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首なし屋敷

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3部分:第三章


第三章

「妖気を」
「よく」
 実際にそれを感じると答える彼だった。
「感じます」
「そうだ。間違いない」
 神父は鋭い顔で述べた。胸にある銀の十字架が闇の中で輝く。
「ここにいるのはだ」
「この世にいてはならないもの」
「バチカンで言われていた通りだな」
「そうですね。それでは」
「行くとしよう」
 少年に対して告げた言葉である。
「これからな」
「それでは」
 二人は門を開けた。鈍い、きしむ様な金属音が夜の中に響き渡る。その嫌な音を聞いたうえで洋館の中に入る。するとその中は。
 完全な廃墟だった。何もない。暗い部屋には割れた窓から月明かりが差し込んでいる。そのせいで部屋の中は比較的明るい。しかしだった。
 家具も何もかもが割れて埃だらけになっている。蜘蛛の巣が張りシャングリラは今にも落ちそうだ。二人はその中に入ったのである。
 そこに入るとだ。すぐにヴァシェが神父に言ってきた。
「神父様」
「わかっている」
 神父はにこりともせず答えた。
「それはだ」
「では」
「行くとしよう」
 こうヴァシェに告げた。
「先にな」
「わかりました」
 その埃だらけの階段を昇っていく。二階もまた同じで埃だらけでしかもうら寂れていた。床も踏めば抜け落ちてしまいそうな、そんな有様だった。
 だが二階に着いた。そのうえで二人は一歩前に出ようとした。その時だった。
「来ているな」
「如何にも」
 神父は静かな言葉でその声に応えた。
「来ている」
「バチカンからだな」
 姿はしないが声は確かに聞こえていた。
「そうだな」
「だとすればどうする?」
 ヴァシェがその声に対して問うた。
「その場合は」
「決まっている。斬る」
 姿のない声の返答である。
「その時はだ」
「斬るか」
「そして首を捧げよう」
 声はこんなことまで言ってみせてきた。
「我が主の為に」
「主か」
「父と子と精霊の為に」
 キリスト教の言葉ではあった。
「その二つの首を捧げよう」
「一つ言っておく」
 神父はその声に対して返した。
「主はだ」
「どうだというのだ、主は」
「生贄を求めることはない」
 それはだというのだ。
「決してだ」
「決してか」
「そうだ、決してだ」
 神父はそのことを強く語ってみせた。
「貴様もそう学んだではないのか」
「違うな」
 しかしであった。声はそれを否定した。
「それは違う」
「違うというのか」
「そうだ、違う」
 声は神父の意見をあくまで否定する。
 
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