| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

逆襲のアムロ

作者:norakuro2015
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

10話 仮面の下の微笑 11.19

 
前書き
言い訳ですが、逆襲のアムロと書いてありますが、アムロのようなイレギュラーな存在が及ぼす影響として歴史が改編されていっているとでも思ってください。

アムロがあまり活躍できませんがそのうち出てくると思いますのでご了承ください。

1年戦争史みたら、ガンダム登場から高々4ヶ月弱で終戦を迎えているのですね。相当な展開の速さに驚きとおそらくその時代の技術力と量産体制は私たちが予想だにしないほどの速度なんでしょうねえ。 

 
サイド3 ズムシティ 総帥執務室  11.19 10:10


ギレンは日々入ってくる戦況報告の書面に目を通していた。
連邦のV作戦の効果が日に日に増していっていた。北アメリカはガルマの辣腕により経済の活性化と政内外問わずの政治活動、戦術戦略を駆使し、戦線が膠着していた。連邦の中にも内通者を作り戦線の拡大を防いでいたのも大きな要因だった。


「フッ、連邦の体たらくは昔から知っていたが、ガルマに手玉に取られるようではたかが知れているな」


ギレンはそう呟いた。ガルマはギレンが思う期待以上の働きを見せていた。北アメリカは良しとしてそれ以外の戦線が良くない。

アジア方面は一時中国東南アジアエリア全てを勢力圏としていたが、もはや北京付近とタイ周辺のみ。アフリカはキリマンジャロの基地が陥落し、中部で南アフリカでのギリギリの抵抗。ヨーロッパはレビルらの大部隊によりオデッサのみですでに陥落寸前であった。

キシリアがマ・クベをオデッサへ切り札として派遣していた。何か目論見があるようだった。

国力差は当初より知っていた。勝つためにはコロニー落としなど非道と呼ばれる行為もした。元々多い人口を間引くことも戦争の視野に入れていたことだが、一番の目的は世界すべてへの脅しだった。

自分の頭脳を持ってしてもできないことは多い。いろいろなプロパガンダを利用しては不足を補ってきた。それにも限界があることは国力差の話より会戦当初から知っていた。

父デギンには勝てるのかと聞かれた。勝てないとは言えない。
それでも戦端を切ったのも自分の野心でもあるがスペースノイドであるサイド3の群衆の願いが大きな要因がある。それから様々な計算をした上で勝てると踏んだから行動を起こした。

勝つということは、連邦を屈服させることではない。勿論できるに越したことはない。戦争の膠着により民は疲弊する。戦争にしても軍を動かす上では政府判断がいる。その政府の基盤は勿論民に帰着する。彼らは物凄く不安定で統一感などない民主政治だ。

今はまだ1年も経っていない。しかし長期化して厭戦気分が漂えば、講和に持っていく機会が生まれるだろう。そこでジオンを連邦に存在を認めさせる。そこでスペースノイドの真の独立が生まれる。


「連邦のままの政治では人類の衰退は目に見えていた。この私が人類の革新を促す必要がある。今回その機会が巡ってきただけだ」


そうギレンの側近に話していた。
未だジオンの宇宙の勢力圏はサイド6と月を除けばほぼ手中にある。
しかし、ギレンが流し込んだ各サイドへの恐怖は早々払拭できるものではなかった。
ギレンは支配圏においた各サイドに行政権の掌握など民衆の統制をとることが可能であったが、それをギレンは強制しなかった。

強制させるのでなく、連邦の不信を扇動することに努めた。
そうすることで各サイドの独立心が芽生える。各サイドにしろジオン公国の人口を遥かに上回る人口の完全なる支持を得ることは不可能であった。

皆コロニーを破壊されるではないかという恐怖での支配でジオンに旗を振る、ジオンの敵に回らないことでギレンは充分であった。むしろそれがせいぜいであった。

宇宙での動きが連邦向きでなくジオン寄りにする。人の流れ、物流の停滞が連邦の宇宙に対する発言を弱める。ギレンの思惑達成の当面の目的であった。
可能なことを一番効果的で合理的な手段を選ぶギレンならではの手腕であった。

連邦はビンソン計画というものを4月に既に発動していた。ギレンも情報筋より周知していた。
連邦の宇宙艦隊の再建。ジャブローより多数の連邦艦艇が地球軌道上に展開しつつあった。
そしてその周辺に宇宙ステーションを建設。宇宙世紀元年にテロにより破壊されたラプラスも再建されていた。

その宇宙ステーション群が地球からの補給拠点となっていた。数が揃えば反攻に出るであろう。そして近い将来戦争の主舞台は宇宙へ移るだろう。そのための対策はいくらでも講じた。

ムサイ艦の増産。試験艦ザンジバル艦のロールアウトとその量産。新兵器の開発と現行の量産機の統合整備計画(マ・クベ中佐の提案)

各企業間、連邦寄り企業も問わずの交渉。サイド6のインダストリアル1への出資やグラナダ市の出資。大企業の支援による1つの木星船団のTPO株式買収。フロンティア衛星の開拓など。

何をするにも先立つものは資本であった。レバレッジにより活動資金を得ていたギレンはあらゆる分野へ戦争継続のために費やしていった。ギレンはよくもここまで支援があるものだと笑った。


「全ては戦争が利益になると考える企業が多い所以だな。世の中は馬鹿が多い。だが有り難く利用させてもらおう」


ギレンにとって好都合であった。今日もその支援金にて活動するための各所からの稟議決裁を行っていた。


「ほう、フラナガン機関からのか。・・・サイ・コミュニケーターとサイコフレームの開発か・・・」


フラナガン機関は6月に建てた機関で、人の直感を研究する機関であった。高確率で危機回避する操縦者の事象を分析してそれを一般化することを目的とした不明瞭な機関だった。しかし、有能な人材が育つならばということで許可を出し、キシリアに統括させた。

その報告書によれば、サイ・コミュニケーターにより兵器の遠隔操作が実現でき、サイコフレームによりその幅が飛躍的に向上するそうだ。そして演算処理装置による実現確率はほぼ100%と出ていた。

ギレンは考えた。この技術は宇宙戦には圧倒的優位に働くと。その稟議書を最後まで読み解くと共同研究出資者としてある財団法人が載っていた。


「ビスト財団か・・・」


企業からの献金や出資を拒まないスタンスでいたギレンは一つ一つの研究費用にしても現場レベルでその出資者が居れば、ギレンの審査なく許可を出していた。戦争状態である以上、不可解な点などこの際取るに値しないと踏んでいた。

ビスト財団は噂でしかないが世界の影の支配者とも呼ばれている。全ての企業はビストに通ずると比喩されるほど影響力を内外に及ぼすが、その実態が掴めない。連邦もその存在に手出しできず一目置いているとギレンは知っていた。

要するに胡散臭い財団だが、無尽蔵な資金力がある。その投資幅は超法規的まで及ぶことが可能だということだ。

ギレンは再び深く考えた。記憶の中で今までビストの名前が思い当たらなかった。各一般的な企業名はよく目にしていたが、ビストが直接的に名前で出てきたのは初めてであった。これを意味することはこの研究がビストにとっても重要視しているということだ。


「つまり、この研究の成果は世界を震撼させることが保証付きということかな。そんな技術が我が軍に採用されれば私の計画の実現も早まるということだが・・・」


ギレンは一瞬ためらったが決済印をした。何故ならビストの思惑が読み切れなかったからだった。読み切れないからと言えみすみすの機会を逃すほどジオンには余裕はなかった。

起きたときの対処は後にしよう。何が起きるか、規模までは想像するにも予想だにもできないため、考えるだけあまりに無駄だと思った。


グラナダ市 ジオン基地内 キシリア執務室 11.20 14:00


キシリアは昨日のフラナガン機関の開発稟議決裁の返答により、既に開発に着手。フラナガン博士より以前から研究機関での調整中であったマリオン・ウェルチとクスコ・アルについての報告が挙がっていた。

自身の執務室で来客としてある女性がいた。アナハイム社長夫人のマーサ・ビスト・カーバインであった。
今回の開発稟議に名を連ねた共同出資研究者として法人登録したのも彼女であった。


マーサはキシリアに先の開発議案についての結果を求めていた。


「ところで、いかがでしたか?サイ・コミュニケーターとサイコフレームの件は」


「稟議が通った。既に博士には開発を進めてもらっている」


キシリアは手元のティーカップに入った紅茶に一口つけた。


「サイ・コミュニケーターについては明日試作が仕上がり成果次第で2日後モビルスーツへ実装する予定だ」


「それは対応が早いですね」


「サイコフレームに関してはそちらからの材料提供待ちだが・・・」


「キシリア様。既に兄カーディアスより試作のコア・プロセッサーが本日中にでもフラナガン機関に届くよう手配済みです」


「助かります。時にカーバイン夫人。貴方にはいろいろ良くしていただいていますが、一体何をお望みで?」


マーサは少し笑い、自分も紅茶に口をつけた。


「いえ、望みなど・・・この技術の実用化でたくさんですわ。財団規模になりますと経済全体、世界全体を考えなければなりません。人類の成長のため、ひいては世界の成長のために尽くしているのです。この技術は世界により良い革新をもたらすと考えております。それで十分なのです」


キシリアはこの技術が戦争の道具でしか考えなかった。人類の革新など自分の守備範囲ではない。財界の人は視野が違う。自分のような政治家若しくは戦争屋は、兄たちに勝る力を欲するための手段をひとつでも多く持ちたいことが望みだった。

キシリアは兄ギレン、ドズルとは違い陰謀により今の地位まで伸し上がってきた。しかし、2人の兄がそれぞれの面で卓越しており遅れをとっていた。その焦りもあり、様々な手法で敵味方問わず恐れられた。

懐刀と言われたマ・クベにはオデッサの連邦部隊壊滅のため核を撃つという指令を与えた。これはマ・クベ自身が調印に参加した南極条約違反であった。

しかし、キシリアは連邦への内通者のエルランを通じ、壊滅原因の事実の隠ぺいを図るという裏工作が行われるという保険が付いたお墨付きの作戦だった。

キシリアは時計を見た。もう間もなくその作戦が開始される。その姿を見たマーサは気が付き声を掛けた。


「何かご予定でもお有りですか?」


キシリアはハッと我に返り、「いえ別に・・・」の一言でその場を流した。


「カーバイン夫人。貴方ら財界人の考え至るところに私は到底理解が追いつきませんが、この技術が今後の市民の生活の糧になるならば喜ばしいことです」


キシリアは決して思ってもいない発言を明瞭に肯定しながら言った。
マーサもその回答に笑みを浮かべ答えた。


「そう仰っていただいてなによりです。財団はこれからも全力でサポートしていきたいと思っております」


「アナハイムからの応援も同じように頂けたら嬉しいのですが」


「勿論、研究達成まで邪魔はされてくはないのでアナハイムからの支援も財団経由で夫に話が行くでしょう。その前に私からも話しておきますけど」


「そうですか。夫人の言葉なら絶大な信頼がありますね」


「恐縮です」


マーサは再び紅茶を飲んだ。そしてキシリアに言った。


「実はこの財団の支援はとある人物抜きでは到底出来なかったことなのです。その方をキシリア様に紹介したく、この後参ります」


「ほう、どんな方か興味があります」


「つきましては、その方は試験モビルスーツにてこの基地に参りますが捕捉次第軍の方々へ穏便に案内をお願いするよう言っていただけると助かります」


「試作機でだと。識別無きだと撃墜されるぞ」


キシリアはマーサに詰め寄ったがマーサは不敵に笑った。


「ご冗談を。かの者は撃墜などされることはまずありません。実はその試作機こそがコア・プロセッサー内臓機体です。その機体をフラナガン機関へ、キシリア様に納品致します」


「なんだと。このグラナダの防衛線を単機で突破など・・・」


キシリアはマーサの虚言、冗談だと思い込んでいた。その時警報が基地に鳴り響いた。


* 同基地内 指令室 同日 11:30

キシリアはレーダー管制・各部署への指揮系統伝達のできる指令室へ急ぎ足を運んだ。マーサもゆっくりだがキシリアの後に付いて行った。


「レーダー!状況を報告」


キシリアの厳しい言葉が飛ぶ。オペレーターが即座に報告を入れた。


「はっ。未確認識別不能な機体がこちらに急速で接近してきます。1機です。飛行禁止区域だと知らないのでしょうか。一応警告致します」


キシリアはそのマニュアルに則った判断を是とし、オペレーターはその謎の機体に向けて警告を発した。


「こちらに接近中の操縦者!既に飛行禁止区域内だ即座に戻らない場合は撃墜する。繰り返す・・・」


キシリアは大型モニターでのレーダーを見ていた。
その飛行物体の速度はあの赤い彗星を凌駕する勢いであった。
キシリアはマーサを見た。マーサは微笑んでいる。
軽い挑発だった。モノの試しに撃ち落としてごらんなさいと言いたいような表情だった。

その挑発に乗ったキシリアはザクとリック・ドムを10機ずつ緊急発進を命じ、その目的のモビルスーツを撃破せよという命令を下した。念のためにキシリアはマーサへ質問した。


「仮に、この試験機撃墜したとしても代わりのコア・プロセッサーはいつ届けられる?」


「ええ、明日にでも。だから支障はさほどないでしょう。でも、研究は早いに越したことはないでしょう。きっと大丈夫ですから」


キシリアはマーサを睨み、そして再びモニターを見入った。


識別不明な試作機は漆黒に近い赤のカラーリングだった。一見ザクに見えなくないが、改修されて一番近いモビルスーツの型としては高機動型ザクⅡだった。

しかし、そのバックパックには大型なスラスターエンジンが羽のように搭載されていた。バックパックの仕様からビームライフル装備可能だが、その両手にはライフルは装備されていなかった。

その操縦者は赤い軍服と白いズボンを身に纏い、頭を覆うような丸い白いマスクを付けていた。その覆われていないところから見える髪の色は金色であった。


「・・・17、18、19、20機か・・・出迎えご苦労だった」


そう操縦者が呟くと、グラナダの防衛隊がその機体に向かって集中砲火を加えた。しかし、その機体は弾幕の中をくるくると回るようにすべて避け切り、ザクを一体ずつ武器のみを手持ちのビームサーベルにて破壊、またはマシンガンを取り上げてはその銃でザクやドムの武器をピンポイントに破壊した。

決着はものの2分だった。キシリアはすぐ防衛隊に戦闘中止を命じ、その試作機に感嘆した。


「素晴らしい・・・夫人!いい買い物をジオンはできた。有り難い」


「そう言っていただいて嬉しいですわ」


「ちなみにあの機体は我が軍のに似ているが、ちょっと仕様が異なるな」


「そうですね。財団の方では一応<プロト1>と名付けております。何せ商品登記もしていない試験機ですので・・・」


キシリアとマーサが会話していると、キシリアに命じられた部下がその試験機の操縦者を指令室へ案内した。


「ふむ、手荒い歓迎でありましたがプロトサイコフレームの調整での肩慣らしにちょうど良い感じでしたキシリア様」


その操縦者である男がキシリアに話した。


「貴方が操縦者か。名前を何という」


その質問にマーサが困った顔をした。


「申し訳ございませんが、この者に名前がありません」


「なんだと。どういうことだ」


「この者は5年前に宇宙を漂流しておりまして、偶然財団が救助しましたがその時より記憶喪失であります。彼の発想が今後キシリア様のためにお役に立てると思います。彼をお使いください」


「そうか。しかし、名前がないと不便だな・・・」


男も顎に手を添え考えていた。


「そうか。考えたこともなかった。流石に軍となると必要だな・・・」


3人とも思案顔になっていた。すると男が思いついた。


「私は何も持ち合わせておりません。自分で何者であるかも今後わかることはないでしょう。ですから、フル・フロンタルとでもお呼びください」


「フル・フロンタル(丸裸)か。何もないところから始めようとするのだな。わかった。お前は今日からそう呼ぼう。そして我が軍へようこそ。貴官を少佐待遇で歓迎しよう」


キシリアがそう言うとフル・フロンタルはお辞儀をした。


「恐縮ですキシリア様。宜しくお願い致します」


キシリアとマーサは満足そうにしていた。フロンタルも少し笑みをこぼしていた。
しかし仮面の下に隠れた眼は既にこの世に絶望していた。

何故絶望していたかは記憶のない本人も不明だった。
彼の心の中はこの世の憎悪のすべてが集約するが如く、すさんで朽ち果てていた。
彼はこの世に何も期待してはいない。

願わくば滅びこそが彼の望みであった。






 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧