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魔界転生(幕末編)

作者:焼肉定食
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第28話 転生・坂本龍馬

薄れいく意識の中で中岡慎太郎は異様な光景を見ていた。
宣教師のような姿の男が龍馬の割られた頭蓋に黒い鞭のような物を仕込んだところから微動だにしなくなっていた。
(いったい、何がはじまろうといんだ)
中岡の目は二人の姿から目が離せなくなっていた。

「ちっ!!まだ、いたのか。化け物め」
四朗はうんざりとして舌打ちをならした。
「その男をどうするつもりなのだ?人間よ」
船頭の姿をした男は傘を深々とかぶっていたが、目のあたりは赤く光り、四朗を睨みつけているようであった。
「ふっ。お前の知ったことではない。邪魔するのであれば容赦はしない」
四朗は不敵に笑ってみせた。
「この愚か者め!!」
船頭は鋭く鍵爪が生えた指で四朗に襲いかかった。
四朗は鞭を刀のような形に変化させて応戦した。二人の間に鋭い火花がちった。
「ほう、器用な武器だな」
男のどぶのような匂いの息が四朗の鼻をかすめた。
「髪切り丸という。これは徳川に殺され怨念が込められたキリシタンの女の髪をまとめて作り上げたものよ。貴様らに見切れる代物ではない」
四朗は自慢げに髪切り丸を見せつけた。
船頭と四朗の死闘の間にも龍馬を包む光がどんどん強まっていった。そして、龍馬の体は宙に浮き始めてきていた。
(まずいな。坂本が戻り始めている。私も戻らなければ意味がない)
その光景を見た四朗は焦りを感じはじめた。
「ふはははは、どうした人間。焦りがみえるぞ」
低く構えた船頭は今にも四朗へと襲いかからんばかりだ。
(どうする)
そうこうしている間にも龍馬の魂はどんどんと上がりはじめていく。
(これだ)
四朗は一気に船頭へと走り出した。
「む!!」
船頭の予測できなかった四朗の動きに一瞬ひるんだ。
(いまだ)
四朗を船頭を飛び越え、髪切り丸を再び鞭状にしたかと思うと宙に浮いている龍馬の足へと絡みつかせた。
「し、しまったぁーーー!!」
船頭の目の光が驚愕のために大きくなったように見えた。
「エロイムエサイム!!」
四朗が呪文を唱えると龍馬の魂が光の元へと加速していった。
「さらばだ、化け物。また、逢おうぞ」
四朗の狂笑が響き渡った。
「おのれ、人間!!」
船頭は櫂を投げつけたが届くことはなかった。

四朗はゆっくりと目を開けた。そして、周りを確認した。
(どうやら、戻れたようだな)
ふーっと一つ深呼吸をすると、今度はまるで魚を釣るかのように髪切り丸を力いっぱい引き始めた。
「さぁ、蘇るのです。坂本龍馬ぁーーーーーー!!」
気合を込めた声に部屋が震えるようであった。

中岡慎太郎はその驚くべき光景に目を離せずにいた。
それは龍馬の頭蓋の中からうにうにと蠢くものが現れた。龍馬の指だった。
次に手首が現れたと思うと徐々にまるで蛹から脱皮し、もう一人の坂本龍馬が生まれ出てきたのだった。
前の坂本龍馬であった物体は脱皮後のように脱ぎ捨てられたように転がっている。
「お帰りなさいませ。坂本龍馬殿」
宣教師の姿の男が片膝をつき龍馬に挨拶した。
「おまんがわしを?」
まだ産まれたままの全裸であった龍馬はその男をみつめた。
「天草四朗時貞といいます。我が秘術にて貴方様を転生させた次第」
四朗は立ち上がり龍馬をみつめた。
「そうか。。。。。。」
龍馬は一言いうと着物を羽織り出した。そして、目を見開いている中岡の元へと近づいていった。
「すまんのぉー、慎太、わしゃ、生き返ってしまったぜよ」
龍馬の目がなぜか悲しげに見えた。
「では、坂本様。我らの主の元へ参りましょう」
四朗はニコリと微笑んで言った。
「主?」
「はい、あなた様がよく知っている方です」
「あぁー、武市さかぁー」
龍馬は天井を見つめて言った。
「わしゃ、いかんぜよ」
「今、なんと申しました?」
四朗は笑顔を崩さず、首を一つ傾けた。
「わしゃ、いかんとゆうたんじゃ」
龍馬は四朗を見つめた。
「何を馬鹿な!!そんな勝手は許されませんぞ!!」
四朗の顔から笑顔が消え怒りの表情で龍馬を見つめた。その時、銃声が一つ聞こえた。と、思うと、四朗の頬から一筋血が流れた。
「これはのぉー、おまんがわしを三途の川から救い出したときに拾った銃じゃ。わしもすでに化けものじゃが、おまんら、化け物を吹っ飛ばせる。地獄に帰りたくなかったら、そこを退け」
龍馬は銃を構えて出口へとゆっくり歩き出した。それと同時に一気に走りだしたのだった。
「おのれ、坂本!!」
四朗の怒声が響いた。
「天草四朗、武市さにいうとけ、また、いずれ、逢おうと」
龍馬の笑い声が遠のいていった。
(龍馬、おまんは何をするつもりぜよ)
慎太郎は意識を失った。
しんと静まりかえった部屋には屈辱と怒りに震えた天草四朗だけが残っていた。
 
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