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逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
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11話 オデッサの陰謀 11.17

 
前書き
時間軸的に話がちょっと戻ります。全ての加速度的な技術分野の発展補正はフロンタルくんが修正してくれると信じております。 

 
* グレイファントム ベルファスト基地 11.17 10:00


膠着したアメリカ戦線でブライトたちはジャブローよりオデッサの奪還に参戦の指令が入った。そのためカナダ経由で大西洋を横断し、補給のためベルファスト基地へ寄港していた。

グレイファントム内の格納庫にて修理中のガンダムの傍にアムロが寄って、メカニックチーフののオルム・ハングと話し込んでいた。


「・・・それであれから数日経つが、ジャブローから修理部品が届かないのか?」


「ダメですね。輸送経路がどうも芳しくないらしく、請求しても一向に届きません」


「そうか・・・じゃあ諦めるしかないか・・・」


「なんか軍部でもジオンの反攻作戦の成果を理由に派閥闘争が起き始めていると噂で、派閥間で輸送の遅れ等生じているらしいですよ」


オルムは不満そうな顔でアムロに話した。確かにやりきれない。ティターンズの台頭などまだ先の話だと思いきや、ちょっとした歴史のテコ入れが歴史を加速させてしまった結果なのかと一瞬アムロが思った。


「・・・いや、気のせいだろう」


「えっ、今何か言いました?」


「いや、何でもない。昼夜問わずやってくれて有難う。どうやらガンダムもここまでのようだな」


「はあ、力及ばずで申し訳ない」


オルムは残念に思い、アムロに謝った。アムロはまた別のことを考えていた。
自分がイレギュラーな人間でそれに影響する事象がどれぐらいなものなのか。

「現にガルマは生きていて、ルナツーがジオンの手に落ちている。
 果たして早期終戦を迎えられるのかいささか疑問だった。

 何よりもアナハイムと連邦との繋がりを間近で体験した。
 あれは大変な出来事だ。インダストリアル1にしてもそうだ。

 もしかしたら、時代の加速により14年分の戦争が一気に凝縮してしまうのか・・・」

そうアムロは自問自答しながらグレイファントムを降り、ベルファスト基地内を散策していた。

「在り得ない。オレ一人のせいで歴史が変わっていく。しかし、このオレの存在のみでここまで変わるものなのか・・・」

そう考えながら、基地内のカフェに訪れるとそこにはセイラがコーヒーを片手に新聞を読んでいた。
アムロが来たことにセイラが気が付いた。


「やあ、セイラさん」


アムロが先に声を掛けた。アムロもコーヒーを注文しセイラの下へやって来た。


「隣りいいかい?」


「どうぞ」


「有難う」


アムロはセイラの対面の椅子に腰かけた。そしてアムロは話し始めた。


「・・・誰にも言っていないことだ。内密にしてもらえるかな?」


「何を?場合によるけど。敵に内通しているとかは無理だから」


「そうか。内通ではないのだが、グランドキャニオンで遭難したことがあっただろ」


「遭難・・・あの時ね」


「その時に赤い彗星のシャアと話す機会があったんだ」


「!!」


セイラは読んでいた新聞に力がこもった。


「・・・それで?」


「彼はいろいろ悩んでいたよ。でも彼はきっといい道を択んで進んでいけると思う。オレが保証する」


そう、シャアはザビ家の復讐を当時志していた。しかし、あのアメリカの激戦でチャンスがあったにも関わらずガルマが生きている。心境の変化があったと捉えて今のところは良いだろうとアムロは思った。


「そう・・・」


セイラは短く一言で答え、沈痛そうな面持ちで答えた。


「それじゃあアムロ。私も聞いてもらえるかしら。勿論内密に」


「何をだい」


「私もシャアに会った。サイド7襲撃時に」


「・・・そうか。私も君も殺されなかったんだね」


アムロはちょっとカマを掛けてみた。アムロは知っている。セイラの兄のことを。だが、それをアムロは口には出せない。


「私の場合は特別・・・だって兄さんだから」


セイラは白状した。アムロは取りあえずホッとした。知っておきながらも話せないことをそのままにしておいて会話をするにはちょっとやり辛さがあった分楽になった。


「・・・そうか。わかった。君のケースは特別にしてもオレを殺さなかったのはシャア個人的に良い傾向なことだと思う」


「そうね。兄は復讐に燃えていたから・・・私たちザビ家に目茶目茶にされたから」


セイラはコーヒーをすすり、話を続けた。


「でもね。私は恨みはすれど、晴らそうなんて思わない。だって、復讐は何も生まないもの・・・」


「セイラさんはそんな兄さんを見て良く思わなかった」


「そうね。でも貴方の言う通りに兄が変わったのならば、私にとっては嬉しい話だわ」


セイラは少し笑みをこぼした。そこで話が終わると丁度ミライがカフェにやってきた。


「あら、アムロ少尉。セイラと一緒なの?」


「ミライ曹長。奇遇ですね」


ミライ・ヤシマはフォン・ブラウンよりキャルフォルニア攻略戦、奇襲部隊撃退とアメリカの激戦を艦艇の操舵手として転戦し功績が認められ、曹長まで昇進を果たしていた。


「奇遇ではないのよアムロ。ミライとは女性が余り少ないし、同年代もいないしね。自然と仲よくなったのよ」


「そうね。同年代の女性がいないよね」


セイラとミライは笑って話していた。アムロはここはお呼びでないなと思い退席した。


「じゃあ、ミライさん、セイラさん。オレはグレイファントムに戻ってる」


「わかったわアムロ」


セイラが返事をすると、去りゆくアムロに付け足してこう声をかけた。


「ありがとうアムロ。少し気が晴れたわ」


ミライが乗り付けた車で2人はベルファストの市街地へショッピングに出掛けて行った。
その車をアムロは見送るとグレイファントムへ戻っていった。


* 大西洋上空 ミデア 同日 13:00


ウッデイ・マルデン大尉は婚約者のマチルダの願いもあってある荷物をベルファスト基地へ輸送していた。その途上ベルファスト基地からマチルダの通信が入った。


「やあ、マチルダ。君たっての願いだ。何とか上層部に掛け合って捥ぎ取って来たよ」


「フフフ、ありがとウッデイ。貴方ならやってくれると思っていたわ」


ウッデイはマチルダの元気そうな姿をモニター越しながらも見て取れて安心していた。
そして現在のジャブローの状況に不満を漏らした。


「しかし、ひどいものだ今のジャブローは。戦時下というのにもう終戦後の派閥闘争に突入している」


「そうなの?最近そちらには言っていないからわからないけど・・・」


「ああ、軍人官僚な右翼主義なゴップ大将派、左翼主義なジーン・コリニー中将やグリーン・ワイアット中将派、正統派なレビル大将派、宇宙軍のティアンム中将とその他諸々と一丸で戦わないといけないにも関わらず纏まりを欠いている。更にそれぞれが政財界とのパイプ作りに躍起になっている」


ウッデイは正統派軍人として、政軍民の癒着に気味悪く思っていた。マチルダも同意した。


「そうね・・・連邦もどうなるのかしら・・・」


「そして嫌な噂が立っている」


「何、まだあるの?」


「ああ、実はオデッサに展開しているレビル部隊に関してのことだ」


ウッデイはすっと真顔になり、マチルダへ忠告した。


「マチルダ。こんな馬鹿々々しい戦、生きて戻って来いよ。どこの連邦軍内部に内通者が居て、ある内通者が今レビル部隊にいるらしい。それがレビル将軍の暗殺を企てていると専らな噂だ・・・」


「!!」


マチルダは衝撃を受けた。各地に内通者が出ているとは聞くが、グレイファントム隊が参戦するオデッサで裏切り劇が起きる可能性がある。


「しかもその噂を利用し、連邦内部でもレビル将軍の失脚を狙う者がいる。いずれにしてもレビル将軍は今の連邦になくてはならない将軍だ。もし戦死でもされた際には戦争の終結が大幅に遅れる。それだけ兵の求心力を集めている。2番手のダグラス中将もレビル将軍までは程遠い・・・」


ウッデイは一通り話終えるとため息を付いていた。マチルダも同じくため息を付いた。士気に関わる事案である。噂にしろ、下士官達に流布して良いものでもない。


「ウッデイ。この情報はグレイファントム隊には伝えない方が良いね」


「ああ、同感だ。グレイファントム隊がくれぐれも深追いしないように君が監督するんだ。いいね」


「わかったわ。もしもの場合は・・・」


「そうだな。ブライト君だけなら話ても良いだろう。タイミングを見計らってな」


「ええ。言う通りにするわ」


「じゃあ、2時間後そちらに着く予定だ。では」


そう言うとウッデイは通信を切った。マチルダはグレイファントムの艦橋へ向かっていった。


* グレイファントム 格納庫 同日 16:00


到着したウッデイはブライトとグレイファントム格納庫内で対面し、荷物の受け渡しをしていた。


「では、ブライト大尉。こちらに受け取りの署名を」


「わかりました。・・・これで」


「結構。新しいモビルスーツの納品と壊れたガンダムの回収が終わりました」


「お疲れ様です」


ウッデイとブライトが握手を交わしていた時に、アムロ、リュウ、マチルダが格納庫へやって来た。
マチルダはウッデイに歩みよりお疲れ様と声を掛けた。ブライトはその親しそうな関係が気になり質問した。


「マルデン大尉はマチルダ中尉のことご存じなんですか?」


「ああ、申し遅れた。マチルダは私の婚約者でね。来年結婚の予定なんだ」


「そうですか。おめでとうございます」


ブライトは少々残念な気持ちになった。しかし吉事に祝いの言葉を掛けない程子供じみてはいない。
リュウも「へえ~こんな美人を嫁になって大尉も果報者だねえ」と少しからっかっていた。
ウッデイも照れながらも答えた。


「そう思います。自分には過ぎた嫁だと思っております。だからこそ大事にしていきたい」


「ウッデイ・・・」


後はもう見れないぐらいの状況になったのでアムロはブライトに新型機について聞いた。


「到着した新型機はこれなのか」


「ああそうだ。オルム!布をとってくれ」


「ああ、それっ」


メカニックたちが勢いよく新型機に掛かっていた布をはぎ取った。
すると青と白の2トーンカラーの綺麗なフォルムの立派なガンダムが出てきた。
正気?に戻ったウッデイが咳払いを一つしてその新型機の説明をした。

「RX-78NT-1。通称アレックスだ。反応速度がガンダムの数段上げた仕様になっている。アナハイムに出向しているレイ博士も途中からだが開発に加わっている」


「親父が・・・」


「そうだ。当初はマグネット・コーティング技術の利用、つまり磁力での可動速度の強化をするだけにとどまっていたが、連邦の独自のメタルフレームの試作ムーバブルフレームが間に合った。それで機体を設計している。まだ試作段階なので柔軟さに多少の問題点が残るそうだ。アナハイムから流れてきたそうだが、その反応すら超える操縦技術にも対応させる装置が組み込まれているらしい。確かバイオセンサーとか・・・」


アムロは驚いた。やはり時代が加速度的に進んでいると思った。今の時代でのムーバブルフレームとバイオセンサーの実用化なんて在り得ないことであった。ウッデイは話を続けた。


「このムーバブルフレームは汎用な設計技術にしていくとレイ博士は言っていた。近いうちにすべての連邦の機体に標準しようになるだろう。しかしこのバイオセンサーはそうはいかないらしい」


アムロは言葉にしなかったが「そう思う」と思った。


「このバイオセンサーは厄介な代物である特定の脳波に感知して発動条件が揃わないと機能しないらしい。要は普通のひとじゃだめだってことだ」


ブライトは首を傾げ、率直に思ったことを口にした。


「つまりエスパーのようなひとでないと意味がないと」


ウッデイは笑った。ブライトはそんなに笑わなくてもと言った。


「・・・っ、失礼した。そうだな。超能力者だね。スプーン曲げやトランプマジックじゃないけど、まあ第6感ってやつかな。勘が常に働く者が操れると私にも分かり易い説明をレイ博士から言われたよ」


「そんなひと、いるのか・・・」


ブライトは腕を組んで考えた。アムロはブライトへ質問した。


「艦長。アレックスはオレが乗れるのか?」


「ん?・・・ああ、そのつもりだ。マチルダ中尉が掛け合ってくれた」


そう言うとアムロはマチルダを見た。するとマチルダはそうじゃないと答えた。


「私は艦長の要望をこのウッデイに伝えただけ。苦労したのはウッデイよ」


そう言うと、アムロは今度はウッデイに向いてお礼を言った。


「有難うございます。このモビルスーツが有れば、助かります」


「ああ、しかしアムロ君。君はこのモビルスーツ使えるかね」


「多分、大丈夫でしょう」


そう言うとアムロはアレックスのコックピットに乗り込み説明書片手に初期設定を始めた。


「さすが親父だ。この360℃モニター・リニアシート。要望通りだ」


この新型機はかつてアムロが乗っていたモビルスーツのレベル近くまで操縦者の視界をリアルに投影できる仕様になっていた。


* ベルファスト市街地 17:00


カイは一人でマーケットを歩いていた。夕食時なので買い物をする主婦らが沢山いた。その中でちょっとした騒動が起きていた。

幼い兄妹が酔った青年にからまれていた。


「おい、小僧ども!オレの服を汚しやがって。どうしてくれるんだ」


その青年は幼い兄妹を威圧した。周囲のひとたちはあんな幼い子たちになんてことをと言いながらも面倒事に関わらないようにしようと無視を決めていた。

その中でひとりの少女がその兄妹の前に立ちはだかった。


「ごめんなさい!この子達が粗相したみたいで・・・」


「あ~ん。なんだお前は・・・」


「この子達の姉です」


「そうか。ならお前が弁償するんだな!」


「・・・それが今持ち合わせがなくて・・・」


「・・んだとぅ。なめてんじゃね~ぞー」


青年が片手に持った酒瓶をその少女に殴りかかった。カイが即座にその少女の前に滑り込み、その酒瓶を持った手を払い飛ばした。


「お~いおっさん。恥ずかしくないのか。こんな小さな子をいじめて」


カイは内心ハヤトに嫌ながらも鍛えてもらって良かったと思った。その青年はカイの姿に正気を失い、カイに襲い掛かっていた。しかしカイはしなやかな体さばきでその青年を地面に叩き抑え、その青年を気絶させ無力化した。

その騒動を嗅ぎ付けた地元治安当局が駆けつけてきた。カイはマズいと思い、その少女ら3人を連れてその場を離れた。

郊外の方まで逃げるとカイがここまで来れば大丈夫だろうとその3人に声を掛けた。


「はあ・・・じゃあ、気を付けて帰るんだぞ」


「あの・・・待ってください」


少女が声を掛けた。カイが立ち止まり答えた。


「なんかありますか?」


「いえ、うちすぐそこなんでお礼をしたのでお茶飲んでいかれませんか?」


カイは時計をみた。30分くらいは大丈夫だろうと踏んでご馳走になることにした。
彼女の家はちいさなアパートメントだった。彼女は手慣れた様子でカイにさっとお茶とスイーツを用意した。


「別に・・・そこまでお気を使わなくてもいいのに・・・」


「いえ、弟と妹を助けていただいたのでこれくらいは。それに」


「それに?」


「その姿、連邦の軍服ですよね。私明日から兄妹揃ってそちらにお世話になるんです」


「へえ~。どこの部署だい?」


「確かグレイファントム隊・・・」


「ぶっ・・」


カイはお茶を吹き出しむせ返った。少女は大丈夫ですかとカイの背中をさすった。


「・・・っ、大丈夫。でもまさかな。オレと同じ艦に乗るとは」


「えっ!ホントですか」


少女はびっくりした。カイは頷く。カイは少女に所属証明書の提示を求め、彼女はそれを差し出すとカイは自己紹介をした。



「ミハル・ラトキエさんね。オレは地球連邦軍ブライト部隊所属のカイ・シデン曹長だ」


「カイ曹長ですね。宜しくお願い致します」


「こちらこそ明日からよろしくな」


「はい」


カイはお茶をご馳走になり、ミハルの家を後にした。


* グレイファントム艦内 11.18 9:00


ミハルたちとアレックスを搭乗搭載したグレイファントムはオデッサに向けて出港した。
カイはミハルのことを気にかけては兄妹共々よく面倒を見てやった。ハヤトはその様子に声を掛けた。


「カイ。お前も隅におけないなあ。あんな可愛い子どこから見つけてきた」


「ほっとけ阿呆。そんなんじゃないさ。お前さんみたいに惚気はしないさ。ただ、気になるだけだ」


そのときのカイは後日ジャーナリスト的な勘というか、それも一種のニュータイプ的勘ということか、
自分でも若干研ぎ澄まされていたと語っていた。


グレイファントムがドーバー海峡を越えヨーロッパに差し掛かる頃、シロッコは自室にてある連邦の幹部を連絡を取っていた。


「ほう、君がそうしてくれると助かる。中々戦闘中にどうすることも困難だからな」


「ご心配なく閣下。成功の暁には席を用意していただければ」


「ああ。君みたいな優秀な人材を今まで眠らせていたことが連邦の重罪だ。ジャミトフと協力して私の力になって欲しい」


「はっ」


シロッコは通信を切り、自室を出た。すると通路を走るミハルの姿を見た。
シロッコは気になり後を付けた。すると通信室でどこかと通信しているミハルを見つけた。シロッコは声を掛けようかと思ったが、何を通信しているのか気になって物陰に潜め聞き耳を立てていた。


「・・・ええ。・・・はい。そうです。・・・わかりましたマ・クベさま・・・。はい。」


「ほう」


シロッコはミハルがジオンのスパイだと看破した。それを逆手にとって自分の思惑を達成しようと考えた。
ミハルは通信を終えて振り返るとそこにシロッコが立っていた。ミハルは戦慄した。


「・・・きか・・れてた・・・」


「そうだな。お粗末なもんだ」


シロッコは不敵に笑った。そして話を続けた。


「さて君は裏切り者だが、私の言うことに従ってもらえれば不問にしてやらんこともない」


「!!」


「もし、断るならば君と君の兄妹共々銃殺ものだな」


「・・・どうか、それだけは・・・」


「なら、承諾ととってよいかな」


ミハルは静かに頷いた。
そしてまたそのやり取りを見張る者がいた。


* オデッサ基地内 指令室 11.18 10:00 


連邦のスパイより包囲中の連邦の部隊の配置が明らかになった。
マ・クベはキシリアより託された核をより効果的に使用するため戦線の縮小と連邦の包囲をワザと形成させていった。

マ・クベは腕を組み、映し出される各部隊と予測される連邦の部隊の配置を眺めていた。


「一体レビルはどこにいるのだ」


マ・クベは呟いた。この戦いの主目的は核による連邦の撃破は勿論のことレビルを斃すことでもあった。エルランからも連絡がなく、マ・クベは手持ちの部隊での偵察による連邦本隊の発見に四苦八苦していた。


「肝心要なところが取れない。さすがに警戒されているな」


オペレーターよりマ・クベに報告が入る。


「マ・クべ司令。敵が東と北より基地内に砲撃を始めました」


「来たか。宇宙への打ち上げシャトルのスタンバイをしておけ。あとミサイルの用意もだ」


「はっ」


マ・クベは基地の放棄を既に下していた。マ・クベが撤退した後に降伏するよう兵士たちにも伝えてある。しかしそれは詭弁だった。核を撃つ用意があるに他ならない。一帯を敵味方区別なく焦土と化すだろう。


「後は運を天に任すのみ。事後はエルランが処理してくれる」


マ・クベは表情を変えず脱出シャトルへ向かった。


* レビル本隊 ビック・トレー 同日 12:00


レビルはヨーロッパよりオデッサ基地への侵入を果たしつつあった。オデッサは天然の要塞でもありジオンの激しい抵抗に戦線が膠着していた。


「将軍、我が軍の進撃の足が止まっております」


副官がそうレビルに告げるとレビルは叱咤した。


「無用な心配だ。我が軍の戦力は基地のジオンを既に圧倒している。奴らの踏ん張りなど時間の問題だ」


すると、オペレーターよりグレイファントム隊到着の報がレビルの下に届いた。
レビルはこれを機に攻勢を更に強めるつもりでいた。


「来たか。我々が敵正面戦力を引き付けている間にグレイファントム隊に側面を突くよう指令を出せ」


「はっ」


即座にグレイファントムへ暗号命令文が打たれた。


* グレイファントム艦橋 同日 12:15


グレイファントムはオデッサのレビル本隊に合流間近であった。本隊より暗号通信があったとマーカーよりブライトへ報告がもたらされた。


「艦長。本隊より暗号通信です。敵左側面より攻撃に入れとのことです」


「わかった。ミライ!舵急速回頭。敵左側面へ回り込め!」


「了解!」


グレイファントムは左側面へ回り込むことに成功した。
そしてブライトはモビルスーツ隊の発進を命じた。


カタパルトに乗ったアレックスとアムロは深く一呼吸をしてから出撃した。


「ガンダム。アムロ出るぞ」


カタパルトが急速発進してアレックスは激戦のオデッサへ出撃、その他のモビルスーツ隊も出撃した。
モビルスーツ隊の出撃の後、ミハルは通信室へ駆け込みマ・クベと通信を取った。


「・・・聞こえますか・・・はい・・・そうです。南のトルコ方面が本隊です・・・」

ミハルはシロッコの言われた通り連邦のオデッサ包囲部隊の南の軍を本隊と偽報を伝えた。
その報告は即座にマ・クベの下へ知らされた。マ・クベは勝ったと言い、ミサイルを南の軍に向けて発射の指令を出し、シャトルへ急いだ。

マ・クベはシャトルの中でほくそ笑んだ。


「レビルよ。これほど手強い相手はいなかった。しかし今日でお別れだ。とても切ない・・・」


そしてマ・クベを乗せたシャトルは遥か空の彼方へ飛んで行った。


* オデッサ西部 同日 12:30


アムロのアレックスは撃墜数を20機とし、他のパイロットたちも着々と戦果を挙げていた。大体敵の姿が見えなくなり、グレイファントム隊のモビルスーツが1か所に集合していた。


「大方片付いたかな」

リュウがそう言うとアムロが頷いた。


「ああそうだな。周りの索敵をしつつグレイファントムへ帰投しよう」


その時だった。物凄い衝撃波がアムロたちに襲った。


「・・・っつ、なんだこれは!」


シロッコが叫んだ。その言葉に皆が絶句した。


「戦術核の爆発だ!」


「核だと・・・」


ガンダムを始めとするモビルスーツ全てに放射能の注意警報が鳴った。


「みんな全力で後退するぞ」


アムロたちは逃げるようにグレイファントムを目指した。そして無事にグレイファントムに着いたときシロッコのジム改だけが帰投せずどこかへ消えていた。


* レビル本隊 ビック・トレー 同時刻


レビルの本隊も遠からずその核の威力による被害を受けていた。その衝撃によりビック・トレーが走行困難に陥り、レビルは座乗艦を捨てて避難せざる得なかった。


「将軍。こちらへ」


副官に促され出口に向かうと、その出口にノーマルスーツを着込んだシロッコが立ち塞がっていた。
副官と警備兵はシロッコに退くよう促したが、その返答が小型な手榴弾だった。


「・・!ぐ・・・」

警備兵副官共々爆死し、一番後方にいたレビルも重傷を負っていた。
レビルはなんとか自力で起き上がったがその額に銃を突き付けられていた。
レビルは憤った。


「貴様・・・誰に私を殺れと命じた」


シロッコは一息ついて答えた。


「誰といいますと・・・まあ誰でも良いでしょう。私が望んだことでもある」


「!」


「レビル将軍。私の野望の糧になっていただきましょう」


そうシロッコが言い終わると引き金を引きレビルの額を貫いた。


* グレイファントム艦橋 同日 18:15


核が爆発してから5時間強たった。
オデッサは核による爆発と汚染で連邦ジオン両軍に多大なる被害を被った。
未だに各部隊との連絡がつかない状況であった。

ブライトは憤りを感じ、マチルダもウッデイのアドバイスと聞いて置きながら無力な自分を責めていた。


「一体。どうなっているんだ!」


ブライトは艦橋で吼えた。そこにカイと一緒にミハルが入って来た。
ブライト含む艦橋全クルーがミハルがあることを告白するとカイが言ったためそれに注目していた。


「私、シロッコ大尉から脅されました」


「一体何をだね」


ブライトは慎重にミハルに問いただす。ミハルはゆっくり話し始めた。


「私はジオンのスパイでした。弟の病気の治療と妹を養うために・・・。連邦政府のしてくれたことは私たちに貧困で困難な状況を提供してくれただけでした。でも、ジオンはそんな私に手を差し伸べてくれたのです。だから私は・・・レビル将軍本隊の場所を割り出し、マ・クベ中佐がレビル将軍を攻撃するために・・・でも、まさか核なんて・・・」


ミハルの告白はこんな戦時下にあって珍しくない難民の問題であった。そのことに皆責めることも率先してできなかった。皆複雑な表情をし、沈黙しながらミハルの話を聞いた。


「だけど、シロッコ大尉にバレて、本隊をエルラン将軍の部隊の南だと偽報しろと・・・」


ブライトは表向きレビルを守ったシロッコと一瞬思ったが、即座に過ちに気が付いた。
アムロはそのことを代弁した。


「シロッコ大尉はミハルがスパイと気づいた時点でオレたちに言うべきだ」


「しかし、そんな連絡はないぞアムロ」


「ああ、そうだ艦長。そして今シロッコ大尉はここにいない」


リュウが当然の疑問を呈す。


「それじゃあ彼は・・・」


その時艦橋の大型モニターにジャブローより通信がもたらされた。


「ご苦労だった諸君」


連邦軍高官の軍服を着込んだ初老の男性が映っていた。通信回線のチャンネル的に輸送機の中からであった。


「私はジャブロー作戦本部のジーン・コリニー将軍の副官であるジャミトフ・ハイマン准将だ」


グレイファントムの面々は皆立ち上がり敬礼をした。


「よろしい。ただいまの状況を報告する。先ほど行われたオデッサの激戦はジオンの抵抗もあったが無事制圧が完了した。しかし、」


ジャミトフは少し間を置き、再び話始めた。


「先の戦闘により、エルラン将軍がジオンと内通していたということが発覚した。自暴自棄になったエルランは秘密理に入手した戦術核によりレビル将軍本隊へ打ち込もうと企てた。だがそこにいるミハルさんのお蔭で我が特殊部隊により、犠牲を出したがエルランを始末することができた」


ミハルはそのジャミトフの言に涙ながら小声で「違う・・・」と訴えていた。


「しかし、エルランに2重の策を講じておった。本隊への強襲だった。それにより本隊のレビル将軍含め高級士官、副官、警備兵と爆弾により殉職してしまった。とても悲しい事件だ」


ブライトは額から汗がただれ落ちた。


「しかし、その実行犯らを迅速に処罰できた。なぜなら諸君らの仲間で気が付いたものがおったからだ。彼はコリニー大将付きの参謀としてこちらで働くことになる。紹介しよう」


ジャミトフの紹介する人物、それは今まで一緒に戦っていた仲間だった。


「パプテマス・シロッコ大佐だ。軍部特権でこの階級に任じられた」


「ブライト艦長。今までお世話になりました。アムロ君も」


アムロは苦虫を潰したような表情でシロッコに話しかけた。


「シロッコ大佐・・・このオレに興味があるんじゃなかったのかい?」


「そうだな。厳密に言うと違う。アムロ君の動きは逐次今後も見ていくつもりだ。ただこういう機会は滅多にない。だから私は行動したまでだ」


「行動だと!」


ブライトはシロッコに噛みついた。シロッコは不敵に笑ったがそれをジャミトフが窘めた。


「そのへんでやめておけシロッコよ。・・・で、だ。ブライト君たちはちょっと事実確認だけしておく必要がある」


ブライトら艦橋クルーはジャミトフの話すことに再び耳を傾けた。


「オデッサは当面連邦の管理下に置かれる。民間人の立ち入りも許されない。そしてここでは戦術核など使われなかった。全てはジオンの激戦による犠牲によるものだ。レビル将軍、エルラン将軍ともに名誉の戦死を遂げられた。・・・これで良いかな」


艦橋は静まり返った。しかしジャミトフは話を続けた。


「これが連邦の見解である。世間を無駄に騒がしてはならない。まあ明日にでもそのように報道されるので、貴様らがいくら囀ろうがどうでもよい」


ジャミトフはまた間を置き、最後にブライトたちの労をねぎらった。


「この度はホントご苦労だった。お前たちに多少の休暇を用意した。連邦軍のマドラス基地へ向かうとよい。そこでウッデイ大尉に出迎えの準備をさせておく。彼は本日付でマドラス勤務となった。ではな・・・」


「ウッデイ・・・」

ジャミトフからの通信が切れた。マチルダが婚約者の名前に反応した。ジャブローより基地移動するとなると左遷されたということだった。


ミハルは精神を取り乱し、錯乱状態に陥った。それをフラウとセイラが取り押さえ、看護師を呼び鎮痛剤を打つとミハルはすやすやと寝息を立てた。

カイが舌打ちして話した。


「シロッコの様子がおかしいのはオレも感づいていたが・・・」


その言葉を聞いたブライトは艦長席から立ちあがりカイに詰め寄り、胸ぐらを掴んだ。


「貴様!なぜ報告しない!」


「ああ、そうだな。言い訳になるが、ミハルのことも気が付いていた。シロッコが仕掛けた2重スパイということで司法取引で良い落としどころに持っていけると考えた。シロッコがそうミハルに促してくれたおかげでな。しかし読みが甘すぎた。・・・完全にオレのミスだ・・・」


アムロは胸ぐらを掴んだブライトの手を掴み、ブライトに語り掛けた。


「その辺にしておくんだな艦長。みんなシロッコに踊らされたんだ。今更事実がこうだとか覆すことができない。もはやただの八つ当たりだ」


ブライトはカイから手を放し、声の限り叫んだ。
その叫びは皆も感じるやるせない気持ちで艦橋に響きわたった。

そして、ブライトたちはジャミトフの言われるがままインドのマドラス基地へと進路を向けて失意の凱旋となった。






 
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