| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

ベーカー街

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第三章

「私はこうしてね」
「来てくれたんですか」
「手紙を読ませてもらったよ」
 ホームズは笑顔のままヘンリーにこうも言った。
「猫を探しているんだね」
「はい、白くて耳の垂れた」
「スコティッシュフォールドだね」
「そうなんです、大きくて」
「その猫はこの猫かな」
 ホームズがこう言うとだった。
 手にヘンリーが言った通りの猫がいた、猫はホームズの両手に抱かれたまま憮然とした顔でそこにいた。
 その顔を見てだ、ヘンリーは言った。
「そうして抱っこされていると機嫌が悪い」
「トム君だったね」
「はい」
 猫の名前を聞かれてだ、ヘンリーはすぐに答えた。
「そうです」
「それじゃあこれで私の仕事は終わりかな」
「あの、何処にいたんですか?」
 猫を探し出したホームズにだ、ヘンリーは尋ねた。
「トムは」
「うん、猫の好物は何かな」
「鳥やお魚です」
「そうだね、お魚が好きならね」
「そういえばこの町には大きなお池があります」
 ヘンリーは思い出した、このことを。
「そこにお魚が一杯いて大人の人が釣りをしています」
「実は君からの手紙を受け取ってすぐに君の町を地図で調べたんだ」
「それでお池にですか」
「行ってね、またたびを仕掛けておいたんだ」
 猫の大好きなそれをというのです。
「そうしたら猫が集まって来るね」
「はい、猫なら」
「そうしたんだ」
「トムがお池のところにいるって思って」
「そう、猫はお魚が好きでしかも食べないと生きていけない」
 生物なら当然のこともだ、ホームズは指摘した。
「だからねお池のところにいる」
「それがホームズさんの推理ですか」
「そうだよ、そしてその通りだったね」
「凄いですね」
「ははは、これ位はね」
 ホームズは驚くヘンリーに笑って答えた。
「普通だよ」
「普通ですか」
「うん、私にとってはね」
「ホームズさんなら」
「そうだよ、ではこれで私の仕事は終わりだね」
「何のお話をしてるの?」
 ここで家からヘンリーの母が出て来た。
「早くお家に入りなさい、帰ったのならね」
「お母さん、トム見付かったよ」 
 その母にだ、ヘンリーはすぐに言った。
「ホームズさんが見付けてくれたよ」
「えっ、トム見付かったの」
「ホームズさんが見付けてくれたんだ」
「ホームズさんって」
 母は息子の言葉にいぶかしみながら応えた。
「一体」
「だから僕がホームズさんにお願いしたんだよ」
「本当にベーカー街にお手紙送ったの」
「そうしたらね」
 すぐにというのだ。
「トムを見付けて来てくれたんだ」
「ああ、確かにね」 
 母親はそのホームズが抱いている猫を見た、その毛色と大きさに垂れたスコティッシュフォールド独特の耳にだ。手に持たれてぶら下げられていると憮然となる顔を見てわかった。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧