思うと、どんだけ手間や時間がかかったのでしょうね?
GMP:MGSPWとMGSVにおける通貨のようなもの。次元世界の通貨がわからないので、使いやすいようにこれを採用させてもらいました。
マザーベース:MGSPWではMSFの、MGSVではダイヤモンドドッグスの拠点。最初は一つの小さなプラントから、徐々に大きくしていく家のようなもの。十分大きくなったら……崩壊フラグ?
個人的な決着:メタルギア風のラストと言えば……。
ライフリサイクル:ゼノサーガでは死んだ人間をサイボーグにする結構アレな法。
SOP:MGS4 ナノマシンによる兵士のID管理云々で、色々説明が難しいシステム。
ダークマテリアルズ:ネーミングはリリなのInnocentから。アウターヘブンのFOXHOUNDみたいな扱いで、地球はBB部隊、次元世界は彼女達が担当するみたいな感じです。


息抜きのネタ

はやて達がいる病室の前で、ディアーチェは懐からある物を取り出す。黄色いラインが入った、缶のような形状の物体。それのピンを抜き、扉をほんの少し開けて放り込んだら即座に閉ざす。その後、黄色い煙が中で充満する。そう、ディアーチェが投げたのはスモークグレネード(黄)! つまり……、

「あははははははは!!?!?」

部屋の中は一瞬で笑いの渦に包まれるのだ!

レヴィ「なんで黄色にしたの?」

ディアーチェ「その方が面白いではないか」

シュテル「流石は王、その容赦のない方法に痺れます憧れます」

・・・・・・・・・・・

IRVING「モォ~!」

ディアーチェ「これに月光って名前は正直なぁ……」

シュテル「何かいい感じの俗称とかはありませんかねぇ……」

レヴィ「じゃあヤモリで」

二人「それ採用!」

ユーリ「即決定です~」

ATセキュリティ社「解せぬ」
 
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