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エル=ドラード

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6部分:第六章


第六章

「今度こそ幸せを掴めますよ」
「わかったよ。じゃあ今日は」
「先にですね」
「今日見つける位の勢いで進みたいね」
 こうまで言うのだった。
「もうね」
「今日ですか」
「うん、今日ね」
 こう言うのである。
「その勢いで行きたいけれど」
「じゃあ頑張りましょう」
 それを聞いたシッドの言葉だった。
「本当に今日決める勢いで」
「うん、その勢いでね」
 こう言い合ってそのうえで出発した。足取りは意気があがっている為かなり軽かった。
 その朗らかな足取りの中でシッドは。ポンスに色々と話してきた。
「私ずっとリマにいまして」
「リマ生まれだったね、確か」
「教授もそうだったんじゃないですか?」
「リマ生まれはリマ生まれだよ」
 彼はそのことは認めた。
「けれどね」
「どうかしたんですか?」
「リマからは生まれて暫くして引っ越したんだ」
 そうしたというのである。
「実はね」
「はい、実は?」
「親父が海軍にいてね」
「お父さんは軍人さんだったんですか」
「そうだよ。海軍士官でね」
 ここでシッドにはじめて父のことを話した。
「それであちこちを引っ越したんだよ」
「リマの他にもですか」
「軍港にいたり親父が駐在武官になってチリにいたこともあったね」
「チリにもですか」
「うん、いたよ」
 そこにもいたというのだ。
「まあ言葉はさ。一緒だったからね」
「そうですね。スペイン語で」
「それは楽だったよ。それでペルーに戻って」
「軍人にはならなかったんですか」
「子供の頃聞いたエル=ドラードの話に憧れて」
 今度は自分のことを話すのだった。
「それで学者になったんだよ」
「そうだったんですか」
「親父は海で僕は陸だね」
 実に対称的だと自分でも思う彼だった。
「それも山だから。完全に逆だね」
「そうですね。何か面白いですね」
「親父は今でも不思議がってるよ」
 その髭だらけの顔に笑みを浮かべての言葉である。
「何で自分は海の男なのに息子は山なのかってね」
「ふふふ、何か面白いですね」
「うん。親父は今お袋と一緒に海が見える場所にいるよ」
「そこで何をしているんですか?」
「今は普通の船で船長をしているよ」
 それをしているというのだ。
「今はね」
「そうですか。今も海におられるんですね」
「うん、そうだよ」
 そうしているというのである。
「今はね」
「そうですか。今もですか」
「そう、今もなんだ」
 また笑って述べるポンスだった。
「根っからの海の男だよ」
「そして教授は」
「山男だね」
 言葉は笑ったままだった。
「完全にね」
「そうですね。そして私は」
「君は?」
「ずっと山です」
 彼女はそうだというのだ。
 
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