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悪夢

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2部分:第二章


第二章

「心配かけて」
「いいのよ」
 けれどお母さんはそんなことは気にしてはいなかった。
「ケンちゃんが帰ってきてくれたから」
「そうなの」
「そうさ。だからあまりお母さんを悲しませるようなことはするなよ」
「うん」
 お父さんのその言葉にこくりと頷いた。
「それに」
「それに?」
「もう二度と。あんな怖い夢ばかり見たくないし」
「怖い夢って?」
 看護婦さんがそれを聞いて健也に顔を向けてきた。
「何かあったの?」
「うん、寝ている間ずっと見ていたんだ」
 彼はそれに応えて言った。顔が暗いものになっていた。
「ずっと。何かよくわからない化け物に追いかけられて」
 その夢のことが今思い出されてきた。
「何度目が覚めても追いかけてくるんだ。追いつかれそうになったら起きるんだけどそこで目が覚めて。で、また追いかけられて。ずっとそれの繰り返しだったんだ」
「そうだったの」
「怖かったのね」
「けれどもう化け物はいないよね」
「勿論よ」
 看護婦さんはそう答えて健也に微笑んだ。
「ここは夢の中じゃないから。そんなことはないわ」
「そうだよね」 
 健也もそれを聞いてにこりと微笑む。
「化け物もいないし追いかけられたりすることないんだよね」
「そうよ。だから安心して」
「お父さんもお母さんもいるからな」
「いつもケンちゃんの側にいるからね」
「うん!」
 お父さんにもお母さんにも言われて安心した。夢の中ではいつも寝ていたお父さんとお母さんがいつも起きて側にいてくれている。それでもう充分だった。
「それで看護婦さん」
 お母さんが看護婦さんに声をかける。
「退院は何時になりますか」
「三日後です」
 看護婦さんははっきりとした声で答えた。
「三日後ですか」
「はあ、怪我はもう大丈夫ですし」
「そう、よかったわねケンちゃん」
「うん」
 健也はお母さんの言葉に頷いた。
「三日経ったらね。迎えに来るわ」
「お父さんとお母さんでな」
「待ってるよ、三日後だよね」
「ええ」
「その時にまたな」
「そうか、三日後かあ」
「その三日の間に化け物が出たりして」
「もう止めてよ看護婦さん」
 何か言われると怖くなってきた。
「そんなこと言ったら本当に」d
「だからそれはないわよ」
 看護婦さんはそんな彼に対して笑っていた。
「ここは夢じゃないんだから。そうでしょ?」
「うん」
「だから。安心してね」
「わかったよ。それじゃあ」
 部屋を出て行くお父さんとお母さんを見送る。看護婦さんも部屋を出て一人になった。だがもう健也は寂しくも怖くもなかった。それはもう夢の中にはいないからだ。
「そうか、もう起きているんだ」
 その実感があった。だから安心していた。
「けど」
 それでもふとあの夢が思い出される。けれどそれは夢の中でのことに過ぎなかった。
 彼は安心してベッドに横になった。もう心配はしていなかった。横になったまま三日経ち、お父さんとお母さんが迎えに来るのを楽しみに待つことにしたのであった。

悪夢   完

                  2006・6・25

 
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