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首なし屋敷

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4部分:第四章


第四章

「神、そして主は人を殺せと言われた」
「そして生贄にか」
「間違いなく仰った」
 彼だけが意固地であった。
「だからだ。私は愚か者達を生贄に察させるのだ・
「では、か。私達もまた」
「そうだ」
 声はまた答えてみせた。
「その通りだ。その首貰おう」100
「話は聞いた」
 神父は恐れる素振りもなく言葉を返した。
「だが。貴様の話は全て否定する」
「否定するならすればいい」
「首を刈るだけか」
「如何にも。それではだ」
 気配がだ。ここで近付いてきた。
 そのうえでだ。神父の後ろからだ。風が来た。
「来た!?」
「ヴァシェ」
 神父はすぐに彼に告げた。
「いいな」
「はい」
「後ろだ」
 こう告げるとだった。ヴァシェは一旦屈んでだ。そのうえで右手を自分の左手の懐に入れた。そしてそこからロザリオを出してきたのだ。
「投げろ」
 彼はまた告げた。
「後ろだ、いいな」
「わかりました」
 ヴァシェはそれに頷いてだ。その手にしたロザリオを後ろの方に投げた。するとであった。
「グッ!?」
「当たったか」
「当てるようにしました」
 こう神父に答える。
「ですから」
「見事だ、ヴァシェよ」
 神父は後ろを振り向いた。するとだ。
 そこには神父と同じく白い法衣を着ていた。だがその表情は違っていた。
 赤と黒の神と髭、それに異様に大柄な身体。何処からどう見ても普通の人間ではなかった。
 しかもだ。彼は不自然な雰囲気を醸し出してだ。こんなことも言ってきた。
「この程で終わりはしない」
「まだか」
 神父はその声に対して告げた。
「まだそう言うのか」
「その声は。まさか」
 ここでだ。声の調子が変わってきた。
 そのうえでだ。警戒する色を見せて言ってきたのだった。
「貴様か」
「覚えているようだな」
「忘れる筈がない」
 今度はだ。彼の名前を呼んでみせた。
「へーシングだな」
「そうだ、やはり覚えていたか」
「忘れる筈がない」
 声にだ。今度は明らかな怒りが宿ってきていた。
「何があろうともだ」
「死んだ今でもだな」
「貴様に殺された」
 声に怨みまで篭ってきていた。
「そのこと、忘れる筈がない」
「殺したのではない」
 神父はそのことは断ってみせた。
「あれはだ。殺したのではない」
「では何だというのだ」
「裁きだ」
 それだというのだ。
「司教にありながら異端に染まり罪を犯した貴様への裁きだ」
「私が異端か」
「異端以外の何者でもない」
 神父の言葉には厳しいものがあった。有無を言わせぬ強いものがあった。
「罪なき子羊達を生贄に捧げること。異端でなくて何と言う」
「聖餅だ」
 これが声の返答だった。
「それだ」
「聖餅か」
「身体は聖餅だ」
 声は身体はそれだと言ってみせる。
「そして血は」
「ワインか」
「聖餅は主の身体、ワインは主の血」
 キリスト教でいつも言われることの一つだ。この二つを定義してそのうえで儀式を行うのである。これがキリスト教なのである。
 
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