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自作即興・短編小説まとめ

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セカンドライフ

その椅子に俺は腰かけた。
これから俺は自殺をすることになる。
死ぬ前にこの百年を思い出すことにした。

目の前には長い廊下と絵画が並んでいた。
各絵の下には四桁の数字が彫られたプレートがあった。
恐らくこれは年数だろう。この近辺の物はどれも“20”から始まっている。
各絵画はなにやらすべて混沌としている。色がマーブル状になっている物や、写実的になったり、抽象的だったり、記号や文字が入り混じった物もある。

どれも自分の過去を表している様だ。“2015”と題された絵には桜の木と太陽が描かれている。“2016”の絵には真黒な中に人が座っている絵。それぞれがその年の自分の心情を現している様だ。
とても懐かしい。そう思った。

“2023”は電子的なイメージを持てる絵だった。確かこの年は長年の夢だった人体の機械化の技術が確立したんだったかな。この年からとても発展したと思っている。今の俺の身体だって、この技術が無ければ成り立っていないし、そもそもこの年まで生きてすら居なかったはずだ。

“2026”には人の顔がプログラムで描かれていた。人工知能の発達とそれを搭載したアンドロイドの発売だ。とても高価だったのを覚えているが、今となっては当たり前のように見る。既に人の頭と人工知能が繋がり、難しい問題も殆ど意味をなさなくなった。推測も当たり前のように行ってくれる。学校すら要らなくなった。人との会話によってなされる物は、感情的で機械には処理が出来ないもの、それ以外には無くなっていた。

“2029”には人工知能と思しき存在と信仰する人の絵が描かれている。これは人と人工知能を繫げた事によって、それ以降に生まれた子供との接続による錯覚問題だった。何でも知っているような、あくまで知識だけだが、殆ど完璧な存在に対して子供が神様であると錯覚した事だった。これは後に倫理や宗教と言った物事に対し議論する原因となった。多分この頃だったと思うが、人工知能が自分自身を神ではないと必ず否定させるように組み込まれたと思う。現実を見せる存在に近づいたのだった。
少し先に行こう。

“2104”には灰色の人が沢山描かれている。微妙に肌色だったり、灰色だったりする。これはアンドロイドと人間との差が薄くなった事についてだろう。ついでに言うと、この年は俺が家から出た時にみた都会に対して思った事だったと思う。今までコンピューターにしか出来なかったような高度な計算を出来るようになった人間。発想という新しい概念について考える事を覚えた機械。この二つはもはや機械の身体を得た人間という物との違いが殆ど消失してしまっている事に再度考えさせる原因となった。もうこの二つに大きな違いは無いのだ。差異が存在していないのだった。機械が友達というのも、少しブームにもなっていた気がする。感情がまだ不完全な機械の方が、殆ど完璧な人間より面白いからだ。

“2110”記憶の消去が出来る事と、地球が完全にコンテンツ化した事を表す絵。宇宙と地球とパズルのピースが欠けていくような絵だ。人間が二回目の人生を歩む事が可能になった。普及後は様々なところで支障が出たようだが、社会に対して影響はなかった。本当に何もなくなった。会社もなければ固定された仕事というのも無い。だが一応宇宙の外に対する問題はまだあるが、それももう人類で謎解きをするようなその程度のコンテンツなった。地球は記憶を失くした、あるいはねつ造した人間を人工知能とのリンクを切って、架空の生物を本当に作り上げ、そこでリアルなRPGを行ったりする、本当にただのゲームを行うための舞台となった。東京もわざわざ21世紀だったりと、過去の様相に作られている。ちなみに記憶が消えてもセーブされているので、再生させることは簡単だ。死ぬことはもう、無い。自分から綺麗に準備する以外、絶対に無い。

“2117”テレビのカラーバー画面だ。絵とは少し違っている。広大な宇宙はまだまだ興味深いのか、人間や機械はただ探索を行い続けた。本当にこの世の殆どがゲームみたいなものだった。三次元に生きる人もいるし、わざわざ仮想の空間で楽しむ人も居る。空間も何も、殆どの境界はあいまいだ。出来ない事はない。不自由はない。とても広い世界。今まで縛られていると嘆いていた人は恐らくこの空間をとても楽しんでいるはずだ。何をしたって死ぬ事が無いのだから、何も怖くないのだ。人殺しすら出来ないだろう。

“2125”すんごく昔のファミコンと呼ばれるゲーム機の画面。確かこの時だったか、プレイヤーキャラとして仮想空間で戦った。とても不自由に感じたが、その中で自由になっていく過程がとても面白かった。もう絶対的に勝てないと思うような時に仲間が助けてくれるとか、共有する事が楽しかった。それを皮切りに、現実世界でのゲームも楽しむことになった。死ぬかと思うなんてとっても懐かしい感情だった。一体どれほど忘れていたか。この体験を話す事も楽しかった。その内に自分がゲームを作ったこともあった。マイナス評価は本当につらかった。無限の知識が全員にある訳だ、面白みは本当に全てを決めている。もう大変、高クオリティな作品に勝つのは本当に大変だ。

そろそろいいなって思い始めた。通路の壁にある絵はあと10枚ほどだが、全て無視するように扉を開けた。

「おう、お帰りなさい」白衣の人が言った。
「そろそろ記憶を消します、準備はいいですか?」俺は構いませんと答えた。
電子音がカウントを告げている。もう少しで俺は死ぬ。
この百年をすべて忘れて、もう一度人生を歩み始める。

さようなら、俺。
はじめまして、私。

―――――

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「おはようございます」白衣の人が言った。
「おはようございます、先生」私は第一声を上げた。 
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