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エターナルトラベラー

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外伝 シンフォギアG編

ルナアタックから三ヶ月、二課は仮説本部として潜水艦を一隻手に入れそれを本部として改造していた。

「暖かいもの、どうぞミライちゃん」

と、あおいさん。

「暖かいものどうも。あおいさん」

ミライは今、本部である潜水艦の改造に追われていた。

「ルナアタック以降世界に向けて開示された櫻井理論。しかしそれはどの研究機関でもまだそこまでの成果を上げていないわ」

「どうしたんです?急に」

「だと言うのに、この船のオーバーテクノロジー振りはなんなのでしょうね?」

「ええっと…」

ミライは言葉に詰まった。

本部があんな事になってしまったのだ。ミライは本部の再建に際し、一切の自重をやめた。

櫻井理論というブラックボックスまがいの免罪符が有るのも大きい。今のご時勢なら少しぐらい不思議であろうと誰も理解できなくても追及を逃れやすからだ。

「あなたの持ってきたエネルギー供給基幹、完全一体で開放厳禁のブラックボックス、しかしてその実体は…」

誰にもわからないと続けようとしたあおい、だが…

「デュランダルですねぇ」

「そうなのっ!?」

まさか答えがあるとは思ってなかったあおいは驚いていた。

「あの時、あのルナアタックの時に喪失した事になっているデュランダルは実はこっそりわたしが回収していたんですよね」

デュランダルはあのカ・ディンギルのエネルギー源にされていた位、一度完全覚醒した完全聖遺物の放つエネルギーは際限が無い。魔法術式を用いた戦艦の動力源にはもってこいだった。

「ほ、本当に?」

「さて?正解は蓋を開けてみるまでは分りません、と言う事で」

今は物理障壁を張る装置の実働試験中で、もっと言えばパッシブ・イナーシャル・キャンセラーの最終調整中だった。

「スキニル、どう?」

ミライの近くに転がる端末から返事が聞こえた。

『P.I.Cシステムとの接続を確認。問題ありません』

「まさかミライちゃんが二課に入ってからずっと作っていたのがAIだったとはね、私もスキニルちゃんを初めて紹介されたときは驚いたものだわ」

スキニル。正式名称は『スキーズブラズニル』

北欧神話に登場する魔法の帆船の名前をいただいた、この船の制御を受け持つ人工知能だ。

人工知能の名前としてなずけたのだが、いつの間にかこの仮説本部の名称になってしまっていた。

スキニルへの命令系統の第一位は風鳴弦十郎。二位は二課の管制メインスタッフ。三位以下が現場担当となっていて、艦内出入以外の権限が無い。

「これだけオーバーテクノロジーを詰め込んでおいて、武装は従来のものだけ。戦う力はこの船には不要と言う事かしら?」

「それも有りますが、そっちを弄るとなるとフレーム段階…基礎設計からやり直さなければいけませんので」

「それもそうね」

「それと、巨大な力はシンフォギアだけで十分でしょう。この組織には」

(本当はエネルギーシャフトに細工して極大収束砲は付いてるけど、内緒なんだよね)

この事は弦十郎にしか伝えていない上に、機動には彼の承認が必要だとプロテクトしてある。

ミライは弦十郎の人となりを信じている。彼なら間違った事には使わないだろう。

「そう言えば、そろそろじゃないですか?」

「何が?」

「ソロモンの杖の移送任務」

「ああっ!本当。っそろそろ私、行くわね」

「いってらっしゃい」

ソロモンの杖は二課が管理していたのだが、この度協調路線を取る事になった米軍の基地に移送されることになった。

その任務に従事するのは響とクリスの二人。

「ノイズを現し操るソロモンの杖。何も無いと良いけれど…」

しかし、その懇願は敵わなかった。

なぜかノイズが現われ、操られるようにソロモンの杖を移送する響たちを襲う。結果、ソロモンの杖は紛失してしまったらしい。

時を同じくして翼の特別ライブ。

その会場でデュエットの特別コラボをしていたアメリカのトップアーティストであるマリア・カデンツァヴナ・イヴ。

その彼女が翼とのライブ中に全国に放送されている事を逆手にとってノイズを操り世界に向けて宣戦布告。

国土の割譲を求めてきた。

さらに…


スキニルのブリッジで弦十郎が叫び声を上げた。

「ガングニールだとぉっ!」

弦十郎のこの咆哮が物語るように、ライブ会場のど真ん中でマリアはシンフォギアをまとってみせた。

それもガングニールをだ。

それは有るはずの無いもの。何故ならガングニールはその装者であった天羽奏の死と共に喪失し、その破片が響の胸に残るだけになっていたはずだからだ。

ミライはそっと自分の胸に手をやったあと呟く。

「無い事も無いです…わたしの胸のナグルファルがどうして存在するのか、まだ分ってないのですから」

「ミライくん…」

弦十郎の心配そうな声。

「ミライくんの状況への介入は…」

「タイミングが悪いです。動力炉起動の最終チェック、及びPICの調整中で動けませーん」

と、ミライが答える。

「信じるしか無いのか…」

弦十郎の祈りが通じたのか、状況に介入した響とクリスの尽力でマリアの野望と一旦は退ける事に成功した。

「Superb Song Combination Arts」

響が最大の局面で使った必殺の一撃。

三人分の絶唱を響が調律、負荷を一身に受ける事で途方も無い力を生み出す必殺技だ。

「響…」

翼とクリスの負荷は軽減されるが、しかしその分響の負担が増える危険な技だった。

しかも…

「装者が三人…」

マリアを守るように現われた二人の装者。

彼女達は撤退して行ったが彼女達がもたらした世界の混乱は大きい。

フィーネを名乗ったマリアからはあの声明以降主だった動きは見せていない。

それもどこか不穏だった。



「郊外の廃病院?」

そこに不審な物資の流れがあるらしい。

「やつらはノイズを操る。ノイズが待ち構えている可能性が有る以上装者である君達に託すほか無い」

とは弦十郎の言。彼は出来るならば子供に戦いはさせたくは無いのだろう。

「いいか、今夜中に終わらせるぞっ」

と言う弦十郎の通信で廃病院に突入。

「うっ…」

「ミライちゃんっ」
「ミライ」
「ミライっ」

響、翼、クリスがいきなり膝を付いたミライに心配そうな声を上げた。

「あとはあたしらがやるからお前はすっこんでろっ」

「クリスちゃん、そんな言い方」

「いや、雪音が正しい。ミライ、お前はここに居ろ。あとは雪音や私たちに任せるといい。雪音はお前の事を心配しているだけなんだ」

分かってやれと翼。

「あぁー…そう言うこと…」

と響。

「ぬなっ!?ちげーよっ!ただ足手まといが邪魔なだけで…」

クリスは赤面して否定した。

「ごめんなさい…おねがいします…」

そう言うとミライは病院の外へ。

「はぁ…はぁ…ふぅ…」

何とか、落ち着いたかな。

「しかし、いったいなんだったのか…」

病院内から爆音が響く。

「戦闘が始まった…こんな事をしている暇なんて…」

ヒュンと病院から何かが飛び立っていった。

「ノイズ…しかも何かを運んで?」

それを追うように翼が駆けて行く。

海上へと逃げるノイズを翼は浮上してきた潜水していたスキニルを足場にして更に跳躍。ノイズを切裂き運び出していた物体の確保、とは行かなかった。

空から降ってきたアームドギア。

黒いガングニールの少女。マリア・カデンツァヴナ・イブ。その彼女が邪魔をしたからだ。

「わたしも、行かないとっ!」

ミライは四肢を奮い立たせて跳躍。劣勢の翼に加勢する。

空中からの回し蹴り。

「誰だっ!」

それをアームドギアで受け止めるマリア。

「あなたっ!?」

一瞬マリアが驚愕。しかし、直ぐに持ち直す。

「シンフォギアも纏えないやつが私たちの戦場に立つなっ!」

と激昂した。

「ノイズじゃないのならっ!」

「ミライっ!」

後ろで膝を付いている翼。どうやら足にダメージを負っているようだ。

翼はその手に持ったアームドギアを二振りミライに投げ渡した。

クルクルと回りながら投げ渡されたそれを両手で受け取る。

『何をやっているっ!ミライくんっ』

と弦十郎の怒声がイヤホンから響くが、無視。

マリアはそのアームドギアを振り上げ、つまらないものを叩き潰すように振るう。

普通の人間ならアームドギアの一撃の重みに耐えられず吹き飛ばされただろう。

…普通の人間なら。

ミライは刀をクロスさせその槍を受けきった。

「なっ!?」

驚くマリアをよそにやりの重心をズラすと回転するように横撃。

「くっ…」

マリアはその身に纏った黒いマントを操って盾とし、防御した。

「なっ!?」

しかし、それは一瞬の均衡の後切裂かれマリアは驚きつつも甲板を蹴って距離を空けた。

マリアの表情が真剣身を増す。

その口が力強い歌を紡ぎ始めるとシンフォギアの出力が上昇した。

一撃、二撃。一合、二合と切り結ぶ。

「どうして、ギアも纏わずにっ!」

かんしゃくを起こしたように槍を振るうマリア。

「簡単なこと。わたしはギアなしでも強いっ!」

「バカにしてーーーっ!」

マリアはマントを回転させるとハリケーンのような、それでいて掘削機のような威力を伴った攻撃を繰り出した。

「はっ!」

ミライは刀身にありったけのオーラを込めると一文字に振り下ろした。

「なっ!?」

切裂かれるマント。振り下ろされる刀身をマリアはアームドギアで受けるが、ほどなく切裂かれてしまった。

「アームドギアすら切裂くと言うの…」

しかし、ショックを受けつつもマリアは流石だった。

黒いマントを操り殴りつけるように攻撃してきた。

「っく…」

一瞬の油断か、それとも先ほどの不調からか、ミライはその手に持っていた刀を弾き飛ばされてしまう。

「これでっ!」

それを好機とマントでの攻撃が飛んできた。

だが、それもミライには好機。

「あまいよっ」

ミライは一足で甲板を蹴って目にも留まらない速度でマリアに肉薄する。

「なっ!?」

マリアは本日何度目の驚愕だろうか。

肉薄したミライから繰り出されたのは高速のデコピン。

「くぅ…」

仰け反るマリア。攻撃が必殺でなかったことに戸惑っているようだ。だが…

「そんな…ギアが解除されていくっ!?」

「おっと…これはまた…けっこうなお手前で…」

「なっ!?」

服が戻らない事に焦りつつ、局部を自分の手で覆うマリア。

「ミライっ!おまえはっ!」

となぜか翼の怒声。

「し、仕方が無かったんだよっ!不可抗力なんだよ?だからその刀はしまって…」

翼の刀の切っ先がなぜかミライに向いていた。

「まって、落ち着こう?無実、わたし無実だからっ!鞘走らないで、ね?」

斬っ

「ぎゃーっ!?」

「安心しろ、峰打ちだ」

「まさか、味方の攻撃でやられるとは…がくぅ…」

スチャと翼が前に出て刀を構えマリアと対峙した。

「うちのバカが済まない事をした」

「そうね…いいわ、許してあげる。だから今日はこれくらいにしましょう」

どこからとも無く閃光弾が打ちあがり辺り一面を白色に染め上げる。

「伏兵!?」

その閃光にまぎれながらどこからとも無く現われた輸送機にとびのってマリアは逃げていった。

今回の廃病院で出くわした為に響たちが捕まえていた重要参考人。先のソロモンの杖移送の際に死んだはずのドクターウェルも、残り二人の装者に助けられる形で逃走。完全に姿をくらませていた。



ピッピとスキニルブリッジのコンソールを叩く。

「うーん、さすがにD装甲。あれくらいじゃビクともしないねぇ」

と先日、甲板で戦った時に観測されたて上がってきたデータを見ているミライ。

「D装甲?」

と聞き返すのはいつものあおいさんだ。

「デュランダル装甲。略してD装甲」

「は?」

「デュランダルから供給されるエネルギーで装甲を被って強化する。デュランダルだからこそ出来る船体の強化システム」

「もう理解する事を止めるわ…」

あおいさんが考えるのをやめた。

「使い方が分っていればいいだけすものね。携帯電話やパソコンと一緒です。その中身を理解する必要は無い」

「まぁいいわ。それより、いいの?時間」

「へ?」

「リディアン音楽院の学園祭に響ちゃん達から誘われてたんじゃないの?」

「ああっ!?」

忘れてたと叫ぶミライ。

「はい、これ」

「なんです、これ」

差し出されたのは最近良く見るあれだ。

「リディアン音楽院の制服」

「うぇええええ!?」

あおいさんに強引に着せられたまま時間も無いとそのままリディアン音楽院へ。

校門を潜るとなぜか頬を膨らませた未来と響に迎えられた。

「おっそーいっ!」

「ご、ごめん…」

「未来ってば余りにもミライちゃんが来ないからずっとそわそわしっぱなしだったんだよ?」

そう言って吹き出しそうになる響。

「ひ、響っ!?そ、そんなんじゃないからねっ!ぜったい、違うんだからっ!」

「またまた~」

「響~」

前回の事件でリディアン音楽院はカ・ディンギルの直下であった事で崩壊した為に急遽借り受けた中世的な建物を校舎に改装しての学校での文化祭。

あの惨事を忘れたいのか、忘れようとしているのかとても賑やかだ。

色々と見て回った後に連れてこられたのは音楽堂。

「まにあった~」

「響がはしゃぎすぎるからだよ」

「ごめん~」

響と未来がじゃれていた。

講堂内は薄暗く、一際明るいステージが良く見渡せた。

「あ、クリスだ…」

「わ、本当だ」

と響。

照れているのか緊張しているのか、とてもその表情は真っ赤だ。

しかし…

声を発せればその緊張も歌う事で掻き消えたのかとても綺麗な声が聞こえた。

「すごい…」

「クリスちゃん上手~」

未来も響も手放しで褒めた。

「でも、そろそろ準備しないとだね」

「そうだね、響」

「え?なに、なに?」

左右からがっちりと腕を組まれたまま客席から連れ出され舞台袖へ。

「え、え?ええっ!?」

トン、と背中を押されてつんのめりながらステージ中央に立たされてようやく嵌められた事に気が付いた。

クリスも出ていた勝ち抜き形式の音楽大会、それに出場させられたらしい。思い起こせばこの制服もそのためか。

舞台袖を見れば謝る響とどこかしてやったりの表情をしている未来。

(やってくれる…けど、いいさ)

カラオケを操作して曲を選択。そしてどこからとも無く拡声器(メガホン)を取り出し構えた。

イントロが始まる。

あ、知ってる人は耳を押さえているぞ。未来と響はノーガード。

心の中でにやりと笑って…

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ」

大絶叫。

ぞわわっとクリスの歌で火照った体を冷却させた。

観客を見渡す。あれ、なんかどこかで見たことのある少女が二人居る気が…

あれはマリアの仲間の装者の二人?

歌い終わり、お辞儀をして舞台を降りるまで誰も何も反応を返さなかった。

舞台から降りて観客が我に返ったのか、ドっと歓声が聞こえた。

「もう、びっくりしたよぉ」

「さすがにアレはひどいと思う…」

響と未来だ。

「あっはっは。かってにエントリーした意趣返しだよ」

と得意げに言った後表情を固める。

「それよりも、気が付いた?」

「え?何、何?」

「あそこ」

そう言って視線をやればそそくさと逃げていく少女が二人。

「あの子達っ!」

「響?」

「未来はここで待ってて」

走り出す響。途中、クリスと翼と合流し二人を追った。

「ち、見失ったっ!」

「はやいよぉ…クリスちゃぁん」

「てめーが貪くせーんだろぉが」

と響を叱責するクリス。

「だが、無駄足ではなかったようだ」

と翼が何かを拾い上げた。

「果たし状?」

その封書にはそう書かれていた。

「こんなものを渡す為にわざわざ?」

「さて、それはどうか分らないがな」

その夜。

ノイズの出現波形がカ・ディンギル跡地で検知され、急ぎ向かった。

しかし、そこに現れたのは装者の少女。切歌(きりか)調(しらべ)の二人ではなく、ソロモンの杖を強奪しフィーネに組するウェル博士だった。

大量のノイズ。

「いまさら、ノイズなんかでっ」

大量に現われるノイズもシンフォギアを纏ったミライ達は善戦する。

そんな中、F.I.Sが何をしたいのかと問えば月の落下による人類の救済と答えた。

月の軌道計算はあのルナアタック以降各国機関で観測されていて、落下はしないと言われているが、さて…

「月の落下からの人類の救済。その私たちの答えが、ネフィリムっ!」

ウェル博士が叫ぶと地表から一匹の黒い化け物が現われた。

「きゃっ…」

それに弾き飛ばされてクリスは気絶。助けに行った翼はノイズの粘着攻撃に足を取られた。

黒い化け物、ネフィリムは響と交戦を始めた。

ミライはと言えば、ウェル博士が出した大量なノイズの対処に負われていた。

「ルナアタックの英雄…でも、そろそろあんたたちうっとうしいんだよねぇ」

ウェルの声に狂気が混じる。

「そろそろあなた達には退場してもらう事としましょう」

そう言って取り出したのは一つのアタッシュケース。

バシュっとアタッシュケースの電子ロックが開く。

そこから取り出したのは人の右腕のようなものだった。

「なに…それ…っ」

響はネフィリムと戦いならがその人間の右手に驚愕した。

「これは六年前のナグルファル融合実験の際に実験体から切り離された右腕なのですよっ。実験体自体は逃亡してしまいましたがね。その時回収したのがこのぉ右腕っ」

「まさかっ…それって…」

「ミライの」

「わたしの…右腕…」

響と翼の視線が知らずと未来の右手へと移る。しかし、そこには普通に右腕が存在しているはずだ。

「融合した右腕はまさに聖遺物そのもの。これぉおっ!」

ウェル博士はその取り出した右腕をネフィリムに向かって投げた。

「なっ」
「っ!」

「まさか…」

凶悪なアギトが開きその右腕を咀嚼し、飲み込んだ。

「ネフィリムは取り込んだ聖遺物のエネルギーを自分の物として成長する、故にっ!」

ドクン、ドクン

「グアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」

狂獣の咆哮。

狂獣から尻尾が生えていく。

一本、二本、三本…

「たぁーーーーっ!」

響は臆さずに拳を振るうが…

ドンッ衝撃波が突き抜ける拳はしっかりとネフィリムに届いた。しかし、その体を揺らすのみに留まった。

それどころか…

ドクン…ドクン…

響の胸から黒いものが噴出する。

「共鳴っ!?」

「ううううぁああああああっ!」

触れた右手からネフィリムに共鳴するかのように響が暴走する。

「響っ!」

冗談じゃない。今響が暴走なんてされたらっ!

ノイズなんかに構ってられない…

ミライは歌うのを止めた。

ミライの場合、ギアの出力を高める為に歌っていたわけじゃない。

むしろ逆だ。

歌でギアの出力を抑えていたのだ。

「フォニックゲイン、急速上昇…これは、完全聖遺物起動時なみですっ」

と翼のヘッドギアから本部のあおいさんの驚愕の声が聞こえた。

「そんな、ミライっ」

ギアが黒く染まり、凶暴性が増していく。

それに呼応するように腰のバーニアが変形、尻尾を模し始めた。

「はぁ…はぁ…いきますっ」

四本ほどで一応の変形が終了すると、その尻尾がバッと蓮の花の様に開き、中から幾つもの飛針が撒き散らされる。

ダダダダダッ

ばら撒かれた飛針にあたりのノイズは一気に殲滅させられた。

「だが、状況はこちらが優位っ」

にやりとネフィリムを盾に笑うウェル博士。

「響ーっ!」

ガッと地面を蹴ると高速でネフィリムに接近、取り込まれそうになっている響を分捕るように抱きかかえると距離を取った。

「響、響っ!」

「ううううううっ!」

ミライのデコピン。

「あうっ…いたいよぉ…ミライちゃぁん」

ミライのデコピンで黒化の解けた響だが、腰のバーニアが二本の尻尾の様に伸びていた。

拳の先も肉食獣の爪のように鋭い。

「わわっ!?何このかっこうっ!?」

「響はあのネフィリムに取り込まれそうになっていたから、その影響じゃないかな」

「そうだ、ネフィリムは…」

ネフィリムは腕を取り込んだ後、いっそう巨大化し、尻尾が生え、凶々しさを増した。

目は赤く染まり、瞳孔は波紋を描き三つ巴の勾玉が浮かんでいる。

「…写輪…眼」

ポツリと呟くミライ。その表情は今まで出一番険しい。

「え、何?」

「グラアアアアアアアァァァッァァアっ!!」

開いたアギトの口先に黒い球体が収束された。

「あははははっ!やれ、ネフィリーーーームっ!」

『高エネルギーのフォニックゲイン、放たれれば都市の壊滅は免れません』

ヘッドギアの奥であおいさんの焦る声が響く。

「させませんっ!」

響は気合を入れて言い放つとネフィリムの口から放たれた黒い球体に向かって跳躍、渾身の力で右手を突き出した。

「やぁっ!」

「響っ!?」

突き出した右手は黒い塊をほんの少しだけ射線軸をずらす事に成功。ギリギリのところで洋上へと消えていった。

「響っ!」

駆け寄るミライ。

「へいき、へっちゃら」

「どこかへっちゃらなものかっ!その右手っ…」

響の右手は血を流し、肉はえぐれ骨が見えていた。だが…

「響、それ…いつから…」

「たはは…実は結構前からなんだよね…」

ミライの見ている前でその傷が見る見るふさがっていった。

「それはまさか…でも…」

「今はそんな事を言っている場合じゃないよ、ミライちゃん。アイツを何とかしないと…もう一発さっきのが来たら街がっ…」

と、話をそらされ追及を中断された。

しかし、幸いな事に第二射のチャージはまだ行われていない。撃てないのか、それとも…

「二人とも、無事かっ!」

「なんだよアイツは、ちょっと見ないうちにでっかくなっちまって」

翼とクリスが駆け寄った。どうやらノイズの拘束からはのがれ、クリスは気絶から立ち直ったようだ。

「しかも…あれ…」

響の言うその先に、今も巨大化を続けているネフィリムの周りに無数の小さなネフィリムが現われた。

「どれだけ居ようと、倒すまでだっ」

「ちょ、まてよ!」

「わたしもっ」

翼とクリスが先に駆け、響も接敵する。

戦いと同時にようやくミライは結界術式を起動。ネフィリムごと位相空間へと閉じ込めた。

「これは?」

「なになに、何なの?」

「こいつは、いつかの…」

「知っているのか、雪音」

「あたしがアイツに初めて会ったときも使ってやがった。現実世界に何の影響も与えない位相空間、そんな感じのヤツだよ」

と翼の問いに答えるクリス。

「良く分からないけど…」

響はいつもの感じだ。

「つまりは、全力でやって構わないって事だなっ」

翼は結果だけ分れば良しとギアの出力を上げていった。

歌われる歌は三人のトリオ。そのハーモニーの重なり合いがシンフォギアの出力を限界まで高めていく。

振るわれる拳、振るう刀、撃ち出される銃弾は確かに敵を打ち砕いてはいたが…

「か、かてぇっ!」

最初にグチったのはクリス。

「わっわわわっ!」

「ノイズとは違いシンフォギアが必殺にならないからかっ!」

慌てる響と冷静に対処している翼。だが両者とも焦りが見える。

ノイズは位相差障壁を中和してしまえば本体そのものは脆い。しかし…

「これ、木で出来てますよっ!」

響が拳で打ち砕いた化け物が木片となって飛び散った。

「どいてっ!」

ミライは飛び上がると、ギアの制御を手放した事で天壌知らずに高まり始めたそれを放出する為に印を組み上げた。

「火遁・豪火滅失っ」

「み、ミライちゃん!?」
「あのバカっ!」
「なっ!?これはっ!」

口から吐き出された高温の炎が壁を作り次々にネフィリムを燃やしていく。

「やった、のか?」

と、翼。

火勢が弱まって来た頃、ようやく視界が戻ったその先。

「ダメ、か…」

取り巻きの数は減ったが、ネフィリムは未だ健在。

しかも更に体積を増していた。

「グォオオオオオオオオッ!」

「きゃぁ」
「くっ」
「なんだってんだよ、これは…」

「バインドボイスだとでも言うの?」

地面をも揺るがすような咆哮に皆耳を押さえて多々良を踏む。

こちらの気勢がそがれた所にネフィリムが地を駆けた。

振るわれる爪牙。

「こんのーっ」

「はっ!」

クリスがガトリングとミサイルをフルバースト。翼も刀から衝撃波を飛ばす。

しかしネフィリムは幾つかある尻尾の一つを手前に持ってくるとその一振りで全てなぎ払ってしまった。

「きゃぁ!」
「かっ…」

逆にカウンターを貰って吹き飛ばされる翼とクリス。

「翼さん、クリスちゃんっ」

すかさず響が追撃にインターセプト。

「はぁっ!」

迫る尻尾を拳で防いだ。

キュイーンッ

アギトの先で再びチャージされる黒いエネルギーの塊。

ヤバイっ!

ミライもすかさず響の前に立った。

「Aeternus Hrymr tron」

聖詠の二重詠唱。

ギアが変形してジェネレーター部分が強化される。

その巨大化したジェネレーターからビットが飛び出したかと思うと響たちを守るように幾重にもバリアを展開した。

「くっ…」

しかし、先ほどよりも増した威力にミライの障壁が力負けを始める。

何とか角度を変えることには成功したが、爆風がミライ達を諸どもに吹き飛きとばす。

「二人ともっ!」

意識も無く飛ばされる翼とクリスを響は庇うように抱え込むと一緒に飛ばされていった。

「くっ…」

ダンと、ギアをパージさせると巨大な戦艦がミライの足元に現われる。

カシャカシャカシャカシャ

「これでーーーーーーっ!」

相手の再チャージが終わる前に一斉射。

尻尾を前に持ってきてガードをするネフィリム。そこにフルバーストが無情に襲い掛かりネフィリムに着弾、炎上させた。

「はぁ…はぁ…はぁ…」

パラ、パリンっ…

空を被う結界が破れ現実空間へと戻ってしまう。

ネフィリムを見ればその上半身が吹き飛んで沈黙していた。

「はぁ…はぁ…やった…かな…?」

響達は見当たらないがギアに守られているはず。

「響、翼、クリス…」

「ネフィリムのエネルギー反応、まだ減衰していませんっ!」

「なっ!?」

あおいさんの通信に視線をネフィリムに戻せば無くなった上半身が生えるように再生していた。

「くっ…」

響達を欠いた状態であのネフィリムの全てを吹き飛ばすだけの出力は不可能。

二年経ってもまだナグルファル以外の権能は上手く使えていない。

この間のルナアタックの時は他者に譲渡する事で制御して見せただけ。

今、ネフィリムを暴れさせるわけには行いかないし、ナグルファルの一撃をもってしても倒せないあの化け物に近代兵器では効果を見込めない。

核弾頭を打ち込めばあるいは倒せるかもしれないが、それはこの街一つを犠牲にする。

「それは、出来ないよね…」

再生したネフィリムは第三射目を準備していた。

「あれも撃たせるわけにはいかないし…」

まいったな、と肩をすくめた。

「誰かを守る響を守る。だから…」

ここでわたしがわたしじゃ無くなったとしても、良いよね?

決意するとミライは最後のステージに立つ。

口から漏れるのはミライが今まで一度も口にしたことのない歌。

そう…それは…



絶唱


Gatrandis babel ziggurat edenal

「だ、だめだよっ!ミライちゃんっ」

振り返った先にようやく満身創痍ながらも立ち上がった響の姿が見える。

Emustolronzen fine el baral zizzl

「ミライ、やめろっ!それだけは、やめてくれ…いまの制御されていないフォニックゲインのまま絶唱を口にするなど、自殺行為だぞっ…お願いだからっ…」

とクリスの肩を借りて立ち上がった翼も懇願する。

Gatrandis babel ziggurat edenal

「おい、まさか死ぬ気じゃねぇだろうなっ!お前が死んで良い訳あるか、誰もがお前を心配していることに気がつけっ」

とクリス。

だが、それでもミライは絶唱を口にする。

Emustolronzen fine el zizzl

「ミライーっ!」

響の絶叫。

「っ!初めて呼び捨てで呼んでくれたね、響。すこし未来がうらやましかったんだからね?」

「そんな、そんな事、これからもずっと呼ぶから…だから…」

懇願する響に首を振る。

「バイバイ、響」

「いやだっ!さよならなんて、ダメだよっ!」

バサリと二つにアップされていた髪の毛が振り下ろされる。

手に持ったアームドギアはネギなどではなく、所々機械っぽいが日本刀のような形をしていた。

さらにギアが変化。どこか竜を思わせる銀色の甲冑へと変わる。

ミライの双眸は真っ赤に染まり、それはネフィリムの目と同じ様。

ミライがアームドギアを振り上げると体が宙に浮くようにしてエネルギーが可視化、それが何かを形作っていく。

最初は大きな肋骨の一部の様だった。しかしそれは次第に大きな骨格となり肉付き巨大な益荒男が現われる。

「なんだ…あれは…何なんだ、いったい…」

クリスの戸惑いの声。

ドクンと翼のギアが反応する。

「天羽々斬が反応している?まさか、あれはスサノオ神の顕現とでも言うのかっ!?」

ネフィリムをはるかに凌駕するその巨体。見下ろすようにネフィリムを睥睨する巨人。

その益荒男は腰に挿した日本刀のような剣を抜き放ち、振り上げた。

「ばかなばかなばかなばかなっ!そんな馬鹿な話があるかっ!」

ちゃっかり助かっていたウェル博士が驚愕の表情で現実を否定する。

現実を否定したいほど、その目の前の光景は異常であった。

「やめろっ…やめてくれ…、また私の前で大切な人を奪わないでくれ…おねがい…おねがい、します…」

しかし、翼の懇願は届かない。


キュイーーーンっバシュっ

放たれた三射目。

スサノオの方が巨体な為に上方に向かって発射されたそれを左手に表した盾で横殴り、軌道をそらせた。軌道のそれたそれは大気圏を超え、宇宙へと放出される。

「ああああああああああああああっ!」

ミライが気合一閃と自分の右腕を振り下ろす。

その気合に呼応するようにスサノオは振り上げた右腕を渾身の力で振り下ろした。

プチっと潰されたのではないかと思われるほどの圧倒的な蹂躙。

巨刀は容易くネフィリムを両断し、また粉みじんに吹き飛ばしていく。

「ミライーーーーーーーーーーーっ!」

全てが吹き飛ぶそのさなか、巨人の鎧の消え去ったミライも一緒に吹き飛んでいった。

「あああああああっ!」

黒く染まりかける響。

「立花っ!」

「ううううううっあああああああっ!」

「おまえは、今はそんな事をしている場合じゃぁないだろっ!」

翼とクリスが左右から黒く染まりかけた響を押さえ込む。

「まだミライが死んだと決まったわけじゃないのだぞ。一刻も早く助けるんだっ」

「っ……」

涙が頬からとめどなく流れ、響はようやく正気に戻ると、居ても立っても居られないと爆心地へと駆けた。

「あ、おいっ!」

「私たちも行くぞっ」

「分ってるよっ」

翼の響への鼓舞は半分以上は自分に言い聞かせたもの。翼だってショックは受けているのだ。だが、それ以上に泣いていた響を気にかけることでどうにか踏みとどまっただけなのだ。

「おまえも泣いてんじゃねぇか…あれ、おかしいな……」

と頬を触るクリス。

「なんだ、これ…あたしも…ないて…?」

パラパラパラと空にヘリコプターが飛んでくる。

二課の面々が捜索に加わったのだろう。

程なくしてミライは無事に回収された。

だがその体は…








ピッピッピと二課のメディカルルームに心電図の音だけが響く。

ベッドの腕には長い髪をそのままに寝かされている人物が一人。

その人物の傍に見守るように鎮痛の面持ちを浮かべている少女が居る。

「やはりここに居たのか、響」

「毎日毎日飽きもせずよくも通えるものだよ」

自動ドアをスライドさせてメディカルルームに入ってきたのは翼とクリスだ。

「翼さん、クリスちゃん…」

さらにもう一度後ろの自動ドアがスライドする。

入ってきたのは花瓶に花を生けた未来だ。

「未来…」

コトリと花瓶を窓において響のそばに行く未来。

「ミライ、まだ起きないの?」

「うん…まだ、起きない…」

「そっか…」

四人が四人とも表情が曇る。

それはミライの現状に有った。


無事に発見されたミライは急ぎ二課でメディカルチェックを受ける事になったのだが…

「性別が転換している?」

弦十郎によって告げられた言葉に集まった響達は混乱の言葉を発した。

「バイタル、アウフヴァッヘン波形からも彼女…彼がミライちゃんである事はゆるぎない事実、なのですが…」

と言って言葉を濁すあおい。

「つまり、男のシンボルが付いていて、胸のふくらみがなくなっているって事だっ」

「なっ!?」
「っ…」
「っふ……!」
「あうあ…」

弦十郎の明け透けな言葉に響たちが赤面する。

「それと…」

と提示されたミライの体の詳細データ。

「これは?」

「ミライくんの体の内情だ」

それは胸の聖遺物から放たれる波動に最適化され、骨格すらシンフォギアによって形成され普通の骨ではなくなっているミライの姿だ。

「細胞も遺伝子レベルで既に人間と言っていいか…今のミライくんは血の一滴すら他者には毒足りえるだろう」

「そんな…」

そしてもう一枚提示される。

「これは?」

問いかけるのは響だ。

「これは響くんのスキャニングデータだ」

「わたしの?」

「似てるな…」

と翼。

「ああ。完全融合者であるミライくん。そのデータに限りなく近い。いや、変化の途中と考えていいだろう」

胸のガングニールの破片からのフィードバックが体内を侵食していた。

「まさか、響も…」

「遺伝子変異は既に観測されている…残酷だがこのまま変容が進んだ場合ミライくんと同じになってしまうだろう」

と言う弦十郎の宣告。

「よかった…」

「響っ!?」

「だって、それってミライちゃんを一人にしなくても良いって事ですよね?ひとりぼっちはきっと寂しいから」

「でも、それじゃ響は…」

「大丈夫。わたしが何に変わったとしても、未来とつないだこの手は離さない。この温かみを、わたしは覚えているよ」

「…私、嫌な事いうよ」

未来は涙を溜めて言う。

「うん…」

「私、それでも響が人間じゃなくなるなんて、イヤだよぉ」

「…うん。ごめんね?」

「うぁあああああああっ!」

泣きついた未来を響はあやしていた。

「翼、クリスも後で詳細なメディカルチェックを受けてくれ。この変貌が融合者だからなのか、適合者でも起こり得るのか、調べてみなければならない」

「はい…」

「おい、おっさん。なんとか、何とかならねぇのか?」

とクリスが懇願する。

「すまない…」

弦十郎は目を瞑り、そう一言だけ。その一言しか言えないのだ。

「クソっ!何でだよっ!なんでいつもあたしは…大事なものがこの手からすり抜けちまうんだ…」

「雪音…」

「とりあえず、ミライくんの事はこれ以上は本人が起きてみない事には分らん。皆心配だろうが、時を待つ他はない」








ゆっくりと目を開ける。

上体を起こすと心拍を計る幾つかのコードが外れた。

「ここは…」

タッタッタッタッタッといく人もの人物が駆けてくる音が聞こえる。

バシューと自動ドアがスライドし、中に入ってくるのは四人ほどの少女だ。

「ミライちゃんっ!」

栗色のショートの髪の女の子がそう言って彼のベッドへと駆け寄る。

「ミライ?」

ミライという言葉に反応の無い彼。

「まさか記憶が無いのか…?」

「そんなっ」

「そんな事って…」

青い髪の子と白銀の髪の子と続き最後は日本人特有の少女だった。


病衣のまま少女達と数人の大人に囲まれる。

「それで、君はどれくらい自分の事を分っている」

と、一際ガタイの良い大人が言う。

「殆ど何も。何でこんな病衣を着ているのか。君達との関係の一切がまったく分りません」

と言う言葉にその人、弦十郎と名乗った大人は答えた。

ここは特異災害対策二課の本部を兼ねている潜水艦の中。

そこでどうやら彼になる前の誰かは特異災害であるノイズと言う化け物と戦っていたらしい。

そして先日、ネフィリムと呼称される特異災害との戦いで力を振り絞り、その後気を失っていたようだ。

記録映像を見るとその彼は考え込んだ。

「過負荷状態でのスサノオの行使…それで表層意識が入れ替わったと言う事かな?」

「表層意識?」

「本来、ここまで俺の覚醒が遅い事は有り得ない。人間関係の出来上がった状態でのスイッチは負担が大きいですから」

「お前はもしかして前世覚醒者(リンカーネイター)なのか?」

「それって、了子さんみたいな…」

と、響。

「永遠の狭間に生きる巫女、フィーネ。彼女は死んでも次の寄り代に移るだけ…だけど…」

と緒川と名乗った男が言う。

「覚醒した前世が現世の魂を塗りつぶしてしまう…」

そうクリスが言った。

「まぁ似たようなものですね。完全覚醒した俺はそれまでの記憶を有さない。ただ違うとすれば、それはどちらも俺自身と言う事」

「えっと、それじゃあなたは…」

「アオ。それが俺の名前」

「あ、うん…それじゃアオくんはミライちゃんとは…」

「間違いなく俺自身。ただ、記憶が残らないという点ではその誰かを乗っ取ったと言われても否定できない」

その言葉を聴いて少女達は顔を俯かせた。

「しかもよほどの不足自体が起こったみたいだ。先達の使者(かあさん)が存在しないのも覚醒が遅れた原因かな…この世界の俺の母親は?」

「君が記録に登場してからまだ二年の月日しか経っていない。それ以上は今の所不明だ」

「なるほど、彼女も覚醒していないか、あるいは既にノイズにやられたか…」

人間に対する絶対的な殺害権を有するノイズ。シンフォギアで調律しなければまともにダメージも通らない。

「そうか…それで、これからの君の扱いだが…」

アオの身柄はしばらく二課預かりになったらしい。彼女、…彼の取り巻いていた環境は、表面上は何も変わっていない。

時折、少女達が遠くから辛そうに見つめてくるが、アオ自身に出来ることはないのだ。

辛気臭い雰囲気に耐えかねたアオはふらりと潜水艦を抜け出した。


初めて歩くその世界の街並みは、今までアオが跨いできた世界と大差ない。

しかし、その街並みは所々瓦解し崩れて居る所が見え、ノイズによる破壊と戦いの痕跡が感じられた。

その破壊された街並みを歩く。

破壊が小規模な所は未だに人が住んでいるようで、活気に溢れているとは言えないが首都を感じさせた。

ボウっと街並みを見ていたのがいけなかったのか、小柄の少女二人とぶつかってしまった。

「うわっ…」

「…っ」
「きゃっ」

「い、いたいのデス…」

「きりちゃん、荷物がっ」

「わわわっ!」

ぶつかってしまった少女が持っていた荷物。その中に入っていた缶詰などの保存食がアスファルトの傾斜でコロコロと転がって言ってしまった。

「わわわっ!待つのデスっ!それは一缶368円の…」

しかし、その先は車道。車の通行量もかなりもののだった。

車道に出れば一貫の終わり。少女の表情に絶望が写る。

しかし、アスファルトを駆ける一陣の風が転がる缶詰を救い出した。

「よっと」

しゃがむと同時に拾い上げたものを少女に向かって投げる。

「うわっとととっ!」

金髪ショートの少女がその缶詰をキャッチ。

「あぶないっ!」

ツインテールの少女が叫ぶ。

拾い上げたアオの体は既に車道に出ていた。

「おっと」

アオは地面を蹴ると背面飛びの様に車を飛び越え反対側の歩道へスタッと軽やかな音を立てて着地した。

ブーン、ブーンと二三台の車が過ぎた後少女たちは横断して来た。

「あの、ありがとうございます」

「助かったのデス…アレを失ったら今日の夕ご飯が悲惨な事になったのデス」

ペコリと二人が頭を下げた。

「いや、余所見をしていた俺が悪いしね」

とアオ。

「それにしてもおにーさんとっても身が軽いのデスね」

「うん…何か武術をやっているの?」

「まぁいろいろと、ね。窮地で女の子を泣かせない程度には色々修めてきたつもりだよ」

と笑って見せた。

「うっ…おにーさん、なかなか女殺しデスね。ね、調」

「うん、きりちゃん。これはなかなかに危険」

そう言った二人の少女は若干顔が赤かった。

「でも、武力で何とかなる事意外だと俺は中々に不器用なんだけどね…」

と困り顔のアオ。

「武力以外?」

「デス?」

「ちょっとね。人間関係の修復…いや新しく築くのはいつも難しいなってね」

良く分からない、と少女二人は互いを見合わせた。

「さて、それじゃぁ」

ここで何事も無く別れようとした所後ろから声を掛けられた。

「ちょっといいかな?」

「わたし達?」

「デス?」

声を掛けてきたのはテレビ番組制作会社のディレクターで、どうやら街頭で料理の腕を見せてもらいたいらしい。

「彼氏も彼女さんの料理の腕を知りたいと思ってますよ?」

「「彼氏じゃない」デス」

切歌と調の声が重なった。

「あれ、そうなの?じゃあそっちのイケメンさんにアピールするつもりで」

と口八丁に連れて行かれた二人は、街頭に簡易に用意されていたキッチンの前に立たせられた。

食材は色々並んでいるが今回のテーマはだし巻き卵、らしい。

「どうするデス、調」

「だいじょうぶ、きりちゃん。ダシ巻き卵。きっとダシを入れた卵を焼くだけ」

「おおっ!それならわたし達にもできるデスっ!」

そう言っておだてられつつ始めたダシ巻き卵の調理は…見ていて散々だった…

「きりちゃん、まずはダシを取らないと」

鍋に大量の水を入れる調。

「おお、何でダシを取るデス?」

「基本はきっと魚介類だと思う」

「じゃあ煮干を投入デース」

「でもそれだけじゃ足りないからこのしいたけも入れよう」

「おお、いいデスねっ」

「ああああ…それは、どうなのよ?」

更にニシンやカツヲを大量投入。

ざばっと中の固形類だけをザルでこせばダシは完成と二人はハイタッチ。

次いで卵を割る。

不器用なのか、やった事がないのか割るたびに殻がボールに入っていく。

「ダシをいれるよ」

と調は卵に先ほど取ったダシを投入。しかし、その量がすでに卵の量を超えていた。

「きっとしょっぱみも足りないのです」

と大量に投入される塩。

「それじゃ焼くのデース」

用意されたのは卵焼き様のフライパンではなく、普通のフライパン。

「いくよ、きりちゃん」

そこにボールの中身を大量に…いや、全部ぶち入れた。

それでも火にかけられると何とか固まってきたそれをフライ返しで強引に巻きつける。

「「完成」デース」

自信満々の二人。

「それじゃ彼氏に食べてもらいましょうか」

「「だから彼氏じゃない」デスっ」

「え、これ食べるの?」

ズイっとディレクターに差し出されただし巻き卵…モドキ。

「きっと美味しい」

「デース」

美少女二人に差し出されて逃げ場を失うアオ。

嫌な汗が流れる中、食べられないものは入っていないと決死の思いで口に入れた玉子焼き。

あまい、しょっぱい、苦い、ジャリっと殻が口の中で嫌な食感を生み出している。

ゴクリとアオは飲み込んだ。

「どう」

「デース?」

「これは料理じゃない。一種のテロだ」

「「ガーン…」」

ショックで膝から崩れる調と切歌。

「だったら…」

「あなたが作ってみるのデースっ!」

「ええ?」

「それは面白そうだ。彼氏さんもどうぞ」

と調理器具の前に連れてこられた。

「良いけど、面白い絵は取れないよ?」

「え?」
「はい?」

アオは小ぶりの鍋に水を張ると沸騰させる。

沸騰した所に少し多めに鰹節を入れ、直ぐに火を消した。

1~2分くらいで鰹節が鍋底に沈んだらふきんを敷いたザルでこすと綺麗なだし汁が出来上がった。

ボールに卵を割り入れると、からざを取り、そこの先ほど取ったかつお出汁を少量加えかき混ぜる。

「まぁこれだけじゃつまらないから」

とディレクターが間違わせる為に置いておいて生クリームを少量加え、かき混ぜた。

卵焼き用のフライパンをしっかりと暖め薄く油をひくと3分の一ほどの卵を投入。

固まり始めた卵を上部に寄せ芯を作ると残りを投入し巻いていく。もう一度下に行った卵に流しいれた卵を焼きながら巻き上げて完成。

見た目はこげ色一つ無く、それで居てふわふわのだし巻き卵がそこにあった。

「うわ…」

「これは…負けたのデース…」

誰がどう見ても勝敗は明らかだった。

しかし、楽しい時間は続かないもの。

切歌と調は何か予定が出来たのか、早足で帰って行った。

帰り際「「次はまけない」デス」と言う言葉が聞こえたが、次があるかは神のみぞ知るといった所だろう。

「さて、もう少し歩いてから帰ろうかな」

そう言ってふらりと足を東京スカイタワーへと向けた。

入場料を支払い、東京を一望できるほどの最上階の展望室へと移動する。

しかし、通路に出た瞬間、そこは戦場だった。

「はい?」

パララララッと鳴り響く銃撃音。

しかしそんな中戦場には似合わない誰かの力強い歌声が響く。

特殊なプロテクター…シンフォギアを纏った少女が撃槍を歌いながら振るっていたのだ。

振るっている相手はどう見ても堅気の人間には見えない。訓練されたプロだ。

少女は初老の女性を肩に担ぎつつ通路を駆けながら逃げている。

追いかけるその襲撃者は一般人がいようとも構わずに銃撃をし、それから一般人を庇うようにして少女は戦っていた。

「ぼさっとしているなっ!走ってにげろっ!」

「とは言ってもね、いったい何が何やら…」

展望室のガラス張りのそこから外を見れば何故か巨大な特異災害、ノイズの姿まで見える。

人々は炭素分解されながら対消滅していく。

ノイズが大挙して押し寄せ、その体ごとスカイタワーの展望台に突き刺さる。

炭素分解されていく襲撃者。しかしだからと言ってノイズがアオの味方と言うわけではない。

「逃げろっ!」

少女の怒声。

「なっ!?」

突如としてアオの足元が崩れ去り空中へと投げ出された。

「ミライちゃんっ!」

「響、まってっ!」

何故か展望室に居た響と未来。

響はシンフォギアを纏って落下していくアオに追いつこうと手を伸ばした。

「きゃ、きゃああっ!」

しかし、その上で崩れた足場に身を取られた未来も落下する。

「未来っ!?」

落ちるアオと落ちる未来。どちらを助けたらいいのか迷いが生じた響は体を動かせない。

どちらかを助ければどちらかが地面に激突する。そんな間合いだ。

(ダメっ!)

ドクンッとアオの鼓動が早鐘を打った。

(なんだ…そんなに大事なのだったら手放すなっ)

「Aeternus Naglfar tron」

カッと発光して衣服が分解、機械的なパーツを組み込んだプロテクターへと再構成さえる。

シンフォギア。

対ノイズへの決戦兵器。

「響っ」

「え?ミライちゃん?」

先ず響をキャッチ。そのまま落下速度を操って未来を抱きとめた。

「きゃっ」

ふよん。

抱きとめた未来を抱えて今度は減速を開始。地面に付くころには落下速度はゼロになっていた。

「ミライちゃん?」
「ミライ、なの?」

「うん、ただいま、二人とも」

ガバっと左右から抱きしめられた。

「ミライちゃん、よかったよぉ~」

「私も、ちょっとは心配したんだよ?」

「うん、ゴメン」

「でも、どうして…?」

「そうだよ、えっと…彼、アオさんは…?」

と響と未来が問いかけた。

「えっと、寝るって」

「は?」

「浮気すると後がおっかないから寝てる…だそうです」

「浮気?」

ジトーと目が据わる未来。

「い、今はそんな事は良いんじゃないかな?今はそれよりも」

と言って空を見上げると大量のノイズ。

ノイズは操られるように執拗に東京スカイタワーを襲撃していて、このあたりにノイズの気配はない。

一応本部で観測させた所やはりこのあたりにはノイズの反応は検知されていないようだ。

「ちょおっと行って来るから、未来はここで待ってて」

「響?」

「すぐに終わらせて帰って来るから」

とミライ。

「……うん、待ってる…だから、早く帰ってきてね」

聞き分けた顔をして未来は二人を送り出した。

「大丈夫、すぐにやっつけて帰ってくるから」

響は力強く宣言するとジャンプ。ノイズを蹴散らしに行った。

「まったく、また無茶を…」

困ったような呟きの後ミライも続いた。

「ミライ、なのか?」

「はい、心配かけたかな、翼」

天羽々斬を振るってノイズを蹴散らしながら駆け寄る翼。

「ようやく復活したのかっ、おそかったじゃねーか」

とはクリス。しかしその表情はどこかうれしそうだった。

そのうれしさからかいつもより派手に銃器をぶっ放していた。

「なんとか帰ってきました」

「では、あんなノイズなんかに感動の再開を邪魔させるわけにはいかないなっ行くぞ、雪音」

「わぁったよっ!」

クリスと翼、響とも意気軒昂、いまの彼女達に怖いものはなかった。





未来の見上げた未来の先には爆発を伴い大量のノイズが蹴散らされていく。

「響、ミライ…また私は置いてけぼり、なの…?」

「おんやぁ?こんな所にリディアン音楽院の少女ですかぁ?」

「あなたはっ!?」

「置いてけぼりを食らっている可愛そうな少女に提案があるのですがねぇ」

そうして白衣を着た男性はそう未来を怪しい甘言を呟いた。


特異災害対策二課仮説本部スキニルブリッジ

「一難去ってまた一難とはまさにこの事」

と弦十郎。

今、二課の捜査員が行方不明になった小日向未来の捜索を行っていた。

「どうして、小日向が…」

そう翼も苦い顔を晒す。

「未来…」

響の声音も低い。

「どうしてお前はそう気丈で居られるんだよっ」

とミライを責めるのはクリスだ。

「死んでるかも知れねーんだぞっ」

「死んでませんよ、未来は」

「はぁ?なんで、そんな事が分かんだよ…」

「分りますよ。未来に掛けた守護の魔法が解けてませんから」

「はあ?そんなの、いつの間に…てーか、魔法?んなオカルトチックな」

「ただちょっと…妨害に聖遺物を使っているのかこっちの力が届きづらいから位置の特定は出来ませんが」

「まてまて、それじゃぁもしかして未来は誰かに浚われたって事…なのか?」

「もしくは自分で付いて行ったか、です」

「そんな…」

クリスは心配そうな表情を響に向けた。

「大丈夫だよ、クリスちゃん。未来は生きている。だったら助け出すだけ。傷つけられたらどんな事をしても癒すだけ。わたしが未来にしてきてもらったように、ミライちゃんに助けてもらったように」

と力強く宣言する響。

「だが、これ以上ギアを使い続けると響くんの体は…」

そう弦十郎が心配そうに言う。

「響の体が何か?」

「なんだ、今度はミライに今までの記憶が無いのか…」

と、翼。

「響の体は胸のガングニールとの融合が進んでいる。このまま進めば遠からず…」

「死ぬ…?」

「いや、変調の傾向はミライくんに酷似している」

弦十郎が言う。

「わたし?」

「すまないが、この間のメディカルチェックで君の体を調べさせてもらった」

真剣な表情の弦十郎。

「君の体はすでに人では無いのかも知れないな」

「ああ、そんな事ですか」

何の事はないという感じで言うミライ。

「知っていたのか?」

「霞が掛かっていた記憶が彼が覚醒した事で補完されましたからね。自分がどう言う存在なのかは自分が一番知っていますよ」

とミライ。

「世界を渡る前世覚醒者(リンカーネイター)。世界を渡って技術を集める自動観測者(アビリティコレクター)。それがわたし」

「ミライ、ちゃん?」

「集めて記録された技術は数知れず。生きた年月も途方も無い。不老なんて神様を殺してみせた時に確保済み。そんなモノが、人間なはずは無いじゃないですか」

化け物でしょう、と自嘲するミライ。

それを優しく包み込む存在が居た。

「ミライちゃんは化け物なんかじゃないよ」

「響?」

「わたしを助けてくれたミライちゃん。いつも見守ってくれて、困ったときには手を差し伸べてく

れるミライちゃん。繋いだこの手はこんなに暖かいんだよ?」

ぎゅっと響はミライの手を握り締めた。

「響…」

「だからね?たとえわたしがシンフォギアを使いすぎてミライちゃんと同じになっちゃったとして

も平気。それはミライちゃんとずっと手をつないでいけるって事でしょう?」

「でも、それは他の誰かの手を離すことになるかもしれないんだよ?」

「大丈夫。わたしって結構欲張りだから。翼さん、クリスちゃん。そして未来も。つないだ手を離したくないんだ」

だから大丈夫と笑ってみせる。

「だが、あまり無理は出来ん。ギアの使用は控えた方が良いのは事実だ」

「師匠…でも…」

「我々も進んで響くんを遠くにやるわけにはいかないんでな」



数日経つと米軍艦隊が日本海域で作戦行動を取っていると言う情報を得た二課のメンバーは追跡を開始。

どうしてかと言えばあのノイズの東京スカイタワーの襲撃時、現場には米軍工作員が確認されたからだ。

計測されたガングニールのアウフヴァッヘン波形はマリアのもの。と言う事はあの日、あの場所でF.I.Sと何か密約を交わしていたのは推察に硬くない。

そして、現場に赴けば追われている航空機を発見する。

どうやらあれがF.I.Sの本拠地のようだ。

追う米軍艦隊に突如として現れて襲い掛かるノイズ。ソロモンの杖から呼び出されたのだろう。

現着する前にノイズに襲われ炭素分解されていく米兵。しかし、どう言うわけかF.I.Sの装者である調が一人で応戦していた。

それを見て響が言う。

「わたし達もすぐに現場にっ!」

「お、おい響。お前は…」

と心配そうな声を上げるクリス。

「へいき、へっちゃらです」

「こうなると響は強情だからね…」

諦めたとミライ。

「しかたない。だが、無理はするなよっ」

「お、おい。いいのか?」

「言っても聞かんやつだ。仕方ない」

翼の言葉にクリスは呆れた。

タタッタ、艦内を駆けギアを纏うと開け放たれた大型ミサイルへと乗り込む。

クリスと翼、ミライと響が背中合わせに格納されると発射口へ。

「これ、大丈夫なのかなぁ…」

「でも、ちょっとワクワクしない?ミサイルの中に乗っているんだよ?」

「普通の人間なら耐えられないと思うんだけどねぇ」

ぐっとGが掛かる。どうやら打ち上げられたようだ。

潜水艦から打ち上げられたミサイル。

空中でハッチが開くと目の前は軍艦の上空。

「いくよっ!ミライちゃんっ」

「はいはい」

シンフォギア装者四人が状況に介入する。

ノイズを蹴散らし、F.I.Sの装者一人、調はクリスが確保。もう一人の切歌は翼が交戦していた。

戦場のノイズは響とミライの仕事だ。

どれだけ居ようと今更ノイズ。遅れは取らない。

戦場が好転し始めた。そんな中、海上に一つの歌が響き渡る。

「Rei shen shou jing rei zizzl」

アメリカ軍の空母の甲板に降り立つ人影。

「未来っ!?」

「未来…」

それは浚われた小日向未来がシンフォギアを纏った姿だった。

「なんで、どうして未来が…」

悲壮な顔で呟く響。

「うわああああああああああっ!」

「未来…正気じゃない…」

神獣鏡のシンフォギアを纏った未来。

右手に持った閉じられた扇のようなアームドギアをこちらに向けると、そこからビームの様なものを撃ちはなった。

「未来やめて…きゃぁ!?」

「響っ!」

乱射されて幾つか貰ったらしい。

ミライはすぐさま響に駆け寄り響を連れて浮上する。

「響、それっ!」

響のシンフォギアが一部解除されていた。

「な、何これっ!シンフォギアが…」

「聖遺物由来の力を分解する力…」

「それって」

「シンフォギア殺しのシンフォギア…」

更に海上から撃ち放ってくる未来。

それを右に左にと避ける。

「再構成、出来る?」

「やってみる」

ぐっと右手を握りこむと響はシンフォギアを再構成。

「どうする?」

「未来を止める」

「それは分りやすい」

手を離すと未来は甲板に着地。

「未来、もうやめてよっ!」

響が未来の攻撃を避けながら近づいていく。

「どうして?ようやく私も響達と同じになれたのに…もう置いていかれるのはイヤなのっ」

「未来…だったらはやく帰っておいでよっ」

「帰る?どうして?私は、まだ…」

未来の首後ろから伸びる鞭のようなギアをそれこそ鞭の様に操って攻撃を繰りかえす未来に中々近づけない響。

「ダメだ、響。今の未来は正気じゃないっ」

頭の後ろにはまり込んでいる装置が脳にダイレクトに戦闘行動を実行させている。あれをどうにかしなければ未来は止められないし止まらない。

カシャカシャカシャとギアからパネルのようなものが円形に広がっていく。それはまるでソーラーパネルの様だった。

未来が歌いだすと呼応するかのようにギアの出力が跳ね上がる。

「集束砲?響ーっ!」

「っ!」

腕をクロスさせて身構える響。

相手は聖遺物由来のエネルギーを分解する攻撃。だが人体へのダメージが無いとは言い切れないし、都合が悪い事に真後ろには空母のブリッジがある。

かわせば直撃は免れず、どうなるか分らない。

「ミライちゃん?」

すぐさま響の前に立つミライ。

「未来に人殺しはさせられないっ!」

ミライは万華鏡写輪眼を開眼させると右手を突き出し何か大きな鏡のようなものを作り出した。

スサノオの持つヤタノカガミだ。

そこに極太のビーム、流星が迫る。

ミライはヤタノカガミを斜めにして角度をつけるとその流星を受け流す。

「ミライちゃんっ!」

「っ…相性が悪い、かな…?」

二重聖詠、フリュム起動時のバリアよりはまだ強固だろうが、相手は聖遺物殺し。

ヤタノカガミも太源を辿れば神器、霊器と言う事になる。つまりは聖遺物だ。

放たれたエネルギーの本流をどれだけ凌いだだろうか。ヤタノカガミに当たり照射角度がズレたその攻撃は空へと放たれどうにかブリッジを守り抜く事に成功した。

「なんで、どうしてなの?ようやく私はミライちゃんに追いついたと思ったのに…どうして…」

カシャカシャとミラーパネルをしまった未来の独り言。

「そうか、シンフォギアじゃダメなんだ、そっか…だったら…」

「未来、なにをっ!?」

響が止めるより速く、未来は自身の右拳を自身の胸元にあるギアに叩き付けた。

「なっ!?」

それは誰の戸惑いの声だっただろうか。いや、あるいはそこに居たシンフォギア関係者全員の声だったのかもしれない。

「がふっ…」

「未来っ!?」

「まって響、様子がおかしい」

ミライは駆ける響の体を押さえつけて止めた。

パタパタと胸元から血が滴り落ちる。胸元にあるギアを思い切り叩き壊したのだから当然だ。

しかし、胸の内側に押し込まれたギア。それを取り込むようにえぐれた胸元の肉が閉じ再生を開始した。

「な、なぜ…」

それはいつかの響の様。

「まさかっ…」

ミライは何かを思い至ったらしい。

しかし、考察を今している暇は無い。

胸元から黒いオーラが噴出する。

「暴走?でも…」

融合症例以外での暴走は今まで観測されていない。

「まさか聖遺物を取り込んだと言うのっ!?」

「あっあっあああああああああっ!」

未来の絶叫。

一度弓なりに後ろにそらされた上体は一転して地面に付き、まるで獣の様に四足を付いている。

「未来、未来ッ!」

「ううううううううううっ」

響の呼びかけにもはや唸り声しか返ってこない。

「があああっ!」

突撃してくる未来。

「未来っ!やめてっ!」

獣のような攻撃をかわしながら何とか説得を試み響。

クァっと口の前からビームがチャージされた。

その首元を駆けつけたミライが思い切り手にもったネギ型アームドデバイスで殴りつけた。

「ミライちゃんっ!?どうしてっ!?」

未来の首が思い切り両断されたのをみてショックを受けた響。

「バカ、そいつは分身、偽者だっ!本体は一歩だって動いちゃ居ない」

「え?」

視線を動かせば確かに元の場所にも唸り声を上げている未来が居た。

「あれ…」

スウーともう二体の分身体が現われるのを見てようやく響が納得した。

「分身だってわかっていればーーーーーっ!」

幻影を振り払うように一直線に響は未来に駆ける。

しかし左右から二体の未来の分身が背中の日本の、もはや尻尾の様になってしまっている鞭のよう

なものを振るって攻撃してきた。

「バカっ!響っ」

「きゃぁっ!?」

弾き飛ばされる響を後ろから抱きかかえて減速。

「ご、ごめん。ミライちゃん…でも、なんで…分身なら実体なんか無いはずでしょう?」

「響はどこか知識に偏りがあるようだ。カンフー映画ばっかり見てるから…」

はぁとため息をつく。

「えええっ!?だって、分身と言ったら高速移動の残像なんじゃぁ…」

「もっとアニメを見ろ、アニメを。あれは高速移動なんかじゃなくて実体を伴った幻影。さしずめ影分身と言った所か」

「それってまるで魔法か何かみたいじゃない」

「似たようなものだろうけどさ。だけど、せめて忍術って言おうね?」

しかも、鼠算式に未来の分身が増えて既に甲板は黒く染まっていた。

ドウッドウゥドウゥ

一斉にそのアギトからレーザーが放たれる。

放たれる直前にミライが響を抱えて上空に昇った事もありブリッジへの直撃は免れたらしい。

甲板の脇から小型艇で脱出しているのを見るにもうブリッジには居ないのかもしれないが。

「いつまでも抱えているわけにはいかないから」

ミライはそう言うとネギの一振りを変形させると響の背中に取り付けた。

「これは?」

「パッシブ・イナーシャル・キャンセラー」

「…分るように言って?」

「浮く事ができる装置…」

「なるほど、分りやすいっ」

それだけ聞くと響はミライの手から抜け出した。

響が空中に浮くと甲板を埋め尽くしていた黒い塊も浮上してくる。

「未来、未来はどうしてこんな事を…」

「置いていかれたと思ったんだろうね」

「ミライちゃんはまた…分っていたのなら、なんでっ!」

「わたしは、わたしだけが置いていく方だと思ってたから」

「え?」

「響には未来が居たし、わたしが人間でなくても響はずっと一緒の速度で未来と居てあげられると思っていた…だけど、そうじゃなかった」

「胸のガングニールが…」

「そう、融合が侵食していて、体の変化をもたらせている。でも、それもわたしの所為だ」

「ミライちゃん、の?」

両手の光線銃を撃ち放つが分身体未来の一体一体が作り出した鏡のようなバリアだ弾かれ収束し倍の威力で返された。

「おっと…」

スラスターを吹かしそれをかわす。幸いな事に背後に未来の分身は居なかったようでそのビームが返ってくる事はない。

響は近づいて一体一体豪拳を打ち付けて倒していく。

「暴走する響にキスをした時、多分のわたしの血液が響の中に入ったんだと思う。わたしの血液は劇薬だって全部を思い出した今なら分る。響の傷の治りが早いのもきっとわたしの血を飲んだから」

「そんな、だったら未来はなんで?」

目の前のあの再生能力だろう。

「……たぶん、未来にキスした時、その前に未来の平手で口の中を切っていたんだと思う」

「ううえぇええぇええ!?い、いつっ!?」

何故か響が反応したのは後者じゃなく前者。キスしたという言葉に動揺したようだ。

「そっち?今はそこじゃ無いと思うんだけど…」

「ううううう…絶対後でお話聞かせてもらうからっ!」

『暴走の理由がわかっても事態は好転しない。何か手は無いのか?』

と通信で弦十郎が問いかけた。

「有りますよ。いつか響の暴走を静めたように。同じことをすれば良い」

「そ、それって…」

『なるほど、キスかっ!』

「ちっがーうっ!」

ぼっと赤面しながら否定。響も真っ赤だ。

「ギアの根源の聖遺物。それの上位権限を使ってアクセスするんです」

『上位権限?しかし、そんな事は…』

「出来ます。その聖遺物の本来の持ち主なら」

『それこそ不可能だ。それらは神話に語られる存在なんだぞ?』

「でも、わたしには出来ます。前回はオーディンの力を持って響のガングニールを押さえつけました。ただ…」

『ただ?』

「今回のこれは半分くらい賭けになります」

『賭け、だと?』

「あの時、未来が歌った聖詠。神獣鏡(シェンショウジン)。これの由来が明らかじゃない」

『どう言うことだ?』

「神獣鏡はガングニールや天羽々斬のように持ち主が特性できない聖遺物だと言う事です。だから賭けになる…」

「大丈夫、何とかなるよ。わたしは未来を、そしてミライちゃんを信じてるっ」

「響…」

「だから、未来への道はわたしが作るねっ!」

ドクン

響は一度自身の胸元に手を置くと、そこから黒いものが迸る。

「響っ!?」

暴走。

「あああああああっ!?」

『馬鹿な、響くんっ!』

「あああああああああああああああああっ!」

腰のバーニア伸び、尻尾の様に変じる。他も所々獣性を増したフォルムになった頃、パリンと黒いオーラが割れるように掻き消えた。

両腕のギアを合わせ、一回り巨大な手甲のジェネレーターが回転し始めると、途轍もない量のフォニックゲインが渦を巻いた。

「みーーーーーーくーーーーーーーっ!」

響は迫る光弾を匠に避け、一筋の稲光となって落下する。

その衝撃に通った後には分身体が爆発するように消えていった。

「響、どれが未来だか分ってるのっ!?」

「分ってるっ!どれだけわたしが未来の親友やっていると思ってるのっ!」

それは途方も無く説得力に欠ける言葉では有ったが、桜守姫で見つけた未来の本体へとほぼ一直線

に向かう響に続ける言葉を見失った。

「まったく、響は…」

呆れつつ、ミライは響の作った道を降りて行く。

最後、甲板に残った分身体、そして本体から幾条もの鞭が伸びると合わさり回転し大きなドリルを作って響を迎撃。

「はあああああああああああっ!」

そのドリルと響は真正面からぶつかった。

「やぁっ!」

気合一閃。ギアに溜められたエネルギーがインパクトと共に押し出され押し勝った響の拳がドリルを裂く。

「未来っ!」

そのまま暴走する未来の本体に抱きつき甲板を転がると後ろから押さえつける形で仰向けに倒れこんだ。

「ううううううっあああああああっ!」

「未来、未来ぅっ!」

暴れる未来を必死に押さえ込む響。

「みくーっ!」

ミライがその上に馬乗りになるようにして着地、そのまま強引に右手で未来のあごを持ち上げた。

後は右手のデコピン一発で正気に戻すつもりだったのだが…

未来の背後から伸びる鞭がクルクルとミライの右手に巻きついた。

「くっ…しょうがない、最後の手段だ…怒らないでね?」

左手で持ち上げたあごに自身の顔を近づけ、そして…

チュッ

口からミライのオーラが未来に流れ込む。次の瞬間…

パリンと音を立ててギアが解除されていく。

バチンっ!

正気に戻った未来の張り手がミライに炸裂。乾いた良い音が甲板に響き渡った。

「み、未来?」

「乙女の唇をいったいなんだと…この、キス魔っ!」

「あ、あのね?仕方が無かったんだよ?ね?」

「ふんっ!」

そう言って拘束をのがれた未来は響に向き直る。

「ごめんね、響…」

「未来…」

「でもね、私は二人に置いていかれるのが、とてもイヤだったんだよ?」

「うん、ごめんね、未来」

響と未来は優しく抱き合っていた。

「だから私はあんなになってまで…」

「うん、でもそれはやりすぎだと思うよ?」

「ごめん」

「しかし、制御が利いてよかったよ」

「そこは、やっぱり愛は強いって事だね」

「…愛」

「響、変な事言わない。未来も照れないっ」

未来を取り戻し、後はノイズを除去して一件落着…とはいかないようだ。

「あれを見てっ!」

響に言われて見上げた空の先。

そこには未来が放った幾条ものビームを反射し、纏め上げたものを今まさに撃ち出そうとしている鏡のような装置が見えた。

「くっ…間に合わない…」

何をするにも破壊をと考えたミライだが、既に遅かった。

放たれたビームは海上を突きぬけ海底へと収束していった。


海面を割り、階梯から何かが浮上してくる。それは巨大な建造物に見えた。

『響くん、ミライくん、一度スキニルへ戻れ』

「でも…」

『未来くんのメディカルチェックも有る。いいから一度戻れ』

と言う大人の言葉で一度スキニルへと戻る。


スキニルのブリッジ

未来と響はメディカルチェック中。

「先史文明期の遺産」

「それにしてはでか過ぎなんだよ」

と翼とクリス。

スキャニングされた島一個ほど、かなり広大だ。

「さて、問題はなんの目的でこんなものを起動させたか、だけど」

「やつらの言葉を信じればそれは月の落下の阻止、そして人類の救済のはずだが…」

と弦十郎。

ドドドドドッ

海底が更に隆起。

スキニルは海底にぶつかるようにして止まった。

「何が起こったっ!?」

弦十郎が吠える。

「月に延ばされたエネルギー。それをアンカー代わりにこのフロンティアを引っ張り上げたようです」

フロンティアとはこの浮島の仮称だ。

先ほどまで海中だったスキニルはフロンティアの浮上に伴い空中に躍り出ていた。

そして現われる大量のノイズ。

「おーおー…派手にやってくれちゃって…」

「だが、この程度。私達の敵ではない。いくぞ、雪音」

「ちょ、まてよっ!おいっ!?せん…ああっもうっ」

翼がクリスを有無を言わさず連れて行った。

「フロンティアからの通信。出します」

出されてのは各国に向けた通信。映像に出たマリアは月が落下し始めている事を暴露し、だが歌で世界を救えるかもしれないと衆目の目の前でギアを纏って見せた。

「で、どうするんです?聞けば人類の救済って事らしいですけど?」

「たとえそうであったとしても、独りよがりの救済など無用っ!とっ捕まえるぞっ」

翼とクリスは既に派手にやっていた。


「潜入は割りと得意です。だけど…」

迫り来る大量のノイズ。

「へいき、へっちゃらですっ」

ブリッジにやってくる響。隣には未来も居る。

「わたし達がいます」

「わ、わたしもっ!」

「やれるのか?」

弦十郎は未来に問いかける。

「はい。シェンショウジンのギアが無くなった訳じゃありませんから」

「行こう、未来」

「うん、響…」

艦内を掛けていく未来と響。

モニターに写った彼女達がなんか途中で一人増えている気がするのだが…

ああ、先ほどの戦いで確保した捕虜だ。

逃がしちゃってるけど、まぁ響のする事。悪い事にはならないか。

「それで、ミライくん、君は行かないのか?」

「今ちょっとスキニルに観測させてたんですけど。どうやらあのフロンティアの動力ってネフィリムの心臓っぽいんですよね」

「それがどうかしたのか?」

「ネフィリムの心臓は一度わたしの右腕を吸収しています。厄介な事にならなければいいのですが…」

「それはどう言う?」

「忘れましたか?わたしは前世覚醒者(リンカーネイター)で、自動観測者(アビリティコレクター)なのですよ?ただ、まだこのフロンティアが本当に月の軌道を元に戻せるだけの手段があるのなら…」

「ままならんな…」

言っている間に響、未来、調がノイズとの交戦に入った。

「しかし、そろそろこのノイズ、邪魔ですね」

「しかし、ソロモンの杖が敵の手にある限りどうにもならん」

「完全覚醒したわたしってば、実はかなりチートな存在でして。目的のものがはっきりしていれば…」

次の瞬間ミライの姿が消えていた。

「きさま、どこから!?どうやってっ!?」

ソロモンの杖を持ったウェル博士の正面にいつの間にかミライが現われていた。

「きっと、戦艦から、歩いて、ですよ?」

『なっ!どうやって』

「あなたもですか…弦十郎さん…、まぁ事実だけを言えば、目的までの過程をすっ飛ばして、です」

『そんな事が出来ると言うのかっ!?』

「そんな馬鹿なことがっ!?」

「まぁ結果が大きく波打つものならかなり疲れるし、出来ない事もあるのですが、『フロンティアの中に居るソロモンの杖を持つ者の前に行く』と言う条件ならば難しくない。条件さえ揃えば歩いていける事ですからね」

そして歩いて行ったと言う過程を省略したのだ。

「ふん、今更ギアも纏わずにのこのことっ!」

ブシューと密閉空間に赤い霧が立ち込める。

アンチリンカー。装者とギアの同調を低下させる薬品だ。

「ギアも纏わずにここまで来れるわたしに、そんなものが役に立つと?」

殺気を飛ばすとウェル博士はかなり動揺したようだ。

「ひ、ひぃっ!?」

とウェル博士はソロモンの杖を掲げるとノイズを出そうと試みる。

「この距離なら、わたしの方が速いです」

瞬身の術で近づくとソロモンの杖を持った右手を叩き落した。

カチャリとソロモンの杖を拾い上げ、ウェル博士に向かって構えた。

「ひぃ…ひぃーーーーーーーーっ!?」

戦況が一変、自分が不利になると一目散に逃げ惑うウェル博士。

「ちょ、まっ!?」

しかし、タイミングの悪い事に地面が隆起するように躍動し、ミライは天壌へと迫り押しつぶされそうになる。

「ちょ、ちょっとぉ!?」

ミライは間一髪と地表に転移して事なきを得た。


「ミライっ」

「お前っどこからっ!」

翼とクリスがノイズの対応が一段落した時、地表にいきなり現われたミライに二人は驚いた。

「おまえ、それっ!」

とクリスが指すのはソロモンの杖だ。

「はい、これ」

くるくるとクリスに投げ渡す。

「どうして、これを…」

「クリス、自分の所為だって気にしてそうだったから」

「それは…ちげーってそうじゃなくて、なんでお前が持ってたんだよっ!」

「えっと…ウェル博士から回収してきた?」

「アンチリンカーはっ!?」

「ああ、それ…もちろん食らいましたよ…ただ…」

そう言ってミライは聖詠を紡ぐ。

「Aeternus Naglfar tron」

何の問題も無くギアを纏って見せた。

「前回食らった時に抗体を作ってたようですねぇ」

「たく…」

「ミライらしい」

とクリスと翼が呆れていた。

「皆ーっ!」

響と未来も到着したようだ。

「なんだぁ?そのギアは?」

クリスのぼやき。響のギアが所々力強さを増していた。

「あ、ちょっとマリアさんの所に寄った時にマリアさんのガングニールをちょっと…」

パクったのね…さすが響、予想の斜め上を行く。

「未来、お前…結局シンフォギアを…」

と翼が言う。

「これは私が選んだ道ですから」

「まったく、ドイツもコイツも…」

とクリス。


『みんな、無事かっ?』

「何があったんです?」

『熱源器官の暴走だろうとスキニルが算出している』

「暴走だとっ!?」

翼が吠える。

「月の落下はどうなりましたか?」

『マリア・カデンツァヴナ・イヴに共鳴した世界中のフォニックゲインが上空で収束しているのを確認している。これがどうなるか分らんが…』

「つまり、もうフロンティアで出来る事は無いって事ですね」

ドゴーンドゴーンと通信機越しに爆発音が聞こえる。

「ていうか、弦十郎さんは今どこに?」

『お前が取り逃がした首謀者を回収中だっ!』

さいで。

ボコリと地表が隆起したかと思えば現われる凶獣。

「おいおい、ありゃあ…」

「ネフィリム…」

その姿はまるで神話に出てくる巨人の様。

「グラララララララアアアアアアアアアアアアアアアっ!」

キュイーンと口の前に黒いエネルギーが収束していく。

カッ

放たれたそれへあ地面をえぐりながら迫る。

「避けて、みんなっ!」

バラバラによけるとどうにかその一撃を避けることに成功した。

「ちょっくら真面目に行くよぉ…」

「おい、ミライ、てめー何を…」

クリスの言葉をスルーしてミライは輝力を合成。印を組み上げた。

「木遁秘術・樹海降誕」

地面から巨木が乱立し、うねりながら巨体を拘束する。

「たく、でたらめなヤツだ」

と、翼。

「おっと、遅かったのデス」

「増援、いらなかったかも」

騒ぎに駆けつけてきた切歌と調。

「みんな、まだ終わってないわよっ!」

そして響く第三者の声。

「そうね、まだアンコールは鳴り終らない」

現われたのはマリア。

「マリアっ」

「マリアさんっ!」

マリアの元に降り立つ響たち。

「バカっ油断するなよっ!」

ネフィリムの第二射が発射される。それも皆が集まっている所へと。

「響ーっ!?」

ミライが叫ぶ。

しかし、無情にもネフィリムは彼女達を襲い…

「Seilien coffin airget-lamh tron」

誰かの聖詠が聞こえる。

ギアを纏う時に纏うエネルギーを障壁代わりにした?

フォニックゲインが高まっている。

歌が聞こえる。響たちの歌だ。

「こう言う展開は苦手なんだけどなぁ…」

ぼやくとミライも彼女達の所へと飛んだ。

「ほらほら、ミライちゃんで最後だよっ」

そう言って響から差し出された右手。

「ほら、ミライ」

未来から差し出された左手。

「二人とも…」

躊躇う未来の両手を響と未来が握ると光が迸った。

ギアのリミッターが解除されていく。

「エクスドライブ…」

限定解除されたシンフォギア装者達。

マリアも新しいギアを纏っていた。

銀色のシンフォギア。聖詠からアガートラームだろう。

「だから、こう言う展開は……まぁたまには良いか…」

歌を口ずさみながらネフィリムへと全員で突貫していく。

それは一条の固まりとなりネフィリムを穿った。

爆散するネフィリム…だが…

フロンティア中央にある施設が爆発と共にエネルギーが収束し、何かを形作った。

それは大きな四足の獣の形をし、十の尻尾を持つ化け物。そして獣の顔の中央には…

「赤い…瞳…」

と、翼。

「おいおい、何だよ、ありゃぁ…」

「輪廻…写輪眼…」

『大丈夫か、皆』

と弦十郎から通信が入る。

どうやら彼は容疑者を確保したようだ。しかし、容疑者の最後の抵抗で炉心に使われていたネフィリムの心臓が暴走しているらしい。

「バカっ!全速力でスキニルに逃げ込んでっ!いい?全速力でっ!」

『はっ!?』

「死にたいのっ!?」

嫌な予感がしたミライは叫ぶ。

「皆っこっちにっ!」


「ミライちゃん?」
「ミライ?」
「ミライ?だがっ」

「つべこべ言うんじゃねぇよっ!ああ、もう、いい俺が行くっ!」

「なっ!お前は?」

性格の変わったミライに戸惑う面々をショートテレポートを連発して回収する。

「ちぃっ!」

ジロリとネフィリムが月を見上げた。

ミライは咄嗟の判断ですぐさまスサノオを顕現。その翼で囲むように降りかかる月光を遮った。

「何…何が起こったっ!?」

とマリア。

「師匠、師匠ー!?」

「あおいさん達と連絡がつかないな」

と響と翼。

「スキニル。船体の管制はお前に任せる。それと、現状の分析を」

「もしかして、アオ…さん?」

と、ようやくミライの変化に気をやれる位の余裕が出たのだろう。響が問いかけた。

「違う。俺はミライだよ。ただ、戦闘に際しての記憶が彼の方が経験値が高いからそっちが多く出てきているだけ」

「わたし達も…」

「この人の事、知ってる気がするデース」

と調と切歌。

「お?そっちは料理出来ないコンビじゃないか」

「それは失礼」

「デース…」

「スキニル。どうだ?」

『仮呼称ネフィリムから放たれたフォニックゲインは月で収束しバラルの呪詛を強化、投射しているものと考えられます。その結果もたらされるのは人類の自立行動の不全』

「なんだとっ!?」

憤る翼。

しかし、その影響は既にいたる所で出ていた。

アオは響達からしたら未知の技術で、スキニルから送られてきた情報を空中モニターに映し出している。

「そんなっ…」

「ひどい…」

と響と未来。

モニターに映し出された光景は人々が正気を失ったかのように棒立ちしている風景だった。

その目は波紋を描き、常軌を逸している。

「だが、どうして我々は無事なんだ」

とマリア。

「それはスサノオが呪詛を跳ね返してるからですね。カンピオーネの抗呪力を舐めてもらっては困ります」

「カンピオーネ?」

何だそれはとクリス。

しかし、ミライはその問いをとりあえず無視。

「グルルルッグアっ!」

先ほどのネフィリムとは段違いの大きさのエネルギー弾が迫る。

「皆、伏せてっ!」

スサノオの翼を前方にやり、更にヤタノカガミを構えた。

ドンッ

「きゃーーーっ」

響対の絶叫。

「くっ…」

角度をつけたことでどうにか弾き飛ばす事には成功したが、相手の余力が分らない。

二射、三射と続けざまに放ってくる。

「どうすれば…」

「何とかならないのかっ!このままではっ」

と翼も焦る声。

「ネフィリムの心臓。それを止められれば…」

「どうすればいいんだっ」

とクリス。

「纏っている肉体はおそらく再生機能を備えている。だけど、それを超える速度で攻撃してネフィリムの心臓をむき出しにさえすれば…俺がどうとでもできるのだけど…くっ…」

不利な状況に堪らずと響達を連れてショート転移。

『バラルの呪詛、照射停止しました』

「今しかない…けど…」

「つまり、わたし達がミライちゃ…アオさんの露払いをして、あのネフィリムを切り刻めば、後はミライちゃんがどうにかしてくれるんだよね?」

「響?」

何をと未来。

「ああ、だがあのネフィリムは限定解除されている君達でも再生速度を上回れるかどうか…」

「そうだね…だから、これは緊急事態なんです。仕方が無い事…だよね」

「響はいったい何を…?」

「緊急事態だから、ごめんね?」

「この状況で響は何をしようと…」

「簡単だよ。いつかミライちゃんがやってくれた事だからね」

スゥと息を吸い込むと覚悟を決めた響はガシとアオの両肩を押さえつけた。

「んっ…」

ミライの方が長身の為爪先立ちで響はその唇をアオのそれに押し当てた。

「調は見ちゃだめデース」

「え?きりちゃん?」

がしっと後ろから目隠しをされている調。

「っ…」

マリアは目の前の痴態に真っ赤になっている。

真っ赤になっているのは他の人間も同じだった。

響の舌がミライの唇に割り入り、そして…

ガシャンガシャンと響のギアが変化する。

「なんだ、その変化はっ!」

とマリアが問う。

「もって行ったな?俺からオーディンの権能を…まったく、無茶をする」

「えへへ、ごめんなさい」

「何をしたんだ、お前達は」

と言うマリア質問に答えたのは翼だ。

「エクスドライブの更に先。限定解除したシンフォギアにその本来の装者の力を憑依させる。あのバカだから出来る裏技だ」

「なっ…それって神霊を呼び込んだとでも言うの?」

「正確には違うらしいぞ。昔、神様を倒して奪ったものらしい」

「まさか、それがミライの二重聖詠の実態…」

「ほら、クリス。私達も行くぞ」

「うぇえええええ!?そんな、あたしは…別に…」

「煮えきらんヤツだ」

「でも。アイツはミライじゃ…」

「同じさ。私達を守ってくれている」

「うううっ…」

「いや、まて、これはどう言う状況…こら、響!?」

ガシと後ろから響に拘束されるミライ。

「ふむ、いつぞやと形成逆転と言った所か」

そう言うと、もがくミライの唇を塞いだ。

「んぐ…」

唇を離すと翼のギアも変化する。

「ほら、雪音も」

「うううううううっ…」

「出来る事をしないで後悔したいのか?」

「わぁったよっ!」

観念したクリスはいまだ響に羽交い絞めされているミライに近づくとその胸倉を掴んだ。

「いいか、これは緊急事態の非常事態だからなんだからなっ!」

そう言うと低い身長を精一杯伸ばしてミライにキス。

「おわりっ」

顔を真っ赤にして離れると彼女の真っ赤なギアも変化した。

「さて、次は…」

響と視線が合わさってビクと身構える未来。

「ねぇ、ミライちゃん。そろそろ観念して?」

「っ…分ったよ…分った。緊急事態だからな」

「あの、…私は…」

と言う未来を左右から押さえ込むのはクリスと翼だ。

「な、なんでっ!?」

「一度はあたしも通った道だ。諦めんだな」

「えええっ!?」

「だが、実際戦力アップは急務だ…どうしてもイヤなら…考えなくも無いが…」

「んだよ先輩、あたしの時は無理やりだったじゃねーかよ」

「イヤだったのか?」

「それは…」

と言って真っ赤になって俯いたクリス。

「響達はパスが出来ていたから無理やり持っていったが…良いのか?」

「うううーー…」

と小声を上げた後コクリと未来は頷いた。

ちゅっと未来の唇を割りいれて権能を譲渡する。

すると未来のギアも変化する。

キスを終えてから未来は真っ赤になってしどろもどろだ。どうにか響に支えられて正気を保っているようだ。

「そう言えば、何の権能を譲渡したんだ?」

と翼。

「神獣鏡は卑弥呼も持っていたとされている。どうやら発掘された聖遺物は卑弥呼のものだったようだ」

無事に二課組みはパワーアップ。

「何かわたし達」

「見劣りするのデース…」

調と切歌は互いを見て頷くと自らアオの元へと歩き出した。

「女神ザババの権能…」

「持ってるデスか?」

と二人が問う。

「残念ながら女神ザババの権能は持っていない…そもそも俺の知っている軍神ザババとは男性神だ」

「ええっ!?」
「デスッ!?」

驚いて、それからしょんぼりする調と切歌。

「だが…」

自然体でミライは調に近づくとその顎を持ち上げしゃがみこむ様にキスを落とした。

ちゅ

「んっ…」

「ちょっと、調になにするデスんっぅっ!?」

つっかかってきた切歌の唇を強引に奪う。

「はいっおしまい」
「いつまでやってるか」

と響と未来に引き剥がされた。

カシャカシャと変化する調と切歌のシンフォギア。

「これは…でも…」

「どうしてデス?」

「シュルシャガナとイガリマ。軍神ザババの二振りの武器だが、後世その二つは神格化されて別の神様となっている。つまり…」

「このバカはザババの権能は持っていないと言ったが、シュルシャガナとイガリマの権能を持ってねーとは言ってねーんだよ」

とクリスが答えた。

「…正解です」

さて、最後だ。

その場の全ての視線がマリアへと向く。

「っ…」

皆の視線に晒されて俯くマリア。

「マリアのそのギア」
「初めてみるのデース」

「これは、セレナのギアだったアガートラーム…」

「アガートラーム?」

一同分らないと口にして、何故かミライに視線が集まった。

「俺はウィキではないのだが…しかし、聖遺物の中でも珍しいね」

「珍しい?」

「ケルト神話の主神。ヌアザの輝く左腕。銀の腕のヌアザ。戦いで切られて左手を失った為に付けた彼の義手だ」

「義手?神様なのに、義手なんだ…」

と響。

「日本ではまず知られない神様だし、そもそもアガートラームよりもクラウソラスの方が有名だろう」

光り輝くヌアザの神剣だ。

「ごちゃごちゃ御託はいいんだよ。ようはヌアザの権能を持ってるならさっさとヤレって事だっ」

「雪音…しかし、時間も無い、さっさと済ませるとしよう」

もったいぶった時は大抵持っていると言う前例を見てクリスと翼が呆れたように言う。

「で、でも…私は…その、アイドルだし…」

「心配するな。私もこれでもトップアーティストだ」

「うううぅ…」

「それに良いのか?妹達に人生経験で先を越されっぱなしで」

と翼はマリアにボソっと呟いた。

「ああああ、もうっ!女は度胸っ!」

「俺の意思が介在する所はないのね…」

マリアはぐっと正面から抱きつき左手でミライの後頭部を固定すると自らその唇を押し付けた。

「これは…」

「濃厚デース…」

「きりちゃん、だから見えない…」

「だめ、終了っ!」

グイッと間に入ったのは響と未来。その二人によって引き離されたマリアは、しかしギアの変形を終えていた。

「責任、取ってもらうから…」

赤面してうつむくマリア。

「まて、それは俺のセリフではなかろうか…と、バカな事はこれくらいにして」

ネフィリムの赤い瞳がアオ達を捉えていた。

「グラアアアアアアアアっ!」

咆哮絶叫。

地面から木々が乱立する。

「わ、わわっ!?これって」

ばらばらになりながら回避する響達。ミライは素早く印を組み上げ息を吸い込んだ。

「火遁・爆炎乱舞」

口から出した豪火滅失をシナツヒコで煽る。

暴れる樹木はどうにか燃やせたが、灰の中をうごめく五メートルほどのネフィリムの大軍。

「ちぃ…木分身かっ!」

「これらは私達に任せろ、いくぞっ!雪音」

「あ、おい、待てよっ!」

翼が天羽々斬を天高く突き上げるとその刀身が光となって消え、空中から幾百、幾万の剣の嵐を降らせた。その光景はまさしく暴風の神であり、製鉄の神の現れだろう。

「おいぃっ!あたしのお株を奪うんじゃねぇっ!」

クリスが慌てて大きな弓に変化したアームドギアを振り絞ると、光の矢が現われる。

力いっぱい弾き絞り天高く射た。

空中でその矢は魔法陣へと変じ、そこから無数の矢となって降り注ぐ。

「やるじゃないかっ」

「たりめーだっ!」

翼の言葉にクリスが吼えた。

「響っ!」

右手に現したグングニールを響に向かって投擲する。

「こ、これをどうすればっ!?」

受け取った響が慌てた。

「前と一緒で、投げつけるんだよっ!」

「わ、分ったっ!てっええええええええっ!?」

受け取った響に巨大な尻尾が一本迫る。

「ひびきーっ」

すかさず未来が弥助に入り、大きな鏡のような盾で尻尾の攻撃を受け止めた。

「あ、ありがとう…」

「でも、けっこうキツイ…」

と洩らす未来。

その脇から二本の凶刃が振るわれた。

「はぁっ!」
「やぁっ!」

巨大な回転ノコギリと鋏で尻尾を切断する調と切歌。

しかし、それは十本有るうちの一本に過ぎない。

すぐさま二本目と三本目が飛んでくる。

「きりちゃんっ」

「ちょっとヤバイのデェスっ」

斬っ

空から巨剣が一振り落とされて二本目を、銀剣が輝き三本目が両断された。

「やるなっ」

「当然よっ」

翼とマリアだ。

「あたしも忘れてもらっては困るっ!」

声に惹かれて振り返れば、アームドギアが変化した巨大な砲塔を構えたクリスが集束に入っていた。

四本目の尻尾をレーザー攻撃で破壊すると冷却。

このまま行ければ、と言う淡い期待を醒めさせたのはやはりネフィリムだ。

ドンッと空気を震わせたかと思うと自身の体積の倍もあるような巨大な黒い塊がアギトの先に現われた。

「おいおい、何の冗談だ?」

あれを見れば今まで放たれていた黒球のなんと小さい事。

「おおおおおおおおおおおおっ!」

「バカっ響っ!」

静止の声も聞かずに飛び出す響。

手に持ったグングニール。そこに込められた神秘を分解、自身のアームドギアに纏わせて、ギアが回転し唸りを上げる。

「はああああああああああああっ!」

気合と共に突き出された響の右拳。

その一撃は黒球を裂き、その衝撃は海を割った。

ブシューーーーーー

ギアが排熱すると右手のギアも一回り小さくなっていた。

ネフィリムはと言えば響の一撃で右肩から残りの尻尾を抉られていた。

「なんつーバカ威力…」

とクリス。

「だけど、響らしいです」

とは未来の言。

「皆っ!」

ここが決め時と響が叫ぶ。

切り裂かれ、破損しているネフィリムだが、その傷は急速に塞がっていっていた。

「行くか、マリア」

「ええ、あなたの剣、見せてもらうわ」

「ここらが決め時ってなっ」

「これで…」

「最後デェスっ!」

光を纏った流星の如く響たちはネフィリムを切り刻んでいった。

「私もっ!」

と言う未来の腕を取る。

「未来はこっち」

「ミライ?」

「Aeternus Hrymr tron」

ミライのギアが変形する。

そのゴツさを増したギアをパージすると足元から巨大な魔船が現われた。

艦首砲塔が開き、内側から砲身が現われると、幾重もの魔法陣が展開、回転し始める。

響たちの懸命な攻撃で、ネフィリムの体は切り刻まれ、心臓部がむき出しの状態になっていた。


「もうっ」

未来はそう言ってすねながらもミライのお願いを聞いていた。

神獣鏡のギアをパージし、幾重もの鏡でネフィリムを被う。

バシュと洋上を漂っていたスキニルからミサイルが打ち上げあれ、ミライの近くで開閉。中から一本の剣が現われた。

「それはっ!」

「デュランダル!?」

翼とクリスが驚きの声を上げた。

「完全聖遺物だと言うの?」

とマリア。

クルクル回りながら落下してきたそれをミライは右手で受け止めると足元から迫り出した台座に収納、格納された。

ミライの目の前にキューブ状のキーが現われ待機していた。

「反応消滅砲、デュランダル。最終セーフティ解除」

ミライの右手に現われた魔法陣がキューブに触れるとキューブが真っ赤に染まりセーフティが解除された。

「皆っはなれてっ!」

ミライの言葉に皆ネフィリムから離れ距離を取った。

「デュランダル、発射っ!」

相手の機動力、攻撃力を殺いでからの必殺の一撃。

それはネフィリムの心臓に着弾すると空間を歪曲させながら反応消滅する。

その規模の拡大を、聖遺物由来の力を減衰させる神獣鏡の力で遮断し、外部へは閃光しか通らない。

漏れ出す閃光が辺り一面を白く染め上げ、一瞬で収縮。

未来が鏡を取り外すと無くなった空間に空気が流れ込み、周囲に突風が巻き起こった。

「終わった…のか?」

と、翼。

『ネフィリムの波形パターン、感知されません』

とスキニルから通信が入る。

『なんだ、どうなってるっ!?』

弦十郎からの通信。ネフィリムの消失により、バラルの呪詛が弱まったのか弦十郎達も覚醒したらしい。

フロンティアは動力をを失った事で完全に沈黙。今までネフィリムに浮かされていた重力制御も消失したのでこのまま海底まで沈んでいくのだろう。

ミライ達は近場の海岸線まで飛んでいくとようやくギアを解除した。

パリンと音を立てながらギアが解除され、デュランダルが排出される。

「デュランダル…ルナアタックのドサクサで無くなっていたと思っていたのだが…」

「おめーがパクってたのかよ…」

「ええ、まぁ…しかも、これが実はスキニルのメイン動力だったりします」

これが無いとPICなどが使えない。今頃はサブ動力でどうにか岸まで運行しているだろう。

「まったく…」

あまりの告白に翼たちもどう反応していいか分からないようだ。

『度重なるバラルの呪詛の起動で月の公転軌道は元に戻りつつあるようです』

「でも、これで人類の相互理解は遠のいた…」

とマリアが独白する。

「同一言語を繰る人間ですら争いが絶えないのが人間と言う種族だ。今更言葉を統一したからと争いが無くなるわけでもない」

「でも…」

それでも、と言い募るマリア。

「完全な相互理解は個でなく、群だ。そこに個人の意思は介在しない。そんな世界では喜びや悲しみ、そして愛さえ存在しない。こうやって…」

と言うとミライはマリアの手を握った。

「相手の手を取り、思いやると言う意思すら存在しない。そんな世界に魅力があるとは俺は思わない」

手を離す一瞬、ミライは壊れたアガートラームのペンダントに触れた。

ミライの手がスライドし、覆ったその手が取り払われると、そこには傷一つ無いペンダントが存在していた。

「傷も思い出だろうけれど、きっとこの方が良い」

「あなた…どうやって…」

「だって、わたしは魔法使いだからねぃ」

こうして、マリア・カデンツァヴナ・イブがもたらした…後にフロンティア事件と呼ばれる事件は収束を得たのだった。

 
 

 
後書き
と言う事で、G編終了です。ウェル博士の魅力を殆ど出せないまま退場させてしまったのが心残りと言うか技量不足と言うかですね。いや、彼が真に魅力的だったのはGXでしたが…
ミライのシンフォギア、ナグルファルは船の聖遺物。そこから戦艦になり、重火器が追加されているイメージです。逆にフリュムは盾を持つ巨人の伝説から装甲重視になります。
最後に、次回はGX編になります。
 
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